第124話:【魔道具職人の伝説】
第124話:【魔道具職人の伝説】
「そういえば、雄一先輩は巧兄さんから魔道具を買いました?」
私が何げなく尋ねると、雄一先輩は「もちろん!」と胸を張った。
「専用魔道具を注文したぞ。先輩たちからの評判もすこぶる良かったしな。
『2年生になったら絶対に買っとけ』って口を揃えて言われてたんだよ」
「へー、そうなんですね」
私が感心していると、横から花梨ちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「御子柴先輩の魔道具販売って、最近始まったんですか?
御子柴先輩って、まだ2年生ですよね……?」
すると、横にいたサポート役の2年生の先輩が「それはね」と笑いながら教えてくれた。
「これが始まったのは、実は巧君のご両親の代からなんだよ
。ご両親もエシュ学園の卒業生なんだけど
、お母様がお父様の魔道具作成の腕に惚れ込んでね。
『こんな素晴らしいものを独占するのは勿体ない! 学校から補助金を出して
生徒全員が買えるようにすべきだ!』って、学園に直談判したらしいんだ」
「まあ……すごい行動力ですね」
香澄ちゃんが引き気味に感心すると
花梨ちゃんは「でも、とっても素敵ですね!」と目を輝かせた。
「もちろん、最初は学校側も難色を示したんだけどね。
お母様は『なら、実績を出したら補助金を出すという条件でどうだ!』って
啖呵を切って、その年の学生競技大会でお父様の魔道具を使って
見事優勝をかっさらったんだ。それで学園も認めざるを得なくなって
補助金が出るようになったんだよ」
「そういうことだ」
雄一先輩がニヤリと笑って足す。
「俺たちからしたら格安で市販以上の性能の専用魔道具が買えるから
この大会はエシュ学園が圧倒的に有利なんだよ。しかもギルドからすれば
専用魔道具を持った優秀な覚醒者は喉から手が出るほど欲しい。
生徒側も大会で結果を残してスカウトされやすいという
あ完璧な好循環が出来上がってるわけだ」
「へぇ~……」
私と香澄ちゃん、花梨ちゃんの3人は「なるほどねぇ」と心底感心した。
「あれ? でも巧兄さん、今年は『性能を大幅に引き上げることができた』って言ってましたよね?」
私が思い出して口にすると、雄一先輩は「ああ……」と言って、声を潜めた。
「他に漏らすなよ? 今年の魔道具な……
なんと『自動発動』で『魔力を自動補充』してくれるんだよ」
「……え? 今まで自動発動ってなかったんですか?」
私が呆れ声で言うと、雄一先輩が「簡単に言うな!」と頭を抱えた。
「無茶を言うな! 体外に出た魔力を、どうやって『自分以外の攻撃・支援・回復』に
見分けて自動反応させるんだよ!? 技術的に普通は無理だろ!」
「でも、巧兄さんは作れましたよね?」
「だからアイツは変態的に凄いんだよ!! 俺も仕様書を手にするまでは半信半疑だったが
去年先輩たちが言ってた意味が手にした瞬間に分かったぜ。
お前らも来年は絶対に巧に専用魔道具を注文しとけよ?」
サポートの先輩も優しく補足してくれる。
「巧君はいつでも注文を受けてくれるからね。
忙しい時期だと『このくらいかかる』ってちゃんと期限を提示してくれるから
お金が溜まったら頼むといいよ」
「へー、そうなんだ。」
私が感心していると、雄一先輩がニヤニヤしながらこちらを見てきた。
「そういや有希、巧に『シブリング制度(義理兄妹制度)』を
申し込んだって噂があるけど、本当なのか?」
「え? どっちかっていうと申しこまれたが正解ですね。
で受けたから『兄さん』って呼んでるんじゃないですか」
私があっけらかんと答えると、溜息を一つついた。
「ただ……同級生たちから『あれって結婚前提の制度でしょ?』とか
『実質的な婚約者制度じゃん』とか言われて、困ってるんですよね」
すると、雄一先輩とサポートの先輩が「ハハハ!」と大爆笑した。
「確かに、異性間でその制度を利用する奴らは
そのままそういう関係になるケースもそこそこあるみたいだけどね」
サポートの先輩が可笑しそうに訂正してくれる。
「ただ、結んだからって別に婚約者になるわけじゃないよ?
長い間『義理の兄妹』として接するから
結果的に仲良くなりやすいってだけの話さ」
「ええっ!? そうだったんですか!?」
香澄ちゃんと花梨ちゃんが衝撃を受けたように声を上げた。
これでようやく私の誤解も晴れたというものだ。
『――選手の皆様は、速やかにリングへ集まってください』
場内にアナウンスが響き渡る。
「よし、行ってくるわ!」
雄一先輩が立ち上がると、私は「あ、先輩これ」と言って
ポケットから小さな魔石を一つ手渡した。
「これは……?」
「回復魔法を込めておいた魔石ですよ」
雄一先輩は魔石を受け取った瞬間、目を見開いて小声で捲し立ててきた。
「おいっ!? これ、金で買えないレベルのヤバい奴だろ!
どうやって手に入れたんだよ!? 試合中に使ったら『どこで手に入れた!?』って
周りから質問攻めに遭うだろ!」
「そんなの『翔先輩に頼んで手に入れてもらった』って
なすりつければいいんじゃないですか?」
私が悪びれもせず囁くと、雄一先輩は一瞬ポカンとした後、深く頷いた。
「……それもそうか(納得)」
「10回くらい使えますよ。ソロバトルじゃ必要かと思って用意したんで
気軽に使ってください」
そんなコソコソ話をしていたら、後ろから恐ろしい視線を感じた。
「有希ちゃん……! 先輩と何をお話しされているんですか……!?」
花梨ちゃんがメラメラと嫉妬の炎を燃やしている。
「花梨ちゃんが心配するようなことは話してないよ~」
「有希ちゃんのことは信じてますけど! でも……! でもぉ……!」
「はいはい。その前に雄一先輩がいっちゃうよ」
私があしらうと、花梨ちゃんはハッと正気に戻り、顔を真っ赤にして雄一先輩に向き直った。
「せ、先輩っ! がんばってくださいっ!!」
「おう! 行ってくるぜ!」
雄一先輩が力強く手を振って控室を出ていく。
私と香澄ちゃん、そしてサポートの先輩の3人は
「いってらっしゃ~い」と生温かい笑みを浮かべて見送った。
◇
「さて、私たちも観戦に行こうか」
「あ、私はここで待ってます! 先輩が帰ってきたとき一番に迎えたいので!」
乙女モード全開の花梨ちゃんに
私は「わかった。何かあったら呼んでね」と言い残し、香澄ちゃんと一緒に客席へ向かった。
客席に着くと、会場内はすでに大勢の観客でごった返していた。
熱気に包まれる中、適当な空き席を見つけて座ると、香澄ちゃんが立ち上がった。
「何か食べ物買ってくるけど、有希は何がいい?」
「香澄ちゃんと同じでいいよ」
「わかったわ。ちょっと行ってくるわね」
「いってらっしゃーい!」
香澄ちゃんを見送り、ぼんやりと会場を眺めていると、場内に華やかな実況の声が響き渡った。
『さあ! いよいよ始まります、ソロバトル予選・高校2年生の部!
1年生の時とは違い、今回は本格的な実戦形式での対決となります!
ですがご安心ください! リングの傍らには優秀なヒーラー陣が常時待機しております!』
『ルールはシンプル! 相手に「参った」と言わせるか
リングから叩き落とすか、あるいは相手の四肢を切断する!
これらの条件を満たせば勝利となります! ただし、殺害は厳禁です!
故意・事故を問わず、審判が危険と判断した場合は即座に介入し
介入された選手はその場で敗北となります! ご注意ください!』
実況が過激なルールを説明している間に
グラウンドの中央からゴゴゴと音を立てて4つの巨大なリングが迫り上がってきた。
(うわぁ……すごい仕掛けだなぁ……)
私が呑気に感心していた、その時。
「――有希か?」
横から、不意に声をかけられた。
振り返ると――そこには見覚えのない、一人の男の子が立っていた。




