第9話・火と雷の奇襲・雷爪炎狼、その二(改訂版)
第9話・火と雷の奇襲・雷爪炎狼、その二(改訂版)
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「全員、総攻撃!……もう戦いが始まってるのか。流石、歴戦の魔法少女たちだ」
オレがそう宣告するより前に、全員はすでに動き出していた。
炎纏鎧のせいでダメージが通らなかった時間は長かったの原因で小隊の子たちもずっと我慢してきた、その不満がもう限界だったのだろう。
楽奈がオレの後ろで掴んでいた手を離し、水に沈むようにオレの影へと潜り込む。
次の瞬間――影から形成された無数の剣山が、下方から一斉に突き上がり、魔狼を貫き通した。
『ガウー!?』
魔狼はすぐにそこから逃れようとするが、あいつの影から射出される剣の数は増える一方で、柔らかい腹を容赦なく切り裂いていく。
「……『千刀万刃の剣山』。当たった?……もう光ってないから、自分の影から逃がさないよ」
悲鳴が上がるのと同時に、『大津波の絵』を完成させたマイスターも、後方から絵の具の槍を構えて駆け出す。
「マイスターもいくよ!ーー『即興、直線:あなたの血は花となり』!」
炎を失った今、マイスターの作画を妨害する要素はすでに消えていた。
雷爪炎狼の右前脚に、右から左へと真っ直ぐな『赤き細い糸』が描かれる。
『ガーッ!ガルーー!?』
描かれた赤い線が血痕へと変わり、この世に存在しない血の華が咲き誇る。ついにはそれが『断面』となり――右前脚はきれいに切断された。
大気中の自由魔力へと溶け込む間もなく、傷口から溢れ出た血が地面を染め上げて血の池となり、その池から曼珠沙華が次々と咲き誇る。絵の魔法だけが具現化しうる、地獄のような風景だった。
前脚を失った魔狼は大きく体勢を崩し、まともな反撃ができない。
「えっと……《騎士たち、もう一度お願いします》」
先ほど大津波の激流に巻き込まれて消滅していた光の騎士たちを、奏が改めて祈りを捧げる。
その願いに応え、騎士たちは再召喚された。新たな光の騎士たちが出現し、倒れた雷爪炎狼へ斬撃を浴びせる。
今やオレたち小隊の大優勢に見える……だが、魔物という存在は異常な生命力を持つ。最後まで油断は禁物だ。
もし油断すれば、まだ反撃される――その予感は、最悪の形で的中した。
「と、跳んだ!?」
「危ない!みんなさん、早く撤退を!」
「うわっ!どどど、どうしよう!?ーー『即興:鋼の城壁』!」
「……っ」
雷爪炎狼は倒れた状態から跳躍し、包囲を強引に突破して即座に反撃へ転じる。
楽奈は影の中に潜ったままで影響は最低限だったが、機動力のない彩音はすでに撤退が不可能だった。彼女は最後の手段として『現地防衛』を選択し、即座に鋼の壁を描いて防御する。
あれは、曼珠沙華が咲き誇る土壇場での、魔狼窮地の逆襲だった。
当然、魔狼にとって目障りな絵を止める最も確実な方法は――術者を殺すことだ。
執念深く彩音だけを狙い、彼女の命を絶つために牙と雷爪を振るう。鋼の壁が連続攻撃を浴び、雷を纏った斬撃が空を裂く。
奏は急いで援護の祈りを捧げる。
「《マイスターちゃんに障壁を》!」
鋼の壁が狂った攻撃に耐えきれず砕け散り、その衝撃が代わりに光の障壁へと叩きつけられる。障壁には無数の亀裂が走った。
「うわぁぁっ!壁が壊れちゃう!暁、フランちゃん、シャドウちゃん助けて~!!」
魔狼が執拗に彩音を狙い、血走った目が彼女だけを睨む。
「こっちを見ろーー!!」
オレは普通の拳銃を抜き、通常弾をその目に向けて撃つ。妨害だ。
普通の弾丸では魔物に傷を付けられないが、衝撃が入るだけで攻勢を少し揺るがすことができる。
でもこれはまずい!かなりまずい……!もう後のことを構ってはいられない。魔弾を撃つべき時だ!
「わたくしは、絶対に、マイスターちゃんを助ける!――《騎士たちを、妨害にしてその攻撃を崩して》!」
奏の祈りに応えた光の騎士たちが左側から集中攻撃を行い、魔狼の体勢を強引に崩した。
「……『影縛り』。ぼくを無視していい度胸だったね」
騎士たちの連合突進の衝撃で横へと倒れ込む魔狼の影から、楽奈の魔法によって無数の影の手が伸び、拘束する。
「今だ!好機だ、一気に畳み掛ける!」
その指示を応えたのは楽奈だった。
彼女は影から飛び出し――大きすぎる影の大剣と共に。
「……はあっー!!」
影で創成された巨大な大剣が、勢いのまま振り下ろされる。小柄な体から想像もつかない豪勢な剛斬が放たれ、残された全ての足を一気に切断した。
「わたくしも、《杖からなんとかビーム》!!」
奏の杖からも無数の細い光線が放たれ、今回は防御されることなく魔狼の胴体に次々と穴を穿つ。効果は抜群だった。
「これは……さっき怖がらせたお返しです!!――『貫くの点描』!!」
彩音は崩れた障壁の中から駆け出し、絵の具の槍を前に突き出す。
狙いは急所――心臓があったはずの場所へ丸い絵を描き、『穴』が具現化して完全に貫通する致命傷を与えた。
雷爪炎狼の身体は、端から徐々に空気へと溶け始める。
「討伐完了……っと」
ようやく地下街の戦場に静寂が戻り、安堵の空気が広がる。
最後の一撃を放った彩音はこちらを向き、二本指で勝利のサインを送ってきた。
ミッションクリア――そう頭に浮かんだ瞬間だった。だが、オレたちは、この魔物の執念深さを見誤っていた。
オレはそれを見た。マイスターに変身したままの彩音の背後で、大きく開かれた魔物の口。
その牙が、彼女に迫る瞬間を。
(――まだ、守れなかった)
オレはそう思った瞬間、世界の動きが極端に遅くなったように感じた。
それと同時に、鎖が摩擦されるような音が響き、胸の奥から黒い感情とともに焔が焼けるような錯覚が走った。
理由はわからない。何を感じたかも、どうでもいい。これで彩音を救えると、本能的に理解した。
オレの体は反射的に動いていた。考える間もなく、引き金を引く。
魔弾が放たれ、赤い光の軌跡を虚空に描く。
危険に気づいた奏が展開していた障壁を、まるでガラスのように貫通し、砕き――彩音の頰のすぐ横を掠め、背後の雷爪炎狼の首を貫いた。
弾丸はそのまま、向こう側の壁へ突き刺さる。
それが、雷爪炎狼の最後の反撃を完全に止めた。断末魔を上げる暇もなく、本当に沈黙した。
オレが持つ魔弾の残弾……まだ二発。
緊急事態の武力が減るが、彼女を守れたなら安いものだ。
全てが終わると、オレの視界が通常に戻り、時間の流れも元に戻る。
「……な、なんで銃、魔弾を……?……えー?うわぁっー!?」
状況を理解した彩音が振り返り、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「最後まで注意してくださいよ。もう……もし噛まれてたら、道連れだったかもしれませんから……」
緊張が解けた反動か、あるいはあの奇妙な現象が原因か、オレは全身汗だくで、心臓が痛いくらい早鐘を打っていた。
「暁お兄ちゃん!!」
「兄さん!!」
奏の声と、久しぶりに聞く楽奈の大声。
二人に支えられ、何とか倒れずに済む。
深く息を整えると、徐々に体調も落ち着いてきた。
「はあ……はあ……ありがとう、シャドウちゃん、フランちゃん。オレは大丈夫から、心配はしないでください。もう離していいよ」
心配そうな表情を残しつつも、二人はゆっくりと手を放した。
雷爪炎狼がいた場所には、もう拳ほどの大きさの赤い魔石だけが残されていた。この状態で、もう反撃が来ないだろう……
多少のヒヤリはあったが、大きな怪我もなく討伐できたのは幸運だ。
「――これより、本当に作戦終了でした。みんな、お疲れ様です」
緊急ミッションは、ようやくクリアした。




