第140話:【大人の事情】
「あのー……『私がいる限り勝ち確』とか言われても
私そこまですごいことできませんよ? 先輩たちみたいに直接的な攻撃手段もありませんし!」
プレッシャーを回避すべく、私は速攻で「先輩たちのおかげです」アピールを叩き込んだ。
しかし、理沙先輩はクスクスと微笑むだけだった。
「ふふっ、そういう風に謙遜しているところも素敵よね、有希」
「謙遜じゃなくて本当のことですからーっ!」
私が全力で主張していると、引率の教師が真剣な顔で近寄ってきた。
「まあ、今年も優勝を期待しているからな! お前たち次第で……
私たちのボーナスが変わってくるからな……ッ!!」
教師の口から、もの凄く生々しくて切実な本音が漏れ出た。
すると、理沙先輩はビシッと胸を張って頼もしく返答した。
「先生、今年のボーナスもお任せください!」
「理沙君、頼んだぞ! その分、私たち教師も君たちのためにできるだけのサポートはするからな!」
「はい! ありがとうございます!」
爽やかに会話を終えた理沙先輩の袖を、私はこそっと引いて尋ねた。
「あの……先輩。先生のボーナスのために
私たちがそこまで頑張る必要あるんですか……?」
「いい? 有希。先生たちが日頃の面倒な雑務を一手に引き受けてくれてるから
私たちの学校生活がスムーズに回っているの。私たちがちょっと頑張るだけで
先生たちが気持ちよく生徒のために働いてくれるなら、すごくお得じゃない?
どのみち、私たちがやる事は変わらないわけだし」
「あ……なるほど」
理沙先輩の合理的なプレゼンに、私は思わず納得してしまった。
隣で聞いていた葵先輩が、さらに詳しい裏事情を補足してくれる。
「この学校対抗戦の成績によって、ギルドからの評価、国からの補助金、税金免除など
色々と学校側への優遇措置が変わるんですよ。
だから先生たちも気合いを入れて優勝を目指すんです。
まあ、私たちは普段からお金を稼ぐ目的でダンジョンに入り浸っていますし
巧君の魔道具、そして今年は有希ちゃんの規格外な魔法もある。
油断は禁物ですが、優勝は今年もうちで決まりだと思ってますよ」
「へぇ~……。でも、他校の生徒って、そんなに気軽にダンジョンに入れないんですか?」
「面倒な手続きをしているところが多いわね」
葵先輩が呆れ顔で説明する。
「大体の学校は『一般化』……つまり非覚醒者の生徒と同じ校舎にいるのよ。
だから『覚醒者だからといって、同じ学生がお金を稼げるのはおかしい!』
って保護者からのバッシングが凄いの。何かあった時の突き上げも酷いから
なかなかダンジョン立ち入りの許可が出ないみたいね」
「じゃあ、なんでうちはあっさり許可が出てるんですか?」
「単純よ。うちは『入学金以外、追加のお金を一切取っていない』からよ」
葵先輩はニヤリと笑った。
「覚醒者の生徒たちがダンジョンで稼いだ金額の一部を学校に納めて
非覚醒者の生徒にかかる代金を全部賄っているの。保護者にはそれを明確に伝えてあって
『これができなくなったら、追加で授業料と教材費等かかります』って突きつけているのよ」
「なるほど……! 他校は足を引っ張り合っているけれど
うちはその対策をしているから稼げる、というわけですね!」
「その通り。その分、私たちの取り分は少し減るけれど
お金の使用用途は全部公開されているし、先輩たちが
『その分、ギルドの連中がしっかり見ていてくれるから大丈夫だ』
って教えてくれるからね」
「ギルドが見てる、ですか?」
「私たちが自由に入ることを許可されているダンジョンは
ギルドの管轄だから職員が常駐しているの。ギルド職員は防衛だけじゃなく
『有望株な若手を見つける』のも仕事だから、常に目を光らせているのよ」
「なるほど! それで競技会場で名前を知って、スカウト欄に載せるってことですか?」
「そういうことです」
葵先輩が頷くと、理沙先輩がさらに補足を入れてくれた。
「先輩たちが後輩の世話をする中で、有望株がいるとギルドに情報を教えるから
スカウトされやすくなるの。だから
『ダンジョンに入る時に上級生がいると加点されるシステム』は
後輩がギルドに勧誘されやすくするための仕組みなのよ。
有望株を連れてきた先輩たちもギルドでの地位が高くなり
後輩たちも良いギルドに入れる。お互いにメリットがあるの」
「へぇ~! めちゃくちゃ良くできてるんですねぇ!」
「そうよ。適当に加点しているわけじゃないのよ」
そんな学園の裏システム感心しながら移動し、私たちは待機用の控室に入った。
すると、部屋の中には先客――翔先輩が待っていた。
「何の用?」
葵先輩が一瞬で冷ややかな声になり、鋭い威嚇の視線を向ける。
「そう邪険にすんなって……。もう悪いことはしてねえだろ。
そもそも神宮寺に命令されたからだし、俺が逆らえなかったってのは知ってるだろ?」
「それはそうですが、感情は別なんです」
ピリついた空気の中、理沙先輩も他人行儀な態度で問いかけた。
「……それで、何の用ですか?」
「……他校が、有希の情報を喉から手が出るほど欲しがってるんだよ。
なんでも情報が全くなくて、完全にお手上げ状態らしいぜ?」
「有希、校内で戦った回数は?」
理沙先輩に聞かれ、私は指を折って数えた。
「入学直後の4月に1回だけで、それ以降は一切ないですね。
あ、でもトラブルに巻き込まれた時には戦いましたよ?
だから『情報が一切ない』というのは流石におかしいんじゃ……」
「有希は学園内でよほど人気があるみたいでな」
翔先輩が肩をすくめた。
「生徒たちが一切情報を喋らねえんだよ。アンチの連中も
例の神宮寺家の事件のせいで『有希批判をしたら家ごと消される』
と思い込んでて、恐怖で誰も口を割らん」
「なんでそうなるんですか!? 私、何もしてないのに!」
「まあ、周りはそう見ないってことだ。
おかげで俺のところに問い合わせが殺到してんだよ。
俺は外に色々とコネがあるからな……
どういう情報を流すか流石に迷って、相談しに来たんだ」
「そういうわけでしたか……」
私は腕を組んで考え込んだ。
翔先輩が「あまり極端な偽情報を流すと、今度はこちらが情報をもらえなくなるから
本当のことを少しだけ混ぜて流したいんだが……」と呟く。
「じゃあ、『支援系でどんくさい女』って流せばいいんじゃないですか?」
「えっ……有希、そんな自分を下げるようなことを言わなくても……」
理沙先輩が慌てて止めようとしてくれたが、私はあっけらかんと答えた。
「だって、私の普段の学校生活を見ていれば、とろくさいことくらい一目瞭然ですし!
どのみち試合が始まれば、私がほとんど動かないことがバレますよ。
それなら翔先輩の情報網を維持するためにも
それだけ流しておけば十分じゃないですか。武器も最初は何も持たずに戦って
途中から持つ感じにして、少しずつ開示していけば完璧です!」
私の提案を聞いて、葵先輩が頷いた。
「……それが一番良さそうですね」
「分かった、そう伝えておく」
翔先輩は納得したように立ち上がった。
「それじゃ、俺は千晶の元に戻るわ。……心配はいらないだろうが、油断するなよ」
そう言い残して控室を出ていく翔先輩の背中を見送り、葵先輩がしみじみと呟いた。
「……彼、変わりましたね」
「妹さんの体が健康になった上に、悪いことをしなくなって良くなったからじゃないですか?」
「あんなに変わるもんなんだねぇ」
理沙先輩も感心したように頷いていた。
控室で出番を待っていると、会場のスピーカーからド派手な実況の声が響き渡った。
『――さあ! とうとうメインイベント、各学校対抗戦が始まりますッ!!』
直後、控室のドアが開き、大会スタッフが入ってきた。
「そろそろ入場が始まります。準備をお願いします!」
「「「はい」」」
私たちはスタッフの指示に従い、整列して入場口へと歩いていく。
そして、実況の大歓声が会場全体を揺らした!
『――優勝候補筆頭!! エシュリオン学園の入場だぁぁぁぁッッ!!!』
割れんばかりの拍手と歓声の中、私たちはドーム状の巨大会場へと足を踏み入れた。
理沙先輩と葵先輩が爽やかに手を振り、私も観客席に向かってペコペコとお辞儀をしながらついていく。
『すべてのチームが出揃ったところで!! 組み合わせ(トーナメント表)を発表するぞおおおッ!!』
会場中央の巨大スクリーンに、トーナメント表がドカンと映し出される。
観客たちの熱気が最高潮に達する中
いよいよ頂点を決める戦いの火蓋が切って落とされようとしていた!




