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第44話:【固定PT結成と生徒会の罠】裏方という甘い言葉

「ねえ香澄ちゃん。今日も良い天気だし

 そろそろ私と固定パーティ組まない?」


「……本当に諦めないのね、あなた」


朝の教室。私はいつものように

香澄のデスクに張り付いて熱烈な勧誘活動を行っていた。


すでに花梨と修平という名の盾はいる。

だがあいつらはタゲ取りが安定しない。

軍事の基本は「装甲は厚ければ厚いほど良い」だ。

正統派で頑丈な香澄の確保は、私の絶対安静ライフにおける最重要ミッションだった。


「ここで諦めたら、人生終了だからね」


「そこで終了するのは『試合』でしょ。人生終わらせないで」


香澄の的確なツッコミが冴え渡る。

しかし今日の彼女はいつもと違い、真剣な眼差しで私を見てきた。


「……いいわ。条件が三つある」


「なになに?」


「一つ、私に関連するトラブルに巻き込まれても文句を言わないこと。

二つ、私の事情を深掘りしないこと。

三つ、他のパーティメンバー全員がOKを出すこと」


「なるほど。条件さえクリアすればOKってことね」


私はあらかじめ用意しておいた申請書を、バァン! と机に叩きつけた。


「ちょっと!? まだ他のメンバーの許可、とってないでしょ!?」


「大丈夫よ。有無を言ったら全員物理でぶっ飛ばして納得させるから」


「……物騒ね」


後ろの席で話を聞いていた花梨が、「有希、私はすでに納得してるよ!」と手を上げた。

修平は「俺も……」と複雑な顔で頷いた。


(……全員、抵抗しなかった)


(物理ぶっ飛ばしの出番がなかった)


香澄は深くため息をつきながら、申請書へサインをした。


「……まあ、あなたなら私の事情を深掘りしなさそうだし」


「しないわよ。人の事情を掘り返すのは体力が要るもの」


「……その理由、初めて聞いたわ」


香澄がペンを置きながら、小さく呟いた。


「普通は『そういう人だから』とか言うものなんだけど」


「そういう人でもあるわよ」


「……まあ、いいわ」


香澄が窓の外を一瞬だけ見てから、私に向き直った。


「よろしく、有希」


「よろしく、香澄」


(よし! 最強の追加装甲をゲットした!

  後方でふんぞり返るための陣地構築がまた一歩進んだ!)



***



次の授業。


私たちは訓練場に集められ、教官から発表を受けた。


「今日から、学生競技大会の出場者を決める『順位戦』を行う!

 この大会は重要なイベントだ。心してかかれ!」


教官の言葉に、血気盛んな学生たちの目の色が変わった。


花梨は「1対1のソロバトル」に即決した。

「直接誰かと戦えるやつがいい!」という理由で、迷いが一切なかった。


香澄は「魔法障害物競走」を選んだ。

「遠距離も近距離も対応できる」と短く言った。実務的だ。


修平は「ダンジョン・ラッシュ」に手を上げ

こちらに向かって「有希、俺が結果出すから!」と叫んだ。


(頑張ってね)


私は手を振り返した。内心は完全に高みの見物だった。


(ふふふ、私はすでに協会側との裏取引で、サポート要員の枠が確定している。

競技なんか出なくていい。最高だ)


一人でのほほんと壁際に寄りかかっていた時、ふと数日前のトラウマがフラッシュバックした。


(……PR動画の衣装。あの布面積)


(肩が丸出しで、お腹もチラ見えで

スカートの丈が私の常識を根本から破壊していた。

あれは衣装ではなく、尊厳への攻撃だった)


(二度と着るものか)


現実逃避しながら立っていた、その時だった。


「高橋有希さんですね?」


背後から、澄んだ声を掛けられた。


振り返ると、いかにも「デキる女」というオーラを纏った上級生が立っていた。

腕には「生徒会」の腕章。姿勢が良い。目が鋭い。笑顔が完璧すぎて、笑顔に見えない。


(……戦場で査問委員をやっていた将校と同じ目をしている)


「あ、はい。そうですけど」


「単刀直入に伺います。生徒会に入りませんか?」


「……え?」


「今、役員が急遽一人欠けまして。優秀な人員の補充が必要になりました。

あなたに白羽の矢を立てました」


上級生はにこやかに微笑んだ。目の奥は、一切笑っていない。


「いやいや、人違いですって! 私、万年ステータス『1』のポンコツ無能ですよ!

スライムにも負ける自信があります!」


上級生がわずかに首を傾けた。


「…………」


一瞬だけ、何かを言いかけて、止まった。


「……あなたが無能なら、この学園の生徒は全員ゴミクズになってしまいますよ?」


(スライムの件は流してくれた。でも即カウンターが来た)


「い、いやほら、体力もないし、仕事は絶対ミスするし!

責任感もマイナスに振り切れてるし!」


「体力は書類仕事には不要です」


「ミス……」


「私がカバーします」


「責任感……」


「これから養えば結構」


(退路を一つずつ潰してくる。準備してきている。

この人、最初から私が断れないことを知っていた)


「で、でも! 私、目立つの嫌いなんで! 表舞台に出るような活動は……!」


上級生は、ふっと口角を上げた。


「……あら」


声のトーンが、一段下がった。


「生徒会役員になれば、必然的に『大会の運営側』に回ることになりますよ。

つまり、競技への出場も、表舞台での目立つ活動も、完全になくなるということです」


(……)


「地味で面倒な事務作業ばかりですから、誰の目にも留まりません。

注目されることも少なくなります。」


私の思考が、ピタリと止まった。


(……表舞台から降りられる。)


(「生徒会業務で多忙」という最強の言い訳で、今後の厄介事も全部回避できる)


(表舞台に出なくていい。目立たなくていい。あのミニスカートを二度と着なくていい)


脳内の「生存戦略シミュレーター」が、弾き出した。


「……分かりました。乗ります」


「ふふっ、ありがとうございます。では放課後、生徒会室でお待ちしております」


上級生は優雅に一礼し、足早に去っていった。


私はその後ろ姿を見送りながら、少し考えた。


(……あれ?)


じわじわと、気づいてきた。


(「表舞台に出なくて済む」という代わりに)


(私は今、確実に「終わらない事務処理」を抱え込んだ)


前世で知っていた。最前線より過酷な地獄がどこにあるか。


それは「人手不足の司令部」だ。


戦場では、前線で剣を振るう兵士より

補給と書類と調整を一人で回す参謀の方が先に死ぬ。

現に前世では、魔王軍との最終決戦の三日前、兵站担当の文官が過労で倒れた。

あの人は魔王より書類に殺されかけた。


私は今、その椅子に自ら座りに行った。


「……ミニスカートへの恐怖が、私の判断力を完全に狂わせた……」


訓練場の壁際で、私は静かに、深く項垂れた。


平和な縁側でお茶を啜る生活は、また一歩、遠ざかっていった。


……ちなみに生徒会室に行くと、机の上に書類の山が待っていたのだが。

それはまた、別の話だ。

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