表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/69

第36話:【箱入り聖女】密室のハプニングと禁断のニトロ

「有希さん、有希さん! どうしましょう!? もうお終いだぁぁ!」

「完全に囲まれてますよ! 人生詰んだ、俺の短い一生が……!」


武器庫の中で、五人の子どもたちが生まれたての小鹿のようにガクガクと震えだした。

せっかく武器を手に入れたというのに、この絶望っぷりである。


「静かに。……索敵担当くん、外の様子はどう?」


私が冷静に促すと、耳をそばだてていた少年が

冷や汗を流しながら断片的な情報を口にした。


「え、ええと……『奴らが攻めてきた』とか『掃除の時期だ』って聞こえます!

 協会の連中がカチコミに来たみたいで……!」


「掃除? 随分と熱心なことね」


(……なるほどね。覚醒者協会の橘さん、口だけじゃなくちゃんと準備万端だったわけだ。

 あの狸爺、意外と仕事が早くて助かるわ)


外の足音はどんどん近づいてくる。

数からして、まともにやり合うのは【筋力1】の私には自殺行為だ。


「いい? とりあえず隠れるわよ! ほら、そこの空き箱に二人ずつ入りなさい!」


子どもたちが慌てて大型の木箱に飛び込むのを見届け、私は最後の一台に滑り込もうとした――が。


(……待って、この箱、意外と小さいわね!?)


見た目以上に中が狭い。

最後の一台にはすでに一人の男の子が入っていたが

背に腹は代えられない。


「ちょっとごめんね! 詰めなさい!」

「ふえっ!? ゆ、有希さ――むぐっ!?」


私は強引に箱に飛び込み、少年の口を塞いで蓋を閉めた。

 心臓の音がうるさいが、それが自分のものか少年のものか判断する余裕はなかった。


直後、部屋の扉が乱暴に蹴り開けられた。


「おい、さっさと武器を持って迎撃に行くぞ!

 協会の連中をここで食い止めるんだ!」


荒々しい男たちの声が響く。


「ガキ共はどうします!? まだこの辺りにいるはずですが!」

「あんな連中、この騒動に乗じて逃げ出すなんて無理だ。

 見つけたら捕まえる程度でいい。

 今は放たれたモンスターと協会の連中の相手が先だ! 行くぞ!」


バタバタと足音が遠ざかっていく。


(……ふーん、見つけたら捕まえる程度、ね。

 随分と舐められたものだけど、今の私たちには好都合だわ)


外の混乱は、救出部隊によるカチコミが本格化した証拠だ。


「……絶好の脱走チャンス、到来ね」


私が一人ごちると、目の前で至近距離にいた少年が

顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で呼びかけてきた。


「あ、あの……有希さん……」

「あら、ごめんなさい。苦しかったわね?」


私はようやく、自分が少年に抱き着くような形で密着していたことに気づき

爽やかに箱を脱出した。続いて他のみんなも箱から這い出てくる。

 一緒の箱だった少年は、ゆでだこのように真っ赤になったまま固まっていたが

 私が「大丈夫?」と首を傾げると「な、なんでもないですッ!」と

 裏返った声で叫んでそっぽを向いた。


「さて。……ここからは時間との勝負よ」


私は手近なナイフを手に取ると、迷いなく指先を切り、刃に血を垂らした。

この程度の負傷なら、プロの儀式としては誤差の範囲だ。


「……有希さん!? 何してるんですか!?」


「ちょっとした『奥の手』の準備よ」


私は血を媒体にして、ナイフの表面に異世界の付与技術による『魔力回路』を描いていく。

 術式が青白く発光し、ボロいナイフが禍々しいプレッシャーを放ち始めた。


『よし、お待たせ。準備完了だ』


タイミングよく戻ってきたウィットが、再び巨大化して戦闘形態をとる。

私はそれには答えず、空間ポーチの奥から一本の小さな瓶を取り出した。


「…………え、何これ。……ニトロ? 超高濃度の液体爆弾じゃない」


「「「ええええええええええ!?」」」


子どもたちの絶叫が響くが、私は無視して投擲役の少年に向き直った。


「正面の通路、爆破ポイントまでどのくらい距離がある?」


少年はドアから外を覗き、覚醒者特有の強化された視力で距離を測る。

「かなり距離があります。……およそ200メートル。

 あの曲がり角に敵が集結してます」


(200メートル……。一般人のプロ野球選手でもあり得ない距離だけど

 この子たちは腐っても『覚醒者』。落ちこぼれとはいえ

 積み上げてきたステータスは伊達じゃないってわけね)


私は、少年の震える腕に刻まれた、血の滲むような努力の跡

マメだらけの掌を見逃さなかった。


「上出来ね。……いい? あなた、今日から『爆弾魔ボマー』よ」


私は彼にニトロの瓶を託し、冷徹な軍師の顔で指示を出す。


「その距離なら、あなたの地力で十分届くわ。

 真正面の通路に向かって思いっきり『直球』で投げなさい。

 投げたらすぐに全員で走り出すわよ」


「「「はいっ!!」」」


野球少年の腕が、覚醒者としての筋力と、これまでの訓練に裏打ちされた綺麗なフォームでしなった。


「いっけえええええええ!!」


放たれたニトロが空気を切り裂き

常人には捉えきれない速度で200メートル先の闇へと消えていく。

その直後、私たちは一斉に走り出した。


――ズドォォォォォォォンッ!!!


数秒後、通路の遥か先で、鼓膜を劈く爆音と火炎が巻き起こる。

 凄まじい衝撃波が襲ってくるが、私は最後尾を走りながら

流れるような動作で多重の防御魔法を展開した。


「目の前に誰がいようと気にせず切りかかりなさい!」


爆煙を切り裂き、私たちの決死の脱出劇が本格的に始まった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ