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第58話・鏡よ、鏡・月見奏:力試す、背中から支援するものたち

第58話・鏡よ、鏡・月見奏:力試す、背中から支援するものたち


==========

――奏の場合――


わたくしは月見奏です。


今、夢の世界の競技場の中央へ歩み出します。


傍らには葵ちゃんがいます。


「あの……葵ちゃん。共に頑張りましょう!遠慮なく、かかってきてください!」


「これは訓練、これは訓練……うん、はい!うちは本部でドクター教官と一か月の実戦訓練を受けたから、人間相手にも戦えます……多分」


「まあ、ここは夢の中ですから、気楽にしてくださいね。そろそろ時間です。変身しましょう。」


「はい!ご指導のほど、よろしくお願いいたします!」


「お互い全力で、良い勝負をしましょう。」


そんなやり取りで、葵ちゃんも少し肩の力が抜けたようでした、予兆なしに一瞬で変身を完了させました。


葵ちゃんの変身姿は、まるで朝のアニメ番組から飛び出してきたような、ふわふわとした魔法少女の装い。ピンク色の髪がよく似合っています。


彼女はわたくしと似ていて変身ワードもなく。


わたくしはそれが良いと思っています。魔法少女が変身する瞬間は、一番隙が生まれる時ですから。時間を圧縮できる方が、戦闘では有利です。


そして、わたくしも次に変身しました。


幾重にも重なる薄紗の聖衣が身を包み、十字の錫杖が手元に現れます。銀白に変わった髪が、微かに揺れる。


これで準備は万端です。


いよいよ、時間が来ました。





*





「始めましょう。《わたくしの祈りで、光の障壁を纏ってください》」


わたくしの祈りに応えた《祈りの魔法》が自律的に発動し、半透明な金色の球状結界が身を守りました。


あの時、病院で両親に捨てられたわたくしは、祈っても誰も救ってくれませんでした。


最後に応えてくれたのは、覚醒したわたくし自身……と、死神の鎌からわたくしを守ろうとしてくれた暁お兄さんだけでした。


だから、祈る対象は、いつも自分自身です。


開戦の狼煙を上げるように、葵ちゃんが走り出し、ふわふわの杖を振りました。


「行きますー!えぃー!」


星の形をした何かが射撃され、『ピンピン』という軽い音を立てて障壁に当たります。


「これは、今朝放送されたアニメ《ラブリー♡ハート》で、主人公が初披露したばかりの技ですね」


「はい!魔法少女になって以降、うちは模倣対象である原型の技のイメージをより強固なものにするため、《ラブリー♡ハート》を何度も見返し、最新話も欠かさずリアルタイムで視聴し続けていました!今回の技はすごく速くて、威力も高くて、簡単に植物魔物の根をカッターしたんです!……でも、奏先輩には効かない……」


なんだか急に元気になりましたね。


あれは熱意が溢れているのでしょうか。


でも、この攻撃は雪菜ちゃんのような空間切断でもありません、彩音ちゃんのような穴具現でもありません。こもままじゃあ、わたくしの防御が通れないよ。


最近は障壁をよく壊されて、少し自信がなくなっていましたが……わたくしの祈りで纏った障壁は、結構硬いのです。軽い攻撃では突破できません。


「良い闘志です。わたくしも、天城小隊のサポーターであり『不動要塞』として、その闘志に応戦します。《近衛騎士団、魔法使いたち、わたくしの元へ来てください》」


わたくしが銀色の錫杖を掲げると、大盾と剣を構えた黄金の全鎧騎士たちが前に現れ、その後ろに三角帽子を被った黄金の魔法使いたちが現れました。


召喚された騎士に守られた魔法使いたちが杖を掲げ、次々と魔法を発動して葵ちゃんへ攻撃を浴びせます。


「うわ!?うち相手で、本気すぎるじゃないですか!?」


葵ちゃんは慌てて走り出し、魔法攻撃の雨から逃げ回りながら叫ぶ。


でも、その指摘はおかしいです。


「わたくしは、いつでも戦いに本気ですよ?相手が全力を出せるのに、自分が手加減するのは失礼ではないでしょうか?」


「あー、もうー!マジカル・スラッシュ!」


葵ちゃんがふわふわの杖を振り、魔力の斬撃を放ちます。


しかし、その攻撃は騎士たちの盾で受け止められました。


うん、安全を確定したなら、次の段階にしましょう。


「――《王座を、こちらに召喚してください》」


祈りに応えて、すぐ後ろに光で構成された黄金の王座が現れました。


わたくしはその王座に座ります。


もちろん、ただ座りたいわけではありません。この王座には効果があるのです。


「わたくしがここに座っている限り、全ての味方を強化する祈りが自律的に発動します。そして、第二の効果は戦局の掌握です。」


そう言うと、わたくしの前の空中に光で投影されたチェス盤が現れました。


これは立体映像で、この戦局の敵味方の位置が把握でき、采配が可能になります。


この王座の効果はすごいですが、致命的なデメリットがあります。


それは変身が解けない限り、ここから立てません、そのまま王座に縛られるのです。


葵ちゃんに悪いですが、今は内緒にしておきましょう。


「なにそれ、ずるいよ!チーターじゃないか!……なら、うちも!『変化・スナイパー』」


葵ちゃんの体が光り、衣装が変わりました。


黒い密着型の装甲服に変わり、手に銃を構えた姿。SFの戦闘員そっくりです。


あれは以前も使ったことのある姿。FPSゲームの主人公の姿です。


たとえわたくしが戦局を掌握して包囲網を張っても、魔法使いの魔法攻撃の命中率が下がります。


葵が変化すると、体術と身体能力が明らかに上昇し、戦闘技術もコピーする特性が実感できました。


少し余裕が出ると、葵ちゃんも反撃を始めました。


騎士たちに囲まれながらも、彼女は大きく息を吸い込むと、包囲の隙間から狙撃銃の銃口をまっすぐわたくしへと突きつけ、躊躇なく引き金を引きました。


「喰らえ、『貫通弾』!」


普段の葵ちゃんでは絶対に使えない神業で、弾丸は防御の薄い隙間を縫うように飛来します。


「騎士たちよ、来て!」


撃鉄の金属音が響いたと同時に、わたくしは光に投影された盤面を掌握し、弾丸の予測軌跡の位置に騎士たちを盾にしました。


その弾丸は名前の通り、一番前の騎士を貫通し……三体の騎士を犠牲にして、ようやく止めました。


「残念ですね。」


「クソがー、これもダメかー!」


わたくしは余裕を演じていますが……本当は、びびっています。


特に今は動けないという致命的な弱点の状態で、もし連続で撃たれたら敗北するかもしれません……早く騎士を補充しなくては。


「なら、こうすれば!『変化・忍者』!今回の模倣対象は一部の人に人気のアクションゲーム、『ニンジャ・世界大戦』の主人公、名前のない忍者です!」


今回の葵ちゃんは、未来感のあるSF装備から、黒い忍者装束に赤いマフラーへと変わりました。


……なんだか無駄に長くて目立つマフラーですが、忍者に不向きではないでしょうか?


と、一瞬意識が逸れた結果——目立つはずの葵ちゃんが消えた!?


どこに消えたのかと、わたくしは急いで光に投影された盤面を確認します。


「後ろが!《光よ降りて、わたくしの後ろにいる敵を焼き貫いてください》、《騎士よ、突進して》」


「『忍殺』——ひぇ、熱い!?今回は危ない光束!?って、騎士が多すぎて邪魔、うちの逃げ場が!?」


祈りに応えて上空から光束の雨が降り注ぎ、騎士たちが次々と集まる中、彼女は柔らかい動きで大半のダメージを回避しました。


わたくしは急いで反撃を試みましたが、その忍刀で多重結界を一つ粉砕されてしまいました……被害はまだ許容範囲内。魔力は安全圏内なので、障壁は即座に補充されます。


でも『忍殺』が、名前から思うと不意打ち特攻の技のですが?それを知った以上、戦局掌握で不意打ちはもう通用しません。


あ、葵ちゃんはわたくしの前に逃走しました……先の祈りで限定した『後ろ』の範囲から逃げたため、今の攻撃は騎士と魔法使いだけに……魔力がもったいないです。


「もう~、《祈りの魔法》はこの融通のきかない点がダメですね。やっぱりこの魔法で一番の使い方は、召喚の祈りをして、結界の中でサポートと采配をする方が良いかもしれません……隙あり!《わたくしの杖から、何かしらのビームを撃ってください》——まだ避けました……忍者って防御はなさそうですが、素早いですね」


時折忍具が飛来しますが、障壁は突破できません。しばらくは安全なので、対策を考えましょう。


忍者、速度……それなら、回避できない広範囲攻撃を


「——《地中から光の奔流を天まで登らせてください》、《お願い、光の流星群よ、最後まで追いついて》」


「え?急に忍者の直感で、『危ない』が頭上に現れたような錯覚が……天空と地面が!?」


わたくしの祈りに応えて、夢の世界の偽りの空に蛍のような光が増え、さらにわたくしを含めたこの辺りの床が黄金の光で煌めきます……もう逃がしませんよ、葵ちゃん。


「急げ、『変化・鉄壁』——ぎゃあああーーーー!!」


地面から光が火山のように噴き上がり、堅そうな重い鎧のような装備に変化した葵ちゃんを天空へ吹き飛ばし、用意された光の流星群がまるで弓矢のように彼女に向かって飛んでいきます……眩しすぎて効果のほどがわかりませんが、《効いてくれればいいのに》——


「痛い痛い痛い!?どうして急に防御が効かないの!?」


……あ、その眩しい光の中からの悲鳴と、魔力が減っていく感覚……うっかり祈りが発動してしまったようです。


こうして、わたくしの保有魔力は半分以下に減り、集中力が危ういかもしれません。


流星群の攻撃が終わり、光が収まった後、あちこちが焼け焦げた葵ちゃんが地面に落ちました。


でも、その姿はもう鎧武者ではありません……


「……は、『ハイ・ヒール』『ハイ・ヒール』『ハイ・ヒール』……ギリ耐えれた」


「——《騎士よ、囲め。魔法使いよ、自爆して》」


その僧侶姿はやっぱり回復タイプのようです。


でも彼女の状況はわたくしと似ているでしょうか。ここからはマッチポイントです。


だから、騎士たちで逃げ場を収束させ、ほぼ使い物にならない魔法使いたちに自己犠牲の魔法を使うよう命令します。


「まだー!?奏先輩は酷い、休む機会は逃がさない!」


「今はそう考えても構いませんよ。もしわたくしではなく、遭遇した敵なら、このくらい畳み掛けるのが普通ですから。耐えて、反撃してくださいませ。」


そう、わたくしがこれほど容赦なく攻めるのには理由があります。


実際の敵は殺意本能の塊である魔物、わたくしたちに休む暇など与えてはくれないのですから。


特に実戦経験が一番浅い葵ちゃんにとって、この経験は貴重でしょう。


「なら、うちも覚悟しないと――物語の対象に変化するなら精神力が異常になるなら、こう!奏先輩、力を貸してください!」


「え、わたくしですか?喜んでいますけど、今は模擬戦ですので、ごめんなさい。」


「うちはそういう意味じゃないです!本心はこう!『変化・月見奏』」


《変化の魔法》が発動すると、彼女の装束がまた変わりました……それは、見覚えのある銀の十字杖と、幾重もの薄布が重なり合ってできた聖衣。


どこか透けて見えるようで、わたくしの采配も一時的にフリーズしてしまいました――


「どうして急に、そんな大胆な姿に変身するんですかーー」


「「「先輩がそれを言うんですか!?」」」


葵ちゃんの声と、予備エリアからの大きなツッコミが重なりました。それはどうしてでしょうか?


「奏先輩って自覚がないんですよ。今のうちは、奏先輩を模倣してるんです。はい……」


「え、わ、わたくし、が……わたくしの変身状態は、このような、恥ずかし知らずの、破廉恥ですってーーー!?!?!?!」


わたくしはいつもこのような姿ですが!?そういえば、この装束は確かにある程度透けていて、身体は見えないけれど……、よく見ればボディーラインがはっきりわかるのでは……!?


ダメです。魔力不足で精神力が落ちている時に、恥ずかしい感覚が込み上げて、戦闘に集中できません。


「……なんだか攻勢が止まったり、奏先輩に変化すると戦意がどんどん溢れてくる……それに、この逆流する恥ずかしい感情に影響される前に急げ、祈れば良いですが?――《何でもするから、うちをこの危機から助けてください》」


急に葵ちゃんを中心に狂乱の光が放たれました。わたくしはその恥ずかしい気持ちから抜け出し、急いで騎士たちを壁にします。


自分が召喚したすべてが消し飛び、残されたのは身体に纏った一枚だけの多重障壁と、自分を縛る王座だけでした。


「この魔力は最後の最後!うちの全てを、《鮮血儀式・たじゅうれいだんゆうじん?》……発音はこうだけ?」


まるで自爆するような光が消えると、今回の葵ちゃんの姿は雪菜ちゃんみたいの和風侍で、刀を血に濡らし、空間が揺れる刃を纏っていました。


これはかなりヤバい。


雪菜ちゃんの空間属性魔法は今のわたくしの大弱点で、切られれば終わりです。


しかも王座から動けない状態で逃げることもできない……よくやりましたね、葵ちゃん。


「『空断……きゅーー」


わたくしはもう自分の負けを認めて、その刃を待っていましたけど……その時、葵ちゃんは地面に伏せて消えてしまいました。


と、わたくしたちはリセットされ、予備エリアへ戻されました。


「うちは確か……えぃぃぃーー!?」


「こ、これは、わたくしの勝ち……という理解で良いのでしょうか?」





*





葵ちゃんも、わたくしも、一体何が起きたのかわからず、困惑した顔をしていました。


その時、雪菜ちゃんがこちらへやってきました。


「その……これはあくまでわたしの推測ですけど。あの魔法はわたしの決戦技だから、体力と魔力の要求が結構厳しいんです。もしかして、葵ちゃんは気力と精神力が同時に切れて……あれは衰弱死でしょうか。」


「それは、そんなに危ない魔法なのですか!?」


「はい……だから、普段ならわたしはもっと規模の小さい『魔力集中:両断』を使うことにしているんです。」


雪菜ちゃんの説明に、葵ちゃんは目を丸くして口を開けました。


なるほど。だからわたくしの勝ちなのですね。


説明を聞いていると、暁お兄さんもやってきました。


「お二人ともよくやった。素晴らしい戦いだったよ。奏ちゃんの攻勢は少し緩かったけど、葵さんも強敵相手によく善戦した。」


「ええ、葵ちゃんの反撃もわたくしの想像を超えていました!もし最後に『空断』を使わず、別の《距離の魔法》を使われていたら、簡単にわたくしの障壁を乗り越えられていたでしょう。そうなっていたら、わたくしの負けです。」


「えー!?うちはそんなに勝利に近かったんですか!?」


わたくしの言葉に、暁お兄さんが頷きます。


「うん。もっと冷静なら、葵さんもその点に気づけたかもしれない。それは戦いの経験の差だから仕方ないけど……でも、一つだけ注意してほしい。」


暁お兄さんは急に真顔で葵ちゃんに向き直りました。葵ちゃんはまるで先生に叱られる直前の生徒のように、びくびくしています。


「は、はい!謹んでお伺いいたします。」


「今回は夢の世界だから無事だったけど……もし現実世界でそれをしたら、どうなると思う?」


「それは……うちは死ぬかもしれません……」


「その通りだ。キミの固有魔法は強い。でも、模倣対象の魔法とその代償もこのままコピーするからね。次にどんなに強い魔法を模倣する時でも、代償を注意してほしい。できれば、このシミュレーションルームで新しい魔法を試してからにしてほしい。」


「はい……今回もうち、かなりビビりましたから、そうします。深く反省し、二度と繰り返さないよう心に刻みます。」


葵ちゃんの言葉に、暁お兄さんは真顔を解き、いつもの優しい表情に戻りました。


「うん、それならよろしい。落ち込まないで、葵さん。先の模擬戦は結構、優秀な魔法少女だったよ。本部で訓練した時より、遥かに強くなったと感じた。」


「それは……はい!うちもそう感じました!もし錯覚なら心配ですけど、先輩がそう言うなら、うちも自信が持てます!」


うんうん~、うちの小隊の新入りが、どんどん一人前の魔法少女になっていく時が近いのかもしれません。


葵ちゃんの件が一段落したところで、わたくしは暁お兄さんにこそこそと話しかけることにしました。


「暁お兄さん、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「はい?なんでしょうか?」


「その……わたくしは、いつもそのような……その、魔法少女に変身した姿が恥ずかしいようなのですが?」


そう!わたくしはこの点が気になるのです!


でも、暁お兄さんは優しくわたくしの頭を撫でてくれました。


「キミのその魔法少女姿は、色気より神聖的な感じだよ。オレたちも慣れてるから、そんなに心配しなくていい。」


む……その答えはわたくしを安心させるための言葉かもしれませんが……なんだか少しむかつきます。わたくしはそんなに魅力がないのですか。


でも、わたくしがそう質問しても、暁お兄さんに迷惑をかけてしまう……恋する乙女に勇気に!今回は言います!


「ねぇ、暁お兄さん。……もしかして、わたくしはそんなに魅力がないのでしょうか?」


「え?オレはそうは思わないよ……奏ちゃんはいつでも可愛い。変身していても、一生懸命みんなを応援している姿は、神聖的な感覚がもっと強くなるから。オレは言うなら、そんなに努力しているキミをエロい目で見たりしない。むしろ応援したくなる感じが溢れてる。あ、でももう少し肉がついた方がいいかも。今のキミはさすがに細すぎるかな。」


「あわわ……!」


急に顔が熱くなりました。自分の顔は見えませんが、きっと真っ赤になっているに違いありません。


暁お兄さんのその言葉で、さらに恥ずかしさが込み上げてきました……勇気を出して本音を聞けて、良かったです。


でも細いのが……その後はもっと食べようかな♪


「あはは、それは大変嬉しいですね~!わ、わたくしはそろそろ次の模擬戦をしますから、行ってきます!……楽奈ちゃん、久那ちゃん!次の相手にしてください!」


「お、おう。いってらっしゃい?」


わたくしは照れ隠しに、勝てそうにない相手へ次の模擬戦に向かいました。

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