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第19話:丸投げの極意と、勝手に爆誕する『聖女の近衛兵(ガーディアン)』

付与製作部』への入部から数日。



私は放課後になるたび、重い足を引きずって旧校舎の部室へ通うのが日課になっていた。



「――この魔力回路の反発をうまく逃がせれば


 生産コストをあと三割は削れると思うんだ! どうだい高橋先生、この設計は!」



白衣姿の御子柴部長が、目を輝かせながら魔導コンロの試作品を差し出してくる。



魔道具は基本的に、富裕層向けの「高級品」だ。


それを一般層にも普及させるため、安価で量産可能な魔力圧縮技術を研究する。


それが御子柴部長の悲願であり、この部のテーマだ。



「素晴らしい着眼点です、部長」



私は試作品を見つめながら、深く、深く頷いた。



(安価な全自動魔道具が市販されれば……料理も掃除も洗濯も自動化できる。


 私の引きこもりライフが、更なる高みへ昇華される。頑張れ部長、私のサボりのために!)



「ありがとう高橋先生!


 君にそう言ってもらえると百人力だよ!


 同じ志を持つ仲間がいると思うと、開発の意欲が湧いてくる!」



(志は一ミリも共有していないけど、まあいいわ)



私はにっこりと微笑み、「時間ですので」と部室を後にした。



さて、ここからが本番である。



旧校舎の五階から正門までの、長きデス・ロードだ。



「はぁ……はぁ……今日も、重い……空気が……重い……」



体力1の身体にとって、校内の移動は高地トレーニングと同義だ。


壁に手をつき、ゾンビのように廊下を這っていると――。



「おい、高橋有希」



進行方向を、大きな影に塞がれた。



見上げると、見覚えのあるガタイの良い男子生徒が腕を組んで立っていた。



(……誰だっけ。


 先日の模擬戦にいた脳筋の一人だとは思うんだけど……名前が出てこない。


 前世でも部下の名前を三ヶ月で覚えられなかったのに


 クラスメイトなど覚えられるはずがないわ)



相手は鼻息荒く、私を指差した。



「俺と勝負しろ。お前が『強い』ことは分かってんだよ。


 あの模擬戦の立ち回り……タダモンじゃねえだろ」



「……いや……はぁ、はぁ……勝負って……私に、何の……メリットが……」



息も絶え絶えに断る。



「それに……私……廊下歩くだけで……死にかけてる女よ? 

 強いわけ、ないでしょ……」



ゼーゼーと肩で息をしながら、全力で「か弱さ」をアピールした。


実際、あと五分立っていたらガチで倒れる自信がある。これは演技ではない。



しかし男はニヤリと不敵に笑った。



「隠さなくていい。俺の目は誤魔化せねえぞ。


 息を乱したふりをして……


 実は極限状態の『魔力循環』トレーニングを行っているんだろう!?」



(違う! ただの酸欠だ!!)



「どんな挑発にも乗ってこない……


 その徹底した『弱者のフリ』、賞賛に値する。だがな、俺は諦めねえぞ!」



男がズイッと顔を近づけてくる。



(……ヤバい。完全に「私が実力を隠している」と思い込んでいる厄介なタイプだ。


 しかも筋肉の出力が桁外れに高い。


 この男にデコピンで弾かれただけで、私の首の骨が綺麗に飛ぶ)



内心の警報がガンガン鳴り響く。



ここで勝負して負けたら死ぬ。


かといってうっかり前世の技術でワンパンしてしまったら


平穏なサボり生活は完全に終了する。



(どうする!?


誰か、この物理的脅威のヘイトを代わりに引き受けてくれる『肉の盾』は……!)



私は、最も生存率の高い戦略を一瞬で選択した。



「……はぁ。そこまで言うなら……


 私の『前衛(盾)』に、まず勝ってみなさいよ。話はそれから……」



男は目を見開き、深く頷いた。



「なるほど……! お前の隣に立つ資格を示せ……ということだな!


  いいだろう! あいつを叩き潰して、お前に認めさせてやる!」



「……ちょっと待って」



私は、自分の耳を疑った。



「私、名前も言ってないわよ?」



「あ? 何言ってんだ? 今や学園中で知らない奴はいねえぞ!」



男が胸を張る。



「『実習で共にし


 有希様にレベルも引き上げられた選ばれし守護騎士』……修平! 


 あいつを倒せば、俺が次の騎士になれるって寸法だろ!?」



(……守護騎士?)



(……「選ばれし」?)



(……「有希様にレベルも引き上げられた」?)



私は三秒かけて、その情報を処理した。



(修平……あなた、何をどう広めたの?)



男は熱い炎を背負うような勢いで廊下の奥へ走り去っていった。



私はその場にへたり込み、壁にもたれた。



(「選ばれし守護騎士」……。


 私が「前衛(盾)」と呼んでいる人間のことを指しているのよね、それ?


 あの、ヘイト引き受け要員のことを?)



脱力しながら立ち上がり、私はとぼとぼと帰路についた。




***




帰宅後。ベッドにダイブした私のスマホが、ピコンと短い電子音を鳴らした。



連絡アプリ『オービット』の通知。送り主は修平だった。



『有希!? さっき知らない奴から「高橋有希の守護者よ! 俺と決闘しろ!」って


 血文字のスタンプ送られてきたんだけど!? なんなの!? どういうこと!?』



私は数秒だけ画面を眺め、返信した。



『私の前衛(盾)なんだから、しっかり仕事してね!(^_^)v』



三秒後、既読がついた。



『「仕事」て何!? いつから俺は有希の盾になったの!?』



『最初からよ』



『なってないよ!!』



『あら、そうだったかしら。ま、よろしく』



『よろしくじゃない!!』



私はスマホをミュートにして、枕に顔を埋めた。



そのまま情報収集のために、学校の匿名フォーラムを開く。



「……」



【速報】高橋有希、ついに動く



『聞いたか? 高橋がついに覚醒したらしい』



『まじ? 何があった?』



『知らない奴のために経緯書くと


 例の実習以降、有希様の周りに修平って男が常に張り付いてる』



『あー、レベルあげてもらったやつか』



『そう。で、今日有希様に勝負を挑んだ奴がいたんだけど


 有希様がひと言こう言ったらしい』



『なんて?』



『「私に近づきたくば、まず我が守護騎士(修平)を越えてみせよ」』



『かっこよすぎだろ!!』



(違う。「私の盾に勝ってから出直せ」という意味で言った。


「越えてみせよ」などという古語は一言も使っていない)



『修平も修平でヤバいぞ。見ろこれ』



『え、裏アカ?』



『「彼女の信頼は、俺の命に代えても守り抜く」ってポエムと一緒に


 顔面蒼白で木刀振ってる動画上がってる』



『泣ける……』



『信頼って読み方するの天才すぎだろ』



(当て字が上手いのは認める。でもその「信頼」は私の気持ちではなく


 単なるヘイト管理の結果よ)



『てか有希様って前からそうだよな。


 実習のときも、絶対に自分では倒さないで修平に任せたんだよ』



『あー、確かに。あれって「彼を育てるための試練」だったのかもな』



(違う。私がトドメを刺すとレベルが上がって死ぬから、修平に押しつけただけよ)



『聖女って結局こういうことだよな。


 自分は動かず、周りを輝かせる。それが本当の強さ』



「…………」



私はスマホをそっと伏せ、天井を見上げた。



(尾ひれどころか、もはや元の魚の面影がない)



(「自分は動かず周りを輝かせる」……


 確かにそうしてるけど、理由が全然違う!


サボりたいだけよ! 死にたくないだけよ!!)



スマホがまた震えた。



修平からだった。



『有希、フォーラム見た。


 俺、「信頼」って読み方、自分で考えたんだけどさ』



『見たわ』



『……なんかこう、有希が俺を本当に信頼してくれてるみたいで、


 恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちなんだけど』



(…………)



(このタイミングで「ただのヘイト管理よ」と言うのは、さすがに鬼ではないかしら)



私はしばらく考えて、返信した。



『頼りにしてるわ、修平』




信。ミュート。



(嘘は言っていない。実際、頼りにしている。盾として)



おっさんの良心が少しだけ痛んだが、私はそれを飲み込んで枕に顔を埋めた。



「……明日、学校行きたくないいいいい……ッ」



絶対安静のスローライフは、今日もまた一歩、彼方へと遠ざかっていった。



……ちなみに翌朝、私はちゃんと登校した。



行かないと修平が

「有希様を休ませるために昨日の決闘で相手をボコボコにしたのか!?」


という解釈をされそうで、それはそれで怖かったからだ。



結局、逃げ場がない。

本日は2話更新になります。

メインストーリー更新が2話となります。

よろしくおねがいします。

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