表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
113/142

第109話:【無自覚な美少女の激励】

香澄ちゃんがVRカプセルに入っていくところを見届けた私は

待機室のモニターでレースの展開を眺めていた。

画面の中では、香澄ちゃんが見事な立ち回りでレースを順調に走っている。


「さすが香澄ちゃんね。しっかりと地雷が見えてるし

相手の妨害もしっかりと対処してるわ」

私は安心し、ジュースでも飲もうかと一息ついた。

その時、ポケットの携帯が震え、メールの受信を知らせた。


『千晶君についてあげてください』

神代会長の秘書である橘さんからの、短いメールだった。


(……理由が書いてない。こういう時は大抵、切羽詰まっている時よね。

翔先輩が千晶ちゃんの護衛についているはずなのに

わざわざ私を要求してくるあたり、『厄介な面倒事』だろうなあ……)

容易に想像はできたが、可愛い弟子となった千晶ちゃんを守るためだ。

私はすぐに翔先輩へメールを打った。

『私がそっち(千晶ちゃん)につくから、あなたは香澄ちゃんをお願い』


『はあ? なんだそれ。俺、今着いたばっかだぞ』と

文句のメールが返ってきたが、数分後には翔先輩が渋々といった様子で

部屋に入ってきた。


「翔先輩、あとは任せたわ。香澄ちゃんに

『熱くならずに、冷静に。頭を使って』って伝えて。

それと、困ったら『奥の手』を使ってとも言っておいてね」

「……わかった。他は俺の判断でいいのか?」

「もちろん。こういう裏方のサポートは、先輩の方が慣れてるでしょ?」


「お前に『先輩』って呼ばれると、違和感しかないな……」

翔先輩がため息をつく。

「了解だ。俺が集めた他校のデータ、香澄はちゃんと見てるんだよな?」

「暗記したって言ってたわ」

「よし。なら何とかなりそうだな」


翔先輩の口から頼もしい言葉が聞けたところで、私は立ち上がった。

「それじゃ、私は千晶ちゃんのところに行ってくるわ」

「なんで俺と交代なんだよ」

「面倒事が起きそうってことよ。香澄ちゃんには、適当に言っておいて」

私はひらひらと手を振り、待機室を退室した。



千晶ちゃんのいる医療室へ向かう途中。

私は、同じエシュ学園の『1年生』の控室の前を通りかかったので

ついでに顔を出すことにした。


ガチャリとドアを開ける。

「「「ええっ!? い、いったい何かあったんですか!?」」」

部屋にいた1年生の代表選手、サポートの1年生

そして引率の3年生サポートの男の先輩が、全員立ち上がって驚愕の声を上げた。


(私、そこまで偉い立場ではないと思うんだけど……同級生だし)

彼らの過剰な反応に内心首を傾げつつ、私は愛想よく微笑んだ。

「前を通ったから顔を出しただけですよ。

 先生からも『顔を出してほしい』と頼まれてますし」

私がそう説明すると、3人はようやく納得したように席についた。


「大丈夫そう?」

私が尋ねると、これから出場する1年生の男子生徒が

顔を青ざめさせてポツリとこぼした。

「緊張でヤバい……もう、他校のプレッシャーに押しつぶされそう……」


「お前ならできる!」

すかさず、サポートの3年生の男の先輩が熱く励ました。

「この日のためにずっと練習してきて、ようやく勝ち取った代表なんだ

。失敗しても誰も文句なんて言わん。もっと自信を持て!」

「……そうですね」

1年生は頷くものの、顔色は全く良くならない。


(はぁ……仕方ないわね)

私は小さくため息をつき、彼を励ますことにした。

スッと歩み寄り、彼の手を優しく取って、ニッコリと微笑みかける。


「いい? あなたが失敗しないようにするために

私たちがついているんだよ。百戦錬磨な先輩だってついてる。

あなたは、自分のできることをやればいいんだよ」


ボフンッ!!

その瞬間、1年生男子の顔が茹でダコのように真っ赤に染まった。

「た、高橋さんにここまで励まされたなら、落ち込んでいられないな……!

見ててくれ。俺、絶対1位になってみせる!!」

彼は私の手を強く握り返し、凄まじい熱量で宣言してきた。


(元気になったのはいいけど、なんか変な方向に行きそうね……)

私は少し引きつつ、「まだ予選だからね」と

愛想笑いを浮かべて手を引き抜き、退室した。


その後、もう一つの1年生の出場者の部屋の前も不運に

も通りがかってしまい、顔を出した。

さっきと全く似たような展開(美少女スマイルで手を取って謎の熱血スイッチを押す)に

なってしまったが、とりあえず彼らが元気になったことを確認し

サポートの人たちに後は任せて医療室へと向かった。



医療室へ入ると、中では千晶ちゃんがちょうど怪我人の治療を行っているところだった。


「――はい、これで大丈夫ですよ」

千晶ちゃんが手を離す。

「ああ、ありがとう。回復魔法ってのは本当に凄いんだな」

治療を受けた成人男性はそう感嘆の声を漏らし

「それじゃあ失礼するよ」と言って退室していった。


「あ、お姉さま!」

私に気づいた千晶ちゃんが、パァッと嬉しそうな顔になる。

「来てくれたんですね! お兄ちゃんが『急に呼び出しがあった』って

言って出て行っちゃったから、寂しかったんです」


「もう大丈夫よ。しばらくここにいるわ。さっきの回復も上手くできてて偉いわね」

私が頭を撫でると、千晶ちゃんはえへへと嬉しそうに目を細めた。

その微笑ましい光景に、近くにいた職員たちもすっかり和んでいた――のだが。


「おいっ! 急患だ!! 早く治療をお願いする!!」

バンッ! と乱暴にドアが開かれ、ガラの悪い連中が血まみれの男を担ぎ込んできた。


「はいっ!」

慌てて治療に向かおうとする千晶ちゃんの腕を、私はガシッと掴んで引き止めた。


「ちょっと待って。……あなたたち、これ、どこで怪我を?」

私の問いに、連中の一人が目を泳がせる。

「あ、あぁ? ちょっと階段でな」

「へえ? それにしちゃ、ずいぶんと『酷く』怪我してますね」

「そ、そりゃ階段から転げ落ちたんだからこうなるだろ!」

輩が唾を飛ばして反論してくる。


私は彼らを冷ややかな目で見据え、職員に声をかけた。

「職員さん、念のため監視カメラの確認、いいですか?」

「は、はい。わかりました!」


「おいコラ! さっさと治療すりゃいいんだよ!!」

激昂した輩が、私を恫喝してくる。


(なるほど。この厄介な輩がいるから

橘さんは私をここによこしたのね。武闘派の翔先輩だと

確実に手を出して暴力沙汰になってたわ)

私は内心で納得しつつ、キッパリと告げた。


「嫌です」

「あぁ!?」

「ここは『緊急用』の回復をする場所です。

出処も分からないような重傷者を治す場所じゃないんですよ」


私は冷たく言い放ちながら、背手に隠したスマホで橘さんにメールを打った。


「……いいのか? 俺たちが騒いだら、お前らは終わりだぞ?」

輩が卑劣な笑みで脅迫してくる。


「終わってもいいですよ。

その場合……『あなた達も一緒に終わる』ことになりますけどね」

「……ぐっ」

私の一歩も引かない態度と冷徹なプレッシャーに、輩の言葉が詰まる。


その直後。

ガチャリ、と重々しい音を立ててドアが開き

橘さんと、完全武装した覚醒者たちが雪崩れ込んできた。


「――少し、来ていただきましょうか」

橘さんが眼鏡を光らせ、冷酷な声で告げる。

「先ほどのセリフは立派な『脅迫』です。

それに、他にも余罪がありそうですね」


「な、なんだお前らは!? お前らは警察じゃねえだろ!」

輩が震え声で喚き散らす。


しかし、橘さんは懐から手帳を取り出して見せた。

「ご安心を。私は【警察】の兼業も認められておりますので」


「「「は……?」」」


絶句する輩たちを、武装した覚醒者たちがあっという間に

取り押さえ、連行していった。

騒ぎが一瞬で鎮圧された医療室で

私は呆然とする千晶ちゃんの頭を撫でながら

改めて権力の強さを実感するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ