第128話:【投石は立派な戦術】
「ねえ先輩、修君たちトップチームから少し遅れてるけど……
これインカムで伝えた方がいいですかね?」
モニターのタイムを見ながら私が尋ねると
サポート役の3年生の先輩は「いや、とりあえず伝えなくていい」と首を振った。
「これはまだ予選の1回目だし、ダンジョンアタックは合計3回走る長丁場だ。
今ここで下手に焦りを生ませる必要はない。不要な情報は入れず
いつも通りの実力を出させるのが俺たちの役割だからな」
「なるほど……! 確かにそうですね」
私が納得していると、先輩はインカムのスイッチを入れて冷静に指示を送った。
『――修平、良い順位だぞ。今のペースを維持しろ』
『了解ッス!』
修君の力強い返信が聞こえてくる。流石は3年生、サポートとしての差配が見事すぎる。
◇
そんな話をしている間に、修君たちは『2つ目のコア』の部屋に到着していた。
『うおっ……! こいつ、物理攻撃が効かねえ巨大黒騎士だ!』
2つ目のボスは、物理攻撃を無効化する黒騎士。
修君たちは作戦を変えず
修君が湧き出る雑魚モンスターのヘイトを一手に引き受け
残り4名がボスへ直行。魔法の集中砲火と見事な受け流しで攻撃を回避し
比較的短時間でボスを撃破してみせた。
『修平、終わったぞ! 3つ目のコアへ向かえ!』
『よし、俺が1人で3つ目のボス部屋へ直行する!
お前らは雑魚を無視して後から追いついてくれ!』
修君が爆走して3つ目のエリアへ先回りする。
「あ、修君。3つ目のコアの部屋
魔法無効のスケルトンと物理無効の黒騎士が同時に出てくるわよ」
『マジかよ!? 1人じゃ無理だな……
よし、俺はボス部屋の前で雑魚敵を掃除して待つ!』
「良い判断だ。ただ、絶対に無理はするなよ」
『了解!』
画面越しに、修君がギリギリの戦いの中で雑魚を倒し、足止めしているのが見える。
「うーん……全員が合流した時、魔法無効と物理無効が同時にいるとなると
遠距離の物理攻撃がないと手詰まりになりそうね……」
私がボソッと呟くと、ひとつ名案が浮かんだ。
「修君、聞こえる? 遠距離武器がないなら、その場で補充すればいいのよ。
足元に落っこちてる『石ころ』だって、使い方次第で立派な武器になるんだから」
『えっ、石ころ……!?』
「精霊魔法が使えなくても、石ころに魔力を込めて投げるだけで相当な威力になるからね?
それに、魔法無効化されても中身の石は物理だからそのままダメージになる。
使えるものは何でも使いなさい!」
私のぶっ飛んだアドバイスを聞いた3年生の先輩が、思わずツッコミを入れてきた。
「有希ちゃん……『石ころに魔力を込める』って簡単に言うけどな
それ普通はめちゃくちゃ高度な魔力コントロールが必要で大変なんだぞ……?」
「あ……そういえば前にも誰かに『そんな簡単にできない』っていわれたがします……」
「まあいいや! 出来たら出来たで強力な武器になるし
出来なかったらまた別の作戦を考えるか」
(……なにこの先輩、私のフォローまで完璧に考えてくれてる……!
しかも他の生徒みたいに私を神格化せず、普段通りに接してくれるなんて……
なかなかいない貴重な人材じゃない!?)
「先輩、一生ついていきます……!」と心の中で拝みつつ、私は戦況を見守った。
◇
間もなくして、後発の4人が修君のもとへ合流した。
『よし、全員揃ったな! 行くぞッ!!』
修君の掛け声と同時に、ボスの部屋へ突入する5人。
すると走リながら――アドバイスをバカ真面目に守ったメンバーのひとりが
足元から拾った石ころに魔力を込め、思いっきり投げつけた!
ドォンッ!!!
『ギャアアアッ!?』
ただの石ころのはずが、大砲並みの着弾音を響かせて
魔法無効のスケルトンに命中! 石をなげただけで砕け散った。
(……あ、本当にできちゃったわ)
残るは物理無効の黒騎士のみ。
黒騎士が魔力を溜めて高速で迫ってくるが
修君は土魔法を自身の盾に纏わせ、ガツンと正面から受け止めた!
『逃がさねえ! 『アースバインド』ッ!!』
修君が足元の地面を操作し、黒騎士の両足を土でガッチリと固定!
『今だッ! 全員で魔法を叩き込めぇええ!!』
動けない黒騎士へ、残りのメンバーが一斉に魔法を連射!
圧倒的な火力を叩き込まれた黒騎士は、一瞬で消滅した。
『1年Aチーム、3つ目のコアを獲得! そのままゴールへ向かいます!』
道中の雑魚モンスターは、魔法で牽制したり
すっかり味を占めた『魔力投石』で弾き飛ばしながら
一度も足を止めることなくゴールへと駆け抜けた。
◇
『1回目、終了――!!』
結果は、トップチームからほんのわずかに遅れただけの【第2位】!
「いい記録ね! その調子で2回目、3回目もがんばろー!」
私がメッセージを送ると、『はいっ!!』と威勢の良い返信が返ってきた。
ダンジョンアタックは参加人数が多いため
各走行の間に30分ほどの休憩が挟まる。
控室に戻ってきた修君たちと合流し
ジュースを飲みながら和気藹々と反省会を行った。
『――間もなく、第2回目の走行を開始いたします』
「よし、行くか!」
修君の威勢の良い掛け声とともに
5人は再びVRポッドへと向かっていった。
◇
2回目の競技がスタート。
「基本的にはさっきと構造は変わらないわね。
コアの位置がランダムに変更されただけだわ」
私がモニターを分析し、インカムで迅速にコアの場所を伝えていく。
一度走って慣れた修君たちは
1回目よりも遥かにスムーズな連携を見せ、タイムを大幅に縮めていった。
「タイムがかなり早くなってるわね……でも、速くなってるのは他のチームも同じかぁ」
画面に映る他校のトップチームを観察する。
「凄いわね……こちらが持っている情報だけで
私たち以上に迅速かつ無駄なく戦ってるわ。見習わなきゃだめね」
他チームのレベルの高さに感心しつつ、見守ること数十分。
2回目、そして3回目の走行も大きなトラブルなく迅速に終了した。
そして――集計結果が発表される。
『1年の部・総合順位の発表です! 第3位――A日程1年チーム! 決勝進出決定!!』
「「「やったぁあああああッ!!!」」」
控室に戻ってきた5人は、抱き合って狂喜乱舞していた。無事に予選突破である!
「有希! 放課後、一緒に会場を回る約束、忘れるなよ! ああ〜明日が楽しみだな!」
修君が汗を拭きながら、輝くような笑顔で寄ってきた。
すると、横から香澄ちゃんがジト目で割り込んでくる。
「ちょっと修平、浮かれるのはいいけど明日は私の
『魔法障害物競争・決勝』があるんだからね?
会場を回るのは私の応援が終わってからよ。分かってるの?」
「お、おう! 任せろ! 香澄の応援なら全力でやるぜ!!」
今までで一番元気な声を張り上げる修君を見て、私は思わず苦笑いを浮かべた。
(現金なやつだなぁ……まあ、何はともあれ予選突破できて良かったわ!)
こうして、波乱含みだったダンジョンアタックの予選は
見事な結果を残して幕を閉じたのだった。




