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第135話:【大賢者(私)を探すVIP】



翌日。いつも通り千晶と部屋を出た私は

香澄ちゃんや花梨ちゃんと合流し、賑やかに朝食を食べていた。


「さて、今日の予定はどうする? 花梨ちゃん

サポート必要ならつくし、いらないなら観客席から応援してるけど」

私が尋ねると、花梨ちゃんはチラリと遠くにいる雄一先輩を見つめ

モジモジと頬を染めながら言い出した。


「わ、私はその……できれば、雄一先輩と二人きりになりたい、かな、って……」

「おっ、なるほどね! 青春だ!」

私はポンと手を打った。

「分かったわ。じゃあ私たちは観客席で応援してるね。

花梨ちゃんも雄一先輩も、両方がんばってね!」

「はいっ! ありがとうございます、有希様!」


恋する乙女の顔になった花梨ちゃんを見送り、一旦部屋に戻ると

今度は千晶が「お姉さまぁ……」と甘えてきた。

とりあえずよしよしと頭を撫でてあげると

「今日は少し早めに救護室に来るように言われているのです」とのこと。

千晶を笑顔で見送り、私と香澄ちゃんはのんびりと競技会場へ向かうことにした。



二人で雑談しながら歩いていると、真横にスーッと真っ黒な高級車が停まった。

ガチャリとドアが開き、見知った金髪碧眼の美少女が飛び出してくる。


「有希ー! この間はありがとう、会いたかったわ!」

「わっ、シャル! いいのよ、私も会いたかった!」


私にギュッとハグをしてきたのは、フランスのVIPであり友人のシャルロット(通称シャル)だった。

「今日は暇だから車で競技会場に向かっていたんだけど、有希たちを見かけたからつい降りちゃった」


「そうなんだ。私たちはこのまま歩いていくけど、シャルはどうする?」

「ワタシタチも、アルイテついてくデース!」

いきなり謎の片言になり、周囲の一般生徒たちが

「えっ、海外の要人!?」「すげえ美人……」とざわつき始めた。

「……目立つから、さっさと行きましょ」

私はシャルの手を引き、逃げるように歩き出した。シャルの護衛の女性は

運転手と素早く何か話をつけてから私たちについてきた。


「で、今日の本当の目的は?」

私が小声で尋ねると、シャルは目を丸くした。

「……やっぱり分かった?」

「そりゃね。私たちが歩き出したら、車がサッサと発進したからね。

 最初から合流する気満々だったでしょ」


「さすが有希。神代会長に気に入られるだけはあるわね」

シャルは感心したように頷き、周囲を気にしながら声を潜めた。


「実は、今日フリーで動いてるのには理由があるの。

 一つは『探してほしい人物がいる』こと。もう一つは『別件の調査』ね」

「探してほしい人物?」


「ええ。希様を超えると言われる回復者――通称『大賢者』様よ。

神代会長のお気に入りらしいから今回連れてきているかと思って調べたんだけど

全く情報が手に入らなくて。有希、何か知らない?」


(……うん、それ完全に私のことだね!)

「……知っては、いるよ」


「えっ!? 有希、あん――んむっ!」

隣で驚愕して声を上げそうになった香澄ちゃんの口を、私は光の速さで塞いだ。


「で? その人を知ってどうするの? はめちゃくちゃ目立つのを嫌ってるわよ。

それに、今は神代会長が生活を完全保障してるから悠々自適のニート生活だし

会長を通さない仕事は絶対に受けないわよ?」

私は自分自身の願望を大いに交えながら答えた。


「知ったら、どうしても治してもらいたい人がいるの。

できるなら何でも差し出すわ。なんなら結婚してほしいって言われたら、する覚悟もあるわよ!」

「……ふーん(結婚は無理かな!)」


「神代会長に相談したんだけど、断られたの。

『あやつは気分屋だから、本人が嫌と言ったらワシでもどうにもならん』って言われて……」


「あはは! 確かにそういうところ、あるわねぇ」

私が相槌を打つと、香澄ちゃんが私の顔を見てプククと笑いを堪えていた。


「でもう一つの目的は?」

「実は今、フランスを中心に『黒い魔物』が現れ始めているの。

倒せてはいるんだけど、被害が甚大で。これは世界的な現象なんだけど……

なぜか日本だけ極端に被害が少ないから、その理由を調査しに来たの」


「へー、そうなんだ。シャルも色々と苦労してるんだね」

「有希も、何か知ってることがあったら教えてね?」

「もちろん」


とりあえず今は大会を楽しみつつ探す? と提案すると、シャルは笑顔で頷いた。

ふと後ろを振り返ると、シャルの護衛の女性がいなくなっている。


「あれ? 護衛のクロエさんは?」

「ああ、彼女は『仕事優先します』って言って消えちゃったわ」

「熱心なのねー」

「彼女のお母様がね、神代会長と同じ不治の病なの。

で、先日のパーティーでグスタフ会長の病気が『大賢者』によって完治したと聞いてから

目の色変えて必死に探してるみたいなのよ」


「シャル自身はどうなの?」

「私も、どうしても治してほしい人がいるの。希様にコンタクトを取って診てもらったんだけど

『私の力では無理』って言われたわ。一応無料で治療魔術をかけてもらったけど、申し訳なかったわね」


(お母さん……私の知らないところで、海外のVIP相手にめちゃくちゃフットワーク軽く動いてたのね……!)

元・凄腕探索者の母の行動力に内心で戦慄していると、シャルが私の手を強く握った。


「お願い、有希。『大賢者』様を紹介して!

大賢者様はどんな治療もできるって聞いてるわ。

日本のマフィアのボスの末期病も治し、神代会長も治し

最近ではあのグスタフ会長の病気まで治したって情報があるの!」


( マフィアのボス!? ……ああ、如月組の組長さんのことね。

 神代会長のことは治したというかまだ治療途中なんだけど、よく調べているわね)


「へぇ……! 私も初めて聞いたわ。秘密裏に会ってたみたいねぇ」

私は完璧なポーカーフェイス(すっとぼけ)を決めた。


「そうなの。私のお父さんも覚醒者なんだけど

ダンジョン調査中に『魔族』を名乗るヤツにやられて……

それからどんどん衰弱してるの。今はもう寝たきりで

いつまで保つか分からないって言われてて……」

シャルが今にも泣きそうな顔で俯く。


「そんな事情があったのね……」

私は優しく背中をさすりながら、スマホを操作して神代会長に

『シャルの言っていることは本当か』を裏付けるための確認メールをこっそり送信した。


「ねえ、とりあえず私が『知ってる回復者の子』、見に行ってみる?」

「ぜひ!」

シャルが食いついたので、私は千晶のいる救護室へ向かうことにした。

道中、千晶には『私が回復者であることは絶対に隠してね』とメールを打っておく。



「お姉さま! いらっしゃいませ!」

救護室に着くと、千晶がパァァッと顔を輝かせた。

「様子を見に来たわよ。こっちは私の親友のシャルロット」

「はじめまして。こっちの可愛い子が、私の妹分であり弟子の千晶よ。

以前病気だったところを、お母さんを紹介して治してもらったの」


「それで、なんで妹分に?」

シャルが不思議そうに聞くと、私は肩をすくめた。

「そのあと様子を見てたら、なんかすごく懐かれちゃって。

私が無駄にインフルエンサーとして祭り上げられてるのも影響してるのかもね」


「違います! お姉さまは本当に、とてつもなく素敵なお方なのです!

ご自身の魅力を分かっていなさすぎます! もっと自覚を持ってください!」

千晶がフンスッと鼻息荒く力説してくる。


「……こんな感じで懐かれてるのよ。今は魔力の使い方とかを教えてる程度ね」

「なるほどね。有希は得意な魔法って何なの?」

「私は支援系よ。バフの倍率が他の人より少しすごいみたいで、かけたらみんなに驚かれるの」

「へぇ! 今度ダンジョンに潜ることがあったら頼もうかしら」

「いいわよー」


シャルと千晶が少し会話を楽しんだ後、私たちは試合を観戦するために救護室を出た。

「シャルはどうする? 一緒に行く?」

「一緒に行く! 一人で歩いてもいい事ないし、有希といた方が気が紛れるから!」

「よし、じゃあ行こっか!」

私たちは手をつなぎ、観客席へと向かった。



会場に着くと、すでに試合は始まっていたが、花梨ちゃんの出番はまだだった。


「ねえ有希。これってトーナメント方式?」

「えっと、どうなの? 香澄ちゃん(丸投げ)」


私のパスを綺麗に受け取った香澄ちゃんが解説する。

「これは総当たり戦よ。トーナメントだと、対戦相手に賄賂を送って危険させるとか

そういう不正をする輩が多いから。総当たりにして勝率で優勝を決めるの。

特に2年生以上だと、同じ学校同士で連携して一人を勝たせるために体力を削り合ったり

色々と画策することが多いのが特徴ね」


「1年生は?」

「1年生はVR空間での戦闘だから

 精神的な疲れ以外はリセットされるの。だから基本は常に全力勝負ね」


「なるほど、ありがとう香澄。よく知ってるのね」

「いいのよ。私の『護衛対象』がサボり癖がすごいから

事前にしっかり調べる癖がついちゃっただけだし」

香澄ちゃんがジト目で私を見る。


「あはは、私と同じね有希」

「シャルちゃんは、やっぱり私の親友ね!」

類友を見つけて私が勝手に感動していると、いよいよ花梨ちゃんの初戦が始まった。


「あの子が、有希のパーティの子?」

「そうよ」

「ふーん……あの子なら、これは楽勝ね」

シャルがモニターを一瞥して断言する。


「よく分かるね?」

「……有希だから教えるけど、私『鑑定眼』持ちなの。

これ、護衛のクロエ以外は誰も知らない秘密だから内緒にしてね」


「えっ、すごっ。分かった、内緒にする」

シャルの言葉通り、試合は花梨ちゃんがあっさりと相手を圧倒して勝利を収めた。


「ねえシャル。私のステータスとかも見えてるの?」

「ううん、有希のステータスは『完全なモヤ』がかかってて全く見えないの。

魔力が私より格上の相手は見えない仕様みたい。だから、香澄も見えないわ。

香澄の場合は、何か『精霊』のようなものがガードしてる感じね」


それを聞いた香澄ちゃんが、小さく「(ありがとう)」と

自身の精霊にお礼を言っているのが聞こえた。


その後も花梨ちゃんは順調に勝ち続け、ついに【全勝同士の決勝戦】を迎えた。


「うーん……これはステータス的に、花梨ちゃんが負けるかもしれないわね」

シャルが鑑定眼の結果から厳しい予想を立てる。

しかし――試合が始まると、花梨ちゃんは私の教えた魔法の技術を駆使し、

相手の動きを完全に読んでカウンターを合わせ、的確にダメージを重ねていった。


「凄いわね、花梨って子。ステータスで負けてるのに完全に押してる。

まるで相手の動きが見えてるかのように動けてるわ」

シャルが感心してモニターに見入る。


だが、相手も全勝まで勝ち上がってきた猛者。

次第にカウンターを見切り始め、花梨ちゃんの攻撃が当たらなくなってきた。

すると、花梨ちゃんは守りを捨てて自ら猛攻を仕掛け始めた。

相手からの攻撃を喰らいながらも、風の精霊と火の精霊を見事に連携させ

同時詠唱の魔法で相手をジリジリと追い込んでいく。


「いけぇぇ、花梨ちゃん!」


相手が形勢逆転を狙い、大魔法の詠唱を完了させた。

そして、花梨ちゃんが攻撃を喰らって体勢を崩した一瞬の隙を突き

極大の魔法が花梨ちゃん目掛けて放たれる!


「危ないっ!」


しかし、花梨ちゃんはそれを【予想】していた。

即座に2種類の属性を混ぜ合わせた高度な複合防御魔法を展開し、大魔法を完全に相殺!

その直後、がら空きになった相手の懐に潜り込み――渾身の『とどめの一撃』を叩き込んだ。


『決まったァァァ!! 優勝は、花梨選手だぁぁぁっ!!』


「やったあああああっ!!」

「すごい! 本当に勝っちゃった!」


ステータスの差を技術と気迫で覆した見事なジャイアントキリングに

シャルは感嘆の声を漏らし、私と香澄ちゃんは抱き合って大喜びした。


「さあ、早く花梨ちゃんと雄一先輩を冷やかし……ごほん、祝いに行きましょ!」

「ふふっ、有希ってば悪い顔してる」


私たちは満面の笑みで、優勝した花梨ちゃんが待つ控室へと3人で駆け出していったのだった。

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