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第40話:【有希不在の裏側】イキリチート剣斗の無双と密着取材

第40話:【有希不在の裏側】イキリチート剣斗の無双(物理・防具依存)と密着取材


有希が病院のベッドで地獄の激痛と母の説教に耐えていた頃――。

 別の場所では、一人の男がニヤニヤとだらしない笑みを浮かべていた。


「ふふっ……ふはははっ」


剣斗である。

 先日、単独ソロでC級ダンジョンをクリアした彼は

覚醒者協会の受付で大騒ぎされた光景を思い出し、悦に浸っていた。

おまけに「ぜひ今度、密着取材をさせてほしい」という依頼まで舞い込んでいるのだ。


「……ねえ。さっきから鏡の前で何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪いんだけど」

 ソファでスマホをいじっていた瑠奈るな

ゴミを見るような目で剣斗をジトッと睨んだ。


「おっと。なんでもないさ。……それじゃ、ちょっと出かけてくる」

 剣斗は瑠奈の冷たい視線を華麗にスルーし、意気揚々と家を出た。

(フッ、何も知らない妹め。今に俺が日本中

 いや世界中の英雄としてテレビに出まくる日が来るんだぜ!)


***


覚醒者協会のロビーに足を踏み入れた瞬間、剣斗は肌が粟立つような快感を覚えた。


『おい、見ろよ。あいつ……』

『ああ、間違いない。今噂の“剣斗”だろ。

 たった一ヶ月でC級ダンジョンをソロ踏破したっていう……』

『マジかよ、バケモンじゃねえか! あの若さであの貫禄……すげえな』


(……ふふふ。もっとだ、もっと俺を褒め称えろ!)

 周囲からヒソヒソと聞こえてくる称賛の声。これこそが

彼(偽剣斗)がこの世界で最もやりたかったことの一つ

「周囲からの圧倒的承認欲求の横溢(チーレム展開)」である。

 剣斗はわざとらしく堂々とした足取りで、受付へと向かった。


「お待ちしておりました、剣斗様! 本日は取材の件ですね

 こちらへどうぞ!」

 受付嬢の態度は、以前とは比べ物にならないほど丁重だった。

 案内された応接室には、テレビ局の腕章をつけた取材班が待ち構えていた。


「初めまして! 今、最も勢いに乗っている若手覚醒者、剣斗さんですね!

C級ソロ踏破という輝かしい功績、本当に素晴らしいです!」

「いやいや、俺にとっては準備運動みたいなもんですよ」

 カメラを向けられ、リポーターから矢継ぎ早に飛んでくる称賛の言葉。

 剣斗は余裕の笑みを浮かべながら、ペラペラと

「いかに自分が苦労せず才能だけで勝ってきたか」を語りまくった。

 気分は完全にスーパースターだ。


取材が和やかな雰囲気で終わりかけた、その時だった。


「き、緊急事態です!!」

 血相を変えた職員が、応接室に飛び込んできた。

「第4管区のC級ダンジョンで攻略組が全滅!

  内部のモンスターが溢れ出す『スタンピード』の兆候が確認されました!

 すぐに高ランクの覚醒者を派遣しないと、街に被害が――!!」


「……C級のスタンピードですか。

 モンスターが通常より強化されている可能性が高いですね」

 深刻な顔をするリポーター。部屋の空気が凍りつく中

 剣斗はゆっくりと立ち上がった。


「安心してください。――俺が行きましょう」

「け、剣斗さん!? しかし、一人では危険すぎます!」

「俺を誰だと思ってるんですか? 街の平和は、俺が守りますよ」

 バサァッ、と見えないマントを翻すようなオーバーアクション。


「す、素晴らしい覚悟だ……!

剣斗さん、我々取材班も同行させていただけないでしょうか!?

この英雄的瞬間を、必ず世に届けたいんです!」

「……フッ、いいでしょう。ただし、俺の背中から離れないことだ」

(キタキタキタァ!! これぞ王道展開! テレビカメラの前で街を救う俺

 マジでかっこよすぎだろ!!)

 脳内でガッツポーズを決めながら、剣斗は取材班を引き連れて緊急クエストへと出撃した。


***


ダンジョン内部は、まさにモンスターの巣窟と化していた。

ゴブリン、オーク、リザードマン。溢れんばかりの魔物の群れが

剣斗たちを見つけて一斉に襲いかかってくる。


「ヒィィッ! け、剣斗さん、数が多すぎます!」

「少し数が多いな。……まあ、ゴミが何度集まろうと無駄だがな」


剣斗は大剣を構え、魔物の群れの中へ単機で突っ込んでいった。

「オラァッ!!」

 力任せのフルスイング。それだけで

 圧倒的なステータスによる衝撃波が生まれ、前方のオーク数体がミンチに変わる。


だが、剣斗の戦い方は「素人」そのものだった。

 ステップも、間合いの管理もない。

ただステータスの暴力で剣を振り回しているだけ。当然、死角からの攻撃は避けられない。


ドガァッ!!

 背後からリザードマンの槍が、剣斗の背中を強打する。

「あぶな――ッ!」

 リポーターが悲鳴を上げた、その直後。


キィィィンッ!!

槍は、剣斗が装備している「超高位のレア防具」の自動障壁に弾かれ

傷一つ付けることなくへし折れた。


「ふん。蚊が止まったか?」

 剣斗は振り返りもせず、背後のリザードマンを裏拳で粉砕する。

(……あぶねぇっ! 今の絶対避けられなかったわ! マジでこの防具神過ぎるだろ)

 内心では冷や汗をダラダラ流していたが、表面上は無敵の笑みを崩さない。


「す、すごい!!」

 後ろから見ていた取材班は、完全に勘違いをして大興奮していた。

「あえて避けない! 自分の防御力への絶対的な自信!

敵の攻撃を真っ向から受け止め、絶望を与えるプレイスタイル!!

これが……強者の戦い方!!」

(……え? あ、うん、そういうことにしておこう)


有希が見ていれば「ただ反応できてないだけでしょ、

このド素人が!」と蹴り飛ばしたくなるような

防具の性能に100%依存したゴリ押し戦闘。

 しかし、の派手さだけは一級品だった。

剣斗はその後も、飛んでくる魔法や矢を一切避けず(避けられず)に顔面で受け止め

無傷のまま力任せにモンスターを蹂躙していった。


***


「グルルルルルッ……!!」

 最奥のボス部屋。待ち構えていたのは

 通常の三倍はある巨大な『スタンピード・オーガ』だった。

 筋骨隆々の巨体が、丸太のような棍棒を振り下ろす。


「オラァッ!」

 剣斗はここでも避けずに大剣で受け止めようとした。

 ――ズドォォォォンッ!!

「ぐっ……!?」


さすがにボスの膂力は高く、防具の障壁をわずかに貫通し

剣斗の頬を薄く切り裂いた。ツー……と一筋の血が流れる。

「け、剣斗さん!!」

「……チッ。俺のイケメンな顔に、傷をつけやがって」


剣斗は少しだけムッとして、大剣にありったけの魔力を注ぎ込んだ。

「消し飛べェェッ!!」

 技術もクソもない、ただ魔力を爆発させただけの大上段からの唐竹割り。

 圧倒的な魔力密度の刃が、巨大なオーガをあっさりと真っ二つに両断し

 ダンジョンの壁ごと粉砕した。


「……ふぅ。まあ、こんなもんか」

 剣斗が大剣を肩に担ぎ直すと、カメラマンとリポーターが感極まった顔で駆け寄ってきた。


「素晴らしい……! ボスの強烈な一撃をあえて受け

 自らの血で闘志を燃やす劇的なフィニッシュ! 剣斗さん、この映像

 絶対に特番で放送させてください!!」

「フッ……もちろんいいぜ。俺の戦いで、視聴者に勇気を与えられるならな」

 頬の傷を拭いながら、剣斗はカメラに向かって最高のキメ顔を作った。


***


その後。

 覚醒者協会の受付に戻った剣斗は、スタンピード鎮圧の特別報酬と

 職員たちの割れんばかりの拍手と感謝を浴びていた。

 取材班とは「また後日、スタジオで!」と固い握手を交わして別れた。


「いやー、今日もいい仕事をしたな! 報酬もガッポリだし

 明日はテレビで俺の特集かぁ。有名税ってやつは辛いぜ」


誰もいない夜道を、鼻歌交じりに歩く剣斗。

 片や、病室で身体崩壊の激痛にのたうち回りながら死線を越えた有希。

 片や、超高級防具に守られながら、適当に剣を振り回して大絶賛される剣斗。


(……フフフ、俺ってばマジで主人公チートしてるわぁ)

 彼は上機嫌で、瑠奈の待つ自宅へと帰っていくのだった。

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