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第115話:【魔族の密談】

第115話:【魔族の密談】


「――首尾はどうだ?」


暗い空間に、枯れたようなしゃがれ声が響いた。

闇の中から現れたのは、ボロボロのローブを纏った骸骨の魔物――リッチだった。


「あら、あなたが作戦の進捗を気にするなんて珍しいわね。

いつもは何も考えずに力押しして、こちらの作戦を台無しにしているのに」

妖艶な笑みを浮かべ、艶やかな声で皮肉を返したのはサキュバスクイーンである。


リッチは骨の鳴る音を響かせながら、淡々と答えた。

「……前回の実験で、あの圧倒的な戦力差を覆されている。

だから今回は、お前の作戦に従うことに決めたのだ」


「ふふっ。いつもそうやって素直に従ってくれたら楽なんだけどね」

サキュバスクイーンは余裕の笑みを崩さず、長い爪で自らの唇を撫でた。


「私の手駒たちを会場に徘徊させて、第1段階は成功よ。

ただ、偵察に気づかれたのか、一部の『ネズミ』に後を付けられたくらいね」

「ネズミだと?……相手は誰だかわかるか?」

「さあ? 相手も相当な手練れだったようで、正体まではわからなかったわ。

気配の消し方からして、S級クラス以上のやつでしょうね」


サキュバスクイーンは肩をすくめ、話を続ける。

「警戒されたかもしれないから、作戦実行の日は少しだけずらすことにするけど、いいかしら?」

「……わかった。こちらも、その間に戦力を増強しておこう」


「ふふっ、拍子抜けするくらい素直ね」

サキュバスクイーンは小さく漏らすと、ヒールの音を響かせながら、再び深い闇の中へと消えていった。



一方その頃。

俺――剣斗けんとは、最高に絶好調な日々を送っていた。


(ふふっ……ついに俺の時代が到来したな)

冒険者ギルドのロビーの長椅子に深く腰掛け、俺は悦に浸っていた。


思えば、少し前。妹の瑠奈るなが急に「私をパーティに入れてほしい」と

言ってきた時は、さすがに耳を疑ったものだ。

昔から俺に対して皮肉を言うか、口うるさく小言を言うだけだったあの妹が

わざわざ頭を下げて(※剣斗の脳内フィルター)懇願してきたのだ。

これは間違いなく、俺の『カリスマ性』が妹にも伝わった証拠である。


その後、高橋有希とかいう激かわな女子覚醒者を見つけたため

「俺のパーティに入れてやろう」と寛大な心で誘ってやったのだが……

あいつは生意気にも断りやがった。

あれはマジで気に入らないが、まあ俺のパーティには凛華と

妹の瑠奈がいる。これ以上美少女を侍らせると周りのやっかみがうるさいし

ちょうどいいかと気を取り直すことにした。


そして何より、先日の『ゲート封鎖事件』だ。

あの事件での俺の凄まじい活躍のおかげで、俺様は一躍世間の時の人となったのだ!

現在の冒険者ランクはまだ『C』だが、あれだけの大立ち回りを見せたのだ。

ギルドが俺の実力を正当に評価し、近いうちに勝手にランクが跳ね上がると踏んでいる。


「お待たせ、お兄ちゃん」

俺がふんぞり返っていると、ギルドの受付でパーティの申請手続き等を

してくれていた瑠奈が戻ってきた。


「おう、ご苦労」

「お兄ちゃんは『時の人』で有名人なんだから

あそこでふんぞり返って待っていればいいよ」と瑠奈に言われたため

俺は言葉通り、足を組んで優雅に待機していたのだ。

すると案の定、俺の圧倒的なオーラに引き寄せられたのか

周りの新米冒険者たちが「あの剣斗さんですか!?」「ぜひアドバイスを!」と群がってきた。


気を良くした俺は、「いいだろう」と彼らに

冒険の極意や剣の振り方を指導してやった。

「ありがとうございます! 一生ついていきます!」

「さすが剣斗さんだ!」

感謝されまくって、尊敬の眼差しを向けられる。


(これだよ……! 俺が求めていた人生はこれよ! 転生して本当によかったぜ……!)

俺が感動に打ち震えていると、瑠奈が群がる連中に

「すいませーん、そろそろ行くんで」と適当に挨拶をして散らし、俺を急かした。


「じゃ、ダンジョン行くよ」

「おう」

俺たちは連れ立ってダンジョンの入り口へと向かった。


その道中、瑠奈がふと尋ねてきた。

「ねえ、パーティメンバーって、まだ増やす気あるの?」


俺は少し考えてから答えた。

「まあ、あと1人くらいは後衛か盾役がほしいところだが……

無理して増やそうとは思ってないな。いざとなれば俺様一人がいれば事足りてるしな」

「ふーん……」


瑠奈は抑揚のない声で相槌を打ち、「私は必要ないと思うけどな」と付け足した。

「なんでだ?」

「変に有象無象が入ってきて、お兄ちゃんの足を引っ張ったりする連中も

これから絶対増えるよ? 心当たり、あるでしょ?」

瑠奈がジト目で俺を見上げてくる。


(心当たり……そうだな)


俺は『前世』の記憶を思い返した。

前世の異世界では、権力闘争や名声目当ての足の引っ張り合いが日常茶飯事だった。

軍の連中や腐った貴族たちが、勇者である俺たちに因縁をつけてきては

手柄を横取りしようとしてきたのだ。

だからこそ、俺たち勇者パーティはどこかの国や組織に所属せず

単独の独立パーティとして魔王討伐の旅に出たんだったな。


「……確かにあるな。名声が高まれば、そういう鬱陶しい輩も寄ってくる」

俺が深く頷くと、瑠奈は満足そうに小さく頷いた。


「だから、『この世界』の人って

そういう面倒を避けるために自分の実力を【隠す人】が多いから。

お兄ちゃんも変な人を入れないように気をつけたほうがいいよ」


(なるほど。確かにそういう生き方もあるのか。だが、俺様は隠しきれないからな!)

「ふーん。わかった。肝に銘じておくわ」


俺は妹の忠告を軽く受け流し

堂々たる足取りでダンジョンのゲートへと足を踏み入れていくのだった。

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