第136話:【我が神(有希様)】
予約投稿しわすれました もうしわけございません
試合を終えた花梨ちゃんと雄一先輩を冷やかし……もとい
お祝いするために、私と香澄ちゃん、そしてシャルの3人でのんびりと
控室へ向かっていると、半開きのドアの隙間から何やら声が聞こえてきた。
私はピタッと足を止め、後ろの2人に『ストップ』と『静かに』のジェスチャーを送る。
息を潜めて聞き耳を立てると――。
『先輩……! その、私と付き合ってください!』
『本当にいいのか? 俺は普段、ここまで気が利かないし、もっとだらしないぞ?』
『全然大丈夫です! 普段の先輩も見てみたいです!』
『……なら、よろしくお願いします』
『う、嬉しいです……っ!』
完璧なタイミングである。私は満面の笑みでドアをノックし、ガチャリと開けた。
「お邪魔しまーす!」
「「おめでとう!!」」
私と香澄ちゃんで盛大に祝福しながら乱入すると
雄一先輩がビクゥッ! と肩を揺らした。
「お前ら……っ! タイミング良すぎじゃねえか!?」
「むしろ『空気を読んだ』と言ってほしいですね。邪魔しないように
一番いいところまで外で待っててあげたんですから」
私がドヤ顔で答えると、先輩は顔を真っ赤にした。
「全部聞いてたのかよ……!」
「いえ? あんまり聞こえませんでしたよ?
とりあえず花梨ちゃんが『嬉しい』って言ってたから
もういいかなーって入ってきただけです」
すっとぼけつつ、改めて花梨ちゃんに「優勝と、ダブルでおめでとう!」と告げる。
「やっぱ聞いてたんじゃねえか!」
先輩が鋭くツッコむが、私はどこ吹く風だ。
「最後しか聞いてませんよ。先輩もおめでとうございます」と笑って返した。
すると、先輩が不思議そうな顔をした。
「なぁ、花梨が俺を好きだって、知ってたのか?」
「そりゃ、随分前から分かってましたよ。ずっと見てれば嫌でも気づきます」
(……まあ、中身がおっさんの私でも気づいちゃうくらいだからね。
やっぱり今の美少女の肉体に引っ張られて、そういう細かい感情の機微に敏感になってるのかなぁ)
なんて内心で自己分析をしていると、先輩がさらに目を丸くした。
「マジか。俺、全然分からんかったぞ……」
「まぁ、そういう鈍感な先輩が好きだって花梨ちゃんが言ってるんだから
そのままでいいんじゃないですか?」
香澄ちゃんが的確なフォローを入れた。
「そんなもんか……? っと、その後ろの金髪の子は?」
先輩の視線がシャルに向いた。
「私の新しい親友で、フランス人のシャルロットだよ」
「アナタが、花梨のコビト(恋人)デスネ! ヨロシクお願いシマース!」
シャルが見事な片言で挨拶をする。
「おう。俺は東郷雄一だ。エシュ学園の2年で、有希たちの1歳年上になるな」
先輩が自己紹介すると、シャルは目を丸くして言った。
「トイウコトは、ワタシより年齢が下にナルワケデスネ! ワタシは20歳デース!」
「「は!?」」
雄一先輩と花梨ちゃんが絶叫する。しかし、私は全く驚かなかった。
「やっぱり、年上だったのね」
「ユキ、なぜ分かったデス?」
シャルが不思議そうに首を傾げる。
「立ち居振る舞いを見てれば分かるよ。
それに、フランスで超大人気のVIPが、わざわざ学校サボって
こんなところに来るわけないでしょ?」
「ナルホド。さすが有希デース! 私のこと、分かってくれてウレシイデース!」
シャルがニコニコと私に抱きついてくる。
「で、次はいよいよ2年生、3年生の決勝戦だが……お前らどうするんだ?」
先輩の問いに、私は「あー……」と遠い目をした。
「私は多分、強制的な用事ができるかな」
「用事?」
シャルが首を傾げた、その瞬間。
「失礼いたします。有希様、よろしいですか?」
背後に音もなく、橘さんがスッと現れた。
「ほら、用事が来たわ」
「おや? すでに私の用件がお分かりとは。統括責任者として
とても嬉しいですな。というわけで、医療のお手伝い、よろしいですかな?」
橘さんがにこやかに(有無を言わさぬ笑顔で)聞いてくる。
「断っても連れて行く気満々でしょ。行くわよ」
私がため息をついて立ち上がると、橘さんは香澄ちゃんに向き直った。
「香澄様。少し有希様をお借りいたします。有希様が戻られるまで
香澄様にはシャル様の護衛をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。お任せください」
香澄ちゃんが礼儀正しく一礼する。プロの護衛モードだ。
「シャル、終わったら迎えにイクデース!」
「分かった。終わったら香澄ちゃんに連絡入れるね」
◇
「今回は、この前のテロみたいな酷いことになりそうなの?」
特設医療会場に向かう道中、私が尋ねると、橘さんは首を横に振った。
「いえ、今回は前回のような事態は起こらないはずです。
……としか言えませんが、まあ無いでしょう。事前に各校へ『
もし医療従事者に暴行を働いた場合、その学校は来年の大会参加を禁止する』と
強烈に釘を刺してありますから」
「なら安心ね」
競技場の隅にある特設医療テントに入ると
千晶がパァァッと花を咲かせたような笑顔で駆け寄ってきた。
「お姉さまぁっ! 応援に来てくださったのですね
ありがとうございますぅぅ!」
「はいはい、泣かないの。準備するわよ。私は場所を作るから
重傷者は千晶がやってね。軽傷者は私が処理するから」
私は橘さんに、前回と同じく特等席用のフカフカの椅子を用意してもらい
テントの隅のスペースの四隅にポンポンと魔石を置いた。
これは、私が急遽作った『徐々に回復する魔法の魔石』だ。
これで簡易的な回復結界を構築する。
「よし、完成。あとはこの結界の中で休ませれば
軽傷者はすぐ治るわ。でも……前回みたいに無理やり私を動かそうとする馬鹿がいたら
今度こそどうなるかわからないからね?」
「重々承知しております。今回は私が直接
有希様の護衛を務めさせていただきます」
橘さんが深々と頭を下げた。
(まあ、前回と同じことを繰り返さないために
ある程度は私自身も動けるように訓練したんだけどね)
私は内心で毒づきつつ、椅子に深く腰掛けて優雅に試合のモニターを眺め始めた。
やがて、2年生の試合で負傷した生徒たちが運ばれてくる。
軽傷者たちは私が作った結界内の椅子に座らされるが
彼らはみるみるうちに傷が塞がっていく自身の体に驚愕していた。
中には、フカフカの椅子に座ってモニターを見ているだけの私を睨みつけ
何か言いたげな者もいたが、橘さんの威圧感でなんとか我慢しているようだった。
「……なんでアイツら、私が椅子に座ってるだけで『サボってる』って認識するんだろうね?」
私が愚痴をこぼすと、橘さんが苦笑した。
「汗水流して動くことこそが『美徳』だと勘違いしている者が多いということですな」
「まったく嫌な連中ね。誰のおかげで、座ってるだけで傷が治ってると思ってるのかしら」
「有希様。私は回復魔法について詳しくありませんが
『広範囲を自動回復させる結界』など、普通は絶対に無理だということくらいは
知っております。ですが……彼らの多くは、まともな回復魔法すら受けたことがない者たちです
だから、今のこの異常な状況が理解できないのも無理はありません」
「……なるほどね。ヒーラーからの治療なんて滅多に受けられないから、無知なだけか」
しかし、試合が進んで3年生の負傷者が運ばれてくるようになると、反応がガラリと変わった。
彼らは結界内に座るなり、「嘘だろ……座ってるだけで傷と疲労が消えていくぞ!?」
「どんなバケモノが術を展開してんだ!?」と本気で驚愕し、私の方を見て青ざめていた。
(こうやって素直にビビってくれたら楽でいいのに)
私はジュースを飲みながらのんびりと考えていた。
◇
3年生の試合も全て終わり、いよいよ全学年合同の表彰式が始まる時間になった。
「さて、撤収作業を進めましょう」
橘さんが指示を出した瞬間、私の背筋に【嫌な予感】が走った。
「橘さん、私、嫌な予感がするから先に行きますね!」
私は香澄ちゃんに『合流する!』とメールを打ち、逃げるように医療テントを飛び出した。
その直後。
会場の巨大モニターには、1年生優勝者としてインタビューを受ける花梨ちゃんの
姿が大写しになっていた。
『勝因は何だったと思いますか?』
『――我が神、有希様のおかげですッ!!』
会場中に響き渡る、花梨ちゃんの狂信的な声。
『有希様は、遅くまで私の過酷な練習に付き合ってくださっただけでな
、普段から戦い方を指導してくださり、かつ超高等スキルの習得まで手取り足取り
教えてくださったのです! この勝利は、全て有希様の偉大なるお力によるものですッ!!』
(あああああああ! 花梨ちゃんに『余計なこと言うな』って釘刺すの忘れてたぁぁぁぁ!!)
私は頭を抱え、全校生徒(と世界中の視聴者)からの凄まじい注目という絶望から逃れるた
、全速力で香澄ちゃんたちの元へ走った。
◇
「おかえり、有希」
「オカエリなさーい、有希!」
人気のない通路で、香澄ちゃんとシャルが出迎えてくれた。
「ただいま……。で、例の探し人は進展あった?」
私が息を整えながら聞くと、シャルは首を横に振った。
「ナカッタデース」
「そっか」
と、その時。私のスマホがブルッと震えた。神代会長からのメールだ。
『調べた結果、シャルの言っていた事(クロエの件と父親の件)は全て本当だった。
彼女の裏での活動にも悪い噂は一つもない。もし彼女たちの要求が解消されたら
フランスは日本と「友好」以上の「同盟」まで結んでもよいと裏で連絡が来た。
……あとの判断は、そっちに任せる』
「はぁ……。そうきたか」
私は天を仰いだ。
全ては私の判断次第。一国の命運すら私に丸投げである。
(……なんか、前世で知り合った聖女サリアも
こういう面倒くさい国家レベルの決断を迫られる場面、多かったんだろうなあ)
ふと前世の記憶がフラッシュバックし、私は深く溜息をついた。
「ドウシタンデスカ、有希?」
シャルが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
私はシャルの碧い目を真っ直ぐに見つめ返し、声のトーンを一段落とした。
「ねえ、シャル。さっき『治してくれたら、言うことなら何でも聞く』
って言ってたわよね。……それ、二言はないわね?」
「えっ? ド、ドウシタンデスカ急ニ……?」
真剣な私の雰囲気に、シャルが困惑して後ずさる。
「答えて」
私が強い語気で迫ると、シャルは私の目が本気だと悟ったのか
表情をスッと引き締めた。
「……何でもするわ。もし『死ね』と命令されたら、一緒に死ぬ覚悟すらある。
それは、私の護衛のクロエも同じよ。ただお父さんと別れの挨拶くらいはほしいけどね」
「その覚悟、今ここで見せてもらえる?」
「……覚悟を見せたら、大賢者様を紹介してくれるの?」
「紹介してあげるどころか、あなた達二人の要求を
『確実に叶えるように』説得してあげるわ」
「ホントウデスネ?」
「ええ、本当よ。ただ、覚悟を見せるなら人の少ない場所がいいわね」
私たちはさらに人が全く来ない地下の特別通路へと移動し
シャルは護衛のクロエも呼び戻した。
「シャル様、どうなさいましたか?」
クロエが駆けつけると、シャルは静かに告げた。
「有希が、大賢者様を紹介してくれるみたいなの。だから
今から『私の覚悟』を見せるわ。あとはよろしくね」
そう言った瞬間。
シャルは懐から特殊な短剣を抜き放ち――何の躊躇いもなく
自らの左腕をスパンッ! と斬り落とした。
「なっ……!?」
「シャル様ッ!?」
鮮血が舞い、ボトリと腕が床に落ちる。香澄ちゃんとクロエが
信じられないものを見た顔で驚愕の悲鳴を上げた。
(……マジか。この子、ためらいなく本当にやりやがったな)
私はそのイカれた覚悟に盛大なため息をつきつつ、床に落ちた腕を拾い上げた。
そして、シャルの傷口に当て――。
「『超位回復』」
まばゆい光が溢れ、切断面の肉と骨と神経が、わずか数秒で完全に繋がり
傷跡一つ残さず元通りになった。
さらに私は、ついでとばかりに隣で呆然としているクロエの体に
まとわりついていた『微弱な呪い』もまとめて浄化してやった。
「えっ……腕が……? クロエの呪い表示も……消えた……?」
シャルが自分の左腕を動かしながら、目を丸くして震えている。
完全に思考が停止している2人のVIPを前に、私は呆れ顔で宣言した。
「そういうわけだから……。私が、あなた達が血眼になって探してた人。
いわゆる『大賢者様』ってやつよ」




