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第123話:【不覚のチラリズム】

「有希、お待たせ」


部屋を出ると、待っていた香澄ちゃんが声をかけてきた。

そしてその隣にいた花梨ちゃんは、私服姿の私を見た瞬間

ガタガタと震え出した。


「ゆ、有希様ぁぁぁ……ッ!? なんという……なんという愛らしさですか!!

その可愛さはもはや凶器です! 破壊神です! ありがとうございます!!」

「あはは……熱狂的信者モードはほどほどにしてね……?」


千晶に半ば強制的に着替えさせられた露出度の高い私服に

落ち着かない心地を覚えつつも、私は気を引き締めた。

「2人ともすごく素敵だよ。それじゃ、訓練場に向かいましょうか」


歩き出しながら、私はふと不安になって香澄ちゃんに尋ねた。

「ねえ……この格好だけど、訓練場に行っても大丈夫かしら?」

「そこまで激しく動くわけじゃないんだから大丈夫よ。気にしないの」

「それもそうね」



ホテル敷地内にある訓練場に着くと、すでに大勢の生徒たちが汗を流していた。

そこへ、お出かけ用のオシャレをした女子3人が足を踏み入れた瞬間――。


ピタリ。


まるで時が止まったかのように、全員の動作が止まった。

『え……あの子たち何しに来たんだ?』

『一般の観光客の子かな……?』

『めちゃくちゃ可愛くないか……?』


周囲からそんなヒソヒソ声が聞こえてくるが

私たちは一切気にせず、訓練場の隅っこへと陣取った。


「さて、花梨ちゃん。今から教えるのは

 以前香澄ちゃんに教えたのとはまた別の魔法よ」

「えっ……! し、私だけの特別なやつですか……!?」

花梨ちゃんが狂喜乱舞して瞳を輝かせる。


「はいはい、喜ぶのは後。まずは私の手を握ってみて」


花梨ちゃんが恐る恐る私の手を握る。と、なぜか反対側にいた香澄ちゃんまで

「ついでよ」と言わんばかりに、もう片方の手を握ってきた。


(なんで香澄ちゃんまで握ってくるのかしら……? まぁいいわ)


「それじゃ、行くわよ」


私は静かに魔力を放出した。

体外へあふれ出た魔力を細かく操作し、周囲の一定空間にとどまらせて固定する。


「有希ちゃん、これは……?」

「以前、香澄ちゃんが変な連中に襲われて私たちが巻き込まれた時

私が見ないで遠距離援助したでしょ? あの時に使っていた空間探知術よ」


私の説明を聞いて、香澄ちゃんが納得したように頷いた。

「へえ……あの時はこういう風に見えていたのね。

……でも、これ私には無理だと思うわ。こんな精密な魔力操作

 とてもじゃないけどできない」

「私もです……自分の魔力を空間に固定するなんて無理ですよぅ……」

花梨ちゃんも気圧されたように首を振る。


「大丈夫よ。そこはあなたの『精霊』に手伝ってもらえばいいの」

「どうやってですか?」

「単純よ。自分の魔力を放出した後、精霊に

『この魔力の固定と操作をお願い!』って頼むの。

全部自分でやる必要なんてないんだから」


「そ、そうなんだ……! ちょっと聞いてみるね!」


花梨ちゃんはコクリと頷くと、ぎゅっと目を瞑ってぶつぶつと精霊への問いかけを始め出した。

……と、なぜか隣の香澄ちゃんまで目を瞑り、ぶつぶつと呟き始めている。


(あ、これ二人とも長くなりそうなやつね……)


私はため息をつくと、床の上にそのままぺたりと座り込んで待つことにした。



しばらくして、香澄ちゃんがふうっと息を吐いて目を開けた。


「なんとかできそうだわ。あとは練習あるのみね。ありがとう、有希」

「ふふ、どういたしまして」

「……あと、パンツ見えてるわよ」


「――っ!?」


私は跳ね起きるようにして、慌ててスカートの裾を押さえた。


「今更隠しても遅いわよ。周りを見なさい」

香澄ちゃんに言われて周囲を見渡すと

こちらを凝視していた男子生徒たちが、一斉にさっと視線を逸らした。


(なんたる不覚……!! 千晶が選んだこのスカート

 座ると丈が短くなるの忘れてたわ……!!)


私が顔を真っ赤にして悶絶していると、香澄ちゃんが呆れ顔で頭を振った。

「あなたはいつも無防備すぎるのよ。もっと気を引き締めないとダメでしょ」


そこへ、目を開けた花梨ちゃんが嬉しそうに声を上げて飛びついてきた。


「有希ちゃん、なんとかできたよ! これ、すごいね!

周りの動きや気配が手に取るようにわかるよ!」

「ふふ、おめでとう。これを鍛えて無意識で展開できるようになれば

強力な武器になるわ。がんばってね」

「ありがとう! なんだか決勝戦も行けそうな気がしてきた!」


花梨ちゃんがガッツポーズを作る。

その言葉を聞いて、私はふと思い立って尋ねた。


「そういえば決勝といえば、香澄ちゃんの予選の結果ってどうなったの?」

「ああ、翔先輩が昨日先生と掛け合ってくれたのよ。

各レースの上位3位までが決勝行き確定で、それ以下はタイム順になったって。

有希にも連絡のメールがいってると思うけど?」



「えっ」

スマホを取り出して確認すると、確かに通知が届いていた。


「昨日はそれどころ(グスタフ会長の呪い解呪)じゃなくてメール見てなかったけど

確かに来てるわ! さすが翔先輩ね、仕事が早いわ」

「香澄ちゃん、決勝行きおめでとうございます!」

花梨ちゃんが祝福すると、香澄ちゃんは少し照れくさそうに「ありがとう」と微笑んだ。


「それじゃ、行きましょうか」


私たちが訓練場を退室しようと歩き出すと――途端に

背後で止まっていた生徒たちの訓練が一斉に再開された。


部屋を出た後、香澄ちゃんがぽつりと言った。

「みんなの訓練、完全に止まってたわね」

「止まってましたねぇ……」

「ね。でも、私たちがいたって別に面白くもないと思うんだけど」


「単純に、あの無骨な訓練場にオシャレした女の子3人が入ってきて

場違いすぎて唖然としてただけでしょ」と香澄ちゃん。

「私は、有希ちゃんが可愛すぎて全員見とれていただけだと思います!」と花梨ちゃん。


それぞれ違う推論を出したが、最終的には「まあ、なんでもいいか」と3人で笑い合った。



「たまには歩いて競技会場まで行きましょ」

香澄ちゃんが提案する。


「さんせー!」

「買い食いね?」

「そうよ」

香澄ちゃんがニヤリと笑う。

「せっかくのお祭り騒ぎだし、暇な時くらい私達も楽しまないとね」


ホテルから会場までの道中、立ち並ぶ屋台で串焼きやらスイーツやらを

買い食いしながら、私たちはのんびりと歩を進めた。


会場に到着する頃には、ちょうど昼近くなっていた。


「今日の午前は1-2年生の競技だったはずよ。詳しい内容はわからないけど」

香澄ちゃんがスケジュールを確認しながら説明してくれる。

「で、今日の午後はメインイベントね。上級生のソロバトル予選!

VRを使わない実戦形式だから、年齢制限と親の承諾書が必要なガチのやつよ」


「へえ……うちは誰が出るのかな?」

「雄一先輩が出ますよ!」

私の問いかけに、花梨ちゃんが即答した。


それを見た香澄ちゃんが、ニヤニヤしながら花梨ちゃんの顔を覗き込む。

「へぇ〜? 最近、雄一先輩と仲が良いけど……実際どうなの?」


「も、もにょもにょ……っ」

花梨ちゃんは途端に顔を真っ赤にして、モジモジし始めた。

「……かっこよくて、気が利くし、強くて優しいですし……///」


「ふふ、応援しなくちゃね!」

「ええ、気合い入れて応援するわよ」

「ひ、ひえぇっ!? ちょ、ちょっと待ってください〜!」


慌てる花梨ちゃんの手を引いて、私たちは上級生の控室へと向かった。



目的の部屋の前につき、コンコンとノックする。

「入っていいぞー」

中から声が聞こえたので、ドアを開けて中に入った。


「応援に来ましたよー!」

私が軽く声をかけると、中で出撃準備をしていた雄一先輩が振り返った。


「調子はどうですか、先輩?」

「が、がんばってくださいっ……!」

香澄ちゃんに続いて、花梨ちゃんが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「おう! ありがとな! 3人も来てくれるとは嬉しいな!」

雄一先輩が嬉しそうに破顔すると、隣にいたサポート役の生徒が驚いたように声を上げた。


「珍しいですねぇ。雄一のところに人が来るなんて」

「えっ、他の人は来ないんですか?」

私が首を傾げると、サポート役の生徒がクスリと笑ってネタばらしをした。


「ソロバトルは出場者が多いからさ、他の奴が応援に来ても

『そんな暇があるならそっちの控室に行ってこいよ』って追い返してたんですよ」

「おい! 余計なこと言うな!」


雄一先輩は照れくさそうに頭をかきながら、ボソリと付け足した。

「……こいつらは、事前に来るって声かけてもらってたからいいんだよ」


その言葉に、花梨ちゃんの顔がさらに真っ赤に染まる。


試合開始までの残りわずかな時間。

控室の中には、どこか温かく和やかな時間が流れていたのだった。

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