112 採掘採取
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ようやく服も乾いてきたので着替える。
背中の部分が焼けてしもうたので肌着は予備に替え、ツナギはリュックサックを背負う事で誤魔化しておいた。
「お待たせ。もう大丈夫よ」
エマも着替えを終えたらしい。
声を掛けられたので振り返ると、凛と表情をしておる。
探索者の服装に戻って気合も充填したようじゃな。
ちと耳が赤いのは見なかった事にしておこう。
儂もロープは完全復活しておるし、気だるい感覚も消えた。
「じゃあ、まずは湖の水を採取しますから、辺りを警戒しておいてください」
今のところ異常進化した生物には襲われておらんが、何もいないという事はないだろう。
適当な岩にロープをくくりつけて、岸壁を蹴って下りていく。
「ふむ。光っているのと、水自体が青く色づいている以外はただの水に見えるが……」
近くで観察してもよくわからんのう。
ひとつ気になっていた事を検証してみようか。
ロープの先端に浮遊の図式を描き出して、発動させてみる。
魂を打つような衝撃と焼け落ちる糸を代償に浮遊して、再び元に戻った。
そうして、僅かに欠けたロープを地底湖に垂らしてみると、見てわかる程の早さでロープが再生されていきよる。
「これが想像通り超高純度のマナだとすれば、竜卵にも影響が出るというわけじゃな」
遺跡群特効の発動音がせんあたり、違う仕組みだろう。
マルスやカナンから聞いた話じゃと、竜卵もマナで動くというしのう。
竜卵が活性化して、ロープの修復が早まり、儂の怪我の治りも早くなったというところかもしれんな。
とりあえず、空にした水筒をいっぱいにしてみる。
容器に移しても目立った変化は、なしか。
いきなり気化したり、結晶化はせんのだから、やはり状態の変化には条件があるようじゃなあ。
その検証は専門家に任せよう。
しっかりとふたを閉めて、壁を登ればエマがホッとした顔で出迎えてくれた。
「お帰り。どうだった?」
「正直、正体不明ですね」
「液状マナかあ、これも大発見、というか大大大大大発見だね」
わりと魔導学の根底を揺るがすレベルでのう。
とはいえ、これが魔晶石よりエネルギー源として優れているかはわからん。
魔晶石の採掘も行わねばな。
そこでエマが腕まくりして胸を叩いた。
「まっかせて! これでも採掘のプロだから!」
「持って帰れる分だけでいいですからね?」
辺りの魔晶石を全て掘ってしまいそうな気合の入りようじゃ。
しかし、言うだけあってエマの採掘は匠の技じゃな。
高純度の魔晶石の見極め、魔晶石そのものを傷つけず、また不純物をほとんど残さない採掘、保存の手際。
どれも儂よりうまい。
儂が用意したノミを実に器用に使いおる。
リュックの空いたスペースがどんどん埋まっていくわい。
ほんの一時間で採掘された魔晶石の数は五十を超えておる。
素人の儂が見ても輝きが他と違う。
辺りにあった中から厳選してくれたようじゃ。
「とりあえず、魔晶石はこんなとこね。ちゃんとした研磨は上に戻ってからやりましょ」
満足いったのだろう。
額の汗をぬぐっていい顔で笑っておるなあ。
「これだけでひと財産になりそうですね」
「そうね。きっとひとつで金貨二十枚は確実だと思うよ」
となると、これだけで金貨千枚分か。
なんというか、浮遊の魔導具を開発するのが馬鹿みたいに思えてくるのう。
いや、カナンは渡しても受け取らんだろうが。
「わたし、カルロ君のためなら、いっぱい取ってくるよ?」
「いっぱいは結構です。必要な分だけですって」
まるでホストにお金を貢ぐ女みたいな事を言わんでほしいのう。
ともあれ、これだけあれば浮遊の魔導具に使える物があるだろう。
「後は動力核だけど」
魔晶石と違って動力核になるのはマナの宿った鉱石じゃ。
こちらは魔晶石より発生頻度が低いらしいから探すのが難儀しそうじゃが。
「そっちも任せて!」
エマは適当に足元の魔晶石をふたつ砕くと、裸足になって、それらを打ち鳴らしながら歩き始めた。
「エマ?」
「ごめんね、ちょっと静かにお願い。動力核ってマナの影響を受けやすいの。こうやって魔晶石を打ち合わせた時のマナに反応して、震えたりするんだよ。あまり深い所にある動力核はわからないけど、浅いのだったらそれを感じ取れるから」
裸足になった足で感触を察知するのか。
それは知らんかった。
やはり、専門家に任せた方がよさそうじゃのう。
静かな地底湖に甲高い結晶のぶつかり合う音が響いていく。
足を止めては鳴らし、鳴らしては歩いてを繰り返す事、三十分。
立ち止まったエマが嬉々として地面をノミで砕き始めた。
「あ、あったよ! っていうか、すごい! なに、これ!」
頬を上気させて興奮するエマ。
手元を覗きこんでみると、岩の中から緑がかった銀色の鉱物――というか、金属塊が出てきおったぞ。
こりゃあでかい!
全て掘り出したわけじゃないが、サッカーのボールぐらいはあるのではないかのう。
なんじゃ、鉱物の採掘はこんな代物じゃなかったはずじゃが、どうなっておる?
こう、鉱石の中に含まれている鉱物を砕いて分別して、さらに熔かして精錬して、そいつらをまとめて固める物じゃと思っていたのだが。
料理番組でもあるまい。
完成品を用意しましたみたいな感じじゃあないか。
「これたぶん、誰かが埋めたのかも」
「埋めた?」
「うん。動力核って鉱石にマナが多く宿った物でしょ? だから、こうして鉱石自体を用意して、マナの濃い場所に埋めておけば、そのうちこれが動力核になるわけ」
なんでも、下層でそのような実験が行われているのだとか。
確かにいちいち探して、彫り出して、精錬作業をするより効率的じゃのう。
「でも、すっごい時間が掛かるみたい。一年間、埋めておいてもあまりマナが宿らなかったって聞いたよ」
その辺りはまだ実験中なのかのう。
大きさや素材、時間に場所など色々と検証せねば確かな事は言えまい。
「これは精霊銀、だと思う。あまりわたしも詳しくないけど、普通の銀とは違うみたいだから、たぶんそう」
「となると、やはりここにも精霊族の手が入っていたと考えるべきですか」
儂らの前に竜人族の誰かが潜行して、こんな鉱物を埋めたとは思えんし。
うーむ。調べる事ばかり増えていってしまう。
「それで、これは動力核に使うにはどうです?」
「もう、さいっこうだよ。これだけで金貨五百枚分の価値はあるんじゃないかな?」
エマが太鼓判を押してくれた。
となれば、これを持って帰るしかあるまい。
二人で慎重に周りの岩を砕き、金属塊を掘り出して、ダメになった儂のシャツで包んでリュックに入れる。
魔晶石、動力核、そして、地底湖の水。
それぞれ採掘採取、終了じゃな。
推定金貨千五百枚の価値と考えると、リュックが重量以上に重く感じてしまうわい。
ほんの二時間弱の稼ぎとは思えん。
ほとんどエマにやってもらってしもうたから申し訳ない気分がするのう。
「じゃあ、後は……」
「あそこを登るだけですね」
帰れなければどんな宝も持ち腐れじゃのう。
前人未到の断崖絶壁を見上げて、儂は溜め息をついた。




