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第132話 【レースの決着】


香澄がトップの2人に追いついたことで、戦況は一気にヒートアップした。

次々と飛んでくる攻撃。しかし、香澄は物理攻撃を軽々とステップでかわし

魔法攻撃はあえて避けずに防御魔法で受け止めている。


「……なるほど。昨日教えた『わざと防御魔法で受けて魔力を吸収する技術』

もう完全に自分のものにしてるみたいね」


私が腕を組んで感心していると、トップの2人が足を止め

膨大な魔力を練り上げ始めたのが見えた。明らかに大技のモーションだ。

私は隣にいた翔先輩から、ひったくるようにインカムを強奪した。


「あ、こらお前!」

「香澄ちゃん、聞こえる? 前の2人が大魔法ぶつけてくるみたいよ。

 魔力ためてるわ」

『……わかったわ』


冷静な香澄の返事を聞いてインカムを返すと

翔先輩がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。

「随分と過保護だなあ」

「親友ですから。絶対に勝ってほしいですし」

私が胸を張って答えると、モニターの中の香澄が動いた。


敵を倒しながら進んでいた香澄の手首が、チカッと光る。

次の瞬間――ポンッ、ポンッ! と音がしそうな勢いで、香澄が3人に分裂した。


(あれ? 香澄ちゃんの分身って1体だけじゃなかったっけ?

いつの間に2体出せるように……)


私が驚いている間にも、3人の香澄は一定の距離を保ちながら一斉に走り出した。

普通、分身を増やせばその分ステータスは落ちる。

しかし、全香澄は躊躇なく加速魔法を使い、猛スピードで突っ込んでいく。


「まずい!」と思ったのだろう。魔力をためていた1人が、

 たまらず単体用の大魔法を香澄に向けて放った。

ズドン! と派手なエフェクトが弾けるが、魔法は香澄の防御魔法を貫けず、あっさりと霧散する。


「最初に大規模魔法を撃って牽制したのと、

 魔力をためる時間が少なかったせいで威力が落ちてるわね」

私の分析通り、魔法を吸収した3体のうち1体が、さらにスピードを上げて突撃する。


そこへ、もう1人の選手が魔力チャージを完了させた。

「喰らえぇぇっ!」

放たれたのは、先ほどとは比べ物にならない特大の単体魔法。

スピードを上げていた香澄が防御魔法を展開するが

今度は耐えきれずに貫通――した直後。


バシャァッ!


香澄の体が弾け、ただの水となって地面に溶けた。

残る2体の香澄にも魔法が直撃し、同様に水となって消え去る。


『なっ……!?』

モニターには、トップ2人の「嘘でしょ!?」という見事な驚愕顔がドアップで映し出された。


その直後である。

カメラが上空を捉えた。なんと香澄(本体)が、空中に水魔法で小さな足場を作り

ポンポンポンッと軽快に空中を跳ねて移動しているではないか。


(なるほど……合流した時点で2体に分身して、さらにそこから5体に増やしたのね。

 で、本体は最初から空を移動して、分身にヘイトを稼がせていた、と。……考えたわね)


鮮やかすぎる囮作戦に私が感心していると、空からふわりと舞い降りた香澄が

誰の邪魔も受けることなく悠然とゲートをくぐった。


『ゴォォォォォォル!! 1位は、水無瀬香澄選手だぁぁぁっ!!』


実況の絶叫が会場に響き渡る。

してやられたトップ2人は、もはやお互いを攻撃する気力も失ったのか

呆然としたまま遅れてゴールした。


「さて、迎えに行くか」

翔先輩の言葉に力強く頷き、私たちはVR室へと向かった。


* * *


VR装置から出てきた香澄の姿を見るなり、私は駆け寄った。

「香澄ちゃーーん! おめでとう!!」

ガバッ! と、年甲斐もなく(私の精神年齢的な意味で)全力で抱きつく。


「わっ……ありがとう。でも、珍しいわね。有希がここまで感情を出すなんて」

香澄は少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに抱き返してくれた。

「私だって嬉しい時は爆発させるよ! 香澄ちゃんが優勝だもん

自分の事のように嬉しいに決まってるじゃない!」


親友とキャッキャウフフと喜びを分かち合っていると

 コンコンと控えめに扉がノックされ、大会職員が入ってきた。

「水無瀬香澄選手、優勝おめでとうございます。

この後、2年生・3年生のレース終了後に第1会場で表彰式を行います。

それと、1位~3位の選手とサポート役の生徒は

表彰式後にインタビューがありますので舞台袖で待機をお願いします」


了承して控室に戻ると、上級生たちから割れんばかりの拍手と祝福を浴びた。

「よくやったな! 香澄だったっけ? 見事な作戦勝ちだ。

まさか分身にヘイト集めさせて、自分は空から悠々ゴールするとはな!」

「ありがとうございます。上手くいってよかったです」

香澄は少しはにかみながら答えた。


その後、同じ学校の1年生が負けてしまってガックリと肩を落として戻ってきたので

私や翔先輩、その子のサポート役で全力で慰めたり、反省会をしたりして時間を過ごした。


そして始まった2年生、3年生の部。

結果から言うと、どちらもエシュ学園の先輩たちが圧勝した。


「先輩たち、めちゃくちゃ強いですね……」

私が呟くと、3年生の先輩が苦笑しながら教えてくれた。

「まあ、ぶっちゃけ御子柴の魔道具が優秀なおかげだな。

あいつの魔道具、毎年性能がイカれていくんだが、今年は別格だ。

うちが『常勝校』なんて呼ばれてる理由の半分は、あいつのおかげだよ」

「そんなにすごいんですね」

「ああ」と、2年生の先輩も頷く。

「何度も魔道具を使えるだけでもありがたいのに

不意打ち対応に加えて『魔力自動回復機能』まで付いてるんだぜ? 普通は無理だ。

市販されたら国家予算レベルの値段になるんじゃないか?」


御子柴先輩、恐るべしである。

そんな裏話に感心していると、「上位入賞者は第1会場へ」という放送が入った。


* * *


表彰式を終え、いよいよ舞台袖でのインタビューが始まった。

カメラのフラッシュが焚かれる中、1位の香澄、そしてサポートの私と翔先輩にマイクが向けられる。


「優勝おめでとうございます! ズバリ、優勝の決め手は何だったと思いますか?」

「作戦勝ちだと思います」

香澄は凛とした表情で答えた。

「2位や3位の選手も強敵でした。

予選の時の彼らの魔法をまともに受けたら防げなかったと思います。

だから、道中で少しずつ魔力を削らせる作戦に専念したんです」

「なるほど! だから終盤の大魔法を防げたんですね」

「はい。とはいえ、完全に防げたわけではありませんし、純粋な実力は彼らの方が上かもしれません」


謙虚かつ理路整然とした香澄の受け答えに、レポーターは深く頷く。

「素晴らしい分析です。では、この優勝、誰に一番感謝したいですか?」

「やはり……隣で的確な情報を集めてくれた翔先輩。

そして、公私ともに私を支えてくれた親友の有希ですね」


急に名前を出され、レポーターの矛先が翔先輩に向いた。

「翔さん、香澄選手からこう言われていますが?」

「いやぁ……俺はただ、裏方としてやるべき事をやっただけですよ。それを完璧に活かしてくれた香澄選手が優秀だったというだけの話です。でも、面と向かって言われると照れますね(爽やかなイケメンスマイル)」

(この人、完璧な『外行きの顔』作りやがった……!)


私は内心でツッコミを入れたが、無情にもマイクは私へと向けられた。

「公私ともに支えられたとのことですが

有希さんは具体的にどのようなサポートをされたんですか?」


「え? 私ですか?」

私は首を傾げた。本当に、特別なことをしたつもりはないのだ。

「いや、大したことはしてないですよ? レベル上げに付き合ったり、一緒に練習したり

作戦会議したり、息抜きに遊んだりしたくらいで……。

あ、あとは新しい魔法の開発とか、スキルの開発を手伝ったくらいですね」


「…………はい?」

レポーターの動きがピタッと止まった。

カメラマンも「えっ?」という顔をしている。


「えっと……新しい魔法やスキルの……開発?」

「はい。サポート役として香澄ちゃんを勝たせるのが私の役割ですし、

彼女の将来もかかってますからね。真剣にやらないと失礼かなって思って、そのくらいは」

私がニコリと笑って答えると、レポーターは数秒の沈黙の後、引きつった笑顔で進行を再開した。

「そ、そうですか……! 優勝の秘訣を、垣間見えた気がしますね……!」


* * *


魔法障害物競走を無事に終え、ひと段落した私たち。

花梨ちゃんからの熱烈な祝福を受けつつ、私たちは大会の余韻を楽しみながら、会場を散策していた。

「いやー、終わった終わった! 今日は美味しいもの食べようね!」

「ふふっ、そうね。有希のおかげよ、ありがとう」

「だから私は大したことしてないってばー」


平和な帰り道。

――この時、私たちは全く知らなかったのだ。


『【悲報】優勝者のサポートJK、「新魔法と新スキルの開発を手伝っただけ」と

 息をするようにヤバい発言をしてしまう』

『可愛すぎて俺もサポートされたい』

『可愛くて真面目とか天使かよ』


先ほどの私のインタビュー発言で

ネット上で爆発的にバズり散らかしていることなど、知る由もなかったのである。

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