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第113話:【精霊の覚醒】

「おらおらおらぁッ! 今度は俺から行くぜぇ!!」


魔力を身体に纏わせた相手が、一気に距離を詰めて突っ込んできた。


(くっ……! 予想よりもだいぶ速い……!?)


予想以上の踏み込みに、私の対応が少し遅れてしまう。

ギリギリで槍の柄を滑らせて剣を受け止めたが、体勢を崩しかけた。


「そらそら! その程度かよエシュ学園生様よぉ!」

ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべ、煽り倒してくる相手。


(落ち着け、私……! 挑発に乗っちゃダメ!)


私はぐっと歯を食いしばり、必死に対処していく。

翔先輩が集めてくれた裏データにも書いてあった通り

こいつのスタイルは『煽って心理的に動揺を誘ってくる戦法』だ。

戦い方は基本に忠実で、カウンターを的確に狙ってくる。

そしてそれが無理なら魔法中心の攻めに切り替えてくると書かれていた。


相手は勢いよく攻めてきてはいるものの、雄一先輩の言う通り

落ち着いてよく見ていれば十分に対処できるレベルだった。


(それに、相手の放ってくる魔法も、私の火属性の下級精霊ちゃんが

 裏で自動で相殺してくれてるしね!)


相手が気づかないところで、私の精霊が魔法を相殺してくれている。

だけど私は、それを相手に見せないために

『自分が自力で相殺している』ように見せかけて涼しい顔を保っていた。


「チッ……無詠唱とかで魔法を打ち消せるから

精霊としっかりコンタクトでも取ってるのかと思ったが

お前の動きを見る限りそういうわけでもなさそうだな。

ただの魔力押しか!」


相手がペラペラと自信満々に喋り散らかしてくる。


(……そろそろ黙らせてあげる)


「――そろそろ、黙ったら?」


私の鋭い一突きが空を裂いた。

不意を突かれた相手の一部を捉え、傷を負わせることに成功する。


「なっ……!?」

傷を負わされたことで動揺したのか、相手の攻撃が一気に荒くなってきた。


(……あ、私も最初こんな感じだったのかな)


自分のさっきの失敗を内心で振り返りつつ

大雑把になった相手の隙をついて着実に攻撃を加える。


「くそっ……!」

相手は自分が不利だと悟り、一旦大きく後ろへと下がった。


(今だ! 追い込みどころ!)


ここが勝機だと感じた私は、一気に追撃に入るべく踏み込んだ。

――その瞬間。


「……待ってたぜッ!!」


相手の口元が醜く歪んだ。

後ろに下がったのは罠だった。いつの間にか溜めていた魔力で

相手は特大の魔法を放ってきたのだ!


(しまっ――まず……ッ!)


迫りくる特大魔法の光。

回避も防御も間に合わない。敗北を確信した、まさにその時――。


『まだ負けてないよー!!』


頭の中に、幼くも力強い声が響いた。

ドクンッ!と自分の魔力が大量に引き抜かれる感覚がした直後

私の全身に凄まじい炎が現れる!


『そのまま突っ込んで!!』

「――押し通すっ!!」


「ハハハ! 馬鹿が突っ込んでき――え!?」

特大魔法を炎で押し破って突っ込んでくる私を見て、相手の顔が引きつる。


「それはどうかなぁぁッ!!」


ドスッ……!!

私の槍が相手の胸元に深く突き刺さり、致命傷を与える。

相手の体はそのまま青い光となって消え去った。


『――試合終了! 勝者、風間花梨!』


ブザーの音と共に緊張が切れ、私はその場に座り込んだ。


『次の試合は15分後です』


息を整えながら、私は心の中にいる声の主に話しかけた。


(さっき声をかけて助けてくれたのって、炎の子の方ね? 助けてくれてありがとう)


『ふんっ! べ、別に負けるのが嫌だっただけだし!』

(くすっ……助かったわ。今後もよろしくね?)

『当然よ! 私の契約者なんだから、負けは許さないんだからね!』


(もちろんよ!)と返すと、頭の中から満足そうな声が聞こえてきた。



『それでは、第2戦を始めます』


アナウンスが流れ、次の試合が始まった。

その後も勝ったり負けたりを繰り返しながら

泥臭く白星を重ねていき――ついに【5勝】になった瞬間、デバイスに通知が届いた。


『規定回数勝利したため、決勝進出です。

おめでとうございます。VRを退出し、控室にお戻りください』


「やった……!」

私は喜びを噛み締めながら、VRカプセルからログアウトした。


控室に戻ると、そこには我が神(有希ちゃん)と雄一先輩が待っていた。


「決勝進出おめでとう!」

「よくやったな、花梨」


「えっ、なんで知ってるんですか?」

「控室のテレビに、決勝進出確定者の名前が並んでたんだよ」


モニターを指さす雄一先輩に、私は少し照れくさそうに呟いた。

「結構ギリギリだったんだ、私……」


「仕方ないさ。相手だってこの日のために色々鍛えてきたんだからな。

手札を大量に隠したまま決勝に行けたなら、十分いい成績だと思うぜ。

……ただ、少し手札を隠しすぎだとは思うがな?」


「うぐっ……手札を隠すというか、精霊の声が聞こえるようになったので、その連携を強化するために実戦で練習してて……」


私がもじもじと言い訳をすると、雄一先輩はため息をついた。

「はぁ……練習はいいが、負けたら元も子もないんだぞ。言わないこっちも悪いから強く責めはしないが、今後はそういう無茶は控えてほしいな」

「はぁ〜い……」


しょんぼりする私に、有希ちゃんが助け船を出してくれた。

「まあ、勝ったんだから良いじゃないですか。

最後の方は動きが格段に良くなっていましたし。

花梨ちゃんも随分と精霊さんと連携が取れるようになったんでしょ?」


「その通りです! あとは有希ちゃんへの信仰を一緒に育むだけです!」

「あ、それは遠慮しておこうかな……」

有希ちゃんに苦笑いされる。


雄一先輩がふと有希ちゃんに尋ねた。

「有希は、花梨が負けそうになったらどうするつもりだったんだ?」

「インカムを通してアドバイスをするつもりでしたよ。

でも、そんな心配のないくらい安定した戦いをしてたので、必要ありませんでしたけど」


有希ちゃんはケロリと言いのけた。

「今までインカムを鳴らさなかったのは?」

「なんか練習してるのが分かったから

 そっとしたおいただけよ。負け数の境界線は、把握してるし。」


(有希ちゃん、やっぱり気づいて見守ってくれてたんだ……!)


その後、他愛のない雑談をしながら着替えに向かい

制服に着替えてから3人でロビーで話をしていると

雄一先輩がスマホを見て立ち上がった。


「わりぃ、この後俺、別競技のサポート入ってるから」

「連続とは忙しそうですね……」

「どうってことないよ!」

雄一先輩は爽やかに笑いながら、人混みの中へ消えていった。


「今日は私たちはもう試合はないけど、どうする?」

「私は少し練習してこようかな」

私が呟くと、横から香澄ちゃんが会話に入ってきた。

「じゃあ、付き合おうかしら?」


「香澄ちゃん、いいの!?」

「もちろんよ。私にとっても練習になるしね」


「私は行くところがあるから、パスさせてもらうわね」

有希ちゃんと別れ、私と香澄ちゃんは2人で練習室へと向かった。

そして、翌日の決勝に向けて、二人でVRでの練習を繰り返すのだった。

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