表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
142/143

第137話:【HP一億のゴリ押しヒール】

第137話:【HP一億のゴリ押しヒール】


「有希が大賢者様……?」

「まあ、そう呼ばれてるってのは今初めて知ったんだけどね。

学校とかでは『聖女様』とか呼ばれることなら多々あったけど」


私が肩をすくめると、シャルはまだ信じられないといった様子で目を白黒させていた。


「でも、私が調べてた噂だと『大賢者』は

『身体が弱く滅多に人前に出ない』『手柄を全部他人に譲る』、

だけど『戦うとかなり強い』って話だったわよ? 眉唾ものだと思ってたけど……」

「それがねぇ、私、これでも身体が弱くて本当に困ってるのよね

。それに『かなり強い』っていうか、相手が弱すぎるだけよ。

ステータスが最底辺の私に勝てないなんて、単に相手の修行不足でしょ」

「絶対に違うと思うけど……」


シャルは呆れ顔になりつつも、表情を真剣なものに戻した。

「でも、なんで急に正体を明かす気になったの?」


「そうね……あなたたちの『誠実さ』に免じて、かな」

私はシャルの目をじっと見つめた。

「色々と調べさせてもらったけど、あなたの言葉に一切の嘘はなかった。

……私もね、色々と苦労してきたから分かるのよ。

圧倒的な力や権力を持っていながら、嘘を吐かずに誠実に生き続けるなんてむずかしいことだって。

でも、シャルはそれをやってのけた。その生き方に敬意を表して、協力してあげることにしたの」


「有希……ありがとう!」

シャルが感極まったように私に抱きついてくる。


「で、治してほしい人って誰なの?」

「私の家族と、クロエの家族よ!」

「フランスにいるならすぐには無理よ? 私も学校とか予定があるし」

「大丈夫! 見つけた時用に、日本に連れてきてあるから! ホテルの近くの病院に!」

「……えっ?」


頼んだら自家用ジェットとコネで速攻で搬送してくれたらしい。

(わー……これが本物の超金持ち(VIP)ってやつねー)


「でも、そこまでVIPだと、毎日やること多くて大変じゃない?」

「ううん! 私たちみたいな不幸な人をこれ以上出さないためなら、全然大変じゃないわ!」

シャルが眩しすぎる笑顔で言い放つ。私には眩しすぎて目が眩みそうだ。


「あ、そうだ。別件の『ゲート封鎖事件』の調査はどうなったの?」

「あ、それ! 以前、日本でも『ゲート封鎖事件』があったでしょ?」

「知ってるよ(というか、私ゴリゴリに巻き込まれたしね!)」


「あれね、フランスやアメリカとか世界各地で発生したんだけど

巻き込まれた探索者は全員死亡……全滅だったの。日本以外はね。

だから理由を調べてたんだけど……有希、何か知ってる?」

「知ってるも何も、日本の2件のうち1件は私、巻き込まれたわね」


「えぇぇっ!? 巻き込まれてたの!? よく無事だったわね!

 全滅した後に大量の魔物が溢れ出して、世界中で大被害が出たのに……!」

「たしかにねぇ。『50人で1000匹以上の魔物を相手にしろ』とか言われて大変だったわ」


「どうやって対処したのよ!?」

「どうやってって……奥にいたボスを倒しただけよ? 2体もいて大変だったわー」

私がフワッと言うと、隣にいた香澄ちゃんが即座に肘鉄を喰らわせてきた。


「ちょっと有希! 『大変だった』とか言ってるけど、

あんた1体しか相手してないでしょ! もう1体は私と修平が命がけで倒したんだからね!?」

「あはは、知ってるよー。香澄ちゃんたちが頑張ってくれたおかげだよ。本当にありがとうね」

「ふんっ、分かればいいのよ」


シャルは目を輝かせて食いついてきた。

「ねえ、そのボスのこと、詳しく教えて!」

「相手が知能を持った黒いモンスターだったのよ。多少攻撃してもすぐ再生するし

こっちの攻撃パターンを学習して読んでくるし

時間差で2体目が襲ってくるしで……まあ、めんどくさかったわ。

香澄ちゃんたちが来てくれなかったら本当にめんどくさかったわね。」

「『大変』じゃなくて『めんどくさい』なんだ……」

香澄ちゃんが盛大なため息をついた。


「まあ、その話は後にして、先に治療に行きましょ?」

「そうね! クロエ、準備の指示を出して!」


『御意。入り口でお待ちしております』

シャルの合図とともに、護衛のクロエさんが影のようにフッと消えた。


「すご……」

香澄ちゃんが感嘆の声を漏らすが、私は首を傾げた。

「え? 香澄ちゃんも私が教えた『加速魔法』を練習すれば

 あのくらいできるようになるよ?」

「えっ!? あれってそんなに凄まじい技術だったの!?」

「当たり前でしょ。香澄ちゃんは私の護衛兼お世話係なんだから

 俊敏に動けるようになってもらわなきゃ!」

「……それって、あんたがサボるの助けるため?」

「そう!(胸ドーン!)」

「はぁ……どこまでも正直ね……」


そんな呆れ混じりのやり取りを見ながら、シャルはクスクスと楽しそうに笑っていた。


【HP一億のゴリ押しヒール】


私たちは車に乗り込み、シャルが手配した病院へと向かった。

特別な病室に通されると、そこにはシャルのお父様と思われる男性が

ベッドで横たわっていた。


「今から治療するけど、静かにしててね。場合によっては私

倒れるかもしれないから、香澄ちゃんよろしく」

「任せて」


私は男性に手をかざし、診察アナライズを開始する。

(ふむふむ……これは『魔気』と、人為的に仕込まれた強烈な『呪い』の複合体ね)


「この程度なら、余裕ね」

私は浄化スキルを潤沢な魔力に乗せ、部屋全体を包み込むような特大の光を放った!

まばゆい光が収まった後、男性の体から禍々しい黒いモヤが

綺麗サッパリ消え去っているのを確認し、仕上げに軽い回復魔法をかける。


「終わったよ。そのうち目を覚ますと思う――」

「う、うーむ……」


言ったそばから男性が目を開けた。

「パパッ!!」

シャルが感涙しながらフランス語で抱きつくのを横目に、私はクロエさんに向き直った。


「次はクロエちゃんのお母さんね。行きましょ」

「えっ!? 大丈夫ですか有希様!? 今、凄まじい魔力を使われたように見えましたが……」

「私、魔力の量と質だけには自信があるから、あの程度は準備運動よ。

香澄ちゃん、ここで少しシャルの護衛をしてて」

「了解」


クロエさんに案内され、別の病室へ向かう。そこには、見る影もなく痩せこけた女性が横たわっていた。

診察を開始した瞬間、私は思わず眉をひそめた。


「……これは、ひどいわね」

「そんなに、ですか……!?」

クロエさんが狼狽える。


「かなり進行してるわ。生きているのが奇跡的なレベルね。……ねえ

もしかして良かれと思って『回復魔法』を頻繁に掛け続けてた?」

「はい! 毎日、朝昼晩と合計3時間ほど、欠かさず……!」

「まじか~……(絶望)」


「な、何かダメだったのでしょうか!?」

泣きそうになるクロエさんに、私は正直に事実を告げた。

「回復魔法ってね、受け続けると体に『耐性』ができちゃって効果が弱まるの。

お母さんの場合、病気の末期症状+回復耐性がつきかけてて

もう普通のヒールが効かなくなる寸前なのよ。最近、進行が早くなったりしなかった?」

「た、確かに……! もう助からないのでしょうか……っ!?」


「え? 無理なんて一言も言ってないわよ? ただ『ちょっと面倒くさいな』って思っただけ」

「め、面倒なだけですか!?」


神代会長の時ほど複雑ではないが、全身に呪いが巡り、回復耐性がつきかけている。

中途半端に魔法をかければ耐性が完全に付いて詰む。つまり、一撃で決め切るしかない。


「よし、やるか!」

私は気合を入れ、自分自身にフルパワーの浄化属性を付与。

そして――特大の過剰回復魔法メガ・オーバーヒールを叩き込んだ!


ドガァァァンッ!! と部屋中が白い光で満たされる。

体内の呪いを圧倒的な回復エネルギーで力ずくで打ち消し、

ズタズタになった細胞を強引に再構築していく!


「はぁ……はぁ……っ!」

光が収まると、私はさすがに息を切らせてその場にへたり込んだ。


「有希様! お母様は!?」

「ふぅ……治したわ。あとは目を覚ますのを待つだけね」

「ですが……耐性がついていて、回復が効かないとおっしゃっていたのでは!?」


クロエさんが混乱しているので、私は分かりやすく解説してあげた。

「あのね、耐性がつくっていうのは、普段100回復するヒールが

耐性のせいで『1』しか回復しなくなる状態のことなの」

「はい……ですから、それでは治らないのでは……」


「簡単な話よ。『100万回復するヒール』を撃てば

耐性で弱体化しても『1万』回復するでしょ? 完全耐性じゃない限り

回復量が相手の最大HPを上回れば全回復するのよ」

「なっ……なんという力技……!!」


呆然とするクロエさんの背中を、後から追ってきた香澄ちゃんがポンと叩いた。

「クロエ、有希はいつもこんな感じよ。いちいち驚いていたら身が持たないわ」

「香澄!? シャル様は!?」

「あっちには護衛がついたから、私はこっちに来たの。今は感動の親子再会中じゃないかしら」


そんな会話をしていると、ベッドの女性が「う……ん……」と目を覚ました。

クロエさんはフランス語で叫びながら、お母さんに抱きついて号泣したのだった。


【ニートになりたい大賢者と、シャルの秘密】


感動の嵐が巻き起こる病室の扉が開き、一人の高級スーツを着た黒服の男性が入ってきた。

背が高く、シャルの面影を残した超絶イケメンだ。


「この度は……我が父と、クロエの母を救っていただき、本当にありがとうございます」

男性は私に向かって深々と頭を下げた。


「あなたは?」

「申し遅れました。私はシャルの兄の『ルイ』と申します。

私も父を治せる者を探しておりました。……有希様、なんでも望みをおっしゃってください。

国賓としての受入れでも、巨額の富でも、何なりと」


「うーん……なら、今後も定期的にシャルと会って遊べるようにしてくれたら、それでいいかな」


ルイさんはハッと目を見開いた。

「……それだけで宜しいのですか? 我が国としては

どのような見返りでも用意できますが……」


「あれ? 『大賢者』の噂、聞いてないの?」

「噂……ですか?」

「手柄を他人に譲るってやつ。あれね、単純に目立つと面倒くさいから手柄を押し付けて

私は裏でのんびりニヤニヤ眺めていたいだけなの。私の将来の夢は『ニート』になることなのよ!」


「あんたは海外の要人に何を宣言してんのよっ!?」

香澄ちゃんから即座に強烈なツッコミ(手刀)が飛んできた。


「だってぇ! 目立ってもろくなことないし、お金も今のところ必要ないし!

それならシャルと定期的に会ってゲームしたり遊びたいだけだもん!

国賓なんて大層な扱いにされたら、気軽に遊びに行けないじゃない!」


私の必死の訴えを聞いたルイさんは、一瞬呆気にとられた後――

「くっ……ふふっ、ははは!」と腹を抱えて笑い出した。


「分かりました。そのように取り計らいましょう。

有希様……どうか今後とも、愚妹シャルロットをよろしくお願いいたします」

「もちろん!」


そこへ、父親との再会を終えたシャルが走ってきて、私に抱きついてきた。

「有希! 本当に、本当にありがとう!!」

「よかったね、シャル」


「ねえ……有希。少しだけ、二人きりになれないかしら? 伝えておきたいことがあるの」


香澄ちゃんたちに少し席を外してもらい、病室のバルコニーで私とシャルの二人きりになった。


「有希には本当に感謝してる。……だから、私の本当の秘密を話すわね」

シャルは夜風に金髪をなびかせながら、静かに告げた。


「私ね……『転生者』なの。異世界から、この世界に戻ってきたの」


「……」

さすがの私も目を丸くした。自分以外の転生者がこの現代日本(地球)にいるとは思わなかったからだ。


「……あなたも、そうなのね?」

シャルの言葉に、私は降参するように苦笑した。

「そうよ。私も転生者。前世の記憶を持ったまま生まれたわ」


「やっぱり! じゃあ、その化け物みたいな回復魔法と支援魔法は……」

「神様からもらったチート能力ね。ただ、転生時にトラブルがあってね……

魔力だけはカンストしてるのに、ステータスが『ALL 1』っていう

レベルを上げたらどうなるか分からない時限爆弾状態なんだけどね」


「なるほど……! だから有希はレベルを上げずに、ステータス最底辺のままだったのね!」

シャルが納得したように頷く。


「そう。……ねえ、シャル。転生者の強さとかチートの基準って

どうやって決まってたか知ってる?」

「うーんと、基本は『神が定めた条件を達成した項目数』で決まるはずよ?

達成した項目が多い分だけ、転生時にチート能力をもらえるの

。私は達成項目が少なかったから、強いスキルを一つもらって

あとはこっちで努力しまくったわ」


「へぇー! なるほどねぇ」

私はポンと手を打った。

「私、その条件とやらをなんか全部完璧にコンプリートしちゃったらしくてさ。

『こんな奴初めてだ!』って神様にすごく喜ばれて

魔法をおねだりしたら化け物じみた性能になっちゃったのよね」


「どれくらい凄いの?」

「さあ? 私が本気で張った『防御魔法』を突破できるとしたら……向こうの世界の『魔王』くらいじゃないかしら?」


「そんなに!?」

シャルが絶句する。


「と言っても、私の体が貧弱すぎるから

全力で魔法を放ったら反動で自分の体が消し飛ぶんだけどね! あはは!」

「……笑い事じゃないと思うんだけど!?」

シャルが間髪入れずにツッコんできた。


「ふふっ。でも、まさか転生者同士で出会えるなんて思わなかったわ。

これから仲良くしましょ、有希。この世界にも『魔族』が潜んでいるみたいだし……

世界同時に動き始めてるわ」

「そうね。お互いに協力しましょ」

「ええ! お互いの『理想の生活』を守るためにね!」


「……まあ、『理想の生活=ニート』なのは、有希だけだと思うけどね!」


シャルの呆れ顔のツッコミが夜空に響き、私たちは顔を見合わせて吹き出した。

こうして私とシャルは、転生者同士の固い絆を結んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ