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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 グレムラン商会
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127/179

124 提案

 124


「カルロ!」

「あ、ただいま。七日ぶりだね」


 教員棟の一室にリィナが飛び込んできた。

 俺を取り囲むようにしていた教員たちを目力と気迫だけで押しのけて、自然と出来上がった道をリィナはまっすぐに向かってくる。

 唇をぐっと引き結んで、じっと俺を見つめてから、いつものようにそっぽを向いた。


「ふん。いつも通りか。ずいぶんと早く帰ってきたな(無事で良かった。お帰り。心配してたんだぞ)」

「おかげさまでね。皆は?」


 開いたままの扉からは誰も続いてこない

 リィナだけが来たらしい。


「さっき君が戻ってきたと聞いてな。ヴィオラに護衛を頼み、僕が代表でここに来たんだ。皆は試作を続けている」

「それ、正解。じゃあ、これを届けてもらえる? みんな以外には絶対・・に渡さないで」


 リュックから取り出した超高純度の魔晶石と動力核を渡す。

 教員たちから感嘆とも、悲鳴ともつかない声が上がった。

 歴史上でも類を見ない発見の、何よりの証拠なのだ。


「ふん。君のやる事だ。驚くほどではないな(さすがだ。信じていた)」

「リィナにしか任せられないんだ」


 リィナは俺の言葉の意味を察したのか、居合わせる教員たちをギンと強く睨みつけた。

 沸き立っていた教員たちの輪が三歩ぐらい下がった。


「あと、屋上での試作はやめよう。上から見られていているみたいだから」

「そうか。僕たちの想像以上に根が深いらしい」


 教員たちが遺跡探索の成果を聞き出そうと押し寄せてきたけど、俺はまだ何も話していなかった。

 エマの話を聞くに、教員の中にもグレムラン商会に与している人がいるだろう。

 そんな中で魔晶石と動力核を渡したりしたら、どこで別物と入れ替わるかわかったものじゃない。


 本当ならこんな囲い取材みたいなのはさっさと脱出して、特待生寮に戻りたいところだけど、ここでやる事があるからリィナが来るのを待っていたのだ。


「任せろ。必ず届ける」


 リィナは竜卵を撫でて頷いた。

 四層の竜卵かつ、幻獣というストレンジを持つリィナのそれは威嚇を意味している。

 これで襲われる心配は薄くなっただろう

 どんな腕のいい奴でもリィナとキュイを相手に闇討ちは無理だ。


 そんなリィナがじっとあらぬ方向を見ているのに気付いた。


「どうしたの?」

「あれは誰だ?」


 リィナの視線を追いかけると、同室で俺と同じように囲まれている双角の犀たち。

 特に隠し事をする必要がないと伝えているから、もうここ一時間ぐらい質問攻めにあっていた。

 なんなら管理室の発見者はそちらでもいいと提案していたんだけど、どうやらそれも俺が発見したと答えたようだ。


 そんな中でリィナが見つめる相手はエマ。

 エマの方も質問をまるっと無視してリィナを見つめている。


「えっと、中層から一緒に潜った双角の犀という探索チームで、リーダーがバウと言って、あっちの……」

「そうじゃない。あの女だ」


 ですよね。

 見つめ合って、というか、睨み合ってますもんね。

 なんだか火花が散っているみたいで超怖い。

 地底湖の守護者並みの迫力があるんですけど。

 教員たちもビビッて離れているんですけど。


「ああ、うん。彼女はエマだね。色々あって、探索とか、手伝ってもらった感じ?」

「色々、か。そうか。色々、な」


 やべえ。

 何がやばいかって、エマの精神耐久値がやばい。

 睨み合っていたのは最初だけ。

 リィナの静かなようで激した視線にぷるぷる震えだしていて、蛇に睨まれた蛙みたいになっていた。


「詳しい話は後で聞かせてもらおう」


 何がリィナの琴線に触れたのかわからないけど、そこは冷静なリィナ。

 今やるべき事を見失ったりはしない。

 エマを睨むのを止めると、そのまま部屋を出ていこうとする。


「ま、待ちなさい! それは遺跡の発掘品でしょう!? なら、学習院で買い取るべきよ!」


 女性の教員がその道を阻んだ。

 後から数名が擁護する声を上げる。


「基本、発掘品は発掘者に所有権があるはずですが?」


 リィナの目はもう完全に敵を見る目だ。

 皇族の血を引く彼女の迫力は伊達ではない。

 年上の教員相手にもまるで引く気配はなかった。


「き、基本はよ。これだけの品は適切に管理するべきで……」

「適切に、ですか」


 教員の言葉を、冷笑ひとつでぶった切った。

 とはいえ、彼女の言葉が間違っているわけでもない。

 探索者は独立独歩の自己責任で、それだけに成果も個人に付随するとはいえ、ここは学習院で、オド・ネメニファーラ大空洞はその所有で、俺たちは学生なのだ。

 小遣い稼ぎのような物なら、探索者ルールが適用されるだろうけど、これだけの大発見ともなれば学習院で管理するのが適切かもしれない。


 なので、その対策はちゃんと考えている。


「それは、こっちの方が大切じゃないですかね?」


 リィナがキュイを発動させる前に声をかけた。

 手には水筒。

 何を言っているんだという訝しげな視線だけど、注目は十分だろう。


「双角の犀が報告した液状マナの地底湖。そこで採取した液状マナがこの中に入っているんですけど、これを学習院に無償で預けます」

「カルロ君!?」


 俺の発言で衝撃を受ける教員たちの中、声を上げたのはバウだ。


「それは、一番の発見です! それをタダで預けてしまうなんて、とんでもないですよ!」


 さすが探索チームのリーダー。

 これの価値が具体的にわかるのだろう。

 この場にいる全員の気持ちを代弁してくれた。


「ええ。だから、それぐらいは見逃してくださいよ」


 どんなに高純度でも魔晶石と動力核にはそれ以上の価値はない。

 エマの見立てでは金貨千五百枚相当の価値はあるそうだけど、言ってしまえばお金で代えられる価値でしかない。


 対して液状マナは竜人族の歴史でも初の発見物。

 それこそ価値をつけられない存在だ。


「この提案がダメなら、これは捨てちゃいましょうかね」


 水筒の蓋を開けると、青いマナの輝きが溢れ出した。

 僅かに傾けてみせる。


「そ、そんな事、できるわけないじゃない!」

「できますよ? 俺はまた取りに行けばいいだけですから」


 地上への昇降機を俺は脱出後に再びしまっておいたし、操作方法は誰にも教えていない。

 もちろん、七百メートル地点の管理室も、地底湖のポンプ室も扉を閉じている。

 そして、管理室にもあった操作方法の資料はポンプ室に下ろしておいた。


 つまり、俺以外に昇降機は使えないわけだ。


「それなら、探索チームを集めて、採取にいけばいいでしょう!」


 女性教員が自棄のように声を上げる。

 さて、それは大丈夫かな?

 狭く険しい通路は大勢の侵入を妨げる。

 大人数の利点が殺されてしまうのだ。


 それに、あの地底湖の守護者が復活しないとも限らない。

 少人数で、あの縄張りを超えるというのは賢い選択肢ではないんじゃないかな。


 俺の立場では止める事はできないけど、正直おすすめはできないな。

 あの儂ですら、あの場所で戦えば凌ぐのが精一杯だったのだから。


 だから、ここは一言だけ、事実を突き付けておこう。


「千メートル地点が最高到達地点。それを忘れたんですか?」


 女性教員が言葉を詰まらせた。

 さて、あまり追い込んで、他の普通の教員から反感を持たれてはいけない。


「ここでもうひとつ提案です。俺は定期的にこれを採取して、学習院に相応の価格で提供しようと思うんですよ。ああ。魔晶石や動力核もお付けします。そうですね。そちらの双角の犀に業務委託でもしましょうか。バウさん、いいですか? もちろん、お金は払いますから」

「それは、構いません。というか、願ってもないですが……」


 双角の犀なら信用できると思う。

 その辺りは俺と儂の直感以外に判断はないけど、裏切られたらその時はその時だ。


「第一発見者の俺の意見はそれなりに尊重してもらいたいんですけど、ダメですかね?」

「わかりました。その提案をお受けします」


 答えた声は部屋の外から。

 いつの間にか現れたベリアン院長が楽しげに微笑んでいた。


「で、ですが、院長……」

「わたくしの判断に誤りがありますか? カルロ・メリヤ君は既にふたつの未解遺跡オリジナルを短時間で攻略しているのですよ? そんな彼の意向を理由なく跳ね除ける理由がありますかね? それに提案そのものも決して無理難題ではありません」


 女性教員の口からそれ以上の反論は出てこなかった。


「異議がないようなら、皆さん、よろしいですね?」


 微笑みを全員に向ける。

 どうにも逆らえない迫力のある笑みだ。

 リィナの冷笑よりも鋭さこそないものの、遥かな重みが籠っていた。


「では、そういう事で。カルロ君、具体的な契約は後日でもよろしいですか?」

「ご配慮、ありがとうございます」

「いえいえ」


 微笑みの形をした威嚇が部屋を満たした。

 直接、俺やリィナに向けられたわけではないはずなのに、背筋が粟立つ感覚に儂が飛び出しそうになる。


「ここはノーツ総合学習院。生徒の成長を育む場所ですから。それを阻む者は誰であろうと許さない。それが院長の務めですよ」


 言葉の終わりと共に牙が収められた。

 強いとは思っていたけど、ティレアさんクラスの化け物だな、この人。

 そんな風格を微塵も感じさせずに、ベリアン院長が場を仕切る。


「さあ、リィナ君。もういきなさい。急いでいるのでしょう? 皆さんは別室に移動しましょうか。カルロ君と双角の犀の方々からお話を聞きたい人はたくさんいるのですから」


 遺跡学科に関する人間で、ここで抜け出すような人間はいないはず。

 もしもいたとしたら、それは腹に一物抱えている者だけだろう。

 この人、炙りだす気満々だなあ。


 まったく、喰えない人だ。

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