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第114話:【憧れの銃使い】

練習室へ向かう香澄ちゃんたちと別れた後

私は神代会長たちのいる部屋へと向かっていた。


大会の序盤は1年生が出場する種目がメインとなっている。

そのため、一応生徒会に所属してしまっている私は

そのまま目的地へ直行するわけにもいかず

途中にある1年生の控室に顔を出しては応援をして回っていた。


(この後の競技は、たしか『スナイプコンバット』だったはずね)

スナイプコンバットは、フィールド上の障害物を狙撃などで壊してポイントを稼ぎつつ

同時に相手への妨害や撃破も行う競技だ。相手を倒すこと自体は必須ではなく

あくまで『いかに的確に狙撃で障害物を排除できるか』がメインとなる。


ノックをして控室に入ると、そこには3人の生徒が真剣な顔で作戦会議をしていた。

これから競技に出場する1年生の男子選手が1名。

そして、サポートにつく同級生の1年生が1名と、上級生の先輩が1名という構成だ。


こちらに気がついた3人が挨拶をしてきたので、私も愛想の良い完璧なスマイルで挨拶を返す。


「あ、高橋さん。ちょうどよかった。銃を使っている高橋さんにも

こいつに少しアドバイスをもらいましょうか」

サポートの上級生がそう切り出してきた。


「アドバイス、ですか? 何のことでしょう?」

「実はこいつ、どうしても狙いが上手くつけられないみたいで。

高橋さんに憧れて『短銃を2丁』使ってるんですけど

高橋さんみたいに上手くいかないって悩んでて……」


言われて、当の本人である1年生の出場選手を見ると、情けなく肩を落としている。

私はふむ、と頷いて口を開いた。


「無理して私みたいにする必要は、ないと思いますよ?」

「えっ?」


「私だって、あれに慣れるためにかなりの時間をかけてますから。

それだったら、長銃(アサルトライフルや狙撃銃)で連射したり

しっかりと腰を据えて撃った方が絶対にいいと思います。

私はあくまで『サポート特化』の役割なので、機動性重視で短銃を使っているだけなんですよ」


私が実用的な観点から説明すると、悩んでいた1年生はハッとして顔を上げた。

「そ、そっか……長銃でもいいんだ……!」


「ええ、問題ないと思います。

要は、どんな状況でも『自分が安定して当てられるもの』だったら

なんでもいいんですよ。使っていてキツいと思ったのなら

単に向いていなかっただけだと思います」


私のアドバイスを聞いて、1年生は少し考え込んだ後

決意を固めたように顔を上げた。

「じゃあ……俺、長銃に変えようかな!」


「ちょっ、お前時間なくないか!? あと少しで開始だけど大丈夫なのか!?」

サポートの同級生と上級生が慌てて聞き返す。


「大丈夫です! 実は、長銃と短銃、二つとも並行して練習していたんです。

高橋さんに憧れて短銃を使ってたんですが、先ほどのアドバイスで長銃に決めました!」


スッキリした顔で宣言する1年生を見て、私もなんだか嬉しくなってしまった。

「いつか、私と銃コンビでパーティ組みましょうね」

「はいっ! お願いします!」


(……あ、しまった)

私は笑顔で言い切った直後に、内心で激しく後悔した。

ついうれしくなって、絶対に面倒くさくなる余計な一言を言ってしまった。


私が内心で頭を抱えている間にも、時間が少ないため

その1年生は慌ててVRの武器セッティングを始めた。

邪魔をしては悪いので、私はそっと退室した。



その後、ようやく目的の会長のいる部屋に到着した。

ノックをして入ると、神代会長と橘さんが待ち構えていた。


「来たか、有希。顔合わせは【今日】だ」

「…………はい?」


神代会長の唐突な言葉に、私は思わず素のトーンで聞き返した。

「なんでそんな大事なこと、もっと早く言わないのよ?」

「忘れていた! がはははっ!」


私は深々とため息をついた。

「今日の『夜』でいいのよね?」

「そうだ。ただの夕食会だ」

「ただの夕食会なら、まあいいわ……」


私が安堵したのもつかの間。

橘さんが、奥から【フリルとレースがふんだんに使われた、まるでドレスみたいな服】を

持ってきた。


「……また?」

私の顔が盛大に引きつる。


「諦めろ。お前がその優れた容姿で生まれた以上、こういうことには慣れろ」

神代会長が腕を組んで頷く。


(前世でサリアが、パーティーを嫌がっていた理由がよくわかるわ。

身をもって体験すると、本当に嫌になるわね、これ……)

私が絶望していると、橘さんが【もう1着のドレス】を渡してきた。


「え、これは香澄ちゃんの?」

私は、事前に『護衛』として香澄ちゃんの名前を伝えてあった。

「その通りでございます。用意していないと思いましたので

こちらで用意させていただきました」

「……ちなみに、これ誰が選んだの?」


「動画撮影の際にお世話になった女性スタッフの方々が

喜々として選んでいらっしゃいました」

「あー……あの人たちかぁ……」


着せ替え人形にされた過去を思い出し、私はしぶしぶドレスを受け取った。

(とりあえず、香澄ちゃんに連絡しておこう……)



憂鬱な用事を終え、私は千晶ちゃんが待つ医療室へ戻るため、会場内の廊下を歩いていた。

――その途中。


前方に、異様な雰囲気を纏う数人の集団がいることに気がついた。


(……何、あの人たち)

不審に思った私は、壁の陰に隠れながらスマホで彼らの写真を撮り

橘さんにメールで送信した。そして、そのまま音を殺して彼らの後をつける。


角を曲がり、少し歩いたところで。

ピタリと、不審者たちが立ち止まった。


(……気づかれたわね)


前世(軍隊や魔族領土への潜入任務)で培った経験

。そして、お母さんからの地獄の特訓で練度が限界まで上がっている私の感覚が

相手の警戒を手に取るように感じ取っていた。

ついでに、気づかれない程度に微量の魔力を空気中に流して探りを入れる。


(……動かないわね。しかも、じっとこっちを見てる。少し距離を取りましょう)


私は踵を返し、自然な足取りで来た道を引き返した。

怪しい連中を少し距離を取りつつ尾行してみたが

彼らは会場内をぐるりと回るだけで何もせず

そのまま会場を後にして去っていった。


「何もしてこなかったけど……あの連中から漏れていた魔力……」

私は彼らが消えた出口を見つめ、小さく呟いた。


「人間の魔力と混ざり合ってはいたけど……『魔族の魔力』も混ざっていたわね」


前世で幾度となく対峙した、あの忌まわしい魔力。

(何もないといいけど……)


私は微かな胸のざわつきを感じながら、千晶ちゃんの待つ医療室へと向かった。


――しかし、この時の私は気づいていなかった。

あの怪しい連中が、会場の壁の目立たない場所に

かすかな魔力を持った『印』を残していったことに。

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