第52話・建て直すの日々・幕間・残桜:二回目のワルプルギスの夜
第52話・建て直すの日々・幕間・残桜:二回目のワルプルギスの夜
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暁は仲間たちと共に楽しいスイーツパーティーをしている頃──魔物対策局の最深部、機密会議室。
今回は一人ではない。自分とル・ルファが先にこの部屋に入っていた。
「憂鬱ですの……ルファ、会議が始まる前に何か意見はあるかの。ほら、『やっぱり違う』みたいな感じですの?」
「ないです。私の意見は変わりません。その判断は正しいと思います。」
仕方ないので、自分は円卓に腰を下ろした。
「はあ……短い時間でまたこの部屋に入るたび、の……」
重厚な椅子の背もたれに体を預け、巫女服の裾を優雅に整えながら、深いため息を吐く。
*
仕方ないので、自分はテーブルに手を触れると、人影が次々と現れた。
今回の参加者は前回と少し違っていた。
「残桜お姉ちゃん、お久しぶりです!」
最初に自分に話しかけてきたのは、星の紋章が入ったローブと尖った帽子を身にまとった銀髪の魔女っ子だった。
何も知らなければ心温まる光景だが、全部知っている自分にとっては怖いとしか思えない。
「ハハハー!まだ若作りか、アーク・ウィッチ?そのヤンキー性格じゃ似合わないよ!」
ヒーロー連合の方からその魔女っ子にツッコミを入れたのは、前回と同じその会長であり──S級ヒーロー『ライトニング』のレーディアだった。
そう、そのツッコミされた銀髪の魔女っ子は魔女集会の指導者、『アーク・ウィッチ』のステラ・アストレアである。
レーディアの言葉でステラの笑顔が引きつり、つり目になる。
「あん!?なんだお前!お前もそうだろう?いびび~、吾輩は知っているぞ~。ライトニング、お前はまだ幼女に演じて子供に混ざって、子供限定のアイスクリームを買うらしいな」
「な、何でそれ知ってた!?部下も知らないのに!?」
「教えない、バカ~!そうだ、いいこと考えた!吾輩はそのことをお前が大好きな孫娘アヤーに話そうかな~」
「はあ!?死にたいのか?あん!?文字通り光速で殺すぞ!」
「やんのが!?出来るならかかってこいよ、こら!」
「誰がお前の工房で戦うの。お前こそアメリカに来い!」
そのままレーディアとステラの喧嘩がどんどん危険な方向に進みかけた時、脳天気な声がそれを止めた。
「ヤッホー!みんな、お久しぶりです!」
話したのはこの場で一番年上に見える褐色肌の女性──狩龍集会のボス、『解龍者』のメル・ベルだった。
なんだか既にボロボロで傷だらけの状態だ。
「お久しぶりですの。キミのその傷は、もしかしてまだ『力』のマルスティアに挑んだ結果ですの?」
「そうですぞ。まあ、今回もダメだった。相棒のフーラオちゃんと仲良くボロ布になっちゃった。でも、帰る途中で野生魔物のドラゴンを殺し続けて、大量の肉と素材を連れ帰ったぞ!このくらいの傷はドラゴンステーキを食べれば明日は完全復活するから、心配はご無用だ!」
「《解体の魔法》ですの。便利ですの、その魔法は。」
《解体の魔法》──それは彼女が持つ魔法で、その効果も彼女にぴったりなものだ。
彼女が切り落とした部位、殺された魔物は魔力に還元されず残される。
そのおかげで魔石以外にも、普段は低い確率でしか残らない魔物素材が山ほど手に入り、たくさんの武器が作れる。
だから狩龍集会には魔法少女だけでなく、男の狩り人も存在する。
狩龍集会が魔物素材を狩り、希少素材に飢えた魔女集会がそれを魔道具に変える──これがヨーロッパの平和を支えている。
いけない、龍肉の味を思い出してしまった。あれは本当に美味しかったの……
「相変わらず吞気な連中だ。」
次に響いたのは、ユグドラシル攻略組の方角から聞こえる、威厳ある厳粛な口調だった。
重装甲を纏い、鉄塊のような重剣を背負った女戦士──『ニーズヘッグ』のホルニンガー。
ユグドラシル攻略組は、《創世》ユグドラシルを討伐するという目的に目指すで複数の魔法少女パーティーが連合した組織だ。
前回は後援隊長ヴァルキリーが代理出席していたが、今回は共同隊長であり、全パーティーを統べるリーダーが自ら来ていた。
《龍毒の魔法》を持つ彼女は、毒と薬の両方を作れ、最強の剣と盾で最前線に立つ。
「まぁ、いいじゃないか、ホルニンガー様。これは悲しみより、こういう騒がしさの方が良いと思いますの。」
そして最後の一人は聖都の代表、先見の聖女・ナキア。彼女は前回と同じく黒い布で目を覆ったままだ。
「ナキアちゃん、その目はまだ直らないですの?」
「残桜ちゃん。心配してくれてありがとう。見えるだけは大丈夫だけど、予言はまだできないみたいです。」
ナキアは相変わらず親切な口調で話してくれる……うむ、今回は隠された苦痛を感じないから、その言葉は本当だろう。
「私は聞いたよ。あなたは規格外の魔女を救ったそうね。すごいです。」
「それは私も。アヤーと定期連絡の時に聞きました、良い英雄譚にできたな!」
「おう、この噂吾輩も聞いた。前回の会議で教えたあの組織に拉致された子だろう?そうそう、吾輩たちが前回の情報から導き出した怪しい場所を襲撃して、見つけた(奪い取った)資料……それによると、その組織は危険な研究をしているらしいな。なんか『理性を持つ魔人や魔女への変化』らしいぞ。あの子も実験対象?」
ナキアが始めた話題で、円卓のみんなの注意が一気に集まった。喧嘩していた二人も手を止め、こちらの話に参加してくる。
「規格外ー!なぁなぁ、残桜ちゃんは何回死んでた?残機は?」
「普通に三回だけですの。まあ、まだ使えない命は山ほどあるけどの。」
「三回……それで条件を満たすと上限が見えない……一般人は一回で終わるのに、貴殿は一体どれほどしぶといのだ」
「お前が言うですの?自分以上に常に薬が身体に流れ、重剣に破壊毒を仕込んでいる、瀕死の時は魔法を暴走されてニーズヘッグに変貌する、不死身のバーサーカーに向かって言うですの?今回は上手くいったのは先輩たちが新都の防御を固めてくれたおかげですの。今回、リーダー『正義の魔法少女』も活躍したから。」
「おお、ジャスティアが!」
「魔法少女・断罪が。吾輩もアイツとしばらく会わなかった。」
「審判者が」
「裁きを下すのお方が活躍するのですね」
リーダーの異名が多すぎ……これは全部魔法少女名を決めていないリーダーの悪いところですの。
これで全員が揃ったから、会議を始められる。
*
「で、わざわざユグドラシルを攻略中の私を呼ぶのは何の話だ。」
ホルニンガーが相変わらずの威圧を放ちながら、自分に質問してきた。
「面白い話ならいいけど~」
メル・ベルは何も考えていないような期待の目でこちらを見る。
「そうだ、吾輩もそれを知りたい。」
猫かぶりをやめたステラ・アストレアは両手を胸の前で組んで、聞く体勢になった。
「まあ、残桜ちゃんならつまらない話はしないだろうさ」
「わたしもそう思います。予言なしでも残桜ちゃんを信頼しています。」
レーディアとナキアは他に比べて緩やかな態度でこちらを見つめる。
全員が静かになったので、自分もそろそろ始めよう。
「まあ、信頼してくれてありがとうですの。今回共有する情報は『終末』のことですの」
『終末』という単語を聞いた瞬間、会議の参加者全員の表情が真剣になり、自分の言葉を一言も聞き漏らすまいと耳を澄ませた。
「これで新たな三つの大災いを確認しました。それぞれ持つ理は『進化』、『智慧』と、自分たちが昔から疑っていた存在──ミロスと自称する『鏡の谷の主』ですの」
話が終わると、会議室に重い沈黙が漂った。
それを破ったのはホルニンガーだった。
「やはり……『創世』の第三世界と第四世界をすでに滅ぼした同格の『鏡の谷の主』が……ミロスか。その名前は覚えた。でも残念だ、我々攻略組は『創世』と戦争するだけで精一杯だから、別の存在は対処できない。済まない。」
「まあ、謝るのは止めてですの。キミたちの相手はNO.9の真龍だから仕方ないですの。」
「……『NO.5・龍帝《力》マルスティア』を挑み続ける解龍者と、『NO.6・魔王《選定》アウグロス』に勝った貴公に比べると、これくらい大したことではない。私たちはまだ弱すぎる」
「いやぁ~、僕はこんなに偉いんじゃないよ~、照れるな~。僕たちは……そう!残桜ちゃんの国の言葉に喩えれば、漫画みたいに『夕日の河原で殴り合おうぜ、宿敵』だよ!」
「自分はただあの野郎の自殺ショーに紛れるだけ……なあ、選定の眷属の」
自分は傍らに立つル・ルファに話しかける。
「そうではありませんです。魔王様は破滅願望ですが、もし盛り上がらないならこの場の全員に『無意味な死』に選定され確実に即死しますから。勇者様は既に合格線以上の力を見せられましたからこの結末に辿り着いたのです。」
なにそれ、まだ自分が知らない情報が出てきた……
「なあ、ヒナちゃん。『選定の眷属』に言っただよなぁ?もしかして、あの子はお前の隠し子ではない?それと、真龍の眷属……吾輩に研究してくれません?」
「その言葉は、私のメンテナンス作業する意味ですが?」
ステラ・アストレアは興味津々でル・ルファに好奇心の視線を送る。
「こら!いきなり自分の本名を言わないのよ!ならこっちもキミの本名を呼ぶですの、ステラ!あと、自分に隠し子は存在しませんの!」
「不注意で言っちゃった、すまん。本名を言うのは勘弁してくれ、そのようなふわふわキラキラの名前を吾輩に言うな。でも、隠し子ではないが……」
「当たり前じゃないですの!こいつも自分のそばから離せませんから、研究は拒否ですの!あと、ここの全員に子持ちなのはライトニングだけですの!」
急に名前を呼ばれたレーディアが話しに参加する。
「うん、どうですかな、だから私は超かわいい孫娘アヤーができた。私は特別に教える!それは、もし欲しいなら気に入った対象に力で既成事実を作れば良いのよ、誰もできるイージーだよ。まあ、私と旦那は幼馴染で純愛だけどな、勝つの幼馴染ですから。」
「その雑な意見は求めないですの!」
「奇遇だな、吾輩もそうには聞きたくない、お前が黙ってください」
「何で!?」
ナキアは静かにそのどんどん方向を失った会議を、浅い笑顔で傍観している。
そんな無意味な対話で、新たな真龍を確認した緊張した雰囲気を、すっかり吹き飛ばしてしまった。
*
時間の経過で今回の会議はそろそろ終わった。
「うん、私はそろそろ前線へ帰還する。貴公たちに武運長久を祈る」
「そのような硬い話は要らないですの。ホルニンガーさんもユグドラシルとの戦いに注意してくださいの。」
「そうする。では、また会いましょう」
ユグドラシル攻略組のホルニンガーの虚影が最初に円卓から消えた。
「吾輩も帰ろうかー」
『大魔女さま、情報分析が終わりました!この一番弟子、ルルアンナが次の拠点座標を確定しました!褒めてよ~』
「おう、やるじゃないか!子分……じゃなくて、弟子たちを呼んで来い、収穫祭だ!……その吾輩の縄張りに勝手に暗躍する組織を蹴散らして、その罪は研究資料で賠償したな!それでみんな、じゃあな~」
次に魔女集会の指導者、アーク・ウィッチの虚影も消え去った。
「なんかこっちはいい匂いがする……あ、外はドラゴン肉の焼肉パーティーが始まったみたい……」
ばんーーー!!!!!!
「なんか後ろから爆発音が響いたの。大丈夫ですの!?支援が必要ですの?」
びっくりした……自分がその突然の爆音で膝をテーブルにぶつけた。この机はアーク・ウィッチが作った魔道具で魔力を込められているから自分も効く、痛い。
『おお!妾を歓迎するためにこんな盛大な宴を用意してくれたのか!』
「ごめん、早く帰らないと《力》が……マル、止まって!ステイ!僕の分残してよ!」
『おお、お前がメル!朝にボコボコにされたのリベンジか?さあ、あの白龍を呼べ!この妾が相手をしてやろう。第二回戦は大食い勝負じゃ!』
「フーラオちゃん!行くよう!」
『ガッルウゥゥー!』
あ、メル・ベルの虚影が消える前に彼女はどこかに走り去った。
「残桜ちゃん。アヤーから魔女との一戦の話を聞きましたよ、あれは素敵なヒーロー行為でした。これからちょくちょくアヤーのところに遊びに行くと思うから、その時はよろしくね!そうそう、私はついでに婿に会いましたよ、アマギのやつはアヤーとの結婚式の日を要請状であげるから安心してくれ。」
「来る前に、先に自分と連絡してください……あと、自分の職員を勝手に婿に認定するなのよ。」
あ、自分の話はまだ途中ですが、レーディアはその前に消えてしまった。
「これで残されたのは自分と、キミですの」
「うん、そうです。」
今や円卓に残されたのは自分とナキア、そして傍らのル・ルファ。
「その三つの真龍について私に考えがあります。その中に『進化』には特に警戒してください。それと、『智慧』と『鏡の谷の主』には危険を感じません。」
「なにそれ、予言者の新たな予言ですの?」
「ふふ、それは違います。今のわたしは予言できないから、『感』ですよ。」
「予言者の『感』が……わかりましたの。前回の予言と共に、その言葉は心に留めておきますの」
「それと、天城の聖女様と神託の聖女様のお言葉によると、浮遊城・聖都の航路は日本の新都上空に辿り着くみたいです。その時はあなたと新都の皆様に『聖都成立の祝祭』に参加したいです」
浮遊城──それは天城の聖女が魔法で作り上げた超大型浮遊要塞都市……
「天城がの……」
「何か気になることでも?」
「いやー、ただ最近気にいった部下の苗字と同じだけ……なに、その変な笑顔は」
目が布で覆われているのに、そのニヤニヤとした悪い表情はより目を引いた。
「まぁまぁ~、残桜ちゃんも春が近いみたいですもの。親友として、祝福を献上した方が良い?」
「ぐ、するなの!自分とそいつはそういう関係ではない、ただの……部下なら近い過ぎ、なら友ですの?そう、ただの友達だけですの!」
「あらまぁ~、あなたがそう言うなら、私もそう信じておきます。それじゃあ、現実でまた会いましょう。またね、ヒナちゃんとルファちゃん。」
「こら、その表情は全然理解していないでしょうに……あと、本名で呼ぶな……行っちゃったの。」
その言葉を投げるとナキアは即座に退席した。誤解を残したまま……
自分も手をテーブルから離すと、放出された蒼い燐光が消えた。
ここに残されたのは暗い部屋と、横にいるル・ルファだけ。ナキアが消える直前、小さく手を振っていた。
「さってー、自分も仕事に戻ろうですの~。災害復旧、魔石鑑定、魔法少女たちの功績評定と活躍賞金……あと、先輩たちが起こした過剰破壊の賠償金、やる事は山ほどあるですの……帰るよ、ルファ」
「わかりました。」
門が閉じると、ここには誰もいなくなった。




