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第102話:【権力者たちのマウント合戦】


「お姉さま、時間です! さぁ、行きましょう!」

「はいはい、わかったから引っ張らないで……」


完全に舞い上がっている千晶ちゃんに急かされ、私は渋々部屋を出た。

ドレスアップした私たちがロビーを歩くと

すれ違う人々の視線がバチッと釘付けになるのを感じたが

幸い朝の早い時間帯で人が少なかったため、致命的な人だかりができる前に

なんとかホテル裏手に停まっていた黒塗りの高級車に乗り込むことができた。


「おお、二人ともよく似合っているぞ」

車内では、すでに神代会長がふんぞり返って座っていた。


「ありがとうございます!」

千晶ちゃんが無邪気にお礼を言う横で、私は「はぁ……」と深いため息をついた。


「悲観したところで何も変わらん。諦めろ」

「そうですよ! お姉さまはとっても素敵ですから大丈夫です!

もし誰か変な人が絡んできたら、私が回復魔法ヒールで殴ってでもお守りしますから!」

「千晶ちゃん、ヒーラーが殴ったらダメよ……でも気持ちはありがとう」


物騒な方向に育ちつつある後輩にお礼を言い、私は腹を括って開き直ることにした。


「よし、気分が直ったところで注意事項を言うぞ」

神代会長が葉巻を取り出しながら(車内なので火はつけないが)ニヤリと笑う。

「今日集まるのは、我が『覚醒者協会』の幹部と、『精霊協会』の連中、あとは国会議員や大企業の社長、一部国のお偉いさんたちだ。

いいか、絶対に喧嘩を売るなよ?」


「つまり、あっちから喧嘩を売ってくるってことですね」

「察しが良くて助かる。連中はプライドばかり高くてな。

嫌味やセクハラ発言、下品なことを言ってくる奴もいるだろうが……

グッと我慢するんだぞ」

「……はいはい」

私は心底うんざりしつつ、窓の外へ視線を向けた。



車が競技会場の裏手に到着し、私たちは職員の案内で

重厚な扉の奥にあるVIPルームへと通された。

部屋に入ると、すでに数人のスーツを着た初老の男たちがソファーに腰掛けていた。

私たちの入場に気づくと、彼らは一斉に立ち上がる。


「これはこれは、神代会長。相変わらず血色がおよろしいようで何よりですな」

恰幅の良い、白髪交じりの男が胡散臭い笑顔で近づいてきた。


「これはこれは、白銀しろがね会長。精霊協会の方々もお揃いで」

神代会長もまた、負けじと胡散臭い作り笑いを浮かべて握手を交わす。


(ああ……この『目は全く笑っていないのに口元だけ笑ってる』感じ

超懐かしい。前世の社交界で、お偉いさんと話をしている時によく見たやつだわ……)

私が前世の社会人経験を思い出して遠い目をしていると、神代会長が私を前に引き出した。


「紹介しよう。この娘は動画サイトで人気のインフルエンサー【Aki】であ

、我が協会が誇る優秀な覚醒者、高橋有希だ」


「おお、どうも初めまして。精霊協会会長の白銀だ。よろしく頼むよ」

白銀会長は私をジロジロと上から下まで値踏みするように見ると、フンと鼻を鳴らした。

「……しかし、覚醒者という割には随分と細っこくて貧弱そうだな?

うちの協会に所属する精霊術師は、学年トップの実力者であり

今回の学校対抗戦の優勝有力候補なのだがね。おい、紹介しよう。彼がそうだ」


白銀会長が後ろを振り返ると、そこから一人の男子生徒がニヤニヤしながら歩み出てきた。


「ちわっす。獅子王学園の豪徳寺ごうとくじ たけるっす」


(……あ、こいつ昨日のナンパ男じゃん)

私は心の中で舌打ちをしつつ、表面上は完璧な美少女スマイルを浮かべた。

「初めまして」


「へえ、まさかお前がエシュ学園のトップ(1位)だとはな。

こんなひ弱そうな奴がトップとか、エシュ学も相当人材不足みたいだな。

こりゃ今回の優勝は楽勝だぜ」

初対面(昨日会ったけど)の大人たちの前で堂々と煽ってくる豪徳寺。


「そうですか。せいぜい頑張ってくださいね」

私が微塵も動揺せずに軽く流すと、白銀会長が豪徳寺に怪訝そうな顔を向けた。

「猛君、本当にこの娘がエシュ学園のトップなのか?」


「情報収集は欠かしてませんよ、会長。ちゃんと調べてあります。

こいつが動画で話題のインフルエンサーAkiであり

エシュ学の1位、高橋有希です。俺の情報網に抜かりはありません」

ドヤ顔で言い放つ豪徳寺。


私は思わずクスッと笑ってしまった。

「どうも、高橋有希です。まあ、それくらい調べられなかったら

『精霊協会さんの情報網ってその程度?』とちょっとお里が知れてしまいますからね。

最低限のことが調べられたようで、何よりです」


「……あ?」

豪徳寺の眉間がピクッと動く。

「へえ? 言うじゃねえか。そっちは俺のこと、ちゃんと調べたのか?」


「いえ? 全く調べてませんよ」

私は首を傾げ、冷ややかな笑顔でトドメを刺した。

「だって、あんたより強い奴ら、私いつも初見で倒してますから。

わざわざ雑魚の情報を調べる必要すらありません」


「なっ……てめぇ!!」

豪徳寺が顔を真っ赤にして立ち上がりかけるが、それを白銀会長が手で制した。


「ほう……言うじゃねえか。本番が楽しみだな」と

豪徳寺がギリッと歯を食いしばる。

「そちらの娘も随分と強気だが……これは学校対抗戦がますます見ものだな」

白銀会長が目を細め、神代会長を睨みつける。


「フン。がっかりさせないぞ。彼女の実力は、このワシが保証する」

神代会長が堂々と胸を張った。


バチバチと火花が散る中、その後も次々と国会議員や大企業の社長たちが部屋を訪れ

二人の会長に挨拶をしていく。そのついでに、私と千晶ちゃんにも愛想笑いを振りまいていった。


「……あの、お姉さま」

一段落したところで、千晶ちゃんが私の袖をちょいちょいと引っ張り

ひそひそ声で話しかけてきた。

「私……自己紹介すらされず、誰の話題にも出なかったんですけど……」

ちょっとだけ拗ねたような、寂しそうな顔。


「千晶ちゃん、こういう政治的な場では『目立たないこと』が一番の幸せなのよ」

私は後輩の肩にポンと手を置いた。

「目立つとさっきみたいに面倒なオヤジたちに絡まれるし

いい事なんて一つもないもの。千晶ちゃんはまだ覚醒者としてのレベルも低いんだから

今は大人しく隠れておくのが正解よ。……私なんて、もう手遅れだけどね」


「なるほど! 私を守るために

あえて私が目立たないようにしてくださったんですね! さすがお姉さま!」

「……うん、そういうことにしておこうか」

前向きすぎる解釈に助けられつつ、私はそっと息を吐いた。


「皆様、そろそろ開会式が始まります。来賓席へご着席をお願いいたします」

職員の案内で、私たちは大歓声が響き渡るスタジアムの来賓席へと移動した。


「ああ……ついに地獄の一週間が始まっちゃうのね」


フラッシュの光と、スタジアムを埋め尽くす観客やマスコミの視線の

集中砲火に耐えつつ、私は華やかに始まった入場行進を

ただ虚無の瞳で見つめているのだった。

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