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第134話:【隠しテスト】

第134話:【隠しテスト】


『ダンジョンアタック・決勝』の開始を控室で待っていると

装備を整えた修君たちがこちらへ歩み寄ってきた。


「なあ有希。正直なところ……俺たち、優勝いけると思うか?」

修君が真剣な目で尋ねてくる。


私は腕を組み、隠すことなく正直な所感を口にした。

「んー……ぶっちゃけ難しいんじゃないかな。予選を見た感

、修君のワンマンチームに見えるし。決勝は他チームからの直接妨害もアリでしょ?

修君が徹底マークで潰された時、他のメンバーがどこまで対処できるかが勝負じゃない?」


「くくっ……やっぱそう見えたか! 作戦成功だな」

修君がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「え? どういうこと?」

「予選の時は、俺以外のメンバーは少し手を抜いてたんだよ。

まあ、他のチームも手の内を隠してたんだろうけどな」

「へぇ……(棒読み)」


『――1年生、ダンジョンアタック決勝進出チームは、各ポッドに入ってください』


アナウンスが室内に響き渡る。


「よし、行ってくるわ!」

「うん、いってらっしゃーい」


私は満面の『営業スマイル』で手を振り

彼らが部屋を出てドアが閉まった瞬間、盛大な溜息を吐き出した。


「はぁぁぁぁぁ……めんどくさ……」


「……お前も大変そうだな」

呆れ顔で声をかけてきたのは、サポート担当の上級生の先輩だった。


「わかります? なんで私、あんな熱血主人公たちの

メンタルケアまでしなきゃいけないんですかね……」

「わかるさ。お前みたいな『容姿のいい生徒』は

毎年1人か2人、生贄として選ばれるからな」


「……はい? 生贄?」

聞き捨てならない単語に、私は思わず眉をひそめた。


「学校側の暗黙のルールだよ。男子生徒のモチベーションを爆上げさせるために

容姿端麗な女子を『客寄せパンダ』として持ち上げて

無制限に成績を伸ばす仕組みさ。俺たち上級生は

『あ〜、今年はあの女子が生贄(ヨイショ担当)か〜』

ってニヤニヤしながら観察するんだ」


「えっ……それ、私に言っちゃっていいんですか?」


「お前はもうすぐ『ヨイショ期間(隠しテスト)』が終わるからな。

本性がバレる1学期末あたりで、別の奴が持ち上げられるシステムだから

お前が黙ってりゃ問題ねえよ」


「終わる!? 評価期間が終わるんですか!?」

私はパッと目を輝かせた。

「そのテストって、具体的に何のためのものなんです?」


「ギルドからの問い合わせ対策だよ。ギルドだって顔が良い奴を雇いたいが

性格に難があって引き抜き騒動や脱退トラブルを起こされたら困るだろ?

だから学校に補助金を払って『チヤホヤされた時の人間性チェック』をやらせてんだよ。

チヤホヤされて調子に乗らない奴には

ギルドに『この生徒は大丈夫です』って太鼓判を押すわけだ。

……はぁ、顔が良い奴は得で羨ましいぜ」


「そんな裏の制度があったなんて……!」

横で聞いていた香澄ちゃんと花梨ちゃんが驚愕の声をあげる。


しかし、花梨ちゃんはすぐにフンッとドヤ顔で胸を張った。

「ですが! 有希様なら何の問題もありませんね!

だって有希様は私の神なのですから、調子に乗るどころか後光が差すばかりですッ!」

「はいはい、花梨ちゃんは一旦黙ろうねー」


私は花梨ちゃんをいなしつつ、希望に満ちた顔で先輩を見た。

「ということは……もうすぐ私への不必要なチヤホヤは終わって

平和で目立たない日常が戻ってくるんですね!?」


「……いや、それは無理じゃねえかな」

別の3年生の先輩が、非情な現実を突きつけてきた。


「なんでですか!?」

「だって……裏のテスト云々関係なく

お前、普通に全校生徒の間で『アイドル』として人気出ちゃってるもん」


「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!(絶絶絶望)」


「永久チヤホヤ確定だな」

「嘘でしょおおおぉぉぉぉ!!」


崩れ落ちる私を、香澄ちゃんが「よしよし、可哀想に……」と優しく頭を撫でて慰めてくれた。



そんな絶望のズンドコ底に叩き落とされている間にも

画面越しで試合がスタートしていた。


「ほら有希、自分の仕事をこなしなさい。インカム握りな」

「はぁ〜い……」


香澄ちゃんに促され、私は渋々モニターに視線を向けた。

画面の中では、修君たちがすでに複数チームとの混戦を制し、次々と敵を退けていた。


「なかなかやるな、あいつら。だが……トップのグループは一度も混戦に巻き込まれてない。ここからが本番だな」

先輩が鋭く分析する。


エリア内に散らばる『コア』は全部で10個。

試合終盤、コアの所持数は【トップチーム:5個】【修平チーム:4個】【別チーム:1個】という極端な状況に陥っていた。


「ゴールして手堅く2位を狙うか、リスクを侵してトップから奪いに行くか……悩みどころですね」

私が呟くと、先輩がインカムで修君たちにその選択肢を伝えた。


『――リスクを取る。片っ端から倒して奪うぞ!』

修君の力強い声が返ってくる。


「ハハッ! そうこなくっちゃな! それでこそエシュ学だ!」

先輩たちが興奮し始める。


そこからの修君たちは凄まじかった。

予選で隠していた実力を解放し

まずは1個持っていた別チームに襲いかかってノーダメージでコアを強奪。

これでトップの5個と並んだ!


「これで並びましたね! 次は直接対決ですか!?」


誰もが激突を予想した――その瞬間!

修君たちはトップチームを完全にスルーし、全力でゴールに向かって爆走し始めたのである。


『――ルール上、同点の場合は【先着順】で勝ち決定だからな! 戦う理由はねえ!』

インカムから修君のドヤ声が聞こえてくる。


慌てて追おうとするトップチームだったが、時すでに遅し。修君たちが一足先にゴールラインを駆け抜けた!


『ゴォォォォォル!! 勝ったのはエシュ学園チームだぁぁぁっ!!』


「……勝ったんだねぇ(めちゃくちゃ他人事)」

「全然嬉しそうじゃないわね……」

冷めた私の呟きに、香澄ちゃんが呆れ顔でツッコミを入れる。


「嬉しいけどさぁ……これでまた私が持ち上げられると思うと

どうやって周囲の期待を回避するか頭が痛いのよ!

私はのんびりニート生活を送りたいだけなの!

みんな忘れてると思うけど、私は無能で使えないゴミ女なの! トロイただの女なの!

なんで誰も彼も持ち上げるのよぉ!」


積もり積もった不満をぶっちゃける私に、香澄ちゃんは容赦ない一言を叩き込んできた。


「そうやって『私は無能』って宣言しながら

自分より強い奴をポンポン倒しちゃうからでしょ」

「だ、だって……そうしないと生き残れないし……!」

「はいはい。諦めて、もう上のステージに行きましょ?(ニッコリ)」

「私は絶対に諦めない!!」


ギャーギャーと議論(?)していると、ガチャリとドアが開いて

修君たちがドヤ顔で戻ってきた。


「おう! なんだか部屋が騒がしいけど、何かあったのか?」


次の瞬間。

私はコンマ1秒で完璧なプロの笑顔(猫かぶり)を装った。


「ううん! なんでもないよ〜! 修君たちが凄すぎて

みんなで大興奮して歓声をあげてたの! 優勝おめでとうっ!」


(……うわぁ、身代わりの早さ凄っ。マジで女って怖ぇ……)

上級生の先輩たちから冷ややかな視線が刺さったが、私は全力でスルーした。


「この後、2年生と3年生の決勝だけどどうするの?」

「俺たちは少し休憩してから、観客席で観戦するよ」

「そうなんだ。いってらっしゃい! 私はここで先輩たちのサポート業務をお勉強していくね」


「そ、そうか……」

どこか寂しそうな顔で部屋を出ていく修君。


「追わなくていいの? 良い雰囲気だったのに」

「私が一緒に行ったら、また無駄に目立って面倒なことになるでしょ。それくらい察してくれないと困るわ」

私が苦笑いしていると、先輩たちと話していた花梨ちゃんがスッと寄ってきた。


「有希様の素晴らしさが世界に伝わっているようで、私は本当に誇らしいです!

ですが……今日はその素晴らしい有希様を、私たちだけで独占させていただけるなんて……

なんて慈悲深いお方なのでしょうッ!」

「はいはい、分かったわよ花梨ちゃん」

迷言を連発する花梨ちゃんを、香澄ちゃんが手慣れた手つきで回収した。



その後、始まった2年生と3年生の決勝戦。


「……すご」


1年生の泥臭い戦いとは一線を画していた。

2年生も3年生も、全員が圧倒的な『魔道具の暴力』と洗練された実力で他校を粉砕。

秒殺レベルで優勝を決めてしまったのだ。


「そりゃそうさ」

サポートの先輩が煙草(の形をした菓子)を咥えながら教えてくれた。

「ダンジョンに入れば入るほど金が稼げる。そしてうちの学校では

市販より数世代上のチート魔道具が格安で手に入る。

モチベーションの桁が違うんだよ。1年の時はまだ実力差が少ないから接戦になるが

2年以降は他校じゃ絶対に追いつけない」


「エシュ学園って、めちゃくちゃ恵まれてたんですね……」

「そうだぞ? サポート役にまで手厚い恩恵がある学校なんて、ここくらいだ」


そんな裏話を聞いているうちに表彰式が始まり、画面には各学年の優勝者たちが映し出された。

そして、恐怖の『インタビュータイム』がやってくる。


『優勝おめでとうございます! 決め手は何でしたか?』

レポーターが修君にマイクを向ける。


『やはり、クラスメイトの応援ですね!

特に……学年で一番可愛い女の子がサポートに入って応援してくれたおかげ

、実力以上のパワーが出せました!』


ドッと湧く会場。画面の前の香澄ちゃんと花梨ちゃんが「あらまぁ〜」「有希様流石です!」と拍手を送る。


(……はいはい、知ってた知ってた。修君がそう言うのは予想通りよ)


私は遠い目をして耐えていた。

しかし――本当の絶望は、次にマイクを向けられた【3年生のリーダー先輩】の口から発せられた。


『3年生から見て、1年生のサポート役の彼女はいかがでしたか?』


『いやあ、本当に素晴らしかったですよ。

メンタル管理、体調管理、作戦立案、裏方業務……すべてを完璧にこなしていました。

1年チームの優勝は、間違いなく【彼女のおかげ】ですね』


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!(致命傷)」


信じていた3年の先輩にまで、笑顔で背中から刺された。


(先輩の裏切り者ぉぉぉ! 頼むから余計なこと言わないでぇぇぇ!)


「ふふっ、有希。もう諦めたら?」

隣でクスクス笑う香澄ちゃん。


「諦めない……!

私は絶対に『平穏な無能ニート生活』を諦めないんだからぁぁぁ!」


その後、控室に戻ってきた先輩たちと修君たちを盛大に出迎え

うわべだけの(※有希基準)喜びを分かち合った後。


私と香澄ちゃん、花梨ちゃんの3人は、会場外の屋台で美味しいものを食べ歩き

束の間の平和(と現実逃避)を満喫して一日を終えたのであった。

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