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第125話:【救護所の緊急事態】

第125話:【救護所の緊急事態】

「――有希か?」


見知らぬ男子生徒に声をかけられ

私はひとまず営業用の綺麗な笑顔を貼り付けた。

(……誰だっけ? 誰かしら? 記憶の引き出しを全力でガサゴソ検索中なんだけど……)


私が必死に思い出そうとしていると、相手は気安く距離を詰めてきた。


「俺だよ、俺! 小林浩二! お前の幼馴染で、昔よく一緒に遊んだじゃないか!」


(……小林? こばやしこうじ……あっ!)


記憶の扉が一気に開いた。

(思い出したわ! こいつ、昔から体が弱くて外で遊べない私を無理やり外に連れ出して

熱を出して死にかけた時の『幼馴染という名の嫌がらせ犯』じゃないのよ!!

あの時の殺意と恨み、私は一生忘れないからね!?)


私が内心で静かな殺意を燃やしていると、ブザーとともに試合開始の合図が響き渡った。

浩二は試合など気にも留めず、ヘラヘラと話を続けてくる。


「高校生になってから、さらに可愛くなったな!」

「そう? ありがと。そっちは相変わらず変わってなさそうね」

「そうでもないぜ! 俺だって成長してるんだ。身長だってほら、かなり伸びただろ?」

「(……そういう話で言ったわけじゃないんだけどね)」


私は心底呆れつつ、適当にあしらった。


「そっちは覚醒者の学校でどうなんだよ?」

「んー、大して変わってないよ。選手に選ばれてないから

 こうやって客席で応援してるだけだし」


無難な回答でやり過ごしていると、ちょうど買い出しに

行ってくれていた香澄ちゃんが戻ってきた。


「戻ったわよ、有希――」

香澄ちゃんは私の隣に立つ浩二に気づき、不審そうな視線を向けてくる。


「あ、香澄ちゃん。この人、私の幼馴染の小林浩二。で、浩二

 こちらは私の親友の水無瀬香澄ちゃん」

「小林です。よろしく」


浩二が自己紹介をした直後、彼の友人らしきチャラそうな男子生徒ふたりが合流してきた。


「おーい浩二、どうしたんだよ? ……って、その可愛いの誰!?」

「あ、高橋有希です」

私はすかさず営業スマイルを浮かべた。

「……水無瀬香澄よ」

香澄ちゃんは分かりやすいほどの仏頂面で応じる。


「へへっ、俺の幼馴染なんだよ」

浩二が鼻高々に誇ると、友人たちが一気に色めき立った。


「マジかよ! なあ、この後一緒に回らねえ? 暇なんだろ?」


(……いや、貴重な休みをあんたたちみたいな

 ナンパ男と過ごすわけないでしょ。一秒でも早く失せなさい)

という毒舌が喉まで出かかったが、私はグッとこらえて笑顔を保った。


「申し訳ないです、この後すぐ用事があるのでちょっと無理ですね」

「えー、用事の時間までちょっとくらい良いだろ? なあ行こうぜ!」


しつこく食い下がられ、本気で通り魔的魔法でも

叩き込んでやろうかと思ったその時――私のスマホが激しく鳴り響いた。


画面を見ると、神代会長の秘書である橘さんからのメールだった。

『【至急】有希様、救護所がパニックです。助けてください』


嫌な予感を覚えつつ、私は光の速さで返信した。

『友人たち(笑)に捕まってて無理。どうにかしてくれるならいけますけど』


「なぁいいだろ? 3人で行こうぜ!」

なおも腕を掴もうと手を伸ばしてくる男たち。

断り続けていると――静かな足音が近づいてきた。


「有希お嬢様。お迎えに上がりました」


ビシッと黒スーツを着こなした橘さんが、完璧なタイミングで降臨した。


「あ、もう時間なのね。ごめんね、用事だから行くわ」

私が立ち上がると、浩二が驚愕して手を伸ばしてきた。


「お、お嬢様!? お前、一体どうなって――」


バチッ!!


橘さんが一切の笑顔を消し

冷酷な眼光と強烈なプレッシャーを浩二たちに叩きつけた。


「――当家のお嬢様に、気やすくお手を触れないように。

この後、非常に重要な用事がございますので」

「す、すんませんッ!!」


あまりの威圧感に、浩二たちは悲鳴を上げてその場を後にした。



「ふぅ……で? 一体なにがあったんですか?」

歩き出しながら尋ねると、橘さんはハァと深いため息をついた。


「単純に……人の手が足りないのです」

「さっき実況が『ヒーラー陣が待機してる』って言ってませんでした?」

「あれはF級やE級ばかりであまり役に立たないんですよ。

回復にも時間がかかりますし、千晶様が重傷者の手当てに当たっていますが

パニックになっているんです」


「なるほどね……だから私にね。ただ、直接力を使ったら正体がバレますよ?」

「ですから……こっそり治してもらおうかと」


「それは少し無茶な気が……」

横で聞いていた香澄ちゃんがツッコミを入れる。


「橘さん、魔石あります? C級あたりでいいですけど」

「魔石ですか? ええ、ありますよ」

橘さんがポケットからC級魔石を10個ほど取り出した。


私はそれを受け取ると、会場内を歩きながら

C級魔石に回復魔法を込め、逃げないように封印処置を施していった。


わずか数分後。


「はい、どうぞ。使い捨てだから」

「「…………」」


渡された10個の魔道具を見て、香澄ちゃんと橘さんが同時に固まった。


「……ねえ有希。回復魔道具って作るのが大変って聞いてるんだけど……

  なにさらっと作ってんのあんた」

「さすがに私もびっくりでございます……。こんな手早く作るとは……」


「まあ、回復魔法っていっても徐々に回復する魔法を込めただけだし

やり方をちょっと知ってただけよ。やり方知れば簡単にできるわ。

攻撃魔法だって簡単にいけるわよ」

「「(唖然)」」


呆然とする2人を置き去りにして歩く私。

我に返った橘さんが、懐から折りたたまれた『白衣』を2着取り出してきた。


「有希様、水無瀬様、これを。スタッフだと分かるようにこれを羽織ってください。

そのままの衣装だとスタッフだと分かりませんし、何と言われるか分かりませんので」


私と香澄ちゃんは私服の上から白衣(上着)を羽織り

千晶の元――リング横にある臨時の医療場所へと足を踏み入れた。



医療場所の中は、まさに戦場てんやわんやだった。


「はいっ! 治りました! 次の人!」

千晶がせっせと治療を回している。


「おい! 早くしろよ!!」と苛立つ覚醒者に対し

腕組みをした翔先輩が凄まじい威圧感で睨みをきかせていた。


「見れば分かるだろ。治してんだよ。少し黙ってろ」

一瞬で黙り込む周囲。


「……大変そうね」

私が声をかけると、翔先輩がげっそりとした顔で振り返った。


「大変なんてもんじゃねえよ。人が足りないわ」


「ふーん」

私は千晶の元へ歩み寄った。


「お姉さ――」

「むぐっ」

声を出そうとした千晶の口を即座に手で塞ぎ

耳元で密かに先ほどの回復魔石を手渡した。


「(千晶、静かに。これを患者の椅子の下に隠しておきなさい)」

「(……!? わかりました!)」


続いて、私は橘さんに指示を出した。

「橘さん、これを軽症者のベンチを作って四隅にこの魔石を置いてください

。誰かが持っていかないように見張りを付けてください。

まあ、持っていってもすぐに使えなくなりますけど」


「言われた通りにいたします」


橘さんが指示通りにしたのを確認すると

私は周囲に悟られないよう【結界魔法】を発動し、

ベンチと魔石の場所を結界で包んで魔石の魔法を閉じ込め

簡易エリアヒール空間を作り上げた。


「……問題は、私がほとんど動けなくなるのよね」

私はその場にペタリと座り込み、愚痴をこぼしながら香澄ちゃんに頼んだ。


「香澄ちゃん、私いま動けないから、何かあったらよろしくね」

「……あとで聞かせてね」

香澄ちゃんは呆れつつも、了承してくれた。


有希が来て簡易エリアヒール空間を作ったおかげで、患者は増えたものの、現場の混雑は見事なまでに緩和されていった。


私はその場から動けないため、パイプ椅子に座りつつ遠くの試合を観戦していた。


――すると。


「あいつ、働かねえのかよ」

事情を知らない一部の覚醒者たちが、ブツブツと文句を言い始めた。


スルーしていると、ひとりの大柄な覚醒者が近寄ってきた。


「おい、お前! 働かないのはいい度胸だな!?」


「……私は働いてますが」

「座ってるだけじゃねえか!!」


男はそう叫ぶと、無理やり私を立たせようと肩を強く掴んできた。


(あっ――!)


超精密な魔力操作を行っていた最中だったため

外部の衝撃で制御をミスし、自分の中の魔力が一気に暴走を始めた。


「カハッ……!!!?」


口から大量の血を吐き出し、私の意識は真っ暗な闇へと落ちていったのだった。

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