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第38話・建て直すの日々・猫探しと、隠れたもの

第38話・建て直すの日々・猫探しと、隠れたもの


==========

「まさか、まだここに来るとは……」


「……うん。ここは人が来ない廃墟だから、猫がたくさん集まってる。」


先に歩くローブ姿の少女――楽奈が、オレの言葉に小さく答える。


オレたちが足を踏み入れたのは、港湾部の廃棄工場跡。


あの深夜、雪菜が分裂コウモリを討伐した場所だ。


どうしてこうなったのか――原因は目の前の楽奈にある。


いつものように、どこから現れたかわからないタイミングで現れた楽奈は、日常的に必要な魔力を補給するため、オレにキスを求めてきた。


そのあと、珍しく上目遣いでじっと見つめながら、こう言ったのだ。


「……ぼくと一緒に、猫探し……する?」


無表情のままなのに、その瞳には無音の願いがぎゅっと詰まっていた。


オレに時間はあるし、断る理由もない。


結局、彼女の後について、この場所まで来てしまった。


「……そこ、崩れそう。気をつけて。」


「おっと、本当だ。ありがとうな。」


前のことを考え込んでいたオレは、楽奈の声で現実に引き戻される。


この廃棄工場は雪菜の戦闘の余波でさらにボロボロだ。


楽奈に言われなければ、転んでいたかもしれない。


一方、楽奈は小さな体でまるで平地を歩くように軽やかに進む。


影の尻尾がゆらゆら揺れ、まるで大きな猫のようだ。


遠くから手を振る姿が、なんだか微笑ましい。


ようやく追いつくと、オレは彼女に尋ねた。


「ここに本当に猫がいるのか、楽奈ちゃん?」


「……いる。」


「そんなに自信満々ってことは、もう見つけた?」


「……感。」


「なるほど、楽奈ちゃんの勘なら本当にいるだろうな。一緒に探そう。」


「……うん。」


楽奈は小さく頷き、オレと共に廃墟の奥へと進む。


出口の光をくぐり抜けると、広場に出た。


建物よりひどく破壊された地面。遠くには雪菜がぶつかった巨大な鋼管がクレーターを作り、近くの穴も彼女が激突してできたものだ。


普通なら魔物討伐後の破壊は事後処理部隊が修復するが、ここは旧世界の廃墟で誰も来ない場所。


だからこのまま放置されている。


「……あの時、ぼくは偶然あそこにいた。だから、ぼくは間に合った。」


楽奈が煙突の頂上を指差す。


「そっか。あの時、逃げる魔物を狩ってくれてありがとう。助かったよ。」


「……偶然にいただけだから、大したことない。」


「それでもありがとう。じゃあ、ここで猫探しを始めようか。」


「……うん。んーー……」


楽奈はその場に立ったまま目を閉じる。


そして、再び目を開けた瞬間、彼女は右前方を向いた。


「……あそこの影に猫がいる。」


「それは魔法?」


「……うん。わからない……大分、影に隠れてるから、何となく感じる。」


「なら、行こう。」


「……おう。」


楽奈の言う通り、コンクリートの壁の裏側の影から、三毛猫が影ごと引きずり出された。


『にょあ!?』


「……猫ちゃん~かわいい~ふにゃふにゃ……」


猫を抱き上げた楽奈の顔は、普段の無表情が嘘のように幸せそうに緩む。


影の尻尾も上機嫌で大きく揺れ……って、オレの錯覚じゃないなら、彼女の頭の上に影の猫耳みたいなものがピコピコと出てきてる?


「あの、その猫は抵抗してる……あ、止まった。」


『にゃあ~♪』


さっきまで暴れていた三毛猫が、楽奈の撫で方で一瞬でリラックスした。


猫扱いが上手いな、彼女は。


でも、オレは猫より、楽奈の頭の上でぴこぴこ動く影の猫耳に目が釘付けだった。


「楽奈ちゃん、その耳……触ってもいいかな?」


「……耳?いいけど~」


猫を撫で続けながら、楽奈は気楽に頷く。


「なら、失礼するよ。」


うおー、ジェルみたいな触感を予想してたけど、これは本物以上に気持ちいい……。


この感触、癖になりそう……もみもみ、もみもみー


「……う、ん、ひぃー……」


楽奈の方から、変な声が漏れた。


オレが手を止めて顔を向けると、錆びついた機械のような視線が返ってくる。


猫はもうどこかに逃げてしまった。


楽奈の顔は真っ赤で、潤んだ瞳が上目遣いにオレを見つめている。


「あの……もしかして、感覚が繋がってる?」


「……うん……すごく変な感覚……もしかして、ぼくが知らない間に頭の上に猫耳が増えた。」


「本当にごめんなさい!オレ、知らなくて……」


オレは慌てて手を引こうとしたが、楽奈が強い力でその手を掴み、自分の頭の上に押し戻した。


「……変な感じだけど、嫌じゃない……もっと触って欲しい……猫の感じ、知ってるかもしれない。」


「その、無理はしなくていいよ?」


「……無理じゃない。触ってくれ。」


オレのためらうは楽奈の強い言葉が押し切る。


言葉に甘いされて、オレは再びその影の猫耳に触れた。


「……にゃあ、ふにゃ……頭、真っ白で考えられない……ん!?これは――!」


さっきまで蕩けていた顔が、急に無表情に戻る。


オレもその雰囲気に手を離した。


楽奈は真剣な顔で周囲を観察する。


頭の上の影の猫耳が、本物のようにピクピクと動いている。


「もしかして、何か気づいた?」


「……この猫耳はぼくの感覚を向上させる効果があるみたい。だから、この違和感に気づけた……影纏・変身!……『太刀』」


急に杖としてのナイフを呼び出し、変身した楽奈は、広場の隅に向かって自分の影から生み出した漆黒の太刀で何もない空間を切り裂いた。


すると、布幕を切るように隠されていたものが現れる。


それは鋼鉄の門――地下への入口だった。


入口の両側に隠されていた機関銃のようなものが、楽奈に向かって狙いを定める。


「楽奈ちゃん!」


ここでオレは変身しようとしたが――


「……大丈夫。同じものは既に知ってる……『千本針』」


楽奈の言葉に応じるように、機関銃は内部から無数の影の針が突き出し、ウニのように一瞬で廃鉄と化した。


「楽奈ちゃん、『同じもの知ってる』って……まさか――」


オレの推測を肯定するように、楽奈はナイフを持っていない手で、自分の下腹に残る古い弾痕をそっと撫でた。


「……そう。弾倉内部は影の中だから、ぼくは感じてる。あれは魔弾を装填する銃……あの武器は、ぼくにこの古い傷を残した武器と似ている……そして、高度な隠蔽魔法で隠された入口……」


楽奈は冷静で、疑いのない声でオレの言葉を肯定する。


「……ここは、あの組織に隠されたアジト。違いない。」


猫探しの暇はじゃない。


これは、明らかな大事件だった。

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