115 解決策を探せ
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観察に二日使った。
異形生物が縄張りに入るのは割と多く、二日間でに二十回を超えたおかげで色々と推測が立った。
まず、前提として守護者は縄張りに入ったもの全てに襲い掛かる。
そして、縄張りから逃げたものは襲わない。
これはもう間違いなかろう。
縄張りのルールは徹底していて、異形生物の数が多いと何匹か逃げていくのだが、一度として奴は追跡せんかった。
ほんの少し手を伸ばせば届く状況ですら、だ。
どれだけ徹底されているかといえば、縄張りの外から蝙蝠擬きに岩を投げられても見向きもしない程じゃ。
割と大きい岩が頭に直撃しておったが、目を向けさえしない。
そもそも攻撃として認識されていないのかもしれんが、興味を引かないわけはなかろう。
まあ、そうやって調子に乗った蝙蝠擬きが岩を投げ続けているうちに、奴を舐めてしまったのか一歩縄張りに踏み込んだ瞬間に命運が尽きておったがのう。
試しに儂も一発、模造武装――拳銃を撃ってみたが、やはり無反応じゃった。
ちなみに、ダメージはゼロ。
少なくとも威力を抑えていては話にならんようだ。
エマを驚かせてしまったのは申し訳なかったがのう。
「カルロ君、もう、わたし、びっくりしすぎて心臓が爆発しそうなんだけど」
「大丈夫じゃよ。人間の心臓はわりと頑丈じゃから」
「解決になってないから!」
いきなり守護者に攻撃を仕掛けただけならともかく、竜砲を使った事に驚いてしまったようじゃな。
次に適当に砕いた岩を投げてみたが、小さい物には反応せんかったが、ボールぐらいの大きさになると襲い掛かる。
やはり、空中は縄張りの範囲外らしく反応なし。
黒い壁面に触れた時のみ反応する。
同時に投げた場合は、少しでも早く縄張りに入った方に反応。
ただし、動きが速いからタイムラグはほとんどない。
ピンボールみたいに跳ねるというと楽しそうに聞こえるが、跳んでいるのが象並みの巨体となると笑えんな。
「つまり、空中を渡ればいいわけじゃな」
「空中って、無理だよね」
確かに儂の背中に翼はないからのう。
空は飛べん。
じゃが、別に空は飛べなくとも、空中を行く事はできよう。
「ロープで渡ればなんとかなるじゃろう」
縄張りの上下に突き出た岩と岩を結んで、壁面に触れないように登ればクリアできるじゃろう。
「長さ足りないよね……」
エマの指摘通り、儂のロープはおおよそ十メートル程度。
三十メートルの幅がある縄張りを超えるには足りておらん。
だが、そこはロープの汎用性の高さよ。
「見ておれ」
一度お互いを結びつけたロープを解いて、集中する。
ロープを糸にまで分解してから三等分、互いの先端を結んでしまえば三倍の長さを誤魔化してみた。
「こんな感じじゃな」
これなら足りなかった長さをカバーできるじゃろう。
細くなっていても七層のストレンジ。
儂らの体重を支えるぐらいは問題ない。
既にちょうど良さそうな岩にも目星をつけてある。
問題としては、別の方面じゃな。
ちと操作が難しいというか、ロープがロープとして認識できるギリギリのラインというか、ストレンジとしての存在意義あたりに引っかかりかけておるが、縄張りを越えるまでは耐えてみせよう。
「じゃあ、後はあの飛び回るやつだよね」
「うむ。パターンも見当たらんからな、運に任せるには危険すぎるのう」
定期的に縄張りの中を飛び回って、警戒しておるのは確かに厄介。
まあ、これも対策は思いついておる。
「儂が登っている間、エマは岩を投げて、奴の目標を反らしてもらえるかのう」
「そっか。それなら飛んでこないよね」
登ってさえしまえば後は容易い。
異形生物の進行ルートを観察していたからギリギリ人間でも通れそうなルートは見つけておるし、ロープでよじ登らずとも済む。
千メートル地点にまで行ければ、先駆者の通った道もあるじゃろうしのう。
対策はこんなところかのう。
実際、穴はあるだろうがあまりのんびりもしておれん。
残りの物資も二日分程度じゃからな。
早速、縄張りぎりぎりまで移動をして、最後の準備じゃ。
「少しでも身を軽せんとな。荷物を整理しよう」
使わない道具は廃棄する。
遺跡や環境を思うと心苦しいが、人命を優先させてもらおう。
最低限の物資と、採掘と採取の成果と、後は引きつけるために使う手ごろな岩石を少々じゃな。
「荷物はエマが持ってもらっていいかのう。前に抱えてくれれば……」
リュックを差し出したところで気づいた。
方針が決まったというのにエマの表情は晴れん。
さすがにあんな化け物相手に心配するなとは言えんが、気持ちが沈んでおってはできる事も満足にできなくなってしまうぞ?
ここはしっかりフォローしてやらんとな。
「やはり、不安かのう」
「ううん。違うよ」
意外にエマははっきりと首を振った。
荷物を受け取って、前から腕を通すと抱きしめて、顔をうずめてしもうた。
「カルロ君は本当になんでもできて、頼りになると思う。あんな化け物、わたしにはどうしようもないけど、カルロ君の言う通りにすれば助かるって信じられるよ」
不安ではない。
己の無力を嘆いているでもない。
では、なんだろうか。
「ねえ。浮遊の魔導具を作るんだよね? そのためにこの中の魔晶石と動力核が必要なんだよね?」
「う、む?」
その話か?
どうして今になってそんな話が出てくるのかのう。
正直、まるで考えておらんかったから思考が追いつかんぞ。
「知ってる? 空を飛ぶ研究って結構前からやってるの」
「うむ。それは、聞いておるなあ」
むしろ、エマが知っている方が驚いたわい。
前に話した時は知らないとばかり思っておったが。
「知ってる? 魔導列車のグレムリン商会が色々と工作してるって」
「少しぐらいだがのう」
ミレーヌの父上から忠告を賜ったからのう。
運輸業でトップを走るグレムリン商会にとって、新たな移動手段の発明など邪魔でしかないから、軍の研究を監視しておるし、妨害とまではできずとも足を引っ張るぐらいはしているだろう。
その辺りは不思議ではない。
「知ってる? グレムリン商会の影響って貴族にもあるって」
「聞いておるが……」
遅まきながら背筋に寒気が走る。
崖を登る先に話した時、少し様子がおかしかった事。
エマの身の上話。
加えて、この口ぶり。
「エマよ。どうしたというのだ?」
尋ねておきながら、既に察していた。
ノーツ学習院には多くの貴族子弟が通っている。
そして、エマはその卒業生だと言っていた。
それは、つまり……
ようやく顔を上げてくれたエマの表情は泣き笑い。
まるで迷子の子供のようじゃった。
「知ってる? わたしの実家のフィランゼル家ってね、お隣の領主と仲直りしてね、今度、鉄道で結ばれる事になったんだって」
そういって、エマは浮遊の魔導具のための魔晶石と動力核の入ったリュックを強く抱きしめた。




