第133話:【無自覚な餌付け】
「そういえば、2人ともこの後って何か予定ある?」
表彰式後の怒涛のインタビューを終えた後
私は香澄ちゃんと花梨ちゃんに尋ねた。
「有希が『空けておいて』って言ってたから、何も入れてないわよ」
「私もないです! 有希様の行くところが、私の行くところですッ!!」
花梨ちゃんは鼻息を荒くして、目をキラキラと輝かせている。
「実はね、修君たちのパーティ(5人)と
このあと会場の屋台とかを見て回る約束しちゃったから
2人もついてきてほしいなーって」
「いいわよ」
「有希様のお頼みなら、いくつでもお聞きしますッ!」
快諾してくれた2人にお礼を言い、私は修君にメッセージを送った。
すると、彼らはすでに会場の入り口で待機していたらしく、すぐに合流することができた。
「おう、待たせたな!」
修君が手を挙げて駆け寄ってくる。
「全然待ってないよー。で、どこから行く?」
修君のパーティメンバーたちが顔を見合わせる。
「えーっと、どこが見たいとかあるか?」
「んー、考えるのめんどくさいし……ここは男子たちにエスコートされたいなー、なんて」
私は考えるのを放棄し、可愛く首を傾げて丸投げしてみせた。
すると、私の意図を即座に察した香澄ちゃんが、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべる。
「そうそう。こういう『女の子を楽しませられるか』って
男の腕が試される場面よね? 上手くエスコートできれば、好感度爆上がりよ?」
「ええ! エスコートできる男の人って、とっても素敵ですよね!」
花梨ちゃんもノリノリで煽りを入れる。
「なっ……! そ、そうか? じゃ、じゃあ俺たちに任せとけ! 完璧にエスコートしてやるよ!」
男子たちは完全に火がつき、やる気満々で先陣を切って歩き出した。
(よしっ! これで私は後ろをついて行って、適当に相槌を打つだけで良くなったわ!)
私は内心でガッツポーズを決めつつ、集団で会場を移動し始めた。
◇
「そういえば、昼飯食ったか?」
「ううん、まだ食べてないよー」
私たちが答えると、男子たちは「じゃあ、買い食いしながら回ろうぜ!」と提案し
わらわらと屋台へ散らばって色々なお肉の串焼きやらスイーツやらを買ってきてくれた。
「ほら、これ美味そうだったから!」
「わぁ、ありがとう!」
私は男子の一人から焼き鳥の串を受け取ると、ふと思いついて彼のお口にスッと差し出した。
「はい、あーんして?」
「えっ!? あ……あーん……」
彼が照れくさそうにパクリと一口食べる。
「どう? 美味しい?」
「お、おう、めっちゃ美味い……」
「そっかー!」
彼が言い終わる前に、私は同じ串の次の肉をパクリと頬張った。
「ん〜っ! 美味しい! 腹ペコは最高のスパイスね!」
私が上機嫌でモグモグしていると、彼が顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
「おま……っ! それ、俺が今食った……っ!」
「ん? もっと食べたいの? はい、あーん」
「~~~~ッッ!!」
彼は顔を爆発させたように赤くして、震えながらもう一口食べた。
それを見ていた花梨ちゃんが香澄ちゃんが、「やれやれ」といった顔で呆れつつ
自分たちも他の男子に「はい、あーん」と食べさせ始めた。
(……ふふふ。やっぱり男子の集団を連れて歩くといいわね!)
私は周囲の視線を感じながら、一人でほくそ笑んでいた。
すれ違う他の男子生徒たちから、修君たちに向けて凄まじい『殺意と嫉妬の視線』が飛んできている。
(よしよし、みんなのヘイトが完全に修君たちに向いてるわ!
これで私が変に注目されることもないし、平和に食べ歩きを楽しめるわね!)
私は盛大な勘違いをしたまま、男子たちへの餌付けを心ゆくまで堪能した。
◇
一通りお腹を満たし、みんなでわいわいと会話を楽しんでいると
――背後から、ひどく聞き覚えのある嫌な声がした。
「おい、有希じゃねえか」
「……うわぁ」
振り返ると、そこにいたのは以前絡んできたウザ男・浩二とその取り巻きだった。
私は一切隠すことなく、露骨に顔をしかめた。
「浩二。何の用?」
「なんだよ、つれないな。俺たちと一緒に回らねえか?」
「見ての通り、私はいまお友達と楽しんでるの。邪魔しないでくれる?」
氷点下の声で冷たくあしらうが、この男には通じない。
「ハッ、強がっちゃって。照れ隠しするなんて可愛いところあるじゃねえか」
「はぁ……? 照れ隠しじゃなくて、本気で心の底から嫌なんだけど?」
私がため息をついていると、浩二がしつこく距離を詰めてこようとした。
しかし――サッ、と修君たち5人が私の前に立ち塞がり、浩二たちを睨みつけた。
「なんだよ、お前ら。用はないぞ」
「やめろや。有希が嫌がってんだろ」
「あぁん? なんだとてめえら」
一触即発の空気が漂う中、私は修君の背中にピトッと隠れ
意図的にブルブルと小刻みに肩を震わせてみせた。
「ひぐっ……こ、こわい……っ」
「ほら見ろよ! こんなに怖がってる子に何しようってんだよ!」
男子の一人が怒鳴る。
「はあ? 俺はまだ何もしてねえよ!」
「何もしてないのにこんなに震えるわけないだろ!
過去にお前が何かヤバいことしでかしたから、こういう反応になるんだろ!」
「そうだそうだ!」
修君たちが見事なコンビネーションで追い詰める。
「いいか? これ以上つきまとうなら、俺たちにも考えがあるからな
。大義名分さえあれば、俺たちサポート役がお前らを取り押さえて怪我させても
正当防衛で許されるってこと……知らねえわけじゃないよな?」
「なっ……!?」
ドスの効いた修君の脅しに、浩二たちの顔色が変わった。
そこへ、香澄ちゃんがトドメとばかりに冷酷な笑みを浮かべて前に出る。
「忠告しておくけど、この子、大会の『お偉いさん』の超・お気に入りなのよ?
これ以上やると、人生終わるのはあなたたちの方よ。この子の証言一つで
仮にあなたたちに有利な映像があったとしても、一瞬で覆るくらいの権力者に守られてるんだから」
「そ、そんなハッタリ……!」
「あら、信じないの? それにね――」
香澄ちゃんはポケットから、鈍く光る金属製のプレートを取り出した。
「この子に何かあった場合、『強硬手段に出ていい』って許可証
私つい先日もらっちゃったのよ。レアモノらしいわよ?」
(……待って、それお母さんが持ってたヤバい裏のライセンスじゃん!?
いつの間に香澄ちゃんそんなのもらったの!? 私知らないんだけど!?)
ブルブル震える演技を続けながら、私は内心で激しくツッコミを入れた。
「それを奪えば証拠隠滅できる、なんて考えないことね。
これ、魔力認証タイプだから、持ち主から一定距離離れると自動でアラートが鳴って
窃盗犯として即逮捕よ」
(なにそれ怖っ! 逆に相手のポケットにわざと放り込んで、陥れることもできるヤバい仕様じゃない……!)
私が戦慄していると、さすがに分が悪すぎると悟ったのか
浩二は「チッ……!」と舌打ちをして踵を返し、足早に去っていった。
「ふぅ……助かった。みんな、ありがとう」
私が演技を解いて息を吐くと、香澄ちゃんがクスリと笑った。
「か弱き乙女の演技、完璧だったわよ」
「まぁね。なんとなく、弱く見せといた方が正当防衛も通りやすいかなーって思っただけよ」
「ただ……残念なお知らせだけど、今の騒動、周りの野次馬にスマホで撮られてたから
またSNSでバズるのは確実だけどね」
「……嘘でしょ」
私は今日二度目の絶望に顔を覆ったが、もう起きてしまったことは仕方ないと開き直り
残りの時間を全力で楽しむことにした。
◇
夕方になり、修君と花梨ちゃんと別れた私は、香澄ちゃんと共に医療室へ向かった。
「香澄ちゃん、別に一人で様子見に行けるよ?」
「ダメよ。また昼間みたいなバカが絡んできたら心配だし。私が護衛するわ」
そんな過保護な香澄ちゃんを引き連れて救護室のドアを開けると
千晶が「お姉さま!!」と満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「今日はどうだった?」
「はい! 昨日のような大怪我の患者はいませんでした。何かあっても
医療職員の方がすぐに対応してくださるので……!」
千晶が尊敬の眼差しを向けると、近くにいた職員の女性が
「これが仕事ですから」と照れくさそうに笑った。
「千晶、今日は何時まで?」
「もう間もなく終わりですね」
「そっか。じゃあ終わるまで待ってるから、一緒にホテル帰ろっか」
私がそう言うと、職員の女性が真面目な顔で進み出た。
「いえ、お帰りの際は、私が規定に従って護衛として同行いたします」
「え? でも、もう遅いですし、職員さんも疲れてるでしょ?」
「ですが、規定ですので……」
「……ちょっと待っててくださいね」
私はスマホを取り出し、橘さんに直電をかけた。
『はい、有希様。いかがなさいましたか?』
「あ、橘さんお疲れ様ですー。今、救護室にいるんですけど
医療職員の人が護衛で残業しそうなので、今日はもう上がっていいって指示出してもらえませんか?」
『承知いたしました。すぐに該当職員の端末へ特例許可を送信します』
ピロンッ。
数秒後、職員の女性の端末に通知が鳴る。画面を見た女性は
「えっ……統括責任者からの直通命令……!?」と信じられないものを見る顔で私を見た。
「そういうわけなので、今日はお疲れ様でした! 帰りは私たちが護衛するので大丈夫ですよー」
「あ、ありがとうございます……!」
平の職員からすれば、最高権力者からの鶴の一声である。
私はちょっぴり権力を乱用した罪悪感を覚えつつも
千晶と香澄ちゃんの3人でのんびりとホテルへ戻ったのだった。
◇
そして次の日の朝。
いよいよ、修君たちが出場する『ダンジョンアタック・決勝』の日がやってきた。
「お姉さま、今日はサポート役で大変そうですね……」
朝食の席で千晶が心配そうに言うが、私はパンをかじりながら首を振った。
「ううん、戦わなくていい分、気楽なものよ? 試合中は、ポッドの外で待ってるだけだしね」
朝食を終え、私と香澄ちゃん、花梨ちゃんの3人で1年生の控室へ向かう。
しかし、部屋を開けるとそこには3年生のサポート役の先輩がいるだけで、修君たちの姿はなかった。
「あれ? 修君たち来てないんですか?」
「おう、あいつらなら『少し身体動かしてくる!』って言ってさっき出て行ったぞ」
「ふふ、元気だなぁ」
私が苦笑いしていると、先輩は私たち3人をジッと見て呟いた。
「そっちこそ、今日はえらい大所帯だな?」
「この2人は私の付き添いみたいなものですよー」
「いいなぁ、あいつらが羨ましいぜ。俺の時なんて、女の子が応援に来るどころか
サポート役に入ってくれることすらなかったのによ」
遠い目をする先輩に、私はふと疑問を抱いた。
「あれ? サポート役って強制じゃないんですか?」
「そんなわけないだろ。基本的には任意参加だ。
それに……特に『異性のサポート』につく場合は
男女問題のトラブル防止のために、事前の本人確認と
生徒会長・副会長からの承認が必要になる。何かあった時の責任分散のためにな」
「……へ?」
私はキョトンとした。
「あの……私、そんな書類にサインした覚えも
生徒会から了承された記憶もないんですけど……?」
「ああ。それは多分、特例だな」
先輩は笑いながら教えてくれた。
「『生徒会に所属している』か、『学校側と生徒会側の両方から問題ないと判断されている』。
それに加えて『普段からパーティを組んでいる』場合は
本人確認の手間が省かれるんだよ。お前ら、普段から仲良く潜ってるんだろ?
わざわざ紙切れで確認するまでもないってことさ」
「ああー、なるほど。そういうことですか」
(つまり、生徒会役員+普段のPTメンバーだから、完全フリーパスだったってわけね。納得!)
4人でそんな裏話を交わしていると、ドアが開いて汗をかいた修君たちが戻ってきた。
「あっ、来てるのか!」
「おかえりー!」
「「「おかえりなさい!」」」
私、香澄ちゃん、花梨ちゃんの美少女(※自称含む)3人に出迎えられ
修君たちのパーティメンバーは
「……なんか、こういうのって最高に青春してていいな……」と本気で涙ぐんで感動していた。
その後、上級生グループも部屋にやってきて控室は一気に賑やかになり
私たちは熱気に包まれながら『決勝』の始まりの時を待つのだった。




