第53話・建て直すの日々・幕間、深夜のティーパーティー
第53話・建て直すの日々・幕間、深夜のティーパーティー
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湯煙で白く曇ったお風呂場の中で、オレは小夜──妹の長い灰色の髪を洗っていた。
泡を丁寧に流すと──
「なあ、おにいって知っている?……アタシ、怒ったよ。『むっかー』よ。お姉ちゃんたちと甘い物食べに行ったくせに、アタシを呼んでくれないなんて。ズルい、ズルいー!!」
小隊のみんなにスイーツパーティーを奢ったことを知っていたから、こうなるのは予想通りだった。
今もバスチェアに座ったまま、超絶不機嫌を全身でアピールしている。
「あの、ほら、オレはケーキをたくさん持ち帰っただろ。これで勘弁してくれよ、ねえー」
だが、彼女は後ろにいるオレに頭突きを返して許さない。
「でも、アタシが怒ったのはそれだけじゃないよ!……アタシは雪菜ねえと昼ご飯食べてた時に、突然危険そうな警報が響いてめっちゃびっくりしたよ。雪菜ねえはおにいが危ないって言うと、変身してアタシの目の前から消えたよ。あの時からアタシはずっとおにいのこと心配してたんだから。もしおにいに何かあったら、アタシはどうすれば……って、おにいは楽しそうに甘い物食べてたの?一人で焦ってたアタシを残して?」
そう言いながら、頭をこちらに向ける。光のない桜色の瞳で、無言の文句を伝えてくる。
この病んだような目、オレは初めて見た。
雪菜と似ているけど、別の方向の重圧を感じた。
「う、ぁー……心配させて本当にごめんなさい」
今回は我儘ではなく、完全なる正論だ。言い訳のしようがない。
「次はメッセージで無事を伝えるから、ね」
この言葉で彼女の気持ちが少し晴れたみたいだった。
「こうすればいいのに……ちゅーするなら許す」
「それだけでいいのか?これで気が晴れるなら」
オレは彼女の手を引いて近くに引き寄せ、軽くキスをした。
そういえば、こんなスキンシップはいつから始まったっけ……確か新都に来てからだ。
小夜がオレは彩音と魔力供給でキスしたことを知った翌日、「新都では普通の兄妹のスキンシップだよ」と言ってきた。
まあ、ゲームの時じゃないし、こんなところでオレに嘘をつかないだろう。
キスした目が少し光を取り戻したが、彼女はまだ不満そうにぷくっと頰を膨らませ、プンプンしている。
「──おにい、これ愛が足りない!もっと、おねえたちみたいにすごいことやれ!べっーたー」
「こら、こっちに舌出さないでよ」
オレの言葉に、可愛く舌を伸ばしたまま、まだ虚ろな目に戻る。
「……むんー」
「ダメー、目の光を消すのもダメだ……っていうか、自分で光を消すのか!?まさか、先もオレを騙してたのか!?」
「こらは最近に覚えた新スキルだ~。でも先は本気で怒ったよ、心配しすぎて魔法少女に覚醒しそうなくらい。ほら、男だろう、もたもたしないでよー」
「わがまましないよ……はあ、一回だけだよ。」
仕方ない、小夜には敵わない。オレはもう一度彼女を近くに引き寄せた。
彼女は期待でキラキラした目でこちらを見つめ、意地悪な笑みを浮かべてさらに一歩踏み込み、密着してくる。
灼熱の溜息と共に、妹はいたずらっぽく微笑むように口元を緩め、躊躇なく熱く濡れた舌をオレの口内へ滑り込ませた。
首筋に細い腕を絡めて、しっかりと固定する。
『逃げられないよ』──言葉はなくても、その意識が目で伝わってくる。
短い間に、お互いの舌がねっとりと絡み合った。
妹は少し赤くなった自分の唇をペロリと舐め、勝ち誇ったような笑顔でオレを見上げた。
「どう?アタシ、結構上手いだろう~。」
うん、妹相手にまあまあ上手かったけど……
「む、その顔、アタシのことをおねえたちと比べてるでしょう?もういいや、次はもっと進化させて、アタシにメロメロにさせてやるから!もちろん、おにいが練習台ね、もう~!」
ただ言葉を投げると、小夜はムカついた勢いで大勢で湯に入り、熱いお湯をオレの目に入れた。
「うわ!?目に水が!?このバカ妹ー!」
オレも彼女を追いかけて湯に入り、水をかけ返す。
「こら!お返しだ!」
「この野郎~、戦争する気か~!いいぞ、かかってこいやー!」
彼女の機嫌が直ったから、このような悪ふざけで、オレたち兄妹は普段通りに戻った。水をかけ合う遊びが始まった。
*
気がつくと、オレはすでにここにいた。
足下は灰色の石畳。
金色と青の炎が、わずかな光源となって揺らめいている。
周囲には無数の本棚が宙に浮かび、その先は果てしない暗闇に飲み込まれている。
光量は少ないはずなのに、不思議と視界は鮮明だ。
「……ここは……オレは家で小夜と一緒に寝てたはずなのに……ああ、分かった。」
これはもう三回目だから、どこかはもう知っていた。
あのミステリアスな竜人少女、フェリーステラの謎空間だ。
でも、普段なら重大事件が終わった夜に来るはずなのに、今回は一日に遅かった。
「ここの景色はほぼ同じで、進む方向が迷うな……とりあえず、一つの方向へ進もう。」
本棚の森に迷う時間は長くなかった。
しばらく歩くと、本棚が円形広場のように開けた場所に辿り着いた。
そこに、ゴスロリ調の黒いドレスを纏い、夜空のような翼を優雅に畳んだ銀髪の竜人少女──フェリーがいた。
彼女は白い金属の椅子に座って紅茶を飲んでおり、金色の縦瞳が穏やかにこちらへ向けられた。
「ここにはもう随分慣れたみたいですね、キミ。まさか案内されずにここまで辿り着いたとは。」
「フェリー、こんにちは。お久しぶり……だいたい二ヶ月ぶりくらいかな。キミに会えて嬉しいよ。相変わらず凛としてて、その綺麗さは変わらないね。」
彼女は謎が多い存在だけど、会える喜びは本物だ。
そう言いながら足を進めると──
『カンー』という音と共に、ティーカップが彼女の指先からこぼれ落ち、無数の破片となって飛び散った。
あれ?フェリーがフリーズして、まるで石化したように固まっている。
「フェリー、どうした!?オレが見えない攻撃でも!?」
だが、フェリーは錆びた機械のように動き、気力のない指パッチンで床に広がったお茶の水溜まりとカップの破片を消し去り、新たな紅茶をテーブルに現した。
以前に見た『再現』の力だ。
すると、彼女はようやく口を開けた。
「……もう一回。」
「え?」
「……もう一回だ。その言葉の後半、もう一度我に言ってください。」
「うん~、まあ~、ただの感想を素直に言っただけだけど。こうして距離が近くなると、思うところが色々と出てくるな。……フェリーは相変わらず凛としてて本当に綺麗だよ。その変わらぬ美しさにはいつも目を奪われてしまう。その夜空を切り取ったような翼もすごく格好いいし、魂を吸い込むほど深い金色の瞳も、知的な感じがしてすごく魅力的。頭上に戴く黒曜石のような角は水晶の如き煌めきを放ってる。その華麗なゴスロリみたいな衣装も、ちっちゃい体型にめちゃくちゃ似合って、小柄な体型に完璧に調和してる。まるでお人形みたいで、思わず抱きしめたくなっちゃうくらい可愛いよ。たまに口を開けたときに見える八重歯、ちょっと危険な雰囲気があってそこも最高に可愛い。先端に向かってすっと細く尖った長い舌も、キミの持つ独特の雰囲気に、恐ろしいほどよく似合ってるよ。それとその自信満々なドヤ顔も凄くかわいい。それに、普段はあんなに完璧で格好いいのに、たまにいざという時にドジを踏んじゃうところも、人間味があって可愛くて本当に大好きなんだ。それと……」
『バンー!』
フェリーの顔がテーブルにぶつかる音で、オレの言葉が止まった。
「ストップ!そこまで!それ以上我、真龍の心臓も耐えられない……キミはその目で我を見るのが……欲深の純血龍にそのような言葉を言い出すって、本気に襲うかもしれない……恥ずかしくないのか?」
恥ずかしい、が……そういえば──
「そんな事、普段は考えるけど、フェリーが言って欲しいから言うだけ……。なんか、ここに来ると妙にスッキリするな?」
オレの言葉を聞いたフェリーは、テーブルに伏せた頭を動かしてこちらを見る。
「……はあ、今のキミは精神だけの存在だから素直な原因ですの。まあ、その言葉を新たな書として記録した……でも、まさかの副産物……これは、長い年月に生きた我が、受けた一番効くダメージが──え!?」
急に彼女の金色の目が輝いた。その色は黄昏のような暮色の光。
フェリーは短い間沈黙すると、顔が先ほどより真っ赤になって、蒸気を噴き出すように。
うわ、漫画みたいな反応が本当にあるんだ!?
そして彼女の口から、蚊の鳴くような声で呟かれた。
「あわわ……それはもしかして、我慢できない可能性の世界線が!?そこの『我』、なぜそれを見ますか!?こら、あっちの『我』も笑わない!……認めない、認めない、そのような透けて丸見えの破廉恥な服装はなんだ、その智慧が感じられないアホみたいな淫らな顔はなんだ、『智慧』の名前はどこにいた!?早く止まって、その後の事は見て欲しくない!?そ、あーぁぁぁ……」
過負荷の機械のように目がぐるぐる回り、意識を失った。
「なんか、すごいものが見えました……確かにフェリーは前に言ってた『色んな未来の我が、24時間順番に別のキミとイチャイチャして自慢してる』って……、零れた言葉を考えると、まさか彼女の目が輝く時は『未来視?』が発動するのか……なら、魔女化の久那と戦った時に見た幻視は、彼女のおかげで──」
なら、オレは彼女をそのまま放っておけない。
オレは彼女を抱き起こす……あ、角が机の透かし彫りに引っかかった。
「むむむ……これで解けた。よいしょっと、軽いな。」
姫抱っこで彼女を持ち上げ、そのまま地面に横たえ、とりあえず膝枕にしてあげた。
まあ、男の膝枕ってなんだか変だけど、鉄のテーブルよりはマシだろう。
*
「う……んっ……我は、一体……?これは?」
時間が経ち、フェリーはようやく目を覚ました。
「その、おはようございます、フェリー。ごめんなさい、勝手に膝枕して。」
「膝枕……?くッ──!?」
フェリーの金色の瞳が再びぐるぐる回り始めた。
「あ、凄くいやーかな、すぐ離れるか──」
オレが離れようとすると、フェリーの手が残像すら作る速度でオレの手を掴んだ。
ぐぅ、まるで巨岩に挟まれたように全く動けない。
いつの間にか、その目は普段の理性を取り戻していた。
「待って!このままで大丈夫でっしゅー。」
「でっしゅー?まあ、嫌じゃないなら。」
「あと、良ければ頭を撫でてくれたら感謝する。」
「はい、こうでしょうか?いい子、いい子~」
オレは彼女のシルクのような銀髪を優しく撫で始めた。
なんだか妙な体勢のまま、今回の「ティーパーティー?」が始まった。
「なあ、フェリー。オレに二つの問題が知りたいんだ。」
「おや?なんだ?我の智慧が解決できることは何なりと教えるぞ。」
「ねえ、フェリー……いいえ、フェリー様はオレたちを助けたのが、十一年前のあの雪夜でオレと小夜を助けたページはキミのもの?あの作戦の時も?」
あれは今、オレが一番知りたいことだった。
「硬いのは要らない。……十一年前?あれは我じゃない。それは自分のアンカーを自ら破壊され、もう消えてしまった『バッドエンドに辿り着いた我』。」
その質問を聞いたフェリーは、軽い雰囲気で答えた。
「二つ目の問題について、それは我だけじゃない。一つの協力者があるよ。でも、今回の件は我の予知に出られない、予想外の事件でした。我の予知に逃れうる変数は少ない。他の予言者、未来改変、可能性の魔法、そして見逃すの『同族』。今回の件は暗躍された同族だろう、だから干渉された。」
「それでも、オレはキミに心から感謝する。」
オレは思わず頭を下げたが──
「近い近い近い!?あーむ~♡」
──うっかりキスしてしまった。
「あ、ごめん……うぅうぅ──」
急いで離れようとしたが、フェリーは手を伸ばしてオレの頭を抱き寄せた。
その先端に向かってすっと細く尖った長い舌が、オレの口内に侵入し、激しく絡みついてきた。
人外のテクニックで舌がねっとりとオレの舌を搦め捕り、熱く湿った感触が口内全体を支配する。
柔らかくも力強い舌が奥まで滑り込み、甘くねぶるように動き、唾液が混じり合って糸を引く。
息が熱く混ざり、頭が真っ白になって思考が溶けていく……ただ、甘く蕩ける感覚だけが残った。
......
...
やっと解放されると、銀色の唾液の糸が唇の間に長く伸びていた。
オレの手も彼女の身体から離れた。
「ぷはぁ~、ごちそうさまでした!まさかここまで我を感謝するなんて、そのお礼と気持ちは受け取った♡」
「オレはそのつもりじゃなかった……フェリーが喜んでくれたなら何より。」
「……次のこと、する?」
曖昧な雰囲気に変わったまえに──「その、もしかして私は少し回避した方が良いでしょうか?」
突然、このフェリーの空間に、オレが知らない声が響いた。
その声で、理性が溶けかけたオレたちを引き戻された。
頭を上げると、そこに金髪で目を黒い布に覆われたシスターが立っていた。
「その、どちら様......」
「こんにちは。私はナキア、ただのナキアです。浮遊城・聖都で先見の聖女を担当しています。実は、30分前からここにいたんだ。」
「あ、こんにちは。オレは天城暁と申します。その、これは深い理由があるから……」
「アマギのお方、ですが?」
オレの名前を聞いた途端、彼女は弁解を聞かず、オレをじっくり観察し始めた。
「……なるほど、あなた様はヒナちゃんに気に入られたお方ですね。」
彼女が観察している間、オレはフェリーに尋ねた。
「その、ナキアさんはどうしてここにいるんですか?」
「紹介しよう、彼女は我が先に言った協力者だ。予言の能力でキミたちの戦いをサポートする。」
「え、本当ですか。ならオレは感謝すべきだ。」
ナキアの観察がようやく終わったようだった。
「ごめんなさい、いきなりじろじろ見て失礼しました。」
「気にしないでください。あの時にオレたちを助けてくれてありがとうございます。」
「まぁ、人を助けるのは私たち聖女の役目ですから、気にしないでくださいませ。あなた様は正直者ですね、でも、ヒ──、残桜ちゃんに悲しいことをしないでください。」
「え、どうして突然に局長のことを言うの?」
「ふふふ~、いまは秘密にします。女の子の秘密です。」
ナキアは右手の人差し指を唇の前に立てた。
それと、彼女はフェリーに話しかけた。
「ねえ、フェリー様。彼の記憶はここに持ち帰るでよろしいでしょうか?突然に要事が思い出せたから、わたし急いで現実に戻らないと。」
「……」
しかし、フェリーは何も返事がない。
「もしもし、フェリー様?」
「あ、うん……まあ、別にいいけど、許可する。まあ、そろそろ時間切れみたいですの、全員を現実に戻ろうか?」
「え、どうして急に──」
「まあ、色々の事情があるから、次のティーパーティーに期待するぞ。」
フェリーは突然そう言うと、オレとナキアさんの身体は徐々に透明になり、消え始めた。
*
暁とナキアが図書館から消えた瞬間、フェリーは不機嫌そうに本棚の影へ声をかけた。
「で、もう隠す必要はないよ、招かれざる客。その観測できない空虚の本質、『虚無』が。」
すると、本棚の影から一人の小さな黒髪黒目の幼女が歩み出てきた。
彼女は自分の領域にいるはずなのに、目視以外の観測方法が全く効かない。
まるで空間そのものが彼女の形をした空洞のようだった。
「殺意に向かうなんてひどいよ、フェリーステラ=ヨグティル。クロはただ遊びに来たのに、むむ~。せっかく運命の人がそこにいるのに、なぜ帰らせたの?」
最初の言葉で、フェリーは自分の耳を疑うほど驚いた。
「その……誰だキミは?その姿は『虚無の少女』だよね?『虚無』はそのような幼稚なキャラですが?あと、我の全名を言わない。我々はそこまで仲良ではない。」
「もう~、クロはいまはもう『虚無の少女』じゃないもん。いまのクロは『存在が確立された少女:クロ』です~!だって、クロに定義された運命の人は、クロがそういう性格に認識するから~」
んんんむむ…………、なんか完全に予測を超えていて、感が狂ってしまった。
これはどうするか。




