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第103話:【マスコミへの最強のカウンター】

永遠とも思える苦痛の時間が、ついに終わろうとしていた。


校長やら運営やら、お偉いさんたちの

【中身はスカスカなのに尺だけはやたら長いありがたいお言葉】の

フルコースを、私は来賓席のふかふかの椅子の上でなんとか耐え抜いた。

何度白目を剥きそうになったか分からない。


(はぁぁ……やっと終わった。これでやっと休める……)

安堵の息を吐き、立ち上がろうとした直後だった。


「Akiさん! Akiさん!! こちらへ一言お願いします!」

「『動画の収益は月いくらですか!?』」

「『病院襲撃事件の時は、どんなお気持ちでしたか!?』」

「『獅子王学園のトップと付き合っているという噂は本当ですか!?』」


どこから湧いてきたのか、ハイエナのようなマスコミの群れが一斉に押し寄せてきた。

カメラのフラッシュがバシバシと鬱陶しく目を焼く。


(……は? 競技と全く関係ない下世話な質問ばっかりじゃん。控えめに言ってゴミね)

私は完全に無の表情を作り、「さあ?」「わかりませんね」「初耳です」と

自動音声ボイスのように適当に返し続けた。


すると、私が望むようなリアクション(炎上しそうな失言)をしないことに業を煮やしたのか

最前列にいた中年の記者がイラッとした顔で声を荒らげた。


「ちょっとAkiさん! こっちは仕事で聞いてるんですよ! もう少し『ちゃんとした答え』をいただけませんか!?」


ピタッ、と私の足が止まる。

私はゆっくりと振り返り、冷ややかな、マイナス50度の微笑みを記者に向けた。


「……大会と全く関係ないプライベートな質問をしておきながら

私が『ちゃんとした答え』を返してくれると思ってるなんて……

本当に『お幸せな頭』をしていらっしゃるんですね」


その瞬間、記者の顔が茹でダコのように真っ赤に染まった。

「なっ……!? てめえ、自分が少し人気が出たからって調子に乗るなよ!

こっちはペン一つでお前なんか簡単に『こき下ろす記事』を書けるんだぞ!!」


古典的なマスコミの脅し文句。しかし、私は一切怯むことなく

むしろパァァァッと顔を輝かせた。


「本当ですか!? いやー、むしろ私としては是非ともこき下ろしてほしいんですよね!

私、元々こういう場でチヤホヤされるのとか大っ嫌いなので。

むしろ『性格最悪! 終わってる!』って記事にして

私の人気を地の底まで落としてほしいくらいです。よろしくお願いしますね!」


「…………は?」


斜め上すぎるカウンターに、記者がポカンと口を開ける。

私は「それじゃ、頑張ってクソ記事書いてくださいねー」と

ヒラヒラ手を振り、控室へと歩き出した。

怒り狂った数人の記者が立ちはだかろうとしたが

協会の屈強な職員たちが瞬時に壁を作ってブロックし

彼らはただ指をくわえて私の背中を見送ることしかできなかった。



VIP用の控室に戻ると、神代会長が深〜いため息をついて額を押さえていた。


「お前なぁ……。あいつら、完全に敵に回ったぞ。

マスコミの粘着を舐めん方がいい」

「いいのよ、別に。私の能力(実力)を知っていれば

最終的には誰も逆らえないんだから。それに、うちのお母さんを見てたら

あのくらい言っても全然大丈夫かなって思って」

我が家の最強の母の顔を思い浮かべながら言うと、会長はますます呆れた顔をした。


「……あの親にしてこの娘あり、か。ワシからは『やりすぎるなよ』としか言えんわ」

「ふふっ。何か面倒なことになったら、会長に『揉み消し』を頼むかもしれないわね」

「ワシのツケは高いぞ?」

ニヤリと悪代官のように笑う会長。


「大丈夫。その場合は、優秀なうちの千晶ちゃんに

馬車馬のように働いて払ってもらうから」

「私ですかぁぁぁっ!?」

後ろで大人しくしていた千晶ちゃんが

突然のキラーパスにビクッと肩を跳ねさせた。

「さ、流石に『お姉さまの代わり』なんて、私には重荷すぎます……!」


涙目になる千晶ちゃんが、私の袖をギュッと掴んで恐る恐る聞いてきた。

「と、いうかお姉さま……マスコミをあんなに怒らせて、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。いい? 千晶ちゃん。回復術師ヒーラーっていうのはね

千晶ちゃんが思っているよりずっと、この世界で『立場が強い』の。

誰だって怪我はするし、命は惜しいでしょ?

いざとなれば、回復をチラつかせて脅せば全員黙るわ」

「えええええ……(それ、ヒーラーの本来のあり方なんでしょうか……)」

ドン引きする千晶ちゃんに、私は「まあ、そのうち分かるわ」と笑いかけた。


「それじゃ、私これから自分のPTのサポートがあるから行くね。

 会長、着替えるんで向こう向いててください」

私がさっさとドレスを脱ぎ捨ててエシュ学園のサポート着に着替え始めると

千晶ちゃんが「いてくれないんですか!?」と不安そうにすがりついてきた。


「大丈夫。千晶ちゃんは一人でも十分やれるわよ。

それに、私のいない間は護衛として、あなたのお兄さんが

ピッタリついてくれる手はずになってるから」

「お兄ちゃんが……? それなら……はい、頑張ります!」

お兄ちゃんの名前を出した途端

千晶ちゃんは渋々ながらも納得してくれた。チョロくて助かる。



私は控室を出て、競技の待機エリアへと向かった。

そこでは、これから【魔法障害物競争】の予選に出場する香澄ちゃんが

ガチガチに緊張して震えていた。


「香澄ちゃん、お待たせ。どう? いけそう?」

「有希! ……だ、大丈夫……のはず。たぶん、おそらく、メイビー……」

全然大丈夫そうじゃない弱気な発言である。


「大丈夫よ。香澄ちゃん、誰よりもたくさん練習して

努力してきたんだから。今日のコースのギミックと、対戦相手の情報は頭に叩き込んだ?」

「ええ、それは完璧よ」


私は香澄ちゃんが集めた資料にサッと目を通す。

(なるほど……。この『魔法障害物競争』、単に足が速いだけじゃダメね。

他者からの魔法妨害デバフ

障害物トラップをいかに切り抜けるかが鍵になる)


私は腕を組み、前世の記憶を引っ張り出した。

(これでも前世では軍隊に所属して

戦場で理不尽な連中と毎日のようにドンパチやり合ってきたんだから。

あの泥臭い『実戦経験』を、この競技に活かすとすれば……)


私は閃きと共に、香澄ちゃんの肩をガシッと掴んだ。


「香澄ちゃん、いい? 予選では自分の手の内(奥の手)はできるだけ見せずに温存して。

その代わり、私が今から魔法を教えるから

危なくなったらそれを使ってちょうだい」

「……え? ま、魔法を教えるって……今から!?」

香澄ちゃんが目を丸くして驚愕する。

「いやいやいや! 競技開始まであと少ししかないのよ!?

そんな直前で新しい魔法なんて、覚えられるわけないじゃない!」


「大丈夫、別に大した魔法じゃないから。コツさえ掴めば一瞬よ」

私はニコッと笑った。


(前世の軍隊では、新兵でも1日でマスターさせられていた

『超・汎用性の高い基礎魔法』。

なぜかこの現代では使ってる人がいないみたいだけど

今の香澄ちゃんの魔力操作なら絶対にいけるはず)


私は耳元で、その魔法の術式と魔力の動かし方を手短に伝授した。


「……えっ? なにこれ、全部理論がすごく単純……これなら、いけるかも!」

香澄ちゃんの顔に、パッと自信の色が戻る。


「よし、その意気よ。さあ、見せつけてやりなさい!」

「うんっ! 行ってくる!!」


そして、会場に開始のブザーが鳴り響き――。

香澄ちゃんにとっての最初の試練

波乱の『魔法障害物競争・予選』の幕が、ついに切って落とされたのだった。

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