第6話・火と雷の奇襲・合流(改訂版)
第6話・火と雷の奇襲・合流(改訂版)
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「よし……やった、これで作戦記録のレポートは完成だ」
オレは二階の自分のオフィスで、昨晩の作戦記録を作成し終えた。
もちろん、あの異常事件の内容も整理してしっかり書き込んだ。
後は本部へアップロードすれば、この長い文書作業が正式に終わる。
時計を見ると、すでに正午を回っていた。
「昼か……もう半日も仕事してたのか。コーヒーも切れたし……駅の地下街で何か食べるか」
椅子の背もたれに身を預け、凝り固まった身体をほぐすように大きく背伸びをした。
そのまま駅へ向かうつもりだったが……ふと、別のことが頭をよぎった。
「……そういえば、彩音はどうしてるんだろう?昨晩は創作に夢中になって魔力を使いすぎ、魔力切れで相当無体な様子だった。確かアトリエテーマの休憩室のベッドに寝かせたはずだけど……体の具合は大丈夫かな。寝落ちしたままちゃんと起きてるか、心配だな。見に行ってみよう」
そう考えると、椅子から立ち上がり、財布をポケットに突っ込んでオフィスを出た。
二階は職員の業務フロアばかりだから、彼女はここにはいないだろう。
とりあえず一階のメイン娯楽室へ向かうことにした。
*
この支部は全体的に清潔な白を基調とした印象で、メイン娯楽室も例外ではない。
広い室内にはソファ席が並び、各種ゲーム機やドリンクバーまで完備されている。
任務のない魔法少女たちはここでリラックスし、話したり、ゲームをしたり、担当の連絡員と交流したりしている。
彼女たちの姿は覚醒した時からほとんど変わらない。
私服姿で笑い合う光景だけを見れば、ここはどこかの学園の食堂に間違えてもおかしくない場所だ。
実際、今は比較的平穏な時期だから、皆緊張を解いているのだろう。
魔物は周囲の魔力を集めて顕現する性質があるため、魔法少女が討伐すれば、その魔力を吸収して戦闘で消費した分を少し回復できる。
人が住む場所では無意識に空気中の魔力を吸収するので、魔力濃度が低くなりやすい。
そのため、一つの支部の管轄区で発生する魔物災害は、多くても月に一、二件程度だ。
雪菜の任務が終わったばかりということもあり、皆どこか気が緩んでいた。
他の連絡員と担当魔法少女が仲良く談笑している光景もあるが……その一方で、複雑な人間関係が絡んで修羅場になっているグループもある。
うんうん、そのような修羅場を見逃すのは、あまりにも惜しすぎる。
だからオレは耳を傾けた。
『あれは誤解だ!もう許してくださいー!俺は君たちに一意専心だって言っただろ、浮気なんかじゃない!あの子は俺の妹で——』
『ねえ、彼はそう言ってるよ。ゆかりちゃんはどう思う?』
『へえー、妹ねぇ。なら、お買い物の約束をしていた私たちと偶然お会いした時、どうして彼女はあんな“勝ち”みたいな目線で私たちを挑発してきたの?』
『判決出ました。ギルティ。』
『そんな、これは冤罪です!弁護士はー』
『ない。大人しく裁きを受け入れなさいよ。覚悟してね』
『もう私たちから目を離さないように、たっぷりするからね♡』
(あ、あの連絡員の同僚が、担当魔法少女二人に引きずられて……入口の方に来た。)
「お邪魔しました」
「しますー」
「はい、どうぞ」
二人の魔法少女に捕まった同僚は、オレの傍を通り過ぎる時に『助けて』という目線を送ってきたが——
「ごめんなさい。別の小隊に干渉するのはマナー違反……お大事に」
まあ、触らぬ神に祟りなしだ。
心の中で成仏を祈っておいた。
少しの想定外な出来事があったが、オレは本来の目的である彩音探しを続ける。
しかし室内を見回しても、あのふわふわした金髪の姿は見当たらなかった。
仕方ない、近くにいた職員に声をかける。
「すみません。オレは連絡員の天城と申します。オレが担当している陽葵彩音さんは見かけませんでしたか?」
「天城さん……あの、平均を遥かに超えて四人の魔法少女を担当する、天城小隊の連絡員のあの方ですか?……陽葵さんなら、ここでは見てませんね。彼女ならいつも通り、地下のアートアトリエ休憩室じゃないですか?」
「そうですか。ありがとうございます」
(……まさか、まだ起きてない?もう昼なのに?)
嫌な予感が胸をよぎった。
*
地下のアートアトリエ休憩室に入ると、その予感は的中していた。
彩音はベッドの上で、無防備な姿のまま横たわっていた。
しかも変身状態のまま——天城小隊に所属する《絵の魔法》を持つ魔法少女・マイスターの姿を解除していない。
昨晩、変身したまま創作に没頭し、魔力切れで倒れたのだろう。
精神集中が途切れず、解除する余裕もなかったらしい。
床には制作途中の作品があちこちに散らばっている。
踏まないよう注意しながらベッドの傍まで近づき、指先でぷにっと彼女の頰をつついた。
「……うぅ、あと五分……」
「彩音。起きろ、もう昼だぞ」
「わわっ、揺らすなー……わかった、わかった……って、暁じゃん。おはようのキスは?」
冗談を言える程度には顔色も悪くないようだ。
「欲しいなら何度でもしてやるけど、今は体調確認が先だ。昨晩は魔力低下だっただろ?まだ回復してないんじゃないのか?」
「んー、大丈夫だよ。ぐっすり寝たし、元気いっぱい!魔力供給のキスができないのは残念だけどねー。だから、おはようのキスは?」
そう言って彩音はベッドから飛び降り、両手を大きく伸ばした。
「はい、キス頂戴~!しないと彩音は眠り姫のように二度寝するぞ~」
「オレを脅すつもりですが?はいはい、わかりました」
オレは彼女に応え、正面から彩音を抱き上げた。
愛らしい顔が目の前に近づき、期待に輝く碧い瞳と視線が絡み合う。
互いの鼻息がくすぐったく感じる距離で、自然と唇を重ねた。
これは魔力供給ではないから、軽いキスだけですぐに離し、オレは彼女を下ろした。
「む、足りない~」
だが——その直後、『ぐぅぅぅ……』と盛大な腹の音が響いた。
「えへへ。もう昼だし、お腹はもうペコペコだ~。暁、食べに行こー」
「待てー!」
オレは外へ出ようとした彼女の首根っこを掴み、全身の力を込めてやっと止めた。
ぐぅ、魔法少女の力が強いな……
こうして子猫のように持ち上げられた彩音が、疑問いっぱいの目でこちらを見つめてくる。
「こら、キミはまだ変身状態のままだろ。その格好で一般人の前に出たら大騒ぎになるよ……ほら、オレたち小隊は別に宣伝営業されないけど、一応有名人の自覚を持て」
「あっちゃー……うっかり忘れた」
ようやく気づいたらしいので、オレは掴んでいた手を放した。
光と共に変身が解除され、白かった髪が金髪に戻り、毛先のカラフルな輝きも消える。
シンプルなシャツとホットパンツのストリートスタイルの碧眼少女が、そこに立っていた。
「先に洗顔してくる!彩音を待てないで先に行っちゃダメだよー」
元気よく洗面所へ向かう背中を見送りながら、オレは小さく息を吐いた。
(……本当に、天然で油断しすぎて、放っておけないな)
*
「で、何が食べたい?」
「んー、そうだー!最近駅地下に新しいラーメン屋ができたんだよ。そこ行こー!」
「いいな。じゃあ、そこにするか」
オレたちは支部地下の秘密通路を使い、駅の地下街へと向かった。
正門から出れば正体がバレる可能性があるため、この通路は魔法少女と職員専用のものだ。
駅にも直結していて、実用性は抜群だった。
昼時の地下街は人通りが多く、オレたちは自然にその流れへと紛れ込む。
「……あれ?あっちって、奏ちゃんじゃないですか?奏ちゃーん、見っけー!」
人混みの中に、薄紫色の長い髪の小柄な影が見えた。
それは間違いなく、天城小隊に所属する月見奏だった。
彩音は迷うことなく人の流れをこそこそと掻き分け、背後から奏に抱きついた。
「きゃっ……!だ、誰ー!?不審者!?わたくしは強いですよ、ボコボコしてー、……あ、彩音ちゃん……いきなり後ろからは、その……びっくりするから……」
「いいじゃないですかー!今から暁とラーメン食べに行くんですよ。一緒に行きましょ!」
オレもようやく人混みを抜け、彼女たちの元へ辿り着いた。
「こんにちは、奏ちゃん」
「え……暁お兄ちゃんも!?その、わたくし……本を買ったばかりで、寮に戻る途中だったんですけど……」
一瞬ためらい、ちらちらとこちらと彩音を交互に見てから、奏は小さく頷いた。
「……わたくしも、行きます」
「やったー!」
彩音は喜んで奏の手を繋ぎ、ふらふらと揺らしながら笑顔を弾けさせた。
「一緒に食べよー」
「はい……!」
本を抱えたままの奏は、こちらに向かって控えめな笑顔を浮かべた。
*
彩音の案内で何度か道に迷いながらも、どうにか目的のラーメン屋に辿り着いた。
「今日はオレのおごりだ。遠慮せず頼んでいいぞ」
「え、いいの?迷っちゃうな……どっちも食べたいです……」
「ほんとう?じゃあ大将!醤油ラーメン大盛り、もやしたくさん、麺かためで!」
「はいよー!」
奏がまだ迷っている横で、彩音は即決だった。
「なら、オレは豚骨ラーメン。ほら、奏ちゃんも好きに注文してください。」
「あ、ならわたくしはこの塩ラーメンに……!」
「……これ面白いから、これにする。大将、特製ウルトラ激辛ラーメン」
「はいよー!お嬢ちゃんはうち自慢の特製ウルトラ激辛ラーメンに挑戦か、いい勇気だ!」
なんだか急に——聞き覚えのない声がオレの左隣から聞こえて、そちらを見た。
そこに座っていたのは、ローブを纏った肩までの白髪に赤い瞳のアルビノ少女。
ローブの下は動きやすさを優先した、布の少ないビキニのような戦闘服だ。本人もその格好を恥ずかしいと思っているのか、いつもローブで隠している。
でも、彼女のトラウマで武装解除や拘束感にパニックを起こすため、それは仕方のないことだった。
何より、ローブの下から伸びる影の尻尾が、ゆらゆらと覗いている。
その尻尾は古傷から漏れ続ける魔力の表れの特徴——彼女は同じく天城小隊に所属する魔法少女、影崎楽奈だ。
「うわ、楽奈ちゃん!?いつの間に……全然気付かなかった」
「……やほー、お兄さん。ぼくは最初からいたよ。朝まで猫と遊んで、寮に帰る時に兄さんがアトリエに入るのを見て、そのまま尾行してた」
「流石楽奈ちゃん、相変わらず凄まじい気配遮断だな。完全に消えてたみたい」
「……うん。びっくりさせた?」
右隣を見ると、彩音と奏が同時に首を横に振っていた。
「ぜんぜん気づかなかった」
「わたくしも……」
「うん、びっくりさせた」
「……だろう~」
なんだかんだで、休み中の雪菜を除いた小隊の全員が揃った。




