↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/70

第50話・建て直すの日々・幕間・その2

第50話・建て直すの日々・幕間・その2


==========

「どうしてまたオレをここに連れてくるんだ?何か大事な話でもあるのか?」


魔女化から六星久那を助けた翌日の朝。


まだ早い時間だというのに、残桜が突然オレの家に現れ、即座に転移で連れ去ってきた。


ちなみに、魔物の騒乱で学校がまた休みになったおかげで、妹の小夜はゲームを徹夜で遊び疲れ、ベッドの上で「……アタシまだ眠いから、おにい、いってらっしゃい~……」と寝言を呟いたまま、夢の世界に沈んだままだった。


たどり着いた場所は、予想通り──静まり返った古い神社、残桜の実家だ。


「はいどうぞ、抹茶ですの。熱いから気をつけてくださいね。」


「あ、ありがとう。」


「すまんの~」


抹茶を運んできたのは、見覚えのある小さな女の子だった。


白銀の髪が毛先に向かって鮮やかな蒼色へグラデーションしていく、神秘的な容姿。


身に纏うのは、蒼い糸で不思議な紋章が刺繍された白い布を組み合わせた、どこか神聖で奇妙な装束。


「キミは……ル・ルファ、だよね。聖剣の。」


「はい、その推測は正しいです。私はル・ルファです。」


「昨晩、魔女化した久那との戦いでは本当に助かった。キミの魔力を消す斬撃がなかったら、オレたちは絶対に間に合わなかった。」


「いいえ、いいえ。あれは全部勇者様のおかげです。私はただ、聖剣としての役割を果たしただけ。魔力を喰われるのは本望ですから。」


「いや、そこまで謙虚にならなくていいよ。そういえば、どうしてキミはここに?」


ル・ルファは礼儀正しく頭を下げた。


その時、残桜が苦笑しながら説明してくれた。


「まあ、あれだの。聖剣召喚の呪文が面倒くさいし、召喚途中であの野郎の魔力を感じてイライラするから、『いっそ召喚を解除しない状態でいいかも』って思ったら、こうなったの。」


なるほど。だから彼女は今、普通にここにいるのか。


「はい、これはお菓子の羊羹です。この抹茶と一緒に食べると最高ですよ。勇者様の大好物セットです。」


「それは期待するな……って、二人分だけ?」


テーブルの上には、オレと残桜の前だけに、羊羹とお茶のセットが二組置かれていた。


ル・ルファは本気で困惑した顔でオレを見つめる。


「その……私は何か間違えましたでしょうか?良ければ教えてください。」


「いや、その……キミの分は?」


「私は奉仕の身ですから、そんな気にしないでください。」


……妙に頑固だな。


どうしたものかと考えていると、テーブルの向こうにいる残桜と目が合った。彼女は小さく頷く。


「いいから、一緒に食べてください。……そうだ、オレは急に『あーん』したくなったから、協力してくれないか?」


「えっと、ご希望であれば……?」


ル・ルファは困惑したままオレの隣に正座し、雛鳥のように小さく口を開けた。


オレは羊羮を一口大に切って、彼女の口元へ運ぶ。


「美味しいですか?」


「もぐもぐ……ごっく。はい、甘くて美味しいです。」


その目が細くなり、ぷにぷにの頰が緩む。


嘘じゃない、本当に嬉しそうだ。


それを見た残桜は満足げに自分の羊羹を食べ始めた。


「こいつは旅行の時からそうでしたの。魔王討伐の時だけ積極的で、他のことになると妙に頑固なのよ。あの頃も食事の時は、命令しないと石像みたいにテーブルの横に立って、ただ見ているだけの。短い時間で対処法が分かったのはさすが、魔物対策局の連絡員ですのね。」


オレはル・ルファに次々と食べさせながら、苦笑して返す。


「そんなに褒められても困りますよ。オレはただ、彼女と似ている子を知ってるだけです。」


「こいつと似ているの?……お前の小隊にはいないみたいだし、お前の妹もこんな性格じゃない。他の別人ですの?」


「はい。あの子は鏡の谷で出会った、オレと小夜の命の恩人……」


「『鏡の谷』の?その昔に言ってた、郊外で《硝子の魔法》を持つ野生の魔法少女ですの?」


「はい。十年前に行方不明になった、ミロスお姉さんです。彼女が助けてくれなかったら、オレと小夜は十一年前に死んでいたでしょう。そういえば、オレは詳しく話してなかったっけ?」


その記憶は、今でも鮮明に胸に焼き付いている。





*





十一年前の雪夜。


オレと小夜がまだ新都にたどり着けない、郊外に生活の頃だった。


「お兄ちゃん!!後ろに、まだ追いかけてきてるー!」


「後ろを見るな!前だけ見て走れ!」


当時まだ十二歳だったオレは、泣きそうな顔の小夜の手を強く握ったまま、必死に雪を蹴って走った。


なぜなら──


「「「@&¥%¥&ーー!!!」」」


無数の口を持つ肉塊の巨体を引きずり、おぞましい触手が蠢く、名状しがたい褻瀆の異形怪物が、執拗にオレたちを追っていた。


理解を超えた咆哮が、幼いオレたちの理性を削り取っていく。


「──たどり着いた!!」


オレたちが狂えないの原因は、希望はまだ残っていた。


郊外の常識として、「怪物に襲われたら、硝子ばかりの場所へ逃げろ。怪物はそこに入れないから緊急避難に使える」と聞いていたからだ。


しかし、オレたちが硝子の領域に飛び込んだ瞬間──


「……どうして」


怪物は平然と、硝子に覆われた地へと足を踏み入れた。


「「「#¥%@%¥&ーー!」」」


無数の口が正気を削る咆哮を合唱し、触手の先端に生えた骨刃が振り下ろされる──小夜を狙って。


「小夜!!」


「お兄ちゃん!!」


オレは全力で彼女を引き寄せたが、間に合わない。


刃がオレたちを貫く寸前、一枚の紙のようなものがそれを防いだ。


火花が散る。


そして、無数の硝子の尖った杭が地面から一斉に伸び上がり、あの怪物を串刺しにした。

まるで標本のように。


「困惑。『智慧』の気配を感じた……なぜ私の領域に『進化』の肉人形がいる。」


彼女は虚空から現れた鏡の中から静かに姿を現した。


白い髪が硝子のような透明物質に覆われ、頭上に万華鏡を思わせる虹色の光輪を浮かべた、神秘的な少女──ミロス。


怪物が殺意を彼女に向ける。


彼女もまた、無機質な瞳で同等の殺意を返した。


「殺意?愚か。」


オレと小夜は怯えて、互いにぎゅっと抱き合った。


「お兄ちゃん……私たち、どうなるの……?」


「オレも……わからない……」


てっきり、壮大な戦いに巻き込まれると思った。


「処置。現実は鏡に映る、鏡面の虚像は現実に反応する──『鏡に映れる影』」


彼女の手元に、怪物そのものを映した鏡が現れ、即座に粉々に砕かれた。


鏡が破砕すると同時に、怪物も同じく粉々に砕け散り、地面に崩れ落ちた。


簡単すぎて、オレと小夜は目を疑うしかなかった。


それを成し遂げた彼女は、ゆっくりとオレたちの方を向いた。ただ、無表情に見つめるだけ。


「確認。あなたたちの生存欲求と家族愛……その強烈な感情は、確かに私(鏡)鏡に映った。」


オレは小夜を自分の後ろに庇うように立った。


「質問。私はミロス。キミたちは?」





*





「これがオレとミロスお姉さんの初対面でした。それから一年間、共に生活が始まったんです。あの怪物は魔物対策局の評価基準で見れば、大体レベル9~10くらいでしょう。一瞬で倒す彼女は本当にすごかったの魔法少女ですよ!」


羊羹と抹茶を完食したところで、オレの昔話は一段落した。


しかし、それを聞いた残桜の表情が、なぜか頭痛を堪えるように曇る。


「待って待っての。なんか無視できない話が出てきたの。彼女、ミロスは『智慧』と『進化』を、まるで誰かの名前みたいに言っていたの?」


「記憶が正しければ、そうですけど……何か問題でも?」


残桜はオレの膝の上に座り、羊羹を食べ終えたル・ルファの頭をナデナデしている最中に、ふと質問を投げかけた。


「そこは私にとてもいけない要求ですが……もっと撫でてください……。」


「ルファ、あれは……あれの?」


「うん、勇者様。大体そう考えるのは正しいです。」


なんだか秘密の会話みたいで、オレはますます緊張する。


「その……本当に大丈夫ですか?怖いですけど。」


「ん……こっちの話だから気にしないでくれの。貴重な情報を提供してくれてありがとうの。……でも、自分がくれた情報はこれと比べるなら衝撃性が足りなくて悩むの。」


「そういえば、どうしてまたオレをこの神社へ連れてきたんですか?」


ここは残桜の実家。多重の魔法で世界から隔離された、古い神社だ。


「前回は自分の愚直を聞いたでしょうの?今回はそのお礼に、ただ気にいった羊羹を奢るだけですの。ついでに、情報共有の件ですの。」


「そんなもんですか……」


「まあ、長くなるのは面倒ですの。簡単に言うと、六星久那のことを調べてみたの。六星という苗字は珍しいから、すぐに検索がヒットしたの。局内の記録では、彼女はお前と同じ、遊園地事件の被害者だったの。残酷ですけど、六星家他の家族は全員遭難に確認した……自分たちの記録の中では、彼女は行方不明のままですの。」


同じ遊園地で……混乱に乗じて誘拐されたのか。


「あと、病院中の久那ちゃんはもう起きたのよ。今は楽奈ちゃんに世話されているの。精神状態も特に異常なし。落ち込むより、復讐心が燃え上がっているみたいですの。まあ、彼女の状態が落ち着いたら、お見舞いに来てもらえるように連絡するの。」


「それは良いことじゃないか!!オレたちの努力が無駄じゃなかったってことです!」


思わず声が大きくなった。


「だな、自分も同感ですの。最後にもう一つ……魔女は長い時間顕現と戦闘状態だった影響で、その特性により大量の魔力が昨日の戦場に集中したの。魔力濃度が正常値を遥かに超えていますの。ダンジョンが発生する危険性もあるの。」


「ダンジョン!?そこまで……」


ダンジョンとは、高濃度の魔力によって世界が歪んだ微小異界のことだ。

人間は無意識に魔力を吸収するため、普通の生活圏では発生しないはずだった。


「まあ、あくまで可能性の話ですの。でも、やっぱり衝撃性が足りなくて負ける気がするの……そうだの!貴重な情報を提供されたお礼として、自分の秘密を一つ披露してあげますの!」


残桜はしばらく考え込んだ後、突然悪い笑みを浮かべてこちらを向いた。


最近シリアスな事件が続いていたから、この笑顔は久しぶりだ──完全にいたずらっ子モードの表情だった。


早く止めないと……


「その、いいから。そんなに気にしないでください。本当に大丈夫です。やめた方がいいと思います。ほら、ルファも何か言ってください。」


「勇者様が望むなら止める理由はありません、です。」


あ、完全に残桜味方の発言だ。この子は残桜なら全肯定みたい。


「ふふ~、お前に損はないから、そんなに警戒しなくてもいいの~、とりゃ~」


言い終わるや否や、彼女は巫女服を固定する帯を一気に引き抜いた。服が重力に従ってするりと畳の上に落ちる。


見ちゃいけないものが見える前に、オレは慌てて目を閉じて顔を背けた……ついでに、自分の膝の上に座っているルファの目も手で覆う。


「ふふふ~、何かいやらしいことを想像してるですの~?ほら、こっちを見なさいのよ。『注目符』。」


「そこまでするのか!?」


投げられた符の効果で、オレの首が無理やり彼女の方へ向けられる。


想像していたような裸体は見えなかった。その代わりに──


「お札……これ、全部魔法で作った符?」


まるで和風ホラーに登場する、山奥町に隠された古い封印みたいなーー数え切れないほどのお札が、彼女の肌に直接びっしりと貼り付けられていた。


「そうだのよ~。自分の裸が見えなくて残念でしたの~?そうそう、そのびっくりした顔が見たかったの~。やあ~、最近はほとんど悪戯してないからストレスが溜まっていたの。これでスッキリしたの~。」


残桜は得意げに胸を張り、後ろに「イタズラ大成功」の文字が浮かんでいるかのような表情を浮かべている。


最近は大人しくしていたけど、この人は元々こうだった……前回のイタズラは、覚醒したばかりの葵を連れ帰った頃だったか。


肌は見えないものの、身体のラインがくっきりと浮かび上がっていて……それはそれで本当に大丈夫なのか?


「自分は原初の一員ですけど、ほぼサポーターみたいなものですの。強化と攪乱で敵を嫌がらせるのが得意だけど~、防御と腕力は足りないの。腕力は一般人よりは高いけど、聖剣ル・ルファを持つのは難しいの。……だから、これが自分の答えですの!昨日の戦いでは聖剣を中心に戦っていたように見えたけど~、実はあの時、聖剣を完全制御するために、身体に貼った符の力を全部引き出していたの。他の符を使う暇なんてなかったの~。これは自分の秘密ですの!」


それを聞いたル・ルファが、少し申し訳なさそうに落ち込む。


「面倒な剣でごめんなさい……」


「お前はそう設定されたんだから、自分は責める気はないの。」


二人がそんな日常的なやり取りをする中、オレは内容に驚いて声を上げた。


「これ、オレに言っていいんですか!?キミの強さの秘密じゃないですか!?」


「それは大丈夫の~。お前は『他人の秘密を大声で宣伝する』ような人じゃないでしょうの?なら大丈夫、信頼してるの~。」


本人がそう言うなら、オレは仕方なく納得するしかない。


「オレはもう分かってるから、早く服を着てください。」


「え?どうしたの~?何も見えないでしょうの~。」


「いや、その……自分の身体を見てください……それは逆にエロく見えますけど。」


「何を言うの?符で全部隠してるでしょう……」


オレの言葉で、残桜はゆっくりと自分の身体を見下ろした。


そして、気まずい沈黙が神社の中に広がった。


彼女は何も言わず、全身に貼られた符の文字が一斉に微かな光を放つと、目にも止まらぬ速さで服を元通りに戻した。


それを目撃したオレはどうしよう……とりあえず、話題を変えて気分を変えるか?


「ゴホン……済まない、このような老体を見せてしまったの。」


「その、大丈夫です。なんか、魔法少女はすごいってことをまた実感しました。その肌は時の痕跡がなくて美しくて、びしょびしょ……じゃなくて、まるで若い者のような、年上には見えない──」


自分もわけのわからないお世辞を言いかけた途端、残桜がオレの肩をがしっと掴み、真顔で睨んできた。


「忘れてください。忘れないなら、符でその記憶を消去します。或いは辞世の句を詠むが欲しい?」


「その、口癖の『の』は忘れ……」


「どちらを選ぶの。選ばないなら自分が決めますの。さあ、辞世の句を詠むが」


わずかに赤らんだ顔から放たれる鬼気迫るプレッシャーに、オレは即答した。


「はい、その光景を記憶の奥底に埋めますから、その符を持った手を離していただけますか?」


オレの答えを聞いた残桜は、やっと手を離した。


「分かったなら良いの。……悪戯がしたいだけなのに、しばらくやってなかったから勘が狂っちゃったのかの?まあ、今回は実家の神社でギリ大丈夫ですの。次はこのような失敗はしないの!ルファも暁に甘いところを止めて、帰るの!」


「お、おう。頑張って~」


突然の相談が雑な結末を迎え、昼前にはすべてが終わった、転移の光と共に新都へ帰還する。

==========

これは記念すべき第五十話。

去年の私には想像できないほど、ここまで頑張ってこられた。


良い機会なので、今後の計画として、第一話からもう一度内容を見直そうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。