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第141話:【動かない後衛】

『――さあ、各校の選手たちが位置につきますッ!』


会場の割れんばかりの大歓声の中には、

「有希ちゃーん! 付き合ってくれぇぇッ!」

「かわいいー!」

など、いろいろな言葉が混ざり込んでいた。


(……こういう時、身体能力が上がって耳が良くなっていると嫌になっちゃうわねぇ。

いやまあ、私の素のステータスはALL 1の最底辺だからマシだけど

元から耳が良い人たちは観客の陰口とかもっとクリアに聞こえてるんだろうなぁ)


私がそんなことを考えていると、審判が「両者、準備を!」と声を上げた。


私たちの立ち位置は、前衛に理沙会長と葵副会長、後衛に私の【逆トライアングル】の陣形。

対する相手チームは、横一直線に並ぶオーソドックスな陣形だ。


「――試合、開始ッ!」


合図と同時に、相手が一気に攻撃を仕掛けてきた。

魔力眼で見た感じ、前衛の攻撃は大したことないけれど……後ろを見ると

3人がかりで完璧な追撃のタイミングを狙っているのが見えた。


(あ、これ1人突破してくる流れね。移動して避けるのめんどくさいから、防御壁張っとこ)


私はその場から一歩も動かず、サクッと【3重の防御壁】を展開。

相手の前衛が放った魔法を防いだ直後、追撃として魔力をまとわせた剣が飛んできた。


(ほうほう、なかなか良い作戦ね。魔力も通ってるし

普通の支援職ならこれでやられていたかもしれないわねー)


心の中で点数をつけながら、飛んできた剣を防御壁でシャットアウト。

直後、相手の2人が属性をまとった連続攻撃を叩き込んできたが、私は涼しい顔でそれを防ぎ切った。


次の瞬間――!

スキだらけになった相手の背後から理沙先輩と葵先輩が躍り出ると

鮮やかな追撃で一瞬にして場外へ蹴り飛ばした!


残された相手の1人は、あまりの光景に顔を青ざめさせ――。

「降参(参りました)……!!」


1回戦、勝利!!


あまりにも一瞬の出来事に、静まり返っていた会場が一気に大歓声に包まれた!


『~っっ!? エシュ学1回戦突破ぁぁッ!! 一瞬で勝負を決めましたーッ!!』


私が先輩たちとハイタッチを交わすと、理沙先輩が晴れやかに笑った。

「さすが有希。あいつらの攻撃は完璧に防ぐと思って

わざと攻撃させて正解だったわ。おかげで消耗なく勝てたわね」

「有希さん、流石です。次もお願いしますね」

葵先輩も丁寧にお礼を言ってくる。


「とりあえず任せてください。というか

これで全部終わったら楽なんですけどねぇ」

私が本音を漏らすと、二人とも上品に笑いながら「その通りね」と返し

私たちは一旦控室へと戻った。


控室のモニターで他チームの試合を観戦していると、理沙先輩が尋ねてきた。


「有希、他校の戦いを見てどう思う?」

「正直、大したことなさそうですね。さっきだって支援魔法をかける前に終わっちゃいましたし。

私のことをしっかり知らないと、私の防御壁は破れませんから」


「どういうことかしら?」


「単純ですよ。私、精霊魔法を使うと防御壁が強化されるようになっているので

精霊魔法を使っている限り、防御壁が自動で強化され続けるだけなんですよ」


「……ただの魔力纏い(属性攻撃)ではダメなの?」

葵先輩が首を傾げる。


「無理ですね。魔力を使った攻撃は一部吸収しちゃいます。

属性……いわゆる精霊攻撃だと吸収効率が良いだけで、魔力を纏った時点で無理です。

ただの『筋肉バカ』が物理の全力で叩かないと破れませんね」


「それ……どれくらいの威力で殴れば破れるの?」

理沙先輩が引きつった笑顔で聞いてくる。


「さあ? やったことないので分かりませんね」


「……チートすぎない?」

葵先輩が思わず本音を漏らした。


「あ、それはいま私が体調万全だからですよ?

普段は周囲探知、支援魔法、遠隔防御魔法、相手の行動探知

自分の魔力壁維持とか色々と同時にやってるから、もっと弱くなりますから!」


「それを……パーティーを組んだ時、いつもやってるの?」

理沙先輩が目を見張る。


「もちろんじゃないですか。他にやる人がいませんから」

「大変じゃありませんか……?」

葵先輩が本気で心配そうな目を向けてくれた。


「まあ、慣れてますから気になりませんね」

「そう……でも、誰かにやり方を教えて、負担を分けた方がいいと思いますよ」

「ありがとうございます。考えてみますね」


そんな会話をしている間に1回戦が全て終了し、2回戦の呼び出しがかかった。


指定されたステージへ入場すると、対戦相手の選手が嫌味な笑みを浮かべて挑発してきた。


「へっ、良いご身分だなあオイ! 後ろに隠れて先輩たちに働かせてさぁ!

自分で動かないといけねえんじゃねえか?」


チラッと見ると、審判が『どうします?』という目線をこちらに飛ばしてきている。

私はため息をつき、相手に向かって淡々と言い放った。


「なら、私を動かしてみてくださいよ。さっきも私

1歩も動かず終わっちゃったんですよ? 先輩たちもほとんど動けてなくて

『準備運動したい』って文句言われましたよ。相手が弱いのは私のせいじゃないのにね?

分かります? 相手が弱いと、1年の私が文句言われるんですよ?

あなたたちは、ちゃんと私を動かしてくださいね?」


「……っ!! いいだろう、その生意気な口を叩いたことを後悔させてやる!!」


激怒した相手の選手3人から、爆発的な魔力が膨れ上がる!


「――試合開始ッ!」


合図と同時に、相手チームがド派手な大魔法をぶっ放してきた!

理沙先輩と葵先輩はサッと横に避けたが、私は移動するのがめんどくさいので

避けないでもろに食らうことにした。


ドゴォォォォンッ!!!!


激しい爆炎と炎煙が私を包み込む。

「ハッ! どうだクソアマッ!!」

勝ち誇る相手選手。


……次の瞬間、煙の横から躍り出た理沙先輩と葵先輩が

さっきと同じような不意打ち気味の蹴りで相手2人を場外へ叩き落とした!


「なっ……!?」

一瞬で1人残され、焦り狂う相手に理沙先輩が冷ややかに言い放つ。


「これ、3対3よ? 1対3じゃないわよ?」

「く、狂ってやがる……! いいのかお前ら! 1年が爆発で消し飛んだんだぞ!?」


「この程度、彼女には効かないので心配ご無用です」

葵先輩が淡々と答えると同時に、私の周りの煙がようやく晴れてきた。


「……ごほ、ごほっ」


私が咳き込みながら無傷で姿を現した瞬間

残った相手選手は顔面を蒼白にしてガクガクと震え――そのまま膝をついて降参した。


『――圧倒的な力ッ! エシュ学、2回戦突破ぁぁぁッ!!』


またしてもあっという間に終わってしまった。

理沙先輩が爽やかに微笑みかける。

「有希、分かった? これがエシュ学と他の差よ」


控室に戻る途中、私はふとした疑問を先輩たちにぶつけてみた。


「あの……去年もこんな感じだったんですか?」

「去年はもっときつかったわよ」

「じゃあ、なんで今年は――」


私が言い切る前に、葵先輩が微笑みながら教えてくれた。

「それは、相手に有希の情報が全くないからです」


「情報がない……ですか?」


「情報ゼロの相手に初見で勝つのは至難の業よ。

去年は私たちの戦術が徹底的に分析されていたけれど……今回は違うわ」


「なら、私を無視して先輩たちを先に狙えばいいのでは?」


「翔が言いふらした『支援職』とどんくさい女いう情報が問題なのよ」

理沙先輩がニヤリと笑う。

「いくら私たちの元データを分析していても

それは『有希のバフを受ける前』の話。

バフを受けた状態の私たちのスピード、攻撃力、反応速度のデータがないの。

だから相手は『バフを唱えられる前に有希を潰そう』という作戦に出るしかないわけ」


「しかも、有希の詳しいデータは完全にゼロ」

葵先輩が続ける。

「この2試合で分かったことなんて『防御壁がやたら硬い』くらいよ。

だからさっきの相手も、挑発して有希を前に出させ、少しでも情報を引き出そうとしたのね」


「へぇ~……情報って、すごく大事なんですねぇ」


私が感心して深く納得していると、理沙先輩がクスクスと笑いながら言った。


「まあ、有希の場合……情報が全部バレていたとしても、多分負けてないと思うけどね」


「ですね」と葵先輩も頷き、私は「えぇ~……」と苦笑いしながら控室へと歩いていくのだった

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