第139話:【重すぎる愛】
シャルから「私、実は転生者なの」と衝撃の告白を受けたあの日以来
私たちのDMのやり取りは一気に加速した。
ちなみに彼女の日本語が異常に上手な理由は
前世で日本人だったかららしい。ただ、前世の自分の名前は覚えていないらしく
「たぶん日本人だったはず!」というフワッとした記憶らしいけれど。
翌朝、ベッドで目を覚ますと、千晶がすかさず抱きついてきた。
「お姉さまぁっ! おはようございます! 今日はお姉さまの晴れ舞台ですね!
私はとても楽しみです! お姉さまの美しく雄大な立ち姿を
この目に永久保存版として焼き付けますッ!」
「あ、朝から愛が重い……。おはよう千晶。不甲斐ない姿は見せないように頑張るわね」
私は苦笑いしながら、学校から支給された戦闘着にお着替え。
すると、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「はーい、今日は早いねー」
千晶の知り合いかなと思ってドアを開けると――
そこに立っていたのは意外すぎる人物だった。
「おはよう、有希」
「おはようございます、有希さん」
生徒会長の東雲理沙先輩と、副会長の高梨葵先輩である。
「理沙先輩に葵先輩!? どうされたんですか?」
「連携についてね、私と葵で仕上げてきたんだけど
あなたを入れて試してなかったでしょう? だから
このあと少し訓練場でお付き合い願えないかしら?」
「あ、もちろん大丈夫ですよ!」
葵先輩がすまなそうに付け加える。
「あなたはVIPの対応で忙しいし、支援系だから
先に私と理沙先輩で二人用の連携を突き詰めておいたのよ」
「お気遣いありがとうございます!」
「ふふっ、お礼としてあとで思いっきり抱き着かせてもらうわね?」
「あ、はい、どうぞご自由に……」
朝食をササッと済ませ、千晶を翔先輩に託した私は
先輩たちと朝一番の訓練場へ向かった。まだ誰もおらず、完全な貸し切り状態だ。
「それじゃ有希、あなたの能力を言える範囲で教えてもらえるかしら?」
理沙先輩が腕を組んで尋ねてくる。
「私の能力は『支援』……いわゆる能力上昇系と防御魔法
あとは回復魔法と結界魔法くらいですかねー」
私がサラッと言うと、葵先輩が「……は?」と固まった。
「あ、あなた……回復魔法使えたの!? なんでヒーラー不足でもめていた時に
言ってくれなかったのよ!?」
「えっ? だってサポート役の他に『ヒーラー』としても駆り出されたら
仕事多すぎて忙しくて死んじゃうかなって思ったからです!」
「理由が酷すぎる!!」
葵先輩が頭を抱える。
「じゃ、じゃあもし千晶ちゃんがいなかったらどうするつもりだったのよ!?」
「最終手段がありましたから別に変わりませんよ。
ただ、私が気の抜けない日々が続いて面倒だったなーって話ですね」
「なるほど、よく分からないけど……有希が回復も使えるのは生徒会チームとして強力な武器ね」
理沙先輩は感心したように頷き、パンと手を叩いた。
「それじゃ、有希のバフを受けたらどのくらい能力が
上がるのか試したいの。かけてもらえるかしら?」
「どの程度にします? というか倍率はある程度自由に変えられますけど
試合ごとに変えます? それともずっと固定にします?」
私の問いに、理沙先輩と葵先輩は顔を見合わせた。
「理想は試合ごとに変えることだけど……というか
バフの倍率を変えられるなんて聞いたことないわよ? 葵、知ってる?」
「いえ……私もバフの倍率をコントロールできる支援術師なんて聞いたことありませんね……」
「さすが私の有希! 素敵ね! 褒めてあげるわ!」
理沙先輩が突如テンションを上げて、私に抱きついてきた。
「ちょっと先輩! 可愛がるのは後にして下さい!」
葵先輩が呆れ顔で引き離す。
「ごめんなさい、でも仕方ないじゃない!
有希を見てると可愛がりたい衝動が抑えられないのよ!」
先輩たちのやり取りに苦笑しつつ、私は提案した。
「あはは……じゃあ、時間や状況で区切ります? 最初は30%
中盤は50%みたいな感じでお試しの出力を変えてみますか?」
「それでいきましょう。バフに慣れるためにも
何度かかけてもらうことになるけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まず最初に、バフの出力30%で行きますねー」
私がふっと魔力を込め、二人へバフを飛ばした。
次の瞬間――。
「「っっ!????」」
先輩二人が凄まじい衝撃を受けたようにその場に踏みとどまった。
「こ、これが30%……!? 私たちの能力
明らかに30%以上跳ね上がってるんだけど!?」
理沙先輩が驚愕しながら拳を握り締め、疾風のようなスピードで訓練場を駆け抜け
武器を振り下ろす。その威力はもはや怪力だ。
「え? 私のバフの能力(魔法の出力)の30%ってことで
お二人の能力を30%上げるわけじゃないですよ?」
「……つまり、これでもかなり手を抜いた状態のバフってわけね……(慄き)」
理沙先輩が冷や汗を流しながら呟く。
「これが序盤……よし、次は中盤にかける想定の【50%バフ】をお願い」
「はーい、50%です」
ポンと掛け直すと、二人の放つ威圧感がさらに跳ね上がった。
「……2割倍率を上げただけなのに、それ以上の効果を感じるわ」
「そうね……これだと多分、敵は私達よりも『有希を真っ先に狙う』でしょうね」
二人の視線に、私はニコッと笑って答えた。
「狙われても多分大丈夫ですよ。先輩方、私に攻撃してみてください。私、防御壁張りますので」
「えっ? でも今の私たちはバフで攻撃力が跳ね上がって……軽くでいいの?」
「大丈夫です! まずは軽くどうぞ!」
「……分かったわ。行くわよ!」
バフを受けた理沙先輩と葵先輩が、超スピードで肉迫し、私に向かって武器を振り下ろす!
ガンッ!!
「これは大丈夫ね」
私の前に展開された防御壁が、二人の攻撃を完封した。
「ちょっと本気出すわね」
理沙先輩が言うと、葵先輩もうなずいた。
「出鱈目な有希のバフを受けて、かつ軽く本気を出した状態の攻撃を受け止めるのは流石ですね。
理沙先輩、本気でいきませんか?」
「ええ、行きましょう。有希、私達本気で攻撃するけどいいかしら?」
「いいですよー。じゃあ防御壁を3重にして待ちますね」
3層に重ねた瞬間――!
一瞬で距離を詰めた先輩二人の本気の攻撃が、同時に防御壁へ叩きつけられた!
ドドォォォンッ!!!!
激しい衝撃波が訓練場に吹き荒れる。
……しかし、私の防御壁はびくともしていなかった。
「驚愕せざるを得ないわね……」
理沙先輩が息を呑む。
「私(生徒会長)も葵(副会長)も決して弱くはないのに
受け止められるなんて思わなかったわ。有希……あなた、まだ余裕あるの?」
「まだまだ余裕はありますね。」
(グスタフ会長に魔力制御を教えてもらったおかげで、強力になったのよね)
「支援している状態でも、あの防御力は凄いわね……」
葵先輩が呆れ半分でツッコむ。
「でも、弱点もありますよ」
「弱点?」
「一点集中されるとダメですね。それか不意打ちか」
「……なるほど。魔力を厚くしているところが必然的に硬くなっていて
横とか後ろが魔力薄くなっているから突破しやすいってこと?」
私のその言葉だけで、理沙先輩は即座にそこまで読み切ってみせた。
(うわぁ……私のあの言葉だけでそこまで読み取れるなんてすごいな。
言葉に気をつけないと、すぐ弱点バレちゃうわね……)
「でも、どんなものでも弱点があると分かったのは良かったわ」
「そうですね。いかに弱点を悟られないようにするのが大事ってことでもありますしね」
「有希、本番もよろしくね」
「期待していますよ、有希さん」
「お任せください!」
訓練を終えた私たちはサッとシャワーを浴び、再び合流して車で移動した。
「あれ? 徒歩じゃないんですね?」
「ふふっ、さすがに『学校対抗戦』は学校が一番力を入れているからね。
昨夜だって、私たちも作戦会議をしていたのよ?」
理沙先輩が笑う。
「そうだったんですか!? 私、参加してませんよ!?」
私が焦ると、葵先輩が教えてくれた。
「覚醒者協会の橘さんから『有希は用事があってVIPと会談しているため参加できない』と
連絡があったのよ。あなたがサポートとして活躍したおかげで
1年生も良い成績を残せたのは知っているわ。
参加選手だから今日伝えればいいと思って、知らせていなかったの」
「なるほど……! だから朝早めに来て魔法確認、連携確認ついでに作戦確認というわけですか」
「そういうことよ」
会話をしているうちに、会場へと到着した。
会場に着くと、今まで以上に人がごった返していた。
「人、いっぱいだぁ……(げんなり)」
「最終日の最終競技ですからね」
げんなりしている私のもとへ、先生たちがやってきた。
「よし、体調はバッチリだな!」
「「「大丈夫です」」」
私を含めた3人が答える。
「これが今回の組み合わせ(トーナメント表)だ」
渡された紙を見て、理沙先輩が言った。
「トーナメントなんですね」
「ああ。総当たりだと時間がかかりすぎるし、生徒の負担が多いという『精霊協会』側の強い意向だそうだ」
「そういうことですね。……まあでも」
理沙先輩は不敵に微笑んだ。
「今回は優勝は確定ですよ。有希がいる限り」
「そうか、期待しているぞ!」
先生も力強く頷く。
いよいよ競技大会のメインイベントである【学校対抗戦】が始まろうとしていた




