第120話:【VS人体破壊級の呪い】
「それじゃ、始めますよ」
「ああ、頼む」
グスタフ会長の承諾を受け、私は静かに息を整えると
そっと彼の体に手を触れて魔力を少し通してみた。
――バチチチッ!!
「ッ――!?」
凄まじい衝撃と激痛が走り、私は思わず弾かれるように手を引いた。
「どうしたのかの?」
「……予想以上に手強いみたいですね」
私は引きつる顔を誤魔化しながら、心の中で冷や汗をかいた。
(……冗談でしょ!? ちょっと魔力を通しただけでこの拒絶反応!?
これは最初から全力でいかないとヤバいわね……!)
私は気合いを入れ直し、両手に【浄化】のスキルを宿しながら
もう一度慎重に診察を開始した。
今度は弾かれることなく魔力が通ったが――
グスタフ会長の体内の惨状を察知した瞬間、私は言葉を失った。
(な、なによこれ……!? これを耐えてるの……!?
前世でサリアが患者を治療してるとき
こっそり診察(覗き見)してみたことあったけど……ここまでのヤツはいなかったわよ!?
なんでここまでの呪いを受けて耐えられてるのよ、このおじいちゃん!?)
世界の長という肩書きは伊達ではないらしい。
(ダメ、雑念は捨てて治療に集中しましょ。
これはマジで本気でやらないと、私が死ぬわ……!)
グスタフ会長の全身に根を張り、蠢いている巨大な呪い。
私は全身の魔力を一気に解き放ち、室内の空気を震わせた。
「……それじゃ、治癒を始めますね!」
まずは外側から崩していくのが鉄則だ。
私は反時計回りに『左手・腕 → 左足・脚 → 右脚 → 右手・腕 → 頭 → 心臓』の
順番で呪いを削り取る作戦を立てた。
「まずは外側から……!」
左手から左腕にかけて、【浄化】の力と初期の回復魔法【ヒール】を流し込み
呪いを弱めようと試みる。
しかし――呪いは激しく抵抗し、私の回復魔法と真っ向から拮抗した。
(嘘でしょ!? 初期とはいえ【浄化】の力に対抗できるなんて
この呪い強すぎでしょ!?)
私は脳内で文句をぶちぶち垂れながら、魔法の出力を一段階引き上げた。
【ハイヒール】!!
強い光が左腕を包み込み、ようやく呪いの勢いが小さくなった。
すかさず、根源を断ち切る消滅魔法を叩き込む!
【バニッシュ】!!
ジュッ、と嫌な音を立てて左腕の呪いの根源が消滅した。
(ふぅ……これをあと5箇所。……耐えられるかしら、私の身体……)
冷や汗を拭い、次に左足・脚の治癒に取り掛かろうとした――その時だった。
『ほう……私の呪いを消すとは、なかなかやるではないか』
(っ!?)
脳内に直接響く、禍々しい謎の声。
次の瞬間、左脚にある呪いの根源が
意思を持ったかのように私へ直接攻撃を仕掛けてきた!
ドガァンッ!!
「ガハッ……!?」
思いもよらない体内からの不意打ち攻撃をもろに食らい
私は勢いよく血を吐き出して床に膝をついた。
「有希!?」「大丈夫かお嬢ちゃん!?」
神代会長とグスタフ会長の悲鳴のような声が上がる。
「……大丈夫、です……!」
私は口元の血を袖でゴシゴシと拭うと
自分自身に回復魔法をかけてダメージを強引に治し
再び立ち上がった。
(ふざけんじゃないわよ……! 治療者に直接攻撃してくるとか反則でしょ!!)
再び左脚に手をかざすと、またしても声が響く。
『また来たか。懲りないやつめ』
「二度も喰らうか音痴!!」
私は瞬時に【魔力防御】を展開し
根源からの衝撃波を完璧に防ぎ切った。
そのまま先ほどと同じ手順で根源を弱め
【バニッシュ】を打ち込む!
だが――バシィンッ! と呪いの防壁に弾かれた。
「嘘っ!? 【バニッシュ】を防がれた!?
学習してるなんて聞いてないわよ!!」
相手が即座に対策を立ててきたことに驚きつつも
私はすぐに次の魔法を練り上げた。
「それなら、これならどうよ!!」
【ハイバニッシュ】――!!
極大の消滅の光が左脚を貫く。
『ギョエェェェェッ!?』
根源が凄まじい雄叫びを上げて消え去った。
「よしっ! このまま右脚ね!」
間髪入れずに右脚の根源へ戦いを挑む。
『ほう……今度はなかなかやるようだな。少し本気を出すとしよう』
声を皮切りに、先ほどとは比べ物にならないほど攻撃が激化した。
しかも今度は――攻撃に『闇属性』が乗っている!
パシッ、ドカッ!
「くっ……痛たたたたっ!?」
属性乗せの攻撃が私の魔力防御を貫通し
ダイレクトに肉体へダメージを与えてくる。
(痛い痛い痛い! なんて根源なの!?
攻撃魔法に属性乗せてくるとかずるくない!?
しかも一番対処のしにくい闇属性とか、厄介すぎるわ!!)
脳内で全力の愚痴を叩きつけながら、
瞬時に自己ヒールをかけて防御をさらに厚く固める。
だが、相手も死に物狂いだ。
【ハイヒール】すら防がれて効かなくなってしまった。
「こうなったら、これよ!!」
【フルヒール】+【浄化】!!
最上位の回復と浄化の二重奏をぶつける。
「その魔力防御、厄介ね! でも……まだこちらは完全に負けてないわよ!!」
激しい攻防の末、右脚の根源を力押しで消し去ることに成功した。
間髪入れず、次は右手から右腕にある根源へ挑む。
「攻撃がさらに激化してくるはず……しっかり対策しないと私がヤバいわね」
自分自身にこれでもかと重層の防壁魔法を重ねがけし、治癒を開始する。
すると予想通り――今度は『複数の属性』が乗った
極彩色の攻撃が襲いかかってきた!
「ッ――!? 嘘でしょ!?」
思わず叫んだ。
(まさか……複数の属性を乗せた複合攻撃までできるなんて聞いてないわよ!?
こっちは【フルヒール】+【浄化】で弱めることしかできないのに
ズルすぎるでしょ!!)
文句を撒き散らしながら、激しい魔法の押し合いを展開する。
防御壁がメリメリと割れる音が聞こえる中、私は【バニッシュ】の
上位魔法を解き放った!
【ジャッジメント】――!!!
神聖なる裁きの光が右腕を焼き尽くし、根源を消滅させた。
その勢いのまま、頭にある根源へアタックを仕掛ける。
頭の根源は攻撃こそ激しかったものの
なぜか防御面はあまり変わっておらず、一気に【浄化】で押し切ることができた。
――だが。
今まで散らばっていた呪いのダメージが集約されたのか
中心――つまり『心臓』にある最後の根源が
とんでもない大きさに肥大化していた。
『私をここまで追い詰めるとは……なかなかやるではないか。
だが、こいつ(核)を消されるわけにはいかん。お遊びは終わりだ』
脳裏に響く冷酷な声と同時に
私の本能と直感が【絶対絶命】の警告アラートを激しく鳴らした!
(ヤバイ――ッ!!)
私は治癒を即座に破棄し、全魔力を防御へと回した。
直後、心臓から解き放たれたのは
部屋全体を吹き飛ばしかねない超絶怒涛の極大衝撃波だった。
ドドドドドドドドッ――!!!!
(なによこの攻撃!? 前世の魔王並の攻撃じゃないのよ!!
完全にあれ(神代会長の依頼料)じゃ割に合わないわ!!
なんでこんな化け物みたいな呪いを抱えてて
グスタフ会長は生きていられるのよ本当!!)
心の中で大惨事に苦情を言い立てつつも
同時にこの猛攻に耐え続けてきた目の前の老人へ
凄まじい尊敬の念が湧き上がった。
耐え抜き、一瞬の隙を見て【フルヒール】を叩き込もうとした――その時。
『それは見切っている』
「――え!?」
バチンッ!! と、練り上げた【フルヒール】が空間ごと掻き消された。
(うそ……回復魔法の無効化!?)
動揺したその一瞬の隙を突かれ、貫通した衝撃波が私の胸を強く撃ち抜いた。
「グッ……!!」
身体の奥底から込み上げる激痛と苦痛を噛み殺す。
次の瞬間、視界がぐらりと揺れた。
(やば……もう、肉体の限界っぽいわね……)
意識が途切れかける感覚の中、私は最後の残存魔力を全て絞り出した。
選んだのは――持続回復の上位魔法(リジェネレーション系)に【浄化】をかけ
さらにそこへ【フルヒール】を同時に重ねるという、超高負荷の禁忌技。
「……さすがに、これなら防ぎきれないでしょうよ!!」
ヤケクソ気味に捨て台詞を吐き捨て、その極大複合魔法を心臓の根源へと叩きつけた!
『な、なんだこの怒涛の重圧は……!? ぬぐっ……なかなかやるな……!』
根源が必死に防ごうとするが、圧倒的な回復と浄化の濁流がそれを呑み込んでいく。
『だが、まだ負けたわけではないぞ……誰だか知らんが、探し出してやる……!』
「最後だあああぁぁぁっ!!【ジャッジメント】―――!!!!」
残った全魔力を注ぎ込んだ一撃が、根源の核を真っ二つに引き裂いた。
『ギョエエアアアアアアッ―――……』
負けを認めた根源の悲鳴と共に
グスタフ会長の体を蝕んでいた巨大な呪いが、跡形もなく消え去っていった。
(……ふぅ、やっと……終わった……)
完全に呪いが消滅したことを確認した瞬間――。
全身の緊張と糸がプツリと切れ、私の視界は真っ暗な闇へと落ちていった。




