第105話:【見えない相棒(精霊)】
ドバァァンッ!!
私の放った水魔法が地雷の連鎖爆発を引き起こし
先頭を走っていた2人のアバターが豪快に吹き飛んだ。
「うおおおっ! 隙ありぃぃっ!!」
その瞬間、後続を走っていた連中が一斉に牙を剥いた。
彼らは私を無視し、ポリゴン欠損でダメージを負い
体勢を崩した2人に向けて容赦のない魔法の集中砲火を浴びせたのだ。
(……なるほどね。全員が全員、私だけを狙うわけじゃなかったのね)
私は心の中で舌を出した。
障害物競争とはいえ、ここは蹴落とし合いのサバイバル。
手負いの相手を確実に仕留めてライバルを減らすのは定石だ。
私は彼らが乱戦を繰り広げている隙に
足元の地雷をアクロバティックに避けながら一気に距離を稼いだ。
「逃がすかよっ!」
しかし、すぐに後続から私に向けた激しい攻撃魔法が飛んでくる。
「甘いわ!」
私は走りながら魔力を展開し、背後に分厚い【水の膜】で作った防御壁を発生させた。
バチバチッ! ドスンッ! と壁が攻撃を弾く衝撃が背中に伝わってくる。
(走りながら背後の攻撃を防いで、さらに前のトラップを避ける……。
あのぐうたら(有希)が普段何気なくやってること、実際に自分でやってみると案外大変なのね!)
私は息を乱しながらも、親友の凄さを改めて実感しつつ突き進んだ。
◇
荒野を抜けると、今度は鬱蒼と木々が茂る【森林フィールド】が見えてきた。
(事前の情報だと、ここは確か……『地雷原と幻惑の森』だったわね)
下手に地面を走れば、また嫌らしいトラップの餌食になる。
私は迷わず木に飛び乗り、太い枝から枝へと飛び移る空中ルートを選択した。
シュッ! シュバッ!
「あぶなっ!」
枝に乗った瞬間、四方八方の木陰からトラップの矢が雨のように降り注いできた。
私は体を捻って物理攻撃の矢を躱し、すぐさま次の枝へと跳躍する。
今度は、正面から赤い光を帯びた『魔法攻撃』が飛んできた。
「ふっ。その程度……!」
私はポーチからナイフを引き抜き
魔力を込めて一刀両断に切り裂こうとした――その時だった。
『――ッ!!(ダメッ! 危ない!!)』
私の中にいる【精霊】が、けたたましい危険信号を出してきた。
(えっ!?)
私と契約している精霊ちゃんは
まだ下級のため外に姿を顕現させることができない。
普段は私の中にいて、こうして『念話』でやり取りをしているのだが
ここまで強烈な警告を出してきたのは初めてだった。
私は精霊ちゃんの警告に直感で従い
振り下ろそうとした武器を瞬時に引っ込めて
横の枝へと強引に軌道を変えて身を躱した。
直後。
私が躱した赤い魔法攻撃が後方の木の幹に当たった瞬間
ドゴォォォォンッ!! と凄まじい大爆発を引き起こした。
もしアレをナイフで受けていたら
爆発に巻き込まれて腕のポリゴンが吹っ飛んでいたはずだ。
(……っ! ありがとう、精霊ちゃん。助かったわ!)
『えへへっ、どういたしまして!』
私の中の小さな相棒から、嬉しそうな反応が返ってくる。
チラリと後ろを見ると、後続の選手たちも爆発やトラップをスレスレで避けながら
しぶとく私に追いついてきていた。
(さすがに各校の代表ね。皆、これくらいのトラップは簡単に避けるわね)
私はニヤリと笑い、私の中の相棒に話しかけた。
(ねえ、精霊ちゃん。私の魔力を使っていいから
後ろの連中に向けて攻撃してくれる?
当たらなくてもいいから、適当に牽制でバンバン撃っちゃって!)
『えっ!? 撃っていいの!? ほんとに!?』
水を得た魚のように、精霊ちゃんのテンションが爆上がりする。
(いいわよ。ただ、魔力は使いすぎないでね? まだまだ先は長いんだから)
『わかったーっ!! まかせて!!』
次の瞬間、私の周囲から無数の水弾が生成され
後方に向かってオートエイムの弾幕としてバラ撒かれ始めた。
「うおっ!? なんだこの弾幕!」
「前を見ながら無詠唱で攻撃してきやがるぞ! バケモンか!」
後続からパニックになった叫び声が聞こえてくる。
(ふふっ、自分は回避と移動に専念して、攻撃は精霊にオートで任せる……すごく楽でいいわね!)
私は有希に教わった軍隊式サバイバル術をフル活用し、森を駆け抜ける。
(でも……ここVR空間のはずなのに
なんで私の中にいる精霊とのリンクまで完璧に再現されてるの?
運営の技術力、どうなってんのかしら……)
謎のオーバーテクノロジーに疑問を抱きつつも、今はレースに集中するしかない。
◇
精霊ちゃんの無差別弾幕と森のトラップにより
後続の選手たちからは悲鳴や舌打ちが絶え間なく聞こえてくる。
――しかし。
そんな阿鼻叫喚の中でも、無言で、一切の攻撃を行わず
ただひたすらにトラップを避けながら私との距離を詰めてくる選手が数名いた。
(攻撃すらせず、ひたすら距離を詰める……
徹底的に自分の手の内(魔法)を明かさないつもりね。なんて厄介な連中)
私は彼らの不気味なプレッシャーに冷や汗を流しながら
ついに森林エリアを抜け出した。
「……嘘でしょ?」
森を抜けた先に広がっていたのは、ゴブリンやオーク、ウルフなど
多種多様なモンスターがひしめき合う『魔物エリア』だった。
しかも、最悪なことに。
通常なら種族間で争うはずのモンスターたちが、お互いを全く攻撃せず
私を目視した瞬間、一斉に血走った目を向けてこちらへ殺到してきたのだ。
(トラップの次はモンスターハウスってわけね……。
ええ、今度は面倒なエリアだわ。でも、やるしかない!)
私は覚悟を決め、有希直伝のナイフを両手に逆手持ちで構えた。
「さあ、かかってきなさい!」
私は迫り来るモンスターの群れの中心へ向かって
一切の躊躇なく突っ込んでいった。




