第7話・火と雷の奇襲・警報(改訂版)
第7話・火と雷の奇襲・警報(改訂版)
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オレたちはラーメン屋のカウンターに並び、出来上がりを待つ間も自然と話題が盛り上がっていた。
「ねえねえ、みんな~! これ見て見て~!」
陽葵彩音が弾んだ声でスマートフォンを操作し、画面をこちらに向ける。
オレと月見奏、影崎楽奈の三人が自然と身を寄せて覗き込んだ。
画面に映っていたのは、匿名掲示板のスレッドだった。
『【速報】ワイらのヒーロー魔法少女・白雪ちゃん、港区廃棄工場で魔物討伐【現場映像あり】』
開いた先は画質の粗い、ブレまくった夜間動画だった。
遠くからスマホで撮ったらしいそれでも、白い光の軌跡が夜空を切り裂くように舞う姿は一目で分かる。
そのは昨晩、魔法少女・白雪――星野雪菜の戦闘動画でしだ。
変身の瞬間自体は映っていない……一応セーフか。
念のため、後で魔物対策局に報告しておく必要はあるな。
「すごいでしょ! 深夜なのにファンが撮っちゃったんだって~」
「はぁ……」
オレは小さくため息を吐いた。
「毎回こうだ。どれだけ避難警報を出しても、無視して近づく奴が後を絶たない。一般人が自分の安全も顧みず、魔法少女と魔物の怪獣戦闘を間近で観戦しようとする野次馬根性……。自分の命をもっと大事にしてほしい。本当に。」
オレがぼやいていると、奏が急に眉を寄せた。
「……待て下さい。ここ、拡大して。」
指差された部分を彩音がピンチインすると、戦場の端――瓦礫の影に、ぼんやりとした人影のようなものが確認できた。
はっきりとは映っていない。だが、その『徹底的に存在を消す』技術に、オレは心当たりがあった。
「……楽奈。これ、もしかしてキミか?」
視線を向けると、無表情のままの真紅の瞳が静かにこちらを見返してきた。
「……うん。猫を探してたら、たまたま通りかかっただけ。」
相変わらず淡々とした声。でも、肯定した。
「……雪菜ちゃんが空でぐるぐるしてる間に、魔物から逃げてきたのが何匹かいたから……殺した。悪いこと?」
丸い赤い瞳が、答えを求めるようにオレを見つめる。その視線は無垢で、どこか純粋。
「いや。」
オレは首を横に振った。
「結果的には助かった。ありがとう。でも、次はちゃんと報告してくれ。部分的な討伐でも、魔物対策局から報酬は出るからな。それに……帰ったらオレがちゃんと回復させてやる。」
「……でも、大した魔力は使ってないよ。影に隠れて、投げナイフを少し作っただけ。」
影崎楽奈。彼女はオレが対策局に連れてきた魔法少女であり、小隊の中で最も複雑な過去を持つ少女だった。
あれは雨の日、路地裏に出会った頃の彼女は、普通の魔法少女よりもずっと幼く見え、その身にはすでに致命傷に近い重傷を負っていた。
すぐに支援を要求し、治療系の魔法少女による魔法で傷を癒やしたものの、一歩及ばなかった。
手遅れだった治療のせいで、後遺症としての古傷が残ったーーそれは、魔力が常に漏れ出し続け、その影の魔力がまるで影の尻尾のように具現化してしまうというものだ。
漏れ出す魔力と自然回復が相殺されているため、『外部から供給されなければ回復しない』身体になってしまった、極めて特殊な体質だった。
だからこそ――
「次は無茶するな。」
オレは少し声を落とし、真剣に言った。
「オレがいないときは、必要のない戦闘は避けてくれ。……オレは、キミたちのことを大切に思ってるんだ。心配させないでほしい。」
その瞬間、店内の空気がふっと柔らかく沈黙した。
彩音と奏、そして楽奈も、言葉を失っていた。
……もしかして、オレは言い過ぎたか?
「……ぼく、心配されてる?」
ほんのわずか、楽奈の口元が柔らかく緩んだ。
その表情は無表情の仮面の下で、珍しく甘い。
ローブの下から、影の尻尾がするりと伸び、オレのふくらはぎにそっと絡みついてきた。
冷たくて、しなやかで、まるで彼女の本音を代弁するように、ぎゅっと締まる。
その感触は、彼女の無表情な顔よりずっと分かりやすいだった。
それは、機嫌が良い証拠だ。
「……うん。わかった。」
彩音がにっと笑いながら肘で軽くオレを突く。
「よかったじゃん、楽奈ちゃん! ボーナス確定~! それに『愛されてる』ことも確認できたね~。おまけに彩音も『キミたち』に入ってるみたいで嬉しい~! ただ、雪菜ちゃんがいないのが本当に残念! あ、でももし彼女がここにいたら……うん、理性が飛んじゃうかもしれないから、いない方が安全かも?」
「『キミたち』が大切、か……ふふっ。」
奏が小さくくすくすと笑う。彼女の瞳には、からかうような色が浮かんでいた。
ちょうどそのタイミングで、店の大将がカウンター越しに明るい声をかけてきた。
「お待たせ! 召し上がれ~!」
空気が一気に和らぐ。オレは手を合わせた。
「じゃあ、話はここまで。いただきます。」
「「「いただきます!」」」
*
しばらくして、全員がラーメンを食べ終わり、満足げに息をついた。
「美味しかった~」
「そうだね」
「……ぼくの選択ミスだな、これ」
ウルトラ激辛を注文した楽奈は、猫のように小さく舌を出して冷たい飲み物を飲み、アイスをちろちろと舐めている。その姿は普段のクールさが嘘のように愛らしく、オレにすごい効くでした。
……この子、普段はあんなに冷静なのに、こういうところは普通に可愛いんだよな……
この超絶的なギャップ萌えに、オレは思わず目を逸らした。
ここで少し距離を取ろうか……
「オレは先に会計してくる。みんなは外で待っててくれ」
席を立ったその瞬間――
地下街に、聞き慣れた緊急警報が甲高く響き渡った。
『――魔物災害発生。魔物災害発生。地下街内にて、魔物顕現の前兆を確認。速やかに最寄りの避難通路へ避難してください――』
ありえない……! 昨晩討伐したばかりなのに、もうこれだけの魔力が集まるなんて……!?
長年の訓練で培った反射が、思考より先に体を動かした。
「大将! 会計はここに! 早く避難してください!」
「おう! 毎度あり! あんたらも気をつけろよ!」
大将が店裏の避難ドアへ駆け込むのを確認すると、オレは店を飛び出し、通信端末を起動した。
――予測地点、ここに近い!
「みんな、オレの後ろについて! 魔物顕現の現場はすぐそこだ!」
「「「はい!」」」
走りながら総局へ連絡を入れる。
「こちら天城小隊。現場至近から任務を要請します。小隊出撃メンバーは陽葵彩音、月見奏、影崎楽奈の三名。現在、雪菜さんは不在です。これより対応に入ります」
『了解。任務データを通信端末に送信します。支援要請はいつでも受信可能です。安全第一で任務を遂行してください』
報告を終えると、オレは目的地点へ全力で走った。
さっきまで人で溢れていた地下街は、嘘のように静まり返り、無人になっていた。
「……ここが予測地点だ。魔物はまだ出てこないみたいだな。みんな、先に変身してくれ……」
息を整えながらオレが言う。魔法少女ではないオレは、筋トレで鍛えてはいるものの所詮一般人。呼吸が少し乱れる。
後ろを振り返ると、奏はすでに変身を終えていた。
紫色の髪が銀白色に輝き、幾重にも重なる純白のヴェールが織りなすウェディングドレス風の聖衣に包まれている。
手には銀白色の十字が輝く錫杖。
「緊急でしたので……走りながら変身しました。魔法少女・フラン、戦闘準備完了です!」
「お、おう……相変わらずの瞬時変身だな……」
その声からはいつもの弱気が消え、凛とした闘志が溢れていた。
続いて彩音が杖――水彩画筆のような長槍を召喚し、高らかに宣言する。
「色に染まれ、変身ー!」
無数の鮮やかな顔料が虚空から溢れ、彩音の全身を包み込む。
ベレー帽とエプロンが現れ、金髪の毛先がカラフルに染まる。
「魔法少女・マイスター、参上!」
楽奈も双刃の短剣を召喚し、静かに呟いた。
「……影纏、変身」
ローブはそのままに、影のスカーフが幾重にも増え、兜を被ると彼女の存在がぼやけるように薄れる。
「……魔法少女・シャドウ、参上」
――全員が準備を整えた、次の瞬間。
空気が重く歪み、魔力が一点に収束した。
火と雷が無秩序に奔り、地下街の床と店舗を薙ぎ払う。
オレが身構えたその直前、黄金色の球形障壁が展開された。彩音と楽奈の周囲にも同じ障壁が張られる。
「光の障壁……これはフランの《祈りの魔法》……!」
奏が錫杖を掲げ、静かに告げる。
「大丈夫です。わたくしが、皆さんを守ります」
《祈りの魔法》――彼女の固有魔法は特別だ。祈りに応じて防御・攻撃・支援・召喚を光で実現する万能性を持つ。
しかし制御が出来ない、自律発動の性質がある。
今この障壁は、彼女が心の底から《みんなを守って下さい》と祈った結果だろう。
オレのすぐ傍で、奏が柔らかく微笑んだ。白いヴェールが微かに揺れ、甘い香りが漂う。
「暁お兄ちゃん……わたくしの元から、『ずっと離れないでください』。あ、これは変な意味じゃないですよ? あくまでわたくしの周りの障壁が一番硬いからです……」
その言葉に、頰が少し熱くなる。奏の視線は純粋なのに、どこか艶めかしい響きがあった。
「……ああ、わかった」
でも、この余波だけでこれだけの威力……集まった魔力の量が尋常じゃない。
そして、魔物の本体が現れた瞬間――
「来るぞ! 魔物討伐任務、開始!」
燃える体毛に雷を纏った爪。
車ほど巨大な狼型魔物が咆哮と共に姿を現し、こちらに向かって焼けつくような殺意を叩きつけてきた。
『――ガアアアァァッ!!!』




