114 地底湖の守護者
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頭は双頭のトカゲ。
胴体は毛皮持つ人。
四つに関節を持った細長い腕。
右手は獅子の頭で、左腕は馬頭。
足は烏賊のように太い触手の群れ。
背中には蝙蝠の翼。
大きさは象ほどもありそうじゃ。
全身を覆う漆黒の色の中で、赤く輝く瞳は不吉そのもの。
子供が影絵から想像したモンスターにしか見えん。
青いマナの海を滑るように飛び、急斜面というのも生易しい壁面に地響きを立てて着地して、じっと佇んでから再び跳躍を繰り返しておる。
「な、に? あれは?」
化け物という他あるまい。
キメラと呼ぶのも憚られる異形。
壁から壁へと跳躍していた名状しがたいナニかが止まった。
その双頭のトカゲが何かを見つめておる。
次の瞬間、姿を見失いかけた。
高速で流れる影を追いかければ、さらに高い位置へ移動しておる。
巨体と砕けた壁の間には蝙蝠擬きたち。
足で囚われ、双頭と両腕に食いつかれ、八匹近くが絶命しておった。
化け物は蝙蝠擬きたちを次々と捕食していきおる。
離れていてよかったわい。
かなりえぐい光景じゃぞ、こりゃあ。
「うっ……」
それでも衝撃が大きかったのじゃろう、口を押えるエマの背中を撫でて落ち着かせてやる。
とはいえ、儂もあまり余裕はない。
「まずいのう」
苦笑いしか出てこんわ。
青柳君が見たら『ク○ゥルフだ!』なんて叫んだかもしれんが、的確過ぎてつっこめんかもしれんな。
見ているだけでガリガリと精神的なダメージを受けていそうじゃし。
うむ。
直感で察したよ。
勝てぬな。
儂の全霊を搾り出しても勝てんだろう。
単身で、平地ならば勝機も作り出せるだろうが、エマを連れ、荷物を抱え、足場とも呼べない舞台で戦えば、勝ち目はゼロじゃ。
「大方、地底湖の守護者といったところか」
道理で異形生物に襲われない本当の理由はこれじゃな。
下りたら戻れないからではない。
あの化け物の縄張りでシャットアウトされておったわけか。
下層にも精霊族の手が入っている以上、何かあるだろうとは想像しておったが、これは想定を上回っておる。
蝙蝠擬きを食い終えた奴は、跳躍して元の場所に戻った。
そして、何事もなかったように最初の行動を繰り返す。
吐くのを必死にこらえていたエマは震えておる。
振り返って儂を見上げる目は縋るように弱々しい。
「か、カルロ君、あれ、どうしよう」
「うむ。どうしようもないのう」
絶望に顔を歪ませるエマの頭を撫でてやりながら続ける。
「とりあえず、今はここで観察じゃな」
「えっ……ええ? 本気?」
思わず叫びそうになって慌てて口を押えたエマが、小声で尋ねてきた。
無論、本気に決まっておる。
「ここなら当面の危機はないわい。儂らが奴を見えているように、奴とて儂らが見えているはずなんじゃ。それでも襲ってこんという事は明確なルールがあるのじゃろう」
奴の縄張りに入らなければ襲われはせん。
奴が飛び回っておる一帯の壁面。
そこだけが他の場所よりも黒く変色しておる。
高さにして二十メートルの壁面全域。
おそらく、あれが縄張りじゃな。
奴が移動を繰り返している内に体液が付着したか、食い殺したものどもの返り血がついたのじゃろう。
でなければ、とっくに襲われておるわ。
「だから、縄張りのルールを探すとしようじゃないか」
「ルール?」
「うむ。あれだけの化け物じゃ。明確なルールで縛らねば御せんだろうよ」
仮に奴が精霊族の生み出した改造生物だとしよう。
となれば、擬似精霊のように設定されておるはずじゃ。
ここでミソなのが擬似精霊のルールが至ってシンプルだった点じゃな。
精霊族以外の存在は全て襲え。
集団の内、一体は仲間を呼べ。
これぐらいじゃろう。
シンプルな方がエラーが少ないからか、あるいは単純に設定できるルールがそれぐらいしかできなかったのか。
ともあれ、ルール設定はあの化け物も大きく外れておらんはず。
だから、ルールを知らねばならん。
最優先のルールは縄張りに入った物を襲え、として。
他に何があるのか。
たとえば、縄張りの外から攻撃を受けた場合は?
たとえば、獲物が縄張りの外に逃げた場合は?
たとえば、同時に獲物が侵入して来た場合は?
それがわかれば突破の糸口がつかめるだろう。
幸い、他の生物に対しても容赦なしのようじゃから、待っておれば色々と見せてもらえるだろうよ。
「そんなの、本当にあるの?」
「うむ。少なくともひとつぐらいは心当たりがあるから、安心しておれ」
「心当たり?」
そりゃあ、簡単じゃよ。
空から下へと指差してみせる。
「空中は対象外」
でなけりゃあ、落ちてる途中に襲われておったじゃろうからな。
まあ、あまりにも速すぎて奴も反応できなかっただけかもしれんのだが、さっきの反応速度を見る限り可能性は低そうじゃな。
ある意味、吹き抜けを急降下というのは正解だったわけじゃな。
採掘の腕といい、悪運といい、エマには助けられておるのう。
「いい結果が見れるとよいのじゃがのう」
行きに倒すべきのラスボスと帰り道に遭遇。




