第59話・鏡よ、鏡・力試す、『人々の運命を激変させた、あの一日……』
第59話・鏡よ、鏡・力試す、『人々の運命を激変させた、あの一日……』
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――弓月葵の場合――
はい!うちは弓月葵です!
今は夢の世界で模擬戦の最中です。
面目ないけど、先輩たちとの戦いは一勝もできていません。
でも……
「え……うち、久那ちゃんと戦うんですか!?マジで?」
そう。楽奈先輩に瞬殺されたあと、最後の相手は、ちょっと前まで魔女化していて、うち全員と原初のお偉い様たちをギリギリまで追い詰めた六星久那ちゃんとの勝負です。
「その……私は手加減はできないから、ごめんなさい」
「だよな~、手加減はできないよな。あはは……」
先に他の人との戦いを観戦していたから、久那ちゃんの戦い方はある程度わかっています。
魔女の時みたいに高熱を中心に構成するのではなく……完全に相手の絶命を狙う、致命的な戦闘スタイルです、……怖いな。
うちは名義上は久那ちゃんの先輩ですが、実力は彼女の方が遥かに上。
勝機は全然見当たらないから、うちは……うん、とりあえずできるだけ長く生き残ることを目指そう。
「それじゃあ行こうか。炎星、変身!」
「はい……うちはできる限り頑張ります。ハアアーー!!」
うちは相変わらず『杖』としての髪飾りを付け、気合でふわふわな魔法少女姿に変身を完了させました。
向こうの久那ちゃんは、身体の中心から小さな太陽のような光を生み出し、自らを飲み込ませます。
そしてその偽りの太陽が、日冕の中で爆ぜる。変身を完了した彼女が、その中から現れました。
変身後も黒髪は変わらないけれど、姿は魔女の時と少し違います。
風格がもっと明るく、赤色が強くなっています。
鮮烈な赤の火炎ドレスには白炎で織られたリボンが添えられ、頭上には小さな炎の光輪が浮かんでいます。
手に握る赤き長剣はレーヴァテインよりは霞むものの、その熾烈な高熱は周囲の空気をゆらゆらと歪ませている。
赤い瞳はさらに明るく光を放ち、うちへ新しく登録した名前と共に宣言しました。
「魔法少女・烈炎、只今参上いたします!」
「うわ、予備区の時よりすごい熱が感じます……でも、そちらが宣言するなら、うちも返しをしないとマナーですよね。漫画みたいなシチュエーションですが――改めて、魔法少女・ルカ、参上!どちらが勝つかはまだわからないから、うちは全力で挑みます!」
その戦前宣言と同時に、カウントダウンがゼロになりました。
*
「来い――『六星』!」
「――『変化・赤戦士/最終回形態』」
お互いに固有魔法を発動し、手合わせが始まった。
うちの魔法は変化というより、変装に近い。
でも、もう慣れたから名前を変える気はない。
魔法が発動すると、このふわふわの魔法少女服の上に、腰のあたりにベルトが増えた。
「魔力の消費を構わない、最初から全力!ハアアーー!!変身!!」
気合で叫ぶと、ベルトから『SUCCESS・WARNING! OVERDRIVE! WARNING!……GOOD LUCK』という無機質なシステム音声が響き渡り、同時に全身のラインを眩い光の流体が駆け抜ける。
空間に展開された幾何学模様のデータ粒子が引き寄せられ、瞬間、重厚な赤色金属装甲となって体に吸着していく。
『ガコン!』という機械音とともに装甲が完全に閉鎖され、鞘に入れた未来感のある剣を腰に付けると、変身が完成した。
オーバードライブが発動した特有のラインが、装甲の中心部から脈動のように輝く。
兜を除けば、番組に登場した最終決戦回の赤戦士のカッコよさを完全再現している。
向こうの久那ちゃんは、六つの火玉を呼び出し、衛星のように自分を中心に公転させている。
先の四回の戦いを観戦していたから、その特性はある程度わかる。
あれは魔女の時に呼ばれる衛星火玉とは違って、遠距離攻撃ができない代わりに厄介な特性がある――
「早く、早く……『天眼』はまだ発動しないのか、早く……あ、発動した!って、もう来た……!?」
やっと赤戦士が決戦シーンで発動するオーバードライブ効果『天眼』が発動し、視界にうちが爆発する虚影が見えた。
そう見えた瞬間に気づいた。死角から一本の赤い軌跡が超高速で接近していた!?
久那ちゃんが急にうちの目の前に現れ、剣を持っていない左手をうちの顔面に伸ばしてくるが……うちは紙一重の差で避け、その腕を掴んで投げた。
赤戦士の装甲の力と、すでに知っている攻撃技の両方が揃って初めて反応できる。
赤戦士ベルトの能力と、本来の戦闘スタイルは身体強化タイプだから、『天眼』はその延長線上にある。
『天眼』――設定集から読んだ限り、番組特有の超科学の力で実現するもの。原理は身体を強化し、視力と思考を身体に負担がかかるまで無理やり強化して、予知のようなことを可能にする。『一度見た技』なら、この効果がさらに上昇する。
先ほどにあったことは、久那ちゃんが何も特別な動きをせず一歩前に出た瞬間、足元から突然爆発し、その動能で瞬間加速した技だ。
その爆風を利用して鋭角に曲がることも可能で、その数は火玉と同じ『六連』まで可能。
奏先輩も彩音先輩も、さっきはこの理不尽な速攻に沈んだ。
さらに、危険なのは剣だけではない。その手も同じくらい危険だ。
もし先ほどの左手がうちに触れていたら、その瞬間に爆発していた。
雪菜先輩はこれで注意力が散漫になり、うっかり爆発させられた。
最後に、久那ちゃんの身体の動かし方は楽奈先輩と似ている。
うちゅはこのようなギリギリの回避ができたのは、みんなの模擬戦を見てきたからこそ。
これでやっと、久那ちゃんと同じ舞台に立てる資格がある証拠だ。
本当に、久那ちゃんはまさしく『速度×火力=パワー』みたいで、全身全霊に殺意を込めた戦い方をしている。
うちが投げた時に剣を抜いてカウンターするつもりだったが、半空で『六星』の爆発による不規則な鋭角移動をし、まるで火の流れ星のようになった。うちの天眼はギリギリ把握していた……うわー、番組の中では兜を被っているから見えないけど、他人視点から見れば『天眼』が発動したうちの目が気持ち悪いほどぐるぐる回っているはずだ。
亜音速で逃げているというのに、あの炎の流星は爆音を響かせながらうちの身の回りを旋回し続けている。うちの手が届かない絶妙な距離を保ちながら、そこから追尾する火炎弾を何度も放ってくる。
時々うちが死ぬ虚影を見るから、うちが対応する反応で、久那ちゃんの攻撃する未来が変わる。でも――
(……四、五、六……やっぱり、その加速は六回すると『六星』を補充するから、次の動きは鈍くなる。なら、ここは――その隙を狙い、うちの全てを込める、です!)
好機を待つ間、うちの魔力は恐ろしいほどの速度でベルトに吸い込まれていく……さらにこの脳筋そうな思考は、もう精神が原作の赤戦士に引っ張られているから、うちの時間はもうない。あのキャラは最後まで諦めない、根性という信条を最初から最終回まで貫徹する熱血漢で、この程度の精神侵食は戦いに大きな影響はないはず。
冷静に剣でその火の流れ星から射出されるファイア・ボールをガードしながら、その好機を待つ。機会はただ一つ!
「……六、今だ!これは十トンから増幅された、メガトンアタック!『必殺・大切断』」
うちはその爆発加速の隙間を狙い、上段の構えから剣を振り下ろした。
うちの全身全霊に相応しいほどの一撃で、それだけで爆風が起こり、この夢の世界の競技場に深く長い切れ痕が残された。
もし命中していればただでは済まなかっただろう……そう、命中していれば、の話だ。
「……ごめんなさい。私の勝ちみたい」
耳元から響いた言葉と同時に、自分の心臓を貫通する灼熱の長剣が見えた。その熱量で、自分の敗北が近いことを理解した。
「ま、さか……『六星』なのに、第七の――」
「敵を騙すのは基本的なことです。それに魔法というものは、一部の面倒な魔法を除いて、基本的に魔法の詠唱は必要ない……言い出した魔法名も、敵を惑わすことができる」
「これは、盲点……だか――」
言葉を半分しか言えないうちに、左腕で目の前の久那ちゃんを抱きしめた。
「っ、な、なに!これは、まだ力が!?なら、剣の温度を上げる!」
「――英雄は、ただ心臓が潰れただけで諦めるものではない!」
身体強化は赤戦士の特色で、この決戦形態はある程度の不死身も可能だ……そう、身体を貫通する灼熱があっても、あと十秒程度は活動できる!
温度が徐々に上がるにつれて激痛が走り、視界が歪む。
だが、うちはここで諦めない!歯を食いしばり――吐血と同時に剣をくるりと一回転させ、逆手持ちに切り替えた。
そのまま渾身の力で、久那ちゃんの背中から心臓を狙う!
「早く放せー!」
「これならハズはない!根性を比べようじゃないか、うちが先に諦めるか、お前が先に死ぬか!『必殺・大貫突』」
剣で切腹するように久那ちゃんと自分を串刺しにし、同時に活動限界で、うちの意識は失われた。
……
…
次に目を開けると、うちはもう仲間たちに囲まれた状態で予備区にリセットされていた。
「はぁ!?うちは生き返った?……その、その結末は誰の勝ちですか?」
だが、うちの質問に誰も答えない。ただ気まずそうにお互いの顔を見ているだけだ。
「……うちの負け、だよね。」
そして、うちの質問に答えてくれたのは、先にうちに勝った人だった。
「それは、当事者のこの私から説明しよう」
「久那ちゃん」
それもそうだ。模擬戦が終わったから、久那ちゃんもここに帰還している。
「その最後の一撃は本当に危なかったです。幸い、あなたの意識が混乱していたせいかもしれませんが、私の心臓には命中しませんでした。自爆の覚悟を込めて零距離爆発を起こし、その拘束から抜け出した。瀕死するでも、私が勝利したことがこのシステムに認識されました。」
「なら、炎化を発動すればよかったじゃないですか」
「それは、できないよ。炎化という元素系魔法の『元素化』は、そんなに便利な魔法ではない。物理干渉無効の代償として魔力の消費が重く、弱点属性の魔法が弱点になる。それに発動には集中が必要で、あの時はもう発動できなかった。」
久那ちゃんの説明で、うちはどうやって負けたのかはわかる……わかるけど――
「なら、どうしてみんなさんはこんなに黙っているんですか?」
その時、彩音先輩が一歩前に出て、うちの疑問に答えてくれた。
「それはですね~。何と言うか、彩音たちは葵ちゃんの想像以上の奮闘に感心しました……最初はそうだったんですが」
「最初?」
なんだか奇妙な言い方がついていて、気になる。
「はいです。その心臓が潰れても命を捨てて反撃する姿にびっくりがさらにショックに変わって……すぐに消去されるとはいえ、久那ちゃんの零距離爆発で葵ちゃんが血霧になるのがグロすぎて、ショックがパニック状態になったんです。彩音と楽奈ちゃんは耐性があるから大丈夫ですが、他の子たちにはまだ時間が必要そうですね~」
「……ん。その勝利に執念深い戦い方、ボクが感動した。葵ちゃんはきっともっと強くなる」
「それはーー!?うちに弁解の機会をください!あれは本当のうちじゃないです!魔法のメリットで精神侵食されたからで、うちがやったことではありません~!」
この手合わせは、うちの叫び声が夢の世界の予備エリアに響く中で終わった。
*
――星野雪菜の場合――
雪菜です。今はなんとか冷静を取り戻しました……人が爆発すると、ああなるのは初めて知りました。
葵ちゃんの成長がすごいな。たった数か月前に覚醒したばかりなのに、こんなに久那ちゃんと戦えていました。
でも、これで手合わせは終わりです。
勝利した数で、大体の順位はわかりました。
一番強いのはやっぱり楽奈ちゃんと久那ちゃん。このような短期戦だからわたしは二番で、彩音ちゃんの総合能力で三番。奏ちゃんはそもそもサポーターだから、この順位に意味はありません。
葵ちゃんは……努力しているけど、まだ進歩の余地がある。
「ねえ、お兄さん。これからはどうするのでしょうか?このまま夢の世界から出て、資料整理に戻りますか?」
「それは、まだやることがあるから、まだ出ないよ」
「やるべきこと、ですか?」
「うん。雪菜のあの言葉で、オレはもう決めたから」
お兄さんは何かを決めた表情で、先の模擬戦で話し合っていたみんなを集合させました。
「暁、彩音たちに何をやりたいの?」
「うん、ちょっとね。」
彩音ちゃんの質問に返事をすると、お兄さんはわたしと久那ちゃんの方へ質問を向けました。
「久那ちゃんも遊園地事件の被害者ですよね。それにトラウマや、恐怖は感じますか?」
久那ちゃんは少しだけ考えてから、答えました。
「それは……ないみたいです。お母さまとお父さまがあそこで死んだ、この事実は変わらない。でも、もしあの日に戻れるなら、怖いより自らの手で復讐したい。」
「そっか……キミは強い子だな。なら、雪菜さんは?」
「わたしも既に乗り越えました。もしあの日のわたしがもっとしっかりしていれば……」
「そっか。ならみんな、これから最後の模擬戦をするから。」
そう言うと、わたしたちは競技場の中央へ歩き出しました。
「ねぇねぇ~、これからどんな模擬戦をするんですか?全員混戦のバトルロワイアル?」
「はは、それはないよ、彩音さん。キミたちの相手は……オレだ」
お兄さんが相手!?あ、その半魔人のことですね。でも――
「彩音たち全員が相手にする~?暁の黒い焔と鎖は強いですけど、彩音たちに勝てないと思いますよ~」
「その……わたくしは構いませんが……いいのですか?」
「……無謀。ボクもそう思う」
「えっと、どういうことですか?お兄ちゃんは、魔法少女である私たちと戦えるんですか!?てっきり男は魔力を運用できないと思っていましたけど。まさか、お兄ちゃんはすごい人なんですか!?」
うん、みんなもわたしと似たことを思っているみたい。お兄さんは一体何をやりたいのでしょうか?
お兄さんは少し苦笑して、話を続けました。
「ここの機能で、記憶の中の強敵を再び再戦できることが分かったよね。」
「はいはい~!昔によく、彩音が覚醒した『雪山の事件』を再現してましたから~、彩音はよく知っています!」
「はい、その機能はわたしも使っています。」
「わたくしも」
「……知る。ボクもその機能を久那ちゃんに教えた」
「はい、楽奈ちゃんからそれを教わりました。けど、具体的には何だろうか知れません。」
「それは良かった。」
お兄さんは手元から操作板を呼び出し、操作し始めました。
「オレはあとのことを先に謝る。ごめんなさい。でも、これはやるべきことなんだ。だから本当にごめんなさい。」
そして、夢の世界が変わった。
「これは、もし未来のある日オレが暴走しても、キミたちがオレを止めるための模擬だ。」
「「「!?」」」
「ここは……!?」
お兄さんのその宣言に、わたしたちは驚きすぎて言葉も出ません。久那ちゃんはこの景色に特に驚いていました。
燃え上がる遊園地。あちこちが崩壊した機材と建物。そして遠くに、山ほど大きなタコの影が見えます。
これは、わたしがよく知っている景色でした。
シミュレーション空間が、あの日の遊園地に変わったのです。
「オレはきっとキミたちに攻撃できない。その模擬を実現するために、的を一つ用意する必要がある。一番良いの標的は、あの時のタコに思うだ。もし、オレを止められないなら、強制で模擬を止めて、現実へ帰還してくれ。」
そのタコがあの時に覚醒した、もう一人のわたしを触手で捕まえ、締め上げている時期でした。
「ああ、オレは思い出せた。何故忘れていたのか……オレはこうして覚醒したんだな……その感情に委ねて、自分の縛りを――」
わたしと同じように、お兄さんがその景色を見ると、身体に異変が始まりました。
半魔人の時は異変が四肢に止まっていましたが、今は黒い焔がそのままお兄さんの全身を覆い、黒い騎士のような姿に変貌していきます。
その焔の中から何本もの鎖が生まれ――あれは金色の鎖が焼き跡で黒くなったもので、うねうねと蛇のように動いています。
「――――!!」
そして、お兄さんが音のない咆哮とともに完全魔人化し、あの日の再演が始まりました。




