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第143話:【スナイパー】

第143話:【指鉄砲のスナイパー】


舞台はついに準決勝。

会場の熱気は最高潮に達し

観客席からの地鳴りのような歓声がリングを揺らしていた。


準決勝の相手チームは、なんと全員が精霊を顕現(実体化)させて陣取っている。


「有希。気を付けなさい。あそこはかなり手強いわよ」

理沙先輩が鋭い視線を向けながら忠告してきた。


『――試合開始ッ!』


合図が鳴り響いた瞬間。

相手チームが、一斉に特級魔法(大魔法の上位互換)を

こちらに向かってブッパなしてきた!!


「ちょっ、先輩たち私の後ろへ!」

私は慌てて二人を背後に避難させると、防御壁の展開範囲をギュッと小さく絞り

その分、壁の層を分厚くして魔力を限界まで巡らせた。


――ズドドドドドォォォォンッ!!!


凄まじい魔法の豪雨が防御壁に直撃し、リングが爆発の光に包まれる。

「有希ちゃん、大丈夫!?」

背後から葵先輩が心配そうに声をかけてくる。


「全然余裕です。先輩たち、今から行きます?

防御壁ごと支援魔法をモリモリに込めれば、この弾幕、抜けられますよ?」

「ええ、お願いするわ!」


私が先輩二人に防御壁とバフを付与すると、二人は弾幕の嵐の中を弾丸のように駆け出していった。

私は魔力眼で状況を見守る。先輩たちの奇襲は成功したようだが

相手も必死で一気に落とすには至っていない。


(……仕方ない、少し手伝うか)


私は片手で全体の防御壁を維持したまま、もう片方の手で『指鉄砲』の形を作り

先輩の攻撃を受け止めて防戦している相手の一人に狙いを定めた。


「ばきゅん」


指先から放たれた高圧縮の魔力弾が、相手の特級魔法の余波をスパーンッと貫通し

そのまま相手にモロに直撃!

「ぐはぁっ!?」

相手が派手に吹き飛び、それを機に厄介な魔法弾幕がピタリと収まった。


一度距離を取って戻ってきた先輩たちが、目を見開いて私に問い詰める。

「有希! 今、何やったの!?」

「言う義理はありませんね(フフン)」

私がドヤ顔でそっぽを向くと、先輩たちは「後で問い詰める!」

と言わんばかりの顔で

さらに速度を上げて相手に猛攻を加え始めた。


相手は開幕の特級魔法で魔力を使いすぎたのか、完全に防戦一方だ。

しかし、一発逆転を狙って何かヤバそうな魔力を

こっそり練り始めているのが魔力眼で見えた。


(あ、それ撃たせないよっと)


「ばきゅん」

魔力を溜めていたド真ん中に、私の指鉄砲スナイプ

ピンポイントで突き刺さる。

「あべっ!?」

魔法を暴発させた相手は、そのまま理沙先輩たちの猛攻を食らい

哀れリングアウトとなった。


「さて……残りのあなた達はどうする?」

理沙先輩が凄むと、残った相手は青ざめて「こ、降参します……」と手を挙げた。


『――決勝進出はエシュリオン学園だぁぁぁぁッ!!』


控室に戻り、ソファーにふすーっと沈み込む。

「いやー、余裕でしたね」


「……それを言えるのは有希だけよ」

理沙先輩が呆れたようにため息をついた。

「さっきの試合、相手は精霊たちを完全に顕現させていたでしょ?

開幕の一撃で魔力の8割を使って特級魔法を撃ってきたのよ。

多分、決勝を捨てて『ウチを倒すこと』だけに全振りして勝ちに来たのよ」


「え? ……あれで?」

私は心底驚愕した。


「精霊の魔法なんて大したことないじゃないですか。

怖いのは『サポート』に回られることであって、

メインで魔法を撃ってくる分には怖くないですよ?

どの程度の魔力で撃つか丸わかりだから対処しやすいですし」


「だから、そう言えるのは規格外の有希だけよ……。

とはいえ、その意見は参考になるわね。私たちも精霊と契約しているから

運用について悩んでいたの」

理沙先輩が真剣な顔になる。

「サポートに回られると怖い理由、もう少し詳しく教えてもらえる?」


「簡単ですよ。精霊がサポートに入ると『自動で迎撃』してくれるから

術者の隙が減るんです。それに意表を突いて横槍を入れてくるから防御しにくいし

本体と一緒に波状攻撃されるのが一番面倒で嫌なんですよね」


「なるほど……そうすると、精霊との意思疎通が必要ね」

「精霊にも性格ってあるんですか?」

「もちろんよ。目立つのが好きな子、魔法をぶっ放すのが好きな子

サポートが好きな子、控えめな子……色々よ。

大体は本人の性格に似た子が来るから、役割をきっちり分けるのは少し難しいんだけどね」


そんな精霊談義をしていると、職員が呼びに来た。


「――決勝が始まります。準備をお願いします」

「優勝するわよ!」

「「おー!」」

理沙先輩の気合いに合わせ、私たちは決勝の舞台へと向かった。


舞台上に立つと、相手チームの先頭には『グスタフ会長の弟子』

として紹介されたカイトという少年が立っていた。


(グスタフ会長の弟子……。魔法だけじゃなく接近戦もしてきそうだし

一応武器は持っていた方がいいわね)

私は空間ポーチをごそごそ探り、ひとまず『魔導銃』を1丁だけ取り出して構えた。


「何かアピールや確認はありますか?」

審判の問いに、双方が「特にない」と首を振り、ついに決勝戦の開始を告げる合図が鳴った!


試合開始直後、双方が同時に支援魔法バフを詠唱する。

(最初は様子見で、バフの出力は半分くらいにしとこ)


相手もバフを唱え終わり、全員が同時に動いた。

理沙先輩と葵先輩は相手の他のメンバー二人と激突。

必然的に、私とカイトがリングの中央で1対1で睨み合う形になった。


(……ん?)

魔力眼で視ると、私の『真横』で精霊2体が

こっそり魔力を溜めているのが丸見えだった。

正面からカイトが魔法を撃ってくる。

私はあえて大掛かりに防がず、小型防御壁でペシッと防いだ。


その瞬間!

私の真横で姿を現した2体の精霊が、至近距離から特大魔力の

『氷魔法』と『雷魔法』をブッ放してきた!


(はいはい、見えてますよーっと)

私は左右に防御壁を即座に出現させ

さらに自分自身にも防御障壁を纏って完全防御モードへ移行。

放たれた魔法の魔力をジュルジュルと吸収し、自分の魔力に変換してから

威圧するようにわざとブワァッと魔力を放出してみせた。


「……ははっ、今の不意打ちを防ぐとはすごいね。見えてたのかい?」

カイトが余裕めいた笑みを浮かべる。


「当然でしょ? そもそも精霊たちは分かってるわよ。私に精霊の攻撃をしても無駄だってこと。

今の魔法、全然殺気がこもってなかったし、

『やっても無駄なんだけどなぁ……』って感情がモロに乗ってたわよ?」


「そこまで分かるんだ……」

カイトの顔から少しだけ余裕が消えた。


「魔力の扱いが上手くならないと、死ぬからね」

私が肩をすくめながら答えると、リングの端から激しい戦闘音が聞こえてきた。

相手の先輩たちが少しずつ押されているようだ。


「先輩たち、ちょっと押されてるけど……そっちの援護に行かなくていいの?」

「……なら、こっちへの『援護の妨害』をやめてほしいな」

カイトが苦笑する。

実は彼、私と会話しながら先輩たちに向けてこっそり魔法を放っていたのだが

私が全部見えないところで防御魔法をぶつけて撃ち落としていたのだ。


「じゃあ、これはどうかなッ!」

カイトが突然スピードを上げ、私に向かって直接接近戦を仕掛けてきた。


(げっ! 防御壁の弱点……物理と魔力の連撃を知ってる動き!)


このままじゃマズイ。猛攻撃を浴びながらも先輩たちへの支援を続けていると

ついに私の防御壁にピキッとヒビが入り始めた。


「もらったァッ!」

カイトが勝利を確信したように剣を振り下ろす。

私は右手に持っていた魔導銃をカイトに向けて発砲!

彼はそれをギリギリで避けて追撃をしようとした――が。


「甘いわよ」

その一瞬の隙に、私は空間ポーチから『もう一丁の魔導銃』を素早く取り出し

彼の避け先に合わせて引き金を引いた。


「なっ、二丁拳銃ッ!?」

避けきれずに魔力弾がヒットし、カイトは大きく距離を取る。

その隙に、先輩二人も私の元へ合流してきた。


「ハァ……ハァ……あのカイトって子、厄介ね。有希の援護があっても

魔法の数が多くてすり抜けてくるから、攻めきれないわ……」

理沙先輩が息を切らし、葵先輩も同意して頷く。

二人の体にはあちこち負傷が見られた。


「お疲れ様です。すぐ治しますねー」

私は二人に【ヒール】をかけ、一瞬で体力を回復させ、傷を完全に塞いだ。


「ありがとう有希、助かったわ」

「これでまた全力でいけます」


爽やかに立ち上がる二人を見たカイトのチームは――

信じられないものを見るような目で、完全に驚愕して固まっていた。


「……お、お前っ…………ヒーラーだったのかァァァッ!?」

カイトが裏声で叫ぶ。


「そうよ? だから私を先に潰さないと、永遠に勝てないわよ?

しかも私、遠距離でも回復できるから

さっきみたいにチマチマ削っても無駄だからね?」

私が二丁の銃をクルクルと回しながら煽ると

相手チームから「マジかよ……」と絶望の呻きが漏れた。


「じゃあ先輩。そろそろ本気で行きましょうか」

「「ええ!」」


私は自分と先輩二人に、先ほどまでの「半分」ではない

【全力の支援魔法フルバフ】をドカンと掛けた。


「ふざけるな、こっちも全力だッ!!」

ヤケクソ気味にカイトたちが突っ込んでくる。


相手の支援担当は葵先輩が、火力担当は理沙先輩が引き受けた。

そしてカイトは、親の仇のように私に向かって一直線に突っ込んでくる!


「ハアァァァッ!」

先ほどと同じ猛スピードで剣の連撃を仕掛けてくるカイト。

……しかし、自分にフルバフをかけた今の私から見れば、まるでスローモーションのようだ。


「遅いわよ」

私はヒラリと剣を避けながら、至近距離で銃を撃つ。

カイトの横から『氷の盾』が出現し、ギリギリで弾を防ぐ。

すぐさま左の銃で撃つと、今度は『雷の盾』が出現して防いだ。


「そこだッ!」

大振りの一撃を振り下ろしてくるが、遅すぎる。

「残念、大振りすぎるわ」

軽々と避けて再び銃を撃つが、またしても2属性の盾に防がれる。

(精霊のオートガード、ほんと面倒くさいな……)


私は大きく後ろへ跳んで距離を取ると、カイトではなく

先輩たちと戦っている相手の2人に向かって二丁の銃の引き金を引いた。


「させるかッ!」

カイトの雷と氷の盾が遠距離から私の弾を防ごうと展開されるが

――私の魔力弾はその盾ごと粉砕・貫通!

一発は敵の一人の足を撃ち抜き、もう一発はカイトが自分の身を挺して辛うじて防いだ。


ハァ、ハァと肩で息をする相手チーム。

対する私は、涼しい顔で先輩たちにヒールを掛け続け

体力と傷を常に満タン状態に保っている。


「……まだ、やる? 私を倒さないと、先輩たちは絶対に倒れないわよ?」


「とっ……当然だッ!!」

満身創痍のカイトが、それでも諦めずに突っ込んでくる。

相手の体力は限界に近く、1人は足を負傷して機動力が完全に死んでいる。


圧倒的な絶望を押し付けながら――長かった大会も、いよいよ最終局面を迎えようとしていた

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