第57話・鏡よ、鏡・力試す、最初の仲間たち
第57話・鏡よ、鏡・力試す、最初の仲間たち
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しばらくの浮遊感の後、《夢の魔法》が発動し、オレたちは夢の世界へと移行した。
目を開けると、そこは近代的な競技場のような広い空間だった。
白を基調とした観客席が周囲を囲み、中央の闘技場は魔法で強化された床が広がっている。
次々と仲間たちが現れた。最後に雪菜が「ぱっ」と現れする。
「ねぇ、雪菜さん。先ほどの言葉は……」
オレは眠る直前に聞いた言葉が気になって、彼女の耳元にそっと顔を寄せた。
「へぇー?何でしょうか?わたし、何か変なこと言いましたっけ?」
雪菜はいつもの落ち着いた表情でこちらを見つめる。
でも、その冷静さっと、深意深いの言葉でーー
「まさか……オレが考えてることを、もう知ってたのか……?止める気はないが」
「お兄さんが決めたことなら、わたしは止めませんよ」
「でも、それはキミの心を傷つけるかもしれない……」
「構いません。それどころか、お兄さんがわたしを頼ってくれることが……わたしにとっては一番の証です。」
そこまで見透かされているとは。
しかし、雪菜がそう言うなら、オレも決意した。
「そっか。キミの言葉で、オレも決意が固まった。その時は……頼むよ。」
「うん!わたしをもっと、もっと頼ってください!わたし、模擬戦に行ってきますね!」
上機嫌になった雪菜は、オレの元から軽やかに離れていった。
「彩音ちゃん、最初の相手をお願い!」
「こそこそ話はもう終わったみたいですね~?了解です♪」
二人は予備エリアから消え、瞬時に競技場の中央に現れた。
いよいよ、手合わせが始まる。
*
――雪菜の場合――
わたしは星野雪菜、今は《夢の魔法》でみんなの夢が繋がった、夢の世界の競技場にいる。
やっぱりお兄さんは、何か考え事を抱えていたみたい。正解だった。
シミュレーションが始まる前に、勇気を出して耳打ちできてよかった……まあ、少し自分の欲望が混ざって、迷言になってしまった気もするけど……
今はそんなことを考えている場合じゃない。目の前の彩音に集中しよう。
「ねぇねぇ~、さっき何を話してたの?彩音に教えてくださいよ~!」
「他愛のない話だけですよ。気にしないでください。」
「もう~、それは嘘ですね~!忘れたんですか?彩音に嘘は通じないんですよ?でも、どんな嘘を作ろうとしてるのか……ふふ、気になります~!」
う……相変わらず鋭い直感で厄介だ。早く意識を戦闘に移さないと。
「それは内緒です……それより、手合わせに時間がかかるから、早く始めましょう。わたしに勝てたら、教えてあげてもいいかもしれませんよ?」
「へぇ~、やる気が出ちゃう~!でも、彩音たちはどんなルールで戦うんですか?やっぱり定番の死闘ですか?」
「ええ、全力で行きます。死闘ルールで。」
「わかりました~!おーい、暁!死闘ルールでやるから、この設定でお願い~!」
彩音が予備エリアに向かって叫ぶと、お兄さんが夢の世界の操作メニューを呼び出し、わたしたちの間にカウントダウンが浮かび上がった。
「なぁ、雪菜ちゃん。彩音とはこれで何度目の戦いだ?」
「出会ってからずっと模擬戦の相手をしてるから……もう数えられないくらいです。」
「そっか。でも今回の戦いで、彩音の勝ち~!」
「それ、フラグじゃないですか……」
残り十秒。
わたしたちは同時に変身した。
「色に染まれ、変身ー!」
無数の顔料が虚空から溢れ、彩音の頭上から全身を包み込むように色づいていく。
「抜刀、変身!」
わたしも杖の刀を召喚し、抜刀する。
変身完了したわたしたちは、互いの視線を交わし、呼吸を整え、いつでも踏み込める構えを取った。
あとは、最後の三秒のカウントダウンを待つだけ——。
3
2
1……!
先に動いたのは彩音だった。
シミュレーションだから、後のことは考えず、最初から全力でいく。
「色を満たされ、記憶のものを模写する:『模写・心像共鳴(仮)・《空想美術館》』」
「くっ……!『離れ』!」
心像共鳴が発動する直前、0.1秒の差で距離を操作し、自分をその範囲外へ強制退避させる。
虹色の球体が完成したものの、中にいたのは彩音一人だけだった。
わたしも、シミュレーションだから代償を考えず全力でいく!
心像を投影した刀で左の手のひらを切り、自分の血を刃にたっぷりと染み込ませる。
「わたしの半身に血を捧げ――『鮮血儀式・多重零断幽刃』」
大出血による激しい脱力感が襲ってきたが、その代わりに刀身に空間が揺れる冷たい波紋が纏わりついた。
この負の刃に触れたものを、すべて通り抜けて両断する——わたしが持つ《距離の魔法》の儀式限定技だ。
現実世界なら体力の消耗が激しく、単体の強敵相手の決戦技……でも、少しだけ、その後にお兄さんに心配されて看病されることを想像して、胸が熱くなった。
えへへ……あ、今はそんな妄想をしている場合じゃない。
彩音が作品を解除する前に決着をつけないと、大量消耗したわたしは一気に不利になる。
わたしは視界にあるすべてのものを掌握する。これは魔法少女に覚醒した理由か、空間系魔法の特性かもしれない——わたしの目には、時空が特別として映る。
「時間も、空間も、すべてを一つに収束して、この距離で一刀——」
万彩の球状結界に向かって、上段に構えた波紋の刃を、視界に浮かぶ空間の線に沿って振り下ろす。
「——空断!!」
次の瞬間、わたしは競技場の向こう側に現れていた。
すり抜けた空間のすべてが両断され、虚空に寒気の纏う朦朧とした斬痕が刻まれ、やがてゆっくりと消えていった。
「え、うそ……!?」
真ん中から両断された作品はゆっくり溶け、中にいた彩音も同時に切り裂かれた。
勝敗判定により、わたしと、死亡判定を受けた彩音は予備エリアへ強制帰還。
彼女はボケっとした顔で復活する。
お互いの状態もリセットされ、魔法が解除されると同時に体力も全快、わたしは刀を納める。
「あれはどれほど『心像共鳴』に似ているけど……その性質は、具現化された『作品』以上で切れるもの限り、わたしの魔法の対象になるんです。」
ようやく正気に戻った彩音が「ふんふん」と頰を膨らませて文句を言う。
「もう~、てっきり中に追いつけると思って罠を用意したのに~!この、この……そう、この筋肉ゴリラ!」
「こら、誰がゴリラですか!」
わたしは『瞬刻』を発動し、彩音の前に一瞬で転移。防御が間に合わない速度で額をデコピンした。
「痛い~!」
自業自得の彩音を一時放置し、わたしは素早くお兄さんの元へ駆け寄った。上目遣いに見つめ、期待を込めて。
「お兄さん~!わたし、勝ちましたよ~!」
「うん、すごい。一刀の『空断』、カッコよかったぞ。相変わらず小隊一の瞬時火力だ。えらいえらい。」
わぁ~、褒められた~。
お兄さんの大きくて温かい手が、わたしの頭を優しく撫でてくれる……少し物足りなくて、わたしはその手を自分の頰にそっと移動させた、スリスリする。
少しだけこの褒められる時間を楽しみたい。でも、手合わせはまだ終わらないから、名残惜しい気持ちでみんなの方へ振り返った。
「それで、次は誰が相手しますか?」
……
…
「やっぱり、元素化を使える相手には勝てないですね……」
楽奈と久那相手には、影化と炎化でわたしの攻撃をすべて無効化され、全力で回避してもあっさり殺されてしまった。
結果は三勝二敗。
「わたくし、防御方面に全力で祈りましたのに……アイスクリームのように真っ二つに切り裂かれてしまいました……」
「うちも……変化が間に合わない速攻で、魔法少女モードのまま殺されました……」
「あはは、彩音と同じ敗北組の仲間ね~」
一方、勝者組は勝利を驕ることなく、普通の雰囲気だった。
「なんか、組織の施設でよくあった戦闘実験を思い出しました……勝ちに素直に喜べないです」
「……でも、ここなら負けても処分されないから、平常心でいい」
「うん、理性は分かるけど、戦う時はつい必死になっちゃう……」
わたしの場合はここで終わったけど、手合わせはまだまだ続いていく。
*
――彩音の場合――
陽葵彩音だよ。今は彩音の番で前に出る番!
「ふふ~、同じ雪菜ちゃんに敗北した仲間として、仲良く戦いましょう!」
今回の相手は奏だった。
「その……わたくしこそ、全力で行きます!」
予兆もなく、奏は一瞬で変身を完了させた。
幾重にも重なる薄紗を纏った、花嫁衣裳のような透ける聖衣。
手には十字の錫杖が握られ、紫色の髪が銀白色に変わっている。
相変わらずの瞬時変身。
ほんの一秒以内でプロセスを省略するなんて、さすが奏だ。
「それは良い~、そろそろ行くよ~!」
カウントダウンがゼロになると、彩音は水彩筆の槍を構えて一直線に突撃した。
「真っ直ぐに、『貫く点描』!」
「ここは、《光の壁よ、わたくしを守ってください》」
「この程度じゃ、彩音を止められないよ~!」
しかし、突然現れた光壁にぶつかった槍は——《絵の魔法》の顔料で丸い穴が具現化され、すり抜けて勢いを止められない。
次々と現れる光壁も、彩音は絵で断面を描いて破壊しながら突き進む。
「やっぱり、わたくしは無力……」
あ、間に合わなかった……奏はすでにフェーズツーへ移行していた。
「——『即興:壁の絵』」
爆発的な光と衝撃波を、即興で描いた壁で受け止める。
彩音は奏の性格をよく知っている。衝撃が収まるや否や、すぐにその場から退避した。
直後、巨大な光の剣が先ほどいた場所を、壁ごと切り裂いて破壊する。
「危ない!?」
もちろん、それをやったのは奏だ。
それは奏が無力感を感じた時に自律発動する《反転する祈り》。普段はサポート特化の彼女が、他人を強化できない代わりに自己強化に全振りした状態だ。
光の巨剣は、強化された十字錫杖そのもの。総合パラメータの倍化、光の障壁、武器強化、光のエンチャント……数十人分の強化を自分一人に付与しているため、油断は禁物。
「彩音ちゃん、わたくし行きます!」
「あわわー!?」
小隊で一番戦意が高い子だけあって、巨剣から繰り出される疾風迅雷の怒濤連斬が彩音に襲いかかる。
「えい、えいー!《騎士様、連携お願い》」
巨剣の斬撃の隙間を、光の騎士たちが協同攻撃で埋めていく。
「《援護射撃、お願い》……はッ、えー!!」
最後の隙間までも光のレーザー弾幕で満たされ、槍一本でのパリィが追いつかず、傷と高温火傷がどんどん増えていく。
受けた傷は絵で塗りつぶして何とかするが、このままではまずい。
「絵が間に合わない……なら顔料で『飛散する顔料』!」
彩音は足に力を込めて後ろへ跳び、水彩筆の槍を大きく振り回した。
無数の顔料が雨のように奏に向かって降り注ぐ。
触れたものに貫通穴を開ける顔料の雨——しかし奏は——
「ぐぅ……痛いけど、根性で……《わたくしの傷を治してください》」
——ああ、もう~!受けられた傷は一気に治って、全然無駄だった。
「なら、こう~『即興:飛びの斬撃』」
宙に描いた斬撃も、彼女は光の剣で食い止めた。
でも、ダメージを与えられないのは予想内。目的は時間稼ぎだ。
「それならどう~、『作品名:なんか罠でよくある鉄球』」
雪菜のような速攻は苦手。接近戦で勝てないなら、物量で押し潰す!
丸くて簡単に描ける鉄球が次々と具現化され、砲弾のように飛来する。
一つ、二つ、三つ……と砲撃が続く。
「はあ、歯を食いしばって、根性ーーー!!《わたくしを全力に支援してください》ーー!!」
「てりゃ、てりゃーー!!潰れてーー!!」
これはもはや、奏が先に対応しきれなくなるか、彩音が先に魔力切れになるかの勝負!
――結果は、ギリギリで彩音の勝ちだった。
原因は《祈りの魔法》が自律発動のため精密な魔力制御ができず、無駄遣いが多いこと……本当に、《絵の魔法》の魔力効率の良さが活きた。
勝敗が決まると、彩音と奏はリセットされて予備エリアへ戻った。
「わたくしはまだまだ訓練不足です……」
「まあ、気にしないでください~。彩音も結構キツかったですよ。ほんの少しなら負けてたのは彩音です。」
「それでも、わたくしはもっと訓練が必要です!」
奏は力強く言うが細い腕を曲げ、パワーのポーズをとった。
その細い腕では説得力がない……でも、彩音も同じ魔法少女だから、きっともう変わらないだろう。
「うん、一緒に頑張りましょう!はい~、次は誰が相手しますか~!」
……
…
彩音の試合の最終結果は、2勝3敗だった……昔から楽奈に勝てないのに、今は火魔法を操る久那が天敵みたいで全然勝ち目が見えないな~
相性は仕方ないよね。
でも、みんな強くなった実感はある~。
奏ほどじゃないけど、彩音ももっと訓練した方がいいかな……まあ、彩音は他人と違って、作品の数は実力に直結するから、この後は休憩室回廊のアトリエテーマ部屋に缶詰めになるとしよう!




