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第47話・建て直すの日々・劫火の魔女⑨

第47話・建て直すの日々・劫火の魔女⑨


==========

ー焦天蓋・灼天神殿完成する直前ー


『――間に合わない――』


その文字が、オレたち全員の胸に重く突き刺さった。


すべての準備が整い、魔女・久那は神殿を顕現させるための詠唱を始めた。


「――此処より煉獄、一切の希望も燃え尽くす地。永劫の業火が世界の理を塗り替え、天すら灼く神殿よ、顕現せよ。此処より、すべての罪人は業火に断罪される――」


詠唱と共に、途方もない圧力が空から降り注ぐ。


四本の炎の柱を原点に、天空へ複雑な積層魔法陣が描かれていく。


魔女・久那を中心に、火の螺旋が巻き上がり、紅焔の巨大な卵――繭のような最後の変生が始まった。


オレたちはその変生をただ見守ることしかできない。


あの紅焔の卵を取り囲む炎嵐には神気が混じり、固すぎて下手な攻撃はことごとく無効化される。


いわゆる「変身シーンは攻撃しない」というルールではなく、物理的にどうしようもない状況だった。


だからこそ、オレたちは監視を続けながら、計画Bの準備を急いだ。


「あっちゃ~、失敗しましたか……。それじゃあ計画Bを実行するよ。僕が彼女を止めるから、残桜ちゃんは早く転移でみんなを揃えて、まだ神様を殺す戦いを始めよう!ああ、そうそう、時間があれば僕の倉庫から対神兵装も持ってきて!」


「先輩、その倉庫はどれだけ魔法で空間を拡大したか、どれほど乱れるか分かっているの?間に合わないから諦めなの。」


残桜にきっぱり言われたドクターは、杖の手袋をはめた手に指を鳴らした。


瞬間――彼女はこの場から消え、代わりに約3メートル級の威容が現れる。


金属銀と金色の塗装に、蒼い光が走る決戦装甲。変形機能も搭載され、後部の装甲が展開して光の翼を広げる。


男のロマンの結晶のようなその姿に、オレは思わず息を飲んだ。状況が状況でなければ、一日中見ていられそうな迫力だ。


「ねねー!あっちを見てください!何かおかしい事が起きてるみたいです!」


彩音の声に引き戻され、オレは彼女の指差す方向――最初の炎の柱を見た。


「あれの色、ちょっとだけ薄くない?」


「そう言えば……確かに色が違う。そして、構成している炎嵐も他の柱より細い……」


「……確かにそうです。あれだけの魔力が、少ない」


急にオレの影から現れたのは、ティルフィングを携えた楽奈だった。


魔力感知に長けた彼女の言葉なら、錯覚ではない。


「……これはレーヴァテインを模倣したけど、結構気に入った。影に通すと影に吸収されて崩れた刃も直る。うまく使えば『壊されない』鋭利な武器になる。……うん、まるで呪いが付かない、本物のティルフィングのようになる。……ん、何かあった。」


最初の炎の柱に神殿の魔法陣が描かれ始めた頃、その魔法陣の上に蜘蛛の巣のような亀裂が走り出した。


そして――それが始まった。


色が薄くなった炎の柱の内部から、黒い焔が猛烈に燃え上がる。


神殿を支える柱そのものが、内側から焼き崩され、魔法陣ごとゆっくりと崩壊していく。


その黒い焔は、オレにとって最も馴染み深いものだった。


「そうだ!!海島へ撤退する頃だ!!オレはぽーっとしてるシャドウを引っ張った時に、試しに黒焔の火玉をその火の柱へ投げておいたんだ!だから、内側から焼き抜いてる!」


オレの黒焔は魔力を燃料に燃え続け、「解除されない限り、目標の魔力を燃え尽くすまで止まらない」


あの時は本当に無心でやっただけの行動が、今、こんな大きな成果を生んでいた。


「良いぞ、暁くん!花丸あげちゃう!」


まだ元の姿に戻ったドクターが、オレに向かって親指を立ててウィンクした。


「え、ドクター教官、どうして元に戻したんですか?その装甲、使えないんですか?あんなにカッコよかったのに……」


「使わない方がいいのさ!何せ……《決戦装甲:崩星者(スターフォール)》は一度起動すると、数ヶ月ものメンテナンスと、超長期にわたる魔力タンク再充填が必要になるんだ。火力も癖も重い子だからね!」


「そんな……せっかく期待したのに……あ、白雪さん、ちょっと良いかな――うわあ!?」


オレが声をかけると同時に、雪菜が『ドンッ』という衝撃と共に魔法で距離を消去し、目の前に現れた。


「はい!何でしょうか!」


「その……戦闘中に魔法を濫用するのは……まあいいや。オレにある考えがある。これを残り三本の火の柱へ移動できるか?オレの射程じゃ届かないけど、キミの《距離の魔法》なら可能だろ。」


オレは手のひらに黒焔の玉を呼び出した。


「あ、わたしがこの黒焔の玉との距離を操ればいいんですね。わかりました!これはお兄さんとの初めての合体魔法ですね。『離れて』、三連!」


雪菜と力を合わせ、三本の火の柱へと黒焔の玉を次々と送り込んだ。


これで火の柱が再構築されない限り、神殿完成の危機は大きく遠のくはずだ。


オレは顔を上げた。


神殿の崩壊と共に、神気が衰え始めた紅焔の卵に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り始めていた。


「なあ、シャドウちゃん。その剣、『ティルフィング』を作るのに相当な魔力を使っただろう?魔力は大丈夫か?」


「……うん、そうみたい。今は魔力低下状態で……ん、『高揚』かな?補給、お願い」


残されたやるべきことはただ一つ――「0時になる前に久那の全魔力を消耗させて、元に戻す」だけ、いよいよ作戦の最終段階だ。


だから、紅焔の卵が完全に崩壊する前に、主戦力である楽奈を万全の状態に戻しておく。


彼女はいつものように、猫のようなしなやかな動きでオレの身体を登ってきた。


暖かい吐息が頰にかかり、至近距離で彼女の顔が目の前にある。


本来なら、体質的に魔力供給に慣れた彼女は、軽く唇を重ねてくるはずだったのに――


「……ぷいー」


楽奈は、ぷいっと顔を逸らした。


「どうした?」


「……なんか、ぼくらしくない。急に……恥ずかしくなる……その、先のあれ」


先ほどの暴走の記憶が、彼女の中に濃く残っているらしい。キスを強く意識してしまっている。


「まあ、無理はしないけど……オレはただ、戦う前に完全な状態にしてほしいと思うんだ」


「……やめは、しない……覚悟した、はむっ」


「う、うんんん!?」


覚悟を決めた楽奈は、再びオレに向き直り――お口を大きく開けたまま、オレの唇をまるごと含んできた。


いやいや、これはもはやキスじゃない……まるで捕食されている気分だ。


「ねね、フランちゃん。あれは何?マイスターは知らないプレイ?その尻尾、まだ悪魔になって――」


「しーっ!声が大きすぎるよ!静かにしてください。その尻尾は無意識に変形してるだけ……ほら、わたくしたちは見るだけ、見るだけ……なあー」


......


...


結果的に、楽奈は万全の状態に戻った。


その対価として、彼女の心はボロボロになっていた。


「……ぼくはまだ失敗してる……昔はこんなことなかったのに……ぼくは一体、何が起きてるんだ……」


落ち込む彼女に、残された時間はほとんどない。


紅焔の卵がついに崩壊した。


その中から、魔女・久那がレーヴァテインを携えて再び姿を現す。


変生が失敗した影響か、頭上の火の光輪は以前よりずっと小さくなり、炎のドレスもオレの黒焔以外の炎が減衰して圧迫感が薄れていた。


代わりに、先ほど消耗した魔力がかなり回復しているのが見て取れる。


「厄介だな……魔力はまだ回復してる……やっぱり心像共鳴みたいな強力な結界を使えないと、魔人や魔女との戦いは空気中の魔力汲み上げ速度で無駄に長くなる。」


もう策を弄している暇はない。


魔女・久那は火玉衛星を再召喚し、後ろに炎の軌跡を引きながら、烈陽の魔剣を引きずってこちらへ突進してきた。


「……来ます、ぼくが」


楽奈はすぐに気合いを入れ直し、影の魔剣を掲げて臨戦態勢を取る。


一瞬で二人の剣が激突し、鮮烈な光熱と墨の軌跡は魔力の奔流が飛び散る。


周囲の衛星火玉は魔力を消去できる残桜に任せ、楽奈と魔女の斬り合いが始まった。


「そうだなぁ~今の彼女の状態なら内部から結界を破壊される心配は少ない、自分は展開するの!――日と月の光に照らされ、枯れた桜はもう一度満開する、《心像共鳴……」


しかし、残桜の詠唱が終わる前に――


「周囲の気温が下がる~顔料はもう燃えされない~」


ずっと様子を伺っていた彩音が、予想外の速さで魔法を発動させた。


「マイスターはずっとこのタイミングを待ってました!とっておきの大魔法~……色を満たせ、記憶のものを模写する~『模写・心像共鳴(仮)・《空想美術館》』」


次の瞬間、全員を巻き込んで――世界が入れ替わった。

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