103 双角の犀
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「ここで小休憩にしましょう。君もいいですか?」
「ええ」
声を掛けられて頷いた。
マナの青い輝きの中なのでわかりづらいけど、既に時刻は夜の領域だ。
オド・ネメニファーラ大空洞に入ったのが朝で、そこから昼の休憩を取っただけで休んでいない。
さすがに一休みするべきだろう。
俺が参戦してから二十分程で、大量に押し寄せてきた擬似精霊の群れは倒せた。
攻勢に回った探索チームの練度が高かったので、撃破数は目標の三割とはいかなかったけど、二割は倒せたはずだと思う。
さらなる増援が来る前にと移動すること十分、俺と探索チームは開けた岩場の一角で足を止めた。
「助かりました。礼を言います」
リーダーと目される弓矢使いの男が頭を下げてくる。
年下の俺に対して抵抗感はないらしい。
周りのメンバーたちも口々に感謝を告げてきた。
「ああ、いえ、俺が手伝わなくても大丈夫だったとは思ったんですけど」
「あれ程の数になるときつい。応援はありがたかった」
前衛リーダーの盾使いの大男が首を振る。
きついとは言いつつも否定はしないんだから、彼らだけでも対処できる自信はあったんだろうな。
「今回はかなり下の層まで行くつもりでした。ここで消耗せずに済んで良かったです」
「深く潜るからと、慎重になりすぎた。三組と一斉にぶつかったんだ」
なるほど。
体力温存のために進行速度を抑えて進んでいたら、巡廻していた擬似精霊のエリアの重なる部分で接敵。
タイミング悪く擬似精霊の周回も重なってしまい、まとまった襲撃を受ける形になってしまったわけか。
まあ、これは下策だったというよりは運が悪かったという類だろう。
俺が納得していると、弓矢使いの男が手を差し出してきた。
さわやかな笑みが様になっているな。
「自己紹介がまだでしたね。私はバウ。このチーム『双角の犀』のリーダーを務めています」
「おれはセルズ」
「アレンだ」「ビータな」「カッティと言う」「ダズ」「エマよ。よろしく」
次々と握手を求められて自己紹介される。
双角の犀か。
感じのいい人たちで良かった。
「俺はカルロ。学習院の一年生です」
「一年生!? 若いから学生だとは思ってたけど一年生なの!?」
チームの紅一点エマが声を上げた。
他の面々も口にはしないものの驚いている。
バウだけが納得したとばかりに頷いた。
「ああ。君が噂の新入生ですか。なるほど、あの戦いぶりを見ると、グニラエフ立石群を攻略したというのもわかりますね」
「卒業した探索者にまで話が広まっているんですか?」
「いえ、これは私たちが主にこの大空洞で活動しているからですね。もうしばらくすれば卒業生からうわさも広がるかもしれませんが」
やっぱり、未解遺跡の攻略は話題性が高いのか。
噂になるぐらいならいいけど、学生たちの間で広まっているような妙なものまで伝わらないでもらいたいものだ。
噂って想像以上に広がるからね。
孤児院にまで伝わったら大変だ。
シャンテに会わせる顔がなくなってしまう。
「ところで、カルロ君の目的は?」
「ちょっと下層まで行くつもりですけど」
「ええっ!?」
またエマに驚かれた。
どうやら彼女、リアクションが派手なタイプらしい。
「わたしたちも今まで中層の下部までしか言った事ないんだよ! なのに、君だけでそんな深くまで潜るつもりなの!?」
「無謀だ」
セルズも端的に指摘してくる。
オド・ネメニファーラ大空洞を狩場としている双角の犀にとっては困難さが実感を持ってわかるのだろう。
言葉の裏には若干の不快感が滲みながらも、心配する色が濃く出ている。
「でも、行かないといけないんで」
「わけあり、ですか」
独立独歩に自己責任。
探索者の性質を考えると無理に止めるつもりにはなれないだろう。
「ならば、私たちと共に行きませんか? 私たちも今回は下層まで潜るつもりでしたから、目的地は同じです。それにこの大空洞には慣れていますので、道とか、休憩とか、色々と力になれると思いますよ」
けど、バウがそんな提案をしてきた。
思わず怪訝な顔をしてしまう。
そんな俺の反応にもバウは気を悪くした様子もなく頷いた。
「信用できない、ですかね?」
「……まあ、初対面ですし」
確かに俺にとってメリットは大きい。
図書館の資料では調べるのにも限界があった。
休憩だってしっかりとれるし、擬似精霊との戦いも多数の方が有利に働くだろう。
何より、下層への道が魅力的だ。
急ぎの道中の俺にとって、最短ルートがわかるというのは嬉しい。
だけど、だ。
遺跡の探索は命懸け。
そんな道中に他人、しかも初対面の、加えて学生一年生を加えるというのは不確定要素が多すぎる。
さっきのような偶然の遭遇からの協力ぐらいならともかく、現場でいきなり同行なんてデメリットしかない。
それにこのオド・ネメニファーラ大空洞を稼ぎの舞台にしているのなら、下層へと続く道なんて秘中の秘だろう。
今後の活動も考えれば知られたくないはずだ。
双角の犀の初対面の印象は悪くないけど、不信感を覚える提案だった。
探索チームをまとめる立場にあるバウがそれに気づかないわけがない。
グレムラン商会と敵対関係になりかけている現状、迂闊に人を信用するわけにはいかなかった。
「もちろん、下心もあります。大きくふたつありますが、まず単純に戦力的に魅力があるというのが一点」
バウが指を一本上げた。
……そうか?
連携を重視する彼らにとって、部外者の僕が入っても邪魔になるだけだと思うけど。
しかし、セルズはバウに同意して頷く。
「そうだな。おれたちには中衛がいない」
六人が前衛で、後衛が一人。
確かに中距離を制する槍のようなアームズを持つメンバーがいないな。
その不足を俺のロープは補えるだろう。
「それに遊撃として動いてもらえば先程のように敵を分散できるでしょう」
「うーん」
納得できるほどの要因とは感じないかな。
なんといっても、彼らは熟練の探索者チームの風格がある。
中衛が不在というのは事実だろうけど、戦闘要員に不自由はしていない。
バウもわかっているとばかりに頷いて、二本目の指を立てる。
「もうひとつの理由は、注目の新入生、カルロ・メリヤの実力がわかるという事です」
「あ、そっか。カルロ君の事を知ってたら、役に立つもんね、色々と」
なるほど。
これは理解しやすい。
既に俺の名前はノーツ学習院の関係者から伝わり出している。
耳の早い探索チームなら情報収集に動くかもしれない。
その時、俺と同道して得た情報は価値を持つ。
「そうです。もうひとつ加えるのなら、ここで恩を売っておけば後々に繋がるとも思いましてね」
「それは言わない方が良かったんじゃないですか?」
「おっと、これは失敗してしまいましたか」
おどけたように肩を竦めるバウ。
けど、正直に話してもらう方が安心はできた。
さて、メリットとデメリットを思い浮かべるけど、最終的には俺が彼らを信用するかどうかの問題だ。
少し考えて俺は手を差し出す事にした。
裏切られるデメリットは確かに怖いけど、下層までの正解ルートは見逃せない。
十日の猶予の内、既に一日目を使ってしまったのだ。
まだ中層の途中。
肝心の下層に辿り着いてさえいない。
帰りの道のりを考えれば、あまり時間は残されていなかった。
一度断ってから、距離を取って後をつけるとかも考えたけど、さすがに気付かれてしまうだろう。
仮に双角の犀がグレムラン商会から妨害を依頼されていたとしたら、ここで断ったところで彼らは追ってくる。
いつどこから襲われるかわからない状況の方がまずい。
それなら、警戒しながら利用する。
きっとバウにしても俺と似た心積もりに違いない。
「わかりました。よろしくお願いします」
「よかったです。臨時チームの探索、成功させましょう」
俺とバウは笑顔を作って握手を交わした。




