第142話:【不意打ち完封】
「今戦っていて勝った方が、準々決勝の相手ですよね?」
控室のモニターを指差しながら、私が尋ねる。
「ええ。勝つのは間違いなく、豪徳寺 猛率いる獅子王学園ですね」
葵先輩が即答した。
「私、彼に喧嘩売られましたけどそんなに強いんですか?」
「ええ、実力は本物です。学校の顔ともいえる存在であり
精霊協会の時期幹部が約束されてますね。そして、多くの子分を抱えてますね。」
「その分、態度がひどいけどね」
理沙先輩が腕を組んで付け加えた。
「彼の子分たちも、外で好き勝手やっているって聞こえてくるわ」
「……ということは、学校は何も対処してくれないって感じですか?」
「その通りです。でも獅子王学園は生徒に優秀な『魔道具』を無償配布しているんです。
だから生徒からの人気は高いんですよ。豪徳寺 猛自身も学園内ではそこまで悪い人物というわけではなく
学園を守るために動いている節があるので、それなりに支持されているようですね」
「ふーん……。あ、私、普通に彼に絡まれましたけどね」
「まあ、有希の場合は可愛いから、単に気を引きたかっただけじゃないかしら?」
理沙先輩がクスクスと笑う。
「なんでそんな面倒な人ばかり寄ってくるんですかぁ……っ!(泣)」
「これからもずっと続くんだから、今のうちに処世術を身につけないと大変よ?」
先輩からのありがたい(?)アドバイスに、私はげんなりとおでこを押さえた。
その時、モニターのテレビから『獅子王学園の勝利』を告げる実況が流れた。
「あ、予想通り獅子王学園が勝ちましたね」
「さて、次は大変そうだから、気を引き締めていきましょう!」
理沙先輩の言葉に力強く頷き合う。
少しすると大会職員が呼びに来た。
「準々決勝が始まります。会場へ向かってください!」
特設リングへと足を踏み入れると、実況の興奮した声が響き渡る。
『――さあ準々決勝です! 優勝候補筆頭・エシュリオン学園は
圧倒的な強さで勝ち上がってきました! 対する獅子王学園は
見事な連携で敵を追い詰めての準々決勝進出だぁぁッ!』
「――試合開始ッ!」
合図が鳴った瞬間、豪徳寺 猛が猛烈な勢いで私に向かって突っ込んできた!
私は今まで通り、その場から動かずに防御魔法で攻撃を受け止める。
すかさず理沙先輩と葵先輩が豪徳寺に飛びかかり、攻撃を仕掛けようとした――
が、豪徳寺の仲間のカバーに入り、阻まれてしまった。
(ふむふむ……)
私は涼しい顔を崩さず、魔力眼で相手チームを冷静に分析する。
(うわ、今の豪徳寺の突進、魔力が一切こもっていない単なる『物理攻撃』じゃない……!
素の腕力だけでこの威力とか、冷や汗ものなんだけど……っ!)
私が心の中で冷や冷やしていると、豪徳寺の体から突如として
禍々しい魔力が爆発的に膨れ上がった!
彼の狙いは……私ではなく、無防備な隙を晒した葵先輩!
超ド級の不意打ちが葵先輩を襲う!
「葵ッ!?」
理沙先輩が悲鳴を上げるが、葵先輩のガードは明らかに間に合っていない!
――ドゴォォォォンッ!!!!
凄まじい衝撃波がリング上を吹き荒れた。
「「「………………」」」
静寂。
煙が晴れたそこには――なぜか擦り傷一つなく、ポカンと立っている葵先輩の姿があった。
「え……?」
当の葵先輩自身、自分に何が起きたのか全く分かっていない。
攻撃を繰り出した豪徳寺たちも「な……なにッ!?」と大混乱に陥っている。
「ちっ……あれを防ぐとは想定外だぜ。さすがエシュ学だな……!」
豪徳寺が苦々しく吐き捨てる。
葵先輩はハッと我に返ると、強がり気味に不敵な笑みを浮かべた。
「ふふっ……今の一撃で大体わかりました。今度はこちらの番ですね」
そう言って、葵先輩がチラッと私の方を横目で見てきた。
「はいはい、分かりましたよー」
私は吐息を漏らしながら、二人へ【バフ(支援魔法)】をシュッとかけた。
「それじゃ、行くわよッ!」
理沙先輩の宣言とともに、バフを受けた二人が残像を残して跳躍!
「なめやがってぇぇッ!」
豪徳寺の部下が激高して迎え撃とうとするが
理沙先輩の速すぎる攻撃を防ぎきれず直撃! 踏みとどまったところへ、葵先輩の追撃が突き刺さり、瞬く間に1人をリングアウトへ叩き落とした!
「しまっ――」
スキを晒した先輩二人へ、残りの部下2人が同時に追撃を仕掛ける!
しかし、その軌道上に私が遠隔で【防御魔法】をスッと滑り込ませ
攻撃をカンペキにシャットアウト!
「チッ、邪魔が入るか!」
反撃しようとした先輩たちに対し、豪徳寺が爆発魔法を放って強制的に距離を取り
仕切り直しを図った。
「なるほど、そういうことか……。遠距離から防御魔法を飛ばせる奴が、他にいたとはな」
豪徳寺が険しい顔で私を睨みつける。
理沙先輩はドヤ顔で胸を張った。
「私のかわいい後輩よ。羨ましいでしょ? こんなに可愛くて、気が利いて、謙虚という……
あなた達で言う『理想の女の子』よ?」
(……いや、そんな美化しないでほしいんだけど。
私はただ、体力がないし動くのがしんどいから動かずにいて
働いてくれる先輩たちが倒れられたら困るから、その前に対処してるだけなんだけど。
美化されるようなことじゃないんだけど……)
内心で盛大にツッコミを入れつつ、私は表面上、のほほーんと佇んでいた。
「だったら、これなら防げるかよッ!!」
豪徳寺と部下の2人が、同時に超ド級の大魔法を詠唱・ブッ放してきた!
「有希ッ!」
理沙先輩の声と同時に、私は【結界魔法】を展開して迫り来る大魔法全体を
一瞬で丸ごと包み込んだ。そして、その結界の内側に【防御魔法】を極小展開し
魔法エネルギーそのものを霧散・飛散させた!
――フッと、大魔法が跡形もなく消滅する。
「な……ッ!? あの大魔法を無力化しただと!?」
「言ったでしょ? 『気が利く』って!」
理沙先輩がドヤ顔で突撃し、呆然としていた豪徳寺の隣のメンバーを叩きのめす!
相手はガードしたものの、その凄まじい衝撃でそのままリング外へ吹っ飛んでいった!
残された豪徳寺に対し、葵先輩が怒涛のラッシュを叩き込み、カバーを完全に封殺。
一瞬にして【3対1】の状況が完成した。
「さあ、どうしますか? まだやりますか?」
葵先輩が武器を突きつける。
豪徳寺は盛大に舌打ちをすると、悔しそうに拳を握りしめた。
「……チッ、降参だ!!」
『――し、試合終了ぉぉぉッ!! 勝者、エシュリオン学園!!
見事な連携で獅子王学園を破りましたぁぁッ!!』
会場から割れんばかりの大歓声が巻き起こる!
「有希ちゃーん! 最高ー!」
「理沙ちゃんかっこいー!」
観客からの黄色い声援を聞き流しつつ、私たちは速やかに控室へと戻った。
「よくやったわ、有希!」
控室に入るなり、理沙先輩が褒めてくれた。
「有希、本当に助かりました。
……最初の豪徳寺 猛の不意打ちを防いでくれたのも、あなたですね?」
葵先輩に聞かれ、私は頷いた。
「そうです。私、支援職ですし、あの程度防げなければパーティ運用なんてできませんから」
「……私が防いだことになっていたけれど、良かったのかしら?」
「別に名声とかそういうの全然いらないんですよね。
むしろ手柄はできるだけ人に押し付けたいとすら思ってるので
わざわざ訂正しなかったんです」
葵先輩が深く感じ入ったように頷いた。
「なるほど……。あなたが学園で『聖女』と呼ばれる理由が
今ようやく分かりました」
「えっ……? 他人に嫌なこと(手柄や注目)を押し付けてるだけなのに
聖女なんて呼ばれるのっておかしくないですか?」
私が理沙先輩に同意を求めると、理沙先輩はクスクスと楽しそうに笑った。
「有希。その『あなたが嫌がっていること』がね……普通の人にとっては
『喉から手が出るほど欲しい嬉しいこと』だから、あなたは聖女と呼ばれるのよ」
「……えぇっ!?」
手柄の押し付けが、なぜか感謝と崇拝に変換されているという
衝撃の事実に理沙先輩から突きつけられ
私は深く頭を抱えながら控室のソファーへと沈み込むのだった。




