第118話:【世界トップの魔力指導】
フランス覚醒者協会の一団が去った後
私は隣に立つ香澄ちゃんをツンツンと小突いた。
「香澄ちゃんも、あの護衛の女の人と随分仲良くなってたね?」
「……誰かさんと同じように、主人の世話を焼く苦労を分かち合っただけよ」
香澄ちゃんは遠い目をしながら溜息をついた。
「そっかそっか、よかったね!」
「私にこれ以上、無駄な苦労を掛けないようにしてほしいんだけどね」
「あはは! それは無理かな!」
私が清々しいほどの笑顔で元気に即答すると
香澄ちゃんから本日特大の深いため息をつかれた。
「さて、ワシらも行くぞ」
挨拶回りを終えた神代会長が声をかけてきた。
「どこへ行くんですか?」
「親友であり、英雄であり、そしてワシの『恩人』でもある男のところだ」
「はーい」
私が軽く返事をすると、会長は歩きながら説明してくれた。
「ワシと個人的に仲が良いこともあり
今では覚醒者の相互交流まで行っている国だ。先日、わざわざ日本へ来日していてな。
何か『目的』があって来たようだが……まあ、挨拶に行こう」
ふーん、と相槌を打ちながら会場の奥へと進む。
目的の席に到着すると、そこには車椅子のような豪奢な椅子に深く腰掛けた
白髭の老人がいた。
「最近はどうだ、グスタフ」
神代会長が声をかけると、老人は座ったままゆっくりと顔を上げた。
「……まだまだ若いもんには負けんと言いたいところだが
さすがに身体がきつくてな。そちらは以前より随分と元気そうじゃないか?」
「ああ、お陰様で病気がだいぶ良くなった」
(病気……ああ、私が以前【ヒール】で治してあげた『魔王の呪い』のやつね)
私が内心で思い返していると、グスタフと呼ばれた老人は目を見開き、身を乗り出した。
「本当か!? あの不治の……!」
「ゲホッ、ゴホッ……!」
興奮のあまり激しく咳き込む老人に、神代会長が手で制する。
「おいおい興奮するな。その話は後でじっくりしてやる。今はこいつらの紹介だ」
そう言って、会長は私と香澄ちゃんを前に出した。
「紹介しよう。この方がスウェーデン覚醒者協会会長であり
世界の覚醒者協会を束ねる長でもある、グスタフ・ベルグ氏だ」
世界の長……! またとんでもない大物が出てきたわね。
私たちが礼儀正しく挨拶をすると、グスタフ会長は目を細めて私をじっと見つめた。
「……娘さん。ものすごい圧(魔力)だな。身体、しんどいだろう?」
「えっ」
私は驚いて目を丸くした。
「……よく、分かりましたね」
「これでもワシは『魔力眼』を持っているのでな。
だが、お主ほどの異常な魔力持ちを見るのは初めてだ。
……勲、お前さん随分といい弟子を持ったな」
「手がかかるがな」
神代会長が苦笑する。
グスタフ会長は優しい声で私に語りかけた。
「身体がしんどいのは、魔力の循環のやり方と
使い方の効率に問題があるからだ
。魔力制御とかは、誰かに教わったことはあるのか?」
(うーん……前世で異世界に召喚された直後、お城の魔法使いに少しだけ基礎を教わった程度なんだけど……)
「いえ、ほぼ独学です」
私がそう答えると、グスタフ会長は深く頷いた。
「だろうな。どれ、ワシが少し教えてやろう」
「えっ、いいんですか?」
「うむ。まず、お主の外側を覆っている大量の魔力のう
、一番外側の層を体の中に入れろ。そして、心臓から血管を通り
各臓器を巡らせて、また心臓へと戻すんだ」
言われた通り、私は外に漏れ出ている魔力の一部をグッと自分の中に押し込み
血液の流れに乗せるようにして全身の臓器を巡らせてみた。
「それができたなら、次は各細胞へ魔力を送り、そこに魔力を溜めてみろ」
「はい」
と答え、私は言われた通りに魔力を細胞に少しずつ溜めて
体の外側の魔力の層を薄くする。
「できました。次は?」
「もうできたのか?」
グスタフ会長が少し戸惑いながらも続ける。
「そのあとは、心臓に魔力を回転させておくのじゃ。
それができたら、血管の周りや細胞等、色々な場所に魔力を纏わせるんだ
。……注意するのは、細胞一つ一つに『限界』があるということじゃ。
その限界を知り、外側を覆っている過剰な魔力層を薄くすることによって
自分にかかっている魔力圧が弱まり
身体が随分と楽になるはずじゃ。今と違ってな」
「なるほど、こういう感じですね」
(というかこの体の弱さは私のせいだったのね!?)
とショックを受けつつ
私は言われた通りに、細胞の隅々にまで魔力を纏わせてみた。
(おっと、これ以上やると耐えきれなくてヤバイな)という直感が働き
適度なところでストップをかける。
「……これくらいですね。ありがとうございます、グスタフ会長。
身体が今までにないくらい軽くて楽になってます!」
私がお礼を言うと、グスタフ会長は驚愕の表情を浮かべた後
ワハハと大きな声で笑い出した。
「勲! 本当にいい弟子だな! 言葉だけで教えた魔力循環を
たった1回で、しかもこの短時間で完璧に成功させたのは
流石のワシも初めて見たぞ! お前も昔から魔力操作は上手かったが
それ以上とは思わなかったわ!」
「そうだろう? ワシの弟子は優秀だ!……と言いたいところだが
正直ワシも今の吸収力にはビックリしとる」
神代会長も冷や汗をかきながら笑う。
「それにしても勲、こんな基本の魔力循環も教えておらんとはな」
「いや……まさかこれほどまでに魔力が多いとは、ワシも思ってなかったんだ……」
神代会長が苦しい言い訳をした。
「まあいい。ワシの弟子も紹介しよう」
グスタフ会長が視線を向けると、隣に静かに座っていた金髪の端正な男子がスッと立ち上がった。
「グスタフ様の弟子を務めております、カイト・コリウスです。
皆様、本日はよろしくお願いします」
カイト君は丁寧に自己紹介をした後、神代会長と橘さんに熱い視線を向けた。
「神代会長、そして橘様の武勇は、遠くスウェーデンにまで聞き及んでおります。
是非いつか、私にもご教授をお願いしたいのですが」
「ふむ、いいだろう。ワシが直々に稽古をつけてやろう。
グスタフがワシの弟子に教えてくれたんだ。
ワシもグスタフの弟子に教えてやらねば義理が立たんからな」
「ありがとうございます!」
カイト君が嬉しそうに深々と頭を下げる。
「グスタフ、いい弟子だな。礼儀正しく、向上心がある。
まったく、ワシの弟子にも見習ってほしいくらいだ」
神代会長がわざとらしくため息をつく。
「だってさ、香澄ちゃん」
私が香澄ちゃんの肩を叩くと、
「あなたのことよ、有希」
と、即座に冷たいツッコミが飛んできた。
(それにしても……このカイトって子
さっきから私に対して微妙に『敵意』みたいなものを向けてきてる気がするんだけど……
気のせいかな?)
私はあえて気づかないフリをしてスルーすることにした。
「それで勲、さっきの『病気(呪い)』の件だが……」
「ああ、その件については……これだ」
神代会長は懐から一枚の紙を取り出し、ペンで何かを書き込んでグスタフ会長に渡した。
(呪いの解呪に私が関わっていることは国家機密級の秘密なので
周りに聞かれないように筆談に切り替えたらしい)。
老人と筋肉ダルマが、顔を寄せ合って紙にカリカリと書き連ねていく。
(うわぁ……あの筆談、長くなりそう。どうしようかなぁ)
私が手持ち無沙汰にしていると、スッとカイト君が近づいてきて、声をかけてきた。
「――君は、『五十嵐剣斗』って知っているかい?」
「えっ」
(五十嵐剣斗?……ああ、あの『元・俺の身体』だった
勘違い勇者のアイツか)
「えっと……あるトラブルで
1度だけダンジョンを一緒に脱出することになっただけで、よく知らないわ」
私が正直に答えると、カイト君の瞳がスッと細められた。
「……じゃあ、君は剣斗の恋人とかじゃないんだな?」
「ちがうわよっ!?」
私は全力で首を横に振った。
「恋人どころか、むしろ向こうから勝手に勘違いして声をかけてくるから
大迷惑してるくらいよ!」
「……なるほど。変な質問をして悪かった」
カイト君はホッと息を吐き、謝罪してきた。
「いいのよ」
(……ん? 今、彼から放たれていたかすかな敵意が完全に消えたわね)
私は内心で首を傾げた。
(この質問に、一体何の意味があったの?
カイト君が五十嵐剣斗を気にする理由……
まさか、アイツ、スウェーデンでも何かやらかしたの!?
わけがわからないわ……)
私が考え込んでいると、カイト君がさらに身を乗り出してきた。
「その、五十嵐剣斗について、何か知っていることはあるかい?」
(やけにアイツにこだわるわね……)
「知ってるのは……あいつの他に
2人の女の人とパーティを組んでることくらいよ。
一人は妹みたいだけどね。もう一人の女の人は、
私にはよくわからないかな」
「そうか……! ありがとう! 貴重な情報を感謝する!」
カイト君はパァッと顔を輝かせた。
「君は、剣斗とはもう会う気はないのか?」
「ないわね。会うとしたら偶然くらい。もし街で見かけたら
私はダッシュで逃げるか隠れるわ」
「……そうか! 本当にありがとう!」
カイト君はなぜか物凄く嬉しそうに何度も感謝してきた。
(マジでなんなのこの子……。五十嵐剣斗の妹のファン?
それともアイツに何か恨みでもあるの?)
カイト君と謎の問答をしている間に
神代会長たち二人の紙による極秘会話が終わったようだった。
会長が紙を燃やして灰にし、立ち上がる。
「よし、じゃあワシらはそろそろ行くとする。グスタフ、また後でな」
「うむ。勲も無理はするなよ」
私たちはグスタフ会長とカイト君に一礼し、その席を離れたのだった。




