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第145話:【緊急事態】

1年生の選手やサポーター、そして応援に来てくれたクラスメイトたちと会話したり

美味しい食事を堪能したり……。

私たちは時間を忘れて、大会後の打ち上げパーティーを楽しんでいた。

このまま平和な日常に戻れる。そう思っていた、その時だった。


「せ、先生ッ!! 緊急事態ですッ!!」

バンッ! と勢いよく扉が開かれ、血相を変えた大会運営の職員が駆け込んできた。

会場が一瞬にして静まり返る。

職員が引率の教師たちと何やら深刻な顔で早口に話し込むと

教師たちは顔面を蒼白にさせた。


「……生徒会役員、至急集まってくれ」

生徒会役員が指名され、訳も分からぬまま数人の生徒と共に会議室へと誘導された。


「先生、どうしたんですか?」

足早に廊下を歩きながら尋ねると、案内してくれている覚醒協会の職員が青ざめた顔で答えた。


「この町の周辺に、大量のダンジョンが突如出現しました。

しかもその直後、モンスターがスタンピードを起こし

ダンジョン外に溢れ出してこちらへ向かっています!」

「は? スタンピード?」


「はい。しかも、謎の妨害により周辺地域との連絡が完全に取れなくなっています。

外部への助けも呼べません」

「それって、かなりまずくないですか?」

「ええ……かなりまずいです。しかも、頼りの橘さんやグスタフ会長たちも

空港へ向かうために離れてしまっています」


……あ、これ詰んだのでは?

「つまり、この場を指揮できるような大人がいないってことですか?」

「その通りです」

職員の絶望的な返答を聞きながら、私たちは重苦しい空気のまま会議室へと足を踏み入れた。


会議室に入ると、すでに多くの人が集まっていた。

よく見ると、理沙先輩や葵先輩、雄一先輩など

各学校の生徒会長・副会長クラスのトップ層がズラリと顔を揃えている。


私はこっそり理沙先輩たちの元へすり寄り、小声で尋ねた。

「先輩、私、明らかに場違いじゃないですか?」

「いいのよ。私たちが呼んだし、カイト君が

『有希さんも呼んだほうがいい』って強硬に主張したのよ」


すると、当のカイトがスッと立ち上がり

会議室に集まった全校の代表者たちに向かってとんでもない爆弾を投下した。


「皆さん、聞いてください。実はここにいる有希さんは

あの【神代会長のお弟子さん】なのです」

「「「はぁぁぁっ!?」」」

会議室がドッとどよめく。


(は? 何言ってんのこいつ!?)

私がカイトを思い切り睨みつけると、カイトは胸を張り、ドヤ顔で続けた。

「そして、何を隠そう僕は【グスタフ会長の弟子】です」

(お前の自慢もセットかよ!!)


「なので、この場の指揮リーダーは有希さんが適任だと思います!

彼女はヒーラーであり後方待機が基本なので

全体を見渡す指揮官にはちょうどいいはずです。皆さん、どうでしょうか!?」

カイトのトンデモ提案に、会議室は一瞬にしてお通夜のような静寂に包まれた。


やがて、理沙先輩が口を開く。

「私たちエシュリオン学園は賛成よ。有希の実力は知っているし

普段からパーティーのリーダーとして周りをしっかり見えているわ」


「他校の方はどうですか?」

カイトが問うと、当然のごとく他校から猛反発の声が上がった。


「ふざけるな! 1年がリーダー? しかも女だぞ!?」

「実績もない学生に命を預けるなんて不安すぎる!」

「いや、だが貴重なヒーラーだ! それに神代会長の弟子なら

それなりの実戦経験があると考えていいんじゃないか!?」


会議室はあっという間に、賛成派と反対派の罵声が飛び交うカオスな空間と化した。

(よしよし! 反対派、もっと頑張れ! 私は責任ある立場なんて絶対に嫌だからね!)

私は内心で反対派に熱烈なエールを送っていた。


……しかし。

「だから1年には無理だと言っている!!」

「じゃあ他に誰がやるんだ!?」


あーだこーだと一向に進まない不毛な議論。

刻一刻と敵は迫っているのに

この大人数で足の引っ張り合いをしている状況。


……イラッ。


あ、ダメだ。

前世で【軍人】をやっていた時の癖というか、染み付いた血が騒いでしまった。


――ズゥゥゥゥンッ!!

私は無意識に魔力を解放し、会議室全体に強烈な圧をかけた。

瞬間、空気が凍りつき、全員の口がピタリと止まる。


「……よくもまあ、こんな時間がない時にのんびり議論できますね?」

冷え切った声が会議室に響く。

「この間にも敵は迫ってるんですよ? 死にたいんですか?

生きたいんですか? どっちなんですか?」


「うっ……」

「生きたいなら、反対する方は『俺が代わりにリーダーをやる』と

代案を出してください。あなた達の不毛な議論のせいで全滅でもしたら

生き残った連中があなたの生徒たちに『あいつのせいで死にかけた』

と言いふらしますよ? そうなったら、今後の立場がどうなるかくらい想像できますよね?」


完全に理詰めと脅迫のコンボ。

誰からも反対意見が出なくなり、全員が沈黙して私を見つめている。


(……やっちまった。つい介入してしまった)

結果として、反対意見は完全に消滅し、私はなし崩し的に

『臨時防衛司令官』に就任してしまったのだった。


「……で? どうするんだ、リーダー様よ」

反対派だった他校の生徒が、悔しまぎれに嫌味たらしく聞いてくる。

私はため息をつき、頭の中のスイッチを【指揮官モード】に切り替えた。

ここからは問答無用で指示を出す。


「まず、非戦闘員はこの競技場に避難させてください。

ここを『最終防衛拠点』とします。各学校のサポーターは避難誘導を、教師陣は誘導の指示と全体の統率をお願いします」


私は職員に向き直る。

「怪我人はいますか?」

「はい。ここに戻ってくる途中、職員数名がモンスターに襲われ重傷を負いました。

ですが、彼らが身を挺してくれたおかげで、襲撃にいち早く気づけたのです」

「分かりました。この会議の後、私がすぐに治療に向かいます」


私はテーブルに広げられた周辺地図をバンッ! と叩いた。

「各入り口の周囲1キロを『最終防衛ライン』と設定

。そこから5キロずつ前方に伸ばして『第2防衛ライン』

さらに最前線を『第1防衛ライン』とします。各学校は

まず第1防衛ラインに展開してください」


「モンスターの到着時間は!?」

「約2時間後です!」職員が答える。

「急ぎますよ。……誰か、エシュリオン学園の2年『御子柴巧みこしばたくみ』先輩を

ここに呼んできてください! 至急です!」


数分後。息を切らした巧兄さんが会議室に駆け込んできた。

「有希ちゃん! 呼ばれたけど、一体どうしたの!?」

「巧兄さん、前に言ってた『魔力Wi-Fi』、今すぐ使えます?」


「えっ? 工事は終わってるけど、調整が全然終わってないよ。

それに、対応してる通信端末モデルもないし……」

「なら、トランシーバーみたいな通信機なら作れますか?」

「回路に使う部品は常に持ち歩いてるから作れるけど……

外装やアンテナにする『魔鉄』の材料を持ってきてないから無理かな」


「魔鉄の今の相場は1キロいくらですか?」

「え? うーん、1キロ1000円くらいだけど……」


私は大きく息を吸い込み、会議室にいる全校の代表者に向かって叫んだ。

「皆さん!! お手持ちに『魔鉄』がある方はいますか!? あれば、相場の5倍で買い取ります!!」


「ええっ!? 有希ちゃん、どういう状況!?」

「巧兄さん、説明は後です。黙ってて」

命がかかった相場5倍の買い取り宣言に

各学校の代表者たちが「うちの備品にあります!」

「俺、武器の予備で持ってる!」と続々と挙手し始めた。


「巧兄さん。必要な量を各学校から集めてください。

量は正確に計って、後で私に請求書を提出すること!」

「りょ、了解!」


巧兄さんが猛スピードでトランシーバーの製作に取り掛かる横で

私はさらに指示を飛ばす。

「各学校の生徒会長たちは、それぞれの学校で

『どこを守るか』と『ローテーション』を決めておいてください。

他校と連携しても足の引っ張り合いになるだけなので

学校ごとにエリアを分割します」

(これには異議の声は上がらなかった。

各校のプライドと連携不足を考慮すれば当然の判断だ)


「それと、各防衛エリアに『ヒーリングエリア』を設置します。

そこに座っているだけで回復が促進される魔法陣です。

2年生以上のソロバトルや3対3バトル経験者なら、競技場で体験済みですよね?」


ざわざわっ、と会議室がどよめいた。

「なっ、あれをフィールドに展開できるのか!?」

「おい、それって規格外すぎないか……?」

「無駄話は後にしてください!」

私はピシャリと叱り飛ばす。


「トランシーバーが完成次第、各学校の代表者に配布します。

私と各学校が常に繋がるように設定しますので

学校ごとに『コールサイン(名前)』を決めておいてください。

こちらから指示を出したり、そちらから救援要請があれば随時対応します」


最後に、私は地図上に赤ペンで防衛ラインの割り振りを書き込んでいく。

「第1、第2、最終防衛ラインの担当割り振りは以上の通りです!

……決めるべきことはこんなところですね。何か質問は?」


……沈黙。

全員が私の怒涛の指示と的確さに圧倒され、ただ唖然としていた。


「なさそうですね。それでは作戦会議を終わります」

私は立ち上がり、全員の顔を真っ直ぐに見据えた。

「皆さんの協力がないと、この危機は乗り越えられません。

手を取り合い、協力して、絶対に生き残りましょう!」


「「「おおおおおぉぉぉぉぉッッ!!!」」」

会議室に、士気を取り戻した生徒たちの雄叫びが響き渡る。


解散となり、各々が戦いの準備へと走り出す。

――こうして、後に語り継がれる『地獄のスタンピード防衛戦』の

火蓋が切って落とされたのだった。

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