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第46話・建て直すの日々・劫火の魔女⑧

第46話・建て直すの日々・劫火の魔女⑧


==========

ー焦天蓋・灼天神殿完成まで残り9分ー


オレたちはすべての妨害を突破し、炎の柱に隠された彼女を引きずり出して、いよいよ最終決戦の幕が上がった――魔女・久那との正面衝突。


葵の神域は決して狭くない。半径二十メートル近い円の範囲は、十分に広いと言える。しかし、怪物じみた身体能力を持つ魔法少女たちの戦場としては、意外と手狭だった。


神域の外は、三本の炎の柱が創り出した超高温地獄。


だから、オレたちが戦えるのはこの葵に守られた円の中だけだ。


先の先制攻撃で、「自分の空間属性魔法は有効なダメージが出来ない」に理解された雪菜は、真っ正面からの戦いを潔く諦めた。


代わりに――「絶対に彼女を外に出さない」という役割を理解した彼女は、相手に気づかれぬよう、裏方で距離を巧みに操り、魔女・久那を円の中に封じ込め続ける。


正面では、楽奈と残桜が高速で激しくぶつかり合っていた。


残桜の聖剣が銀色の軌跡を描き、楽奈の影の刃が闇のように翻る。


二人の連携は息もつかせぬ速さで、魔女の炎を切り裂き、削っていく。


その後方から、奏の祈りが金色の光となって降り注ぎ、彼女たちの能力をさらに高めていた。


「《お願い、彼女たちに光の加護をあれ!》」


奏の声は澄んでいて、戦場に希望の輝きを灯す。


オレは少し離れた位置で戦況を観察しながら、ドクターに声をかけた。


「ドクター教官、あの光輪は……まさかオレたちが間に合わないんじゃ!?」


幻視が現実になる恐怖に、オレの声がわずかに震える。


しかしドクターは、魔道具の片眼鏡をかけ直しながら、いつもの明るい調子で答えた。


「それは無いと思うぞ。あれはまだ神威と圧力が足りていない。あの光輪はあくまで『殻』だ!儀式自体はかなり進行しているさ!でも、殻だけならまだ間に合うぞ。どんどん攻めていいさ!魔法魔力の消耗も順調で、最初に比べてわずか3パーセント程度しか減っていない。あ、残桜ちゃんの『滅魔斬』が綺麗に命中したな。一気に5パーセントを削れたぞ。さすが魔王が自分を滅ぼすために用意した聖剣だ!」


「その言葉で少し安心しましたが……このままじゃ……」


オレは通信端末の画面を確認する。

設定したアラームが、残り時間を容赦なく刻んでいた。


魔女・久那の様子は明らかに異常だったが、魔女の特性である大気中の自由魔力吸収速度と再生能力は弱体化けど、確実に健在した。


オレは心配を胸に、戦場の中心をじっと見つめた。


雪菜が後方から冷静に距離を操作し続けるおかげで、魔女は神域の外へ逃げられない。


楽奈と残桜の猛攻が、容赦なく彼女を追い詰めていく。


しかし、魔女の虚ろな赤い瞳は相変わらず感情を映さず、ただ機械的に炎を操り、反撃を繰り返していた。


オレは心配ながら、戦場の中心に眺む。





*





戦場の中心で、楽奈は次々と武器を変換しながら魔女に迫っていた。


ナイフで斬り、メイスで叩き潰し、短槍で突き、複数の投げナイフを放ち、レイピアで突き刺し、ロングソードで薙ぎ、大剣で頭上から叩き斬る――


業火に照らされた明るい戦場では影が不足しがちだったが、楽奈は手の内の影を液体金属のように流動させ、状況に応じて気まぐれに形態を変え、予測不能の攻撃を繰り出していく。


「……ぼくたちは人形同士の戦いが得意だった。あの教育と訓練……あなたも同じだろ」


一方、魔女・久那もただ受けているだけではない。


楽奈と同じく、火を自在に形作った、同じ形の武器で反撃する。


影の武器と灼熱の刃が激しくぶつかり合い、火花と魔力の奔流を散らした。


しかし、魔女・久那が使えるのはそれだけではない。


彼女の周囲に火の玉が召喚され、衛星のように旋回する。


あれは守護であり、同時に自律的に熱線を撃ち出す浮遊兵器だった。威力こそ先ほどの狙撃には及ばないが、無視できるものではない。


「くぬぬ、面倒な火玉と熱線は自分が何とかするから……シャドウちゃん、そのまま押してくださいの!」


残桜の声に、楽奈は目線だけで応え、最も使い慣れた鎌を具現化して魔女に切りかかった。


火元素化した魔女の体は両断されても、魔力を消費して即座に再生する。


だが、その一撃で魔女・久那の雰囲気が変わった。


虚ろな表情のまま、彼女は右手をゆっくりと前に伸ばす。


橙赤色の輝きが掌に集まり、今までで最も強烈な光熱を放ちながら形を変えていく――真紅の刃と、無限の熱量を宿した白い芯。半分以上の魔力を注ぎ込んで生み出された、太陽表面のような魔剣が具現化した。


「――『塑炎・擬制炎剣:レーヴァテイン』」


小柄な魔女には大きすぎる、煉獄の業火で鍛えられた大剣を握りしめる。


「……その火の使い方、ぼくは知らない。でも、あれは教えられたものもが、魔女として覚醒したのも関係ない……模倣なら、ぼくだって……」


楽奈も掌中の影を極限まで圧縮する。圧縮、圧縮、圧縮――。最後に影の結晶のような漆黒の魔法物質が生まれ、変形した――最後に完成されたのは光さえ飲み込む、真っ黒な刃。


「……完成、『魔力集中・過圧縮――擬制影剣:ティルフィング』」


楽奈は禍々しい影剣を握り、太陽の魔剣を構えた魔女と真正面から対峙した。


静寂は、ほんの一瞬だけ。


次の瞬間、二人は同時に姿を消し、爆音が響き渡る――。


「――『溶け、破滅の枝』」


「……その光を飲め、『エクリプス』」


魔女が上段からレーヴァテインを振り下ろし、楽奈が下段からティルフィングを切り上げる。


闇と光――正反対の性質を持つ魔剣が激突し、爆風が神域全体を揺るがした。


ティルフィングはレーヴァテインの光を貪り喰らい、烈陽の輝きを激しく明滅させる。レーヴァテインも高熱の刃で影剣を溶かし、温度をさらに上昇させる。

その拮抗は長く続かない。


「やあ、ここに集中しすぎて火玉の補充が遅れたの。この戦いで自分のことを忘れるなんて困るの!『滅魔斬』!」


「オレもだ!『黒焔』!」


「僕も、てりゃー!対人拘束アイテム、『影縫いの槍』!」


ドクターが投げた槍が正確に魔女の薄い影を縫い止め、彼女の足動きを一瞬封じた。


その好機を、オレと残桜は逃さない。


オレの黒炎が青白と赤以外、魔女の体に新たな火の色を焼きつけ、これで彼女の魔力を燃や尽くす前に消し去れない不滅な焔。


残桜の聖剣がレーヴァテイン目がけて振り下ろされる――。


しかし、足が動けないの魔女は自らの腕を盾にし、聖剣を受け止めた。レーヴァテインで影縫いの槍を破壊し、露骨に後退する。


切り落とされた腕は空気中の自由魔力に溶け、断面から炎が噴き出して即座に再生された。


「おや、その反応、怪しいの~。なあ、ルファ?」

『はい、仰る通り。その剣は伝説の魔剣の名を借りていますが、本質は魔法です。だから私の滅魔斬は有効でしょう。だって、私は対魔王武器ですから。』


その会話を聞いたのかもしれない。


魔女・久那は脳筋な突撃をやめ、新たな魔法を発動した。


「――『塑炎・天火の剣』」


彼女の背後に金色の火剣が一本浮かび上がり、再び猛攻を開始する。


その天火の剣は残桜の『聖剣の霊影』のように分裂し、楽奈と残桜の立ち位置を分断した、戦場が二つに割れる。


楽奈と魔女・久那の一騎打ちが始まる中、残桜は天火の剣と火玉の群れに翻弄されていた。


「まだ邪魔されるの~ん?分裂されたの?」


天火の剣は時間経過と共に増殖し、ついに八本へと達した。


その瞬間――。


「――《天火の剣、そうは罪人を断罪するもの》」


黄金の火剣が一斉に輝き、オレ、雪菜、彩音、奏、葵、残桜、ドクター、そして楽奈――「八人」全員の心臓を、回避不能の刃で貫いた。


無敵状態の葵以外の全員が身に付けていた『身替りの符』の一つが、一瞬で灰のように燃え尽きた。


「え……」


「うちの神域を、無視して……みんなを殺した!?どうして!?」


その意味は、言うまでもなかった。


即死攻撃――!


『ピーピー♪ピーピー♪』


突発的な事態に軽いパニックが広がる中、通信端末の設定アラームが甲高く鳴り響いた。


第四の炎の柱が、轟音と共に雲を貫いて昇る。


約束の時がついに満たされた。


レーヴァテインを握った魔女・久那は、儀式を完成させるための詠唱を始めた――。

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