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第56話・鏡よ、鏡・六人目の魔法少女

第56話・鏡よ、鏡・六人目の魔法少女


==========

なんとか残念な結末だったが……。


最後は《炎帝の軍勢》のデメリットで自燃してしまったのか?


あの魔法は身体を火元素に転化する『炎化』を使わないと危険なんだな……。


幸い、シミュレーションの中で先に知れて良かった。


「ん……」

「うん……」


夢のスクリーンがゆっくりと消えていくと、楽奈と久那がほぼ同時に目を覚ました。


二人はまだぼんやりとしたまま、ベッドの上に座り込んでいる。

焦点の合わない瞳でこちらを見ていたが、徐々に意識がはっきりしてきたようだ。


「……あ、兄さんだ♡……と、みんなさんもいる?……えぃ、兄さんとみんなさんは、どうしてここに!?まさか、ぼくと久那ちゃんの模擬戦……見えてました?」


「あ、みんな……」


オレは膝の上にいた奏を抱き上げてベッドに下ろすと、二人に近づいた。


「おはよう、楽奈ちゃん。模擬戦は最後の方だけ見ましたよ。……それと、六星さん、ですよね。この呼び方で大丈夫ですか?嫌だったら、好きな呼び方を教えてください。」


オレはハンガーにかかっていた黒いローブを取って楽奈に渡した。


その隣のベットにいる久那は、楽奈と似た小柄な体躯に黒い和服姿。長い黒髪に、少し強気なつり目がちな赤い瞳が、今は怯えたようにこちらを見つめている。


もじもじと服の裾を掴む仕草が、叱られるのを恐れているようだった。


「あの……その……暴走した時の記憶はあまりないんですけど……迷惑かけて、本当にごめんなさい!」


久那は勢いよく頭を下げた。


「六星さん!?早く頭を上げてください。それはキミのせいじゃない。ただの……天災みたいな事故なんです。だから、そんなに気にしないでください。ね、みんな。」


オレの言葉に、小隊のみんなが次々と頷いた。


最初に口を開いたのは雪菜だった。

「お兄さんの言う通りです。あれは魔女化と呼ばれる事故で……今回は何度も解決できたんだから、気にしないでください。」


彩音も明るく、元気いっぱいに続けた。

「うん、その通り!彩音たちは魔法少女として当然のことをしただけ。ヒーローだからね!」


奏と葵もそれぞれ優しい言葉をかけた。

「あの、はいです……。気にしないでください。」

「うちはまだ新人だから詳しいことは分からないけど……結果オーライだから大丈夫だよ?」


そして最後は、親友である楽奈が久那の目を見つめた。


「……うん。みんなの言う通り。……久那ちゃん。まだ気にしてるならさ、今度もしぼくたちが魔力に侵蝕されて魔女に堕ちそうになった時は、代わりに久那ちゃんが助けてよ。」


小隊のみんなの言葉が重なった瞬間、久那の表情が変わった。最悪に沈んで泣きそうだった顔が、強い決意の色に染まっていく。


「そ……か。うん、そうだね……。うん、決めた。先に街の平和を守る魔法少女に登録した新人から言うのは少し生意気かもしれないけど……。私の次に誰かが困難に陥ったら、私は絶対に助ける!約束だ!」


そう言い切ると、久那はベッドから勢いよく飛び降り、決意を込めて拳を高く掲げた。


でも、『誰かが困難に陥ったら、私は絶対に助ける』が……


「それは心強い言葉だ。もしその時が来たら、六星さんに頼むよ。過去の話はここまでにして、未来の話をしよう。六星さんは、これから何をしたい?」


「その……前を向く理由が、少し暗いんだけど……話しても、止めないでいてくれると嬉しい……。その理由は、もう楽奈ちゃんとも話したんだけど……それは——」


久那は迷わず答えた。

その目の光が一瞬消え、呪いを帯びたような言葉を吐き出す。

黒い和服姿が相まって、まるで呪いの人形のように見えた。


「——私の家族を殺して、私の人生……運命を壊して、監禁して、人体実験を押し付けた組織への復讐だよ。自分が受けた苦痛を、刻み込んで、倍にして返す!」


人体実験……。楽奈がそうだったなら、久那も同じ——いや、それ以上に酷い目に遭わされたのだろう。


魔力が現れた黎明期。


感情に呼応して魔力が動く特性が発見されると同時に、道徳観の欠如した科学者たちが、暗部で様々な人体実験を繰り返していたという。

あれは真理の探究のためなら、どんな非道でも平気で行う狂人の集まり。

魔物対策局もあの組織は昔の掃討からも逃れた、マッドサイエンティストの残党が関わっている可能性が高い。


しかし、久那はそんな呪詛めいた言葉を吐き出した直後、すぐにシュンとなってしまった。


「ねぇ、お兄ちゃん……。やっぱり復讐みたいな考え方は、ダメかな……?」


「今回は、キミに復讐する権利があるから止める気はないよ。それに、魔法少女の中にもよく悲劇の中から覚醒し、復讐を原動力に戦う人は少なくない。『復讐は良くない、虚無だけが残る』みたいな綺麗事は言えないよ。ただ……別の生きる意味を、ゆっくり探せばいい。……ああ、でも言うことは一つだけ:『復讐は全てではない』ってことだけ、覚えていてください。」


「はいはい~、彩音も言いたいことがあるよ~!」

彩音が元気よく手を挙げた。復讐を経験した彼女なら、久那の気持ちが一番分かるはずだ。


「その気持ち、彩音はよく分かるよ~!彩音も覚醒したばかりの頃は、復讐が原動力だったもん。両親の仇を討った時は、すっごくすっきりした……。でも、その後、暁と出会った時に彼が言ってくれたんだ。『復讐の行き着く先は、ただの虚無じゃない。それは終わりを意味する。その先の未来で、きっと別の生きる意味を見出せるはずだ』って。彩音は『絵を描く』という自分の存在痕跡を残す生き方を見つけたから、久那ちゃんもきっと大丈夫!」


……連絡員になったばかりの頃、何も分かっていなかったオレが勢いで言っただけのことなのに。まさか、まだ覚えていてくれたのか。


「本当に……そのままでいいの?」


久那はまだ迷っているようだった。


「もしキミの人生が復讐だけの復讐鬼と化すなら、それは良くない。でも、オレから見る限り、キミは大丈夫そうに見えるよ。」


「……うん。ぼくと一緒に頑張ろう。……でも、勝手に暴走はしないでね。行動する前に相談して、他人の言葉も聞いて。」


楽奈がそう言いながら、ちらりとオレを見た。無表情のまま、影の尾が少し恥ずかしそうにゆらゆら揺れている。


廃墟の工場でアジトを見つけた頃、彼女は感情が暴走寸前だった。あの時のことを思い出せば、当然の反応だ。


オレたちの言葉で、久那はやっと葛藤を乗り越えたようだった。


「うん……わかりました。改めて自己紹介するね。私は六星久那!この小隊に新入り、火属性の元素系魔法を持つ魔法少女!復讐を誓うと同時に、仲間として全力で頑張ります!私のことは久那で呼んでいいよ。みんな、よろしくお願いいたします!」


久那はオレたちに向かって深く一礼した。


みんなが温かい拍手で彼女の加入を歓迎する。


「私は星野雪菜。こちらこそ、よろしくお願いします、久那さん。」


「陽葵彩音だよ~!新入り大歓迎!よろしくね~!」


「その、わたくしは月見奏です。よろしくお願いいたします、久那さん。」


「うちも後輩が……!弓月葵です。よ、よろしく!」


そして最後は、楽奈がベッドから降りて正面から久那を抱きしめた。


「……これからはずっと一緒にいよう、久那ちゃん。」

「うん、一緒にいよう……」


久那も力を込めて抱き返した。


『久那を探し出す』という楽奈の夢が叶った瞬間を、オレは少し離れた場所から、静かに見守った。





*





「みんな、時間はある?」


いい雰囲気がしばらく続いたところで、オレは彼女たちに提案した。


「せっかくシミュレーション室で全員集合した機会だし、模擬戦でお互いの成長した力を確認するのはどうかな。特に、魔法少女状態の久那さんの戦闘力をみんなで見ておく必要がある。」


「それは良いですね!この機会にみんなの力をもう一度確認すれば、連携ももっとスムーズになります。」

「ふんふん~。これは天城小隊で誰が一番強いか決める決闘だね!」


最初に反応したのは雪菜と彩音だった。


雪菜は現実的な連携強化の観点から、彩音は……うん、完全に順位付けのつもりだな。


「手合わせが……わたくしは全力で行きます!」

奏は相変わらず、メラメラと闘志を燃やしている。


「先輩たちとの模擬戦……ですが、うちは頑張ります!」

葵は少し自信なさげだったが、しっかり同意した。


「……ぼくはやる。久那ちゃんも、やる?」

「うん、新人として全力で行きます!」


みんながオレの提案に賛成した。


「それじゃあ、それぞれベッドを選んで、夢の世界へ入ろう。」


「「「はい!」」」


オレと六人の魔法少女がベッドに横たわり、ゆっくりと意識を夢の世界へ沈めていく。


「お兄さんは何を考えてるか知らないけど……でも、どんなことがあっても、わたしはずっと仲間にするよ。この想いは未来永劫、変わらないから。」


意識が溶けていく間際、オレの耳元で雪菜の囁きが聞こえた。

微かな声なのに、そこに込められた感情はあまりにも強烈で、重く、執着的で、献身的だった。

泥濘のように濃密なその声が、耳にじっとりと染み込んで離れなくなった。


その方向に視線を向けようとしたが、ベッドに刻まれた《夢の魔法》が発動し、目が開けなくなった。


そのまま、オレの意識は完全に夢の世界へと落ちていった。

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