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第111話:【向上心の塊な先輩】

午後からのソロバトルに向けて、花梨が動きやすい専用のバトルスーツに

着替えて控室に入ると、そこにはすでに腕を組んで待機している人物がいた。


「あれ? 雄一先輩、早いですね」

私が声をかけると、エシュ学園の2年生エースである雄一先輩は真面目な顔で頷いた。

「流石に、サポートにつくなら事前に来て準備しておかないとな」


雄一先輩の顔を見た花梨は、「先輩、わざわざありがとうございます!」と

嬉しそうにパッと笑顔を咲かせた。


「でも先輩、自分も明日の代表選手として登録しているのに

他の人のサポートまでやるなんて大変じゃないですか? 休んだ方がいいんじゃ……」

私が素朴な疑問をぶつけると、雄一先輩はフッと笑った。


「確かに体力や時間を削られるから大変だが、サポート業務には色々と

 『利点』があるんだ。まずは後方からの指示の出し方を学べるし

指導のやり方や選手の励まし方など、精神面のコントロールの勉強にもなる」

「はえー」


「それに、他校の情報収集や立ち回りを間近で学べるのも大きい。

さらには『裏方も回せる』とギルドにアピールできるし

他校の生徒や運営とのコネクション(伝手)も広がる。

これだけでも十分すぎるほど大きなメリットだ」

「……向上心の塊だぁ」

私は、眩しすぎる先輩のモチベーションの高さに心底感心した。私なら絶対にやらない。


「それに、サポートに入った生徒にも【成績加点】があるからな。

自分が担当した出場選手が勝てば、サポート側にもポイントが入るんだ。

その点数が多ければ、後で学校から貴重な魔道具やスキル書のなんかを優先的に購入できる。

だから、みんな自分の試合がなくても、学校の点数集めに必死なんだよ」


「へー、そうなんですね。魔道具が買えるなんて、初めて知りました」

私が呑気に手を叩くと、雄一先輩が深々と深海魚のようなため息をついた。


「お前なぁ……そういう学校の基本システムくらい

少しは調べておいた方がいいぞ? そのぐうたらな性格、将来絶対にヤバいからな」

「あはは、必要最低限のことは調べてるんですけどねー」

私はニコニコと笑って適当に受け流した。


「はぁ……まあいい」

雄一先輩は気を取り直し、花梨に向き直って本題を切り出した。


「いいか花梨。今回はソロバトルだが、1年生の部はVR空間での戦闘だ。

怪我のリスクはないから思い切りやればいい。一定回数勝てばその時点で決勝進出が決まる」

「はい!」


「ただ、一つ注意点がある。予選で自分の持つ『手札(スキルや魔法)』を出しすぎると

決勝で圧倒的に不利になる。強豪校の連中は、予選のデータから瞬時に対策を練って

決勝の動きを変えてくるからな」

「う……」

雄一先輩の解説に、花梨は眉をひそめて悩んだ。

「じゃあ、どうすればいいんですか? 手札を隠しすぎて

出し惜しみしたせいで予選落ちしたら本末転倒ですし……」


「そこで活躍するのが、これだ」

雄一先輩は自信ありげに、数枚の紙の束を取り出し、私と花梨に一枚ずつ渡してきた。


(……なるほど。そういうこと。納得)

私は紙に書かれた内容を見て、ニヤリと笑った。


「これ……【私のデータ】ですか? これは一体どういう……?」

花梨は紙に書かれた自分のスキル構成や戦闘スタイルを見て、目を丸くしている。


「そう。それはお前のデータだが……【すでに他校の連中に出回っているやつ】だ」

「えっ!?」

「つまり、この紙に載っている魔法や戦術は『すでに他校にバレている』から

隠す意味がない。予選ではこれを好きに使いまくっていいってことだ。

そして、ここに載っていない技は、追い詰められた時に一つ一つ手札として公開していけばいい」


「なるほど! そういうことですか! バレてる技を囮にするんですね!」

花梨がポンッと手を叩いて納得する。


「花梨も、この日に向けて特訓して、『新しい技』を習得したんだろ?」

「はいっ! 有希様の教えに従って技を磨いたり、魔法を開発しました!」

「よし。なら大丈夫だな。後は相手の動きの見極めが大事だ。

しっかりと観察して隙を突け。そうすれば絶対に勝てる!」


雄一先輩は力強く頷き、少しだけ悔しそうに呟いた。

「……あとは、これに加えて『対戦相手のデータ』があれば完璧に戦術が組めるんだがな。

さすがに他校の1年生の内部データまでは集めきれなかった」


「あ、それならありますよ」

私はポケットから折りたたんだ紙の束を取り出し、バサッとテーブルに広げた。

「はいこれ。午後から出場する、全校の1年生選手のデータです」


「……は?」

雄一先輩が目を剥いて固まった。

「こ、これは……まさか、翔が集めたやつか?」

「よく分かりましたね」


「あいつは以前、神宮寺の裏仕事をやらされていた関係で

色んな学校の不良や裏ルートに顔が広いんだ。だが……いくら神宮寺の

命令でやらされていたとはいえ、翔に被害に遭った者も多い。

あいつ、他校の連中からは今でも嫌われ、恨まれてるはずだぞ?」

「へー、そうなんですね。大変だなぁ」

私は他人事のように頷いた。


「しかし、よくそんな恨まれてる状況で

ここまで詳細なデータを集められたな……」

雄一先輩は信じられないものを見るような目で紙の束をパラパラとめくり

ふと真面目な顔で私に忠告してきた。

「有希、お前も気をつけろよ? あいつは優秀だが

いつ牙を剥くか分からない危険な奴だ」


「ああ、大丈夫ですよ。いざという時の【人質】も取ってますし

監視もしてますから」

「……ひ、人質って……」

私のあまりにブラックな発言に、雄一先輩の顔が引きつり

ドン引きの表情を浮かべた。


「こほんっ」

これ以上聞くのは危険だと判断したのか

雄一先輩は無理やり咳払いをして話を戻した。

「……と、とにかく! これさえあればお前は大丈夫だろう。

ただ、過信はしないように。

このデータ以外にも、相手も当然『隠している切り札』を

用意しているはずだからな」


「はいっ!」

花梨は元気よく返事をすると、私の方を向いて両手を強く握りしめた。

「ありがとうございます、有希ちゃん……いえ、有希様っ!

有希様の集めてくださったこの神の啓示データ

必ずや無駄にはいたしません!!」

(うわぁ、また熱狂的信者モードに入ってる……)


「はいはい。それじゃあ、このデータを元に作戦会議をしていくわよ」

私が適当にあしらいつつ、3人で相手の弱点や対策を練っていると

館内にアナウンスが鳴り響いた。


『――午後からのソロバトルに出場する1年生の生徒は

順次VRカプセルで待機してください』


「よし、行ってこい」

雄一先輩が拳を突き出す。

「いってらっしゃーい。適当に頑張ってねー」

私がひらひらと手を振る。


「はいっ! 行ってくるね!」

花梨は力強く頷くと、闘志に満ちた目でVRカプセルへと向かっていった。


いよいよ、狂信者・花梨の狂気の戦いが始まろうとしていた。

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