第39話・建て直すの日々・予想外な再会/劫火の魔女①
第39話・建て直すの日々・予想外な再会/劫火の魔女①
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「……ぼくはこのアジトを壊す。兄さんは下がってて。」
そう言い残すと、楽奈は鋼鉄の門に向かって歩き出した。
その小さな背中を見た瞬間、オレの視界に重いノイズのような幻覚が重なった。
「これは……!?」
ぼやけた人影と、楽奈をバラバラに引き裂かれる、肉塊が絡み合いようグロテスクな怪物……ダメだ。回想だけで吐き気が込み上げ、心が締めつけられるような痛みが走る。
幻覚の端で、本のページがひらひらと舞っているのが見えた。
けれど周りを見回しても、そんなものはどこにもない。
あれは確実に幻覚だった。
「待ってください!」
短い時間だったかもしれない。
根拠のない幻覚に動かされるなんて馬鹿げている――でも、このまま彼女を放っておいたら、絶対にオレの望まない未来が訪れるという嫌な予感が胸を締めつけた。
手遅れになる前に、オレは手を伸ばして彼女の腕を掴んだ。
「……邪魔しないで。もしかしたら、ぼくみたいに拉致された子がまだいるかもしれない。助けないと……」
普通なら、オレと楽奈の力など比べるまでもない。
けれど今、オレはしっかりと彼女の足を止めていた。
これは、連日の訓練の成果だ。
ドクターとの特訓で、オレの半魔人化の条件は少しずつ緩くなっていた。
今は彼女を『守る』という明確な意志で、自発的に変身が発動した。
激しい感情の爆発はないから、魔力侵食も指先と爪先程度だけ。
オレは黒い焔を灯し、その中から一本の鎖を引き出す、それだけの力で足止めの現実は、彼女はまだ迷うの証だ。
これなら、オレの言葉はまだ通じる。
「オレもそれを知ってる。困難な人を助けたい気持ちは、オレも同じだ……でもキミを止めるのは、助ける行為じゃない。昔の楽奈ちゃんが言った言葉が本当なら、中には対魔法少女用の武装や魔物が山ほどあるはずだろ」
「……」
「キミ一人ならきっと大丈夫。でも、他人を守りながら無数の武器と罠に対応できるかな?それがオレが止める理由だ」
オレの言葉に、楽奈は掴まれた腕を振り払おうとした、そのまま振り返り、オレを見つめる。
「……なら、ぼくはどうすればいいの!教えてよ!」
きっと昔の想いが感情を揺さぶっているのだろう。
珍しく、楽奈が大声を上げた。
「大丈夫。キミはもう一人じゃない。自分一人でできない時は、助けを呼べばいい」
「……小隊のみんなさん?……ダメだ。あの子たちはぼくみたいな戦闘技術がない。突発攻撃の対応もぼくより弱い。きっと傷つく……」
オレは彼女の反論を封じるように、通信端末の画面を彼女に見せた。
「うんうん、それは違うって。この場合は、キミと同じ怒りを抱えてるのはキミだけじゃないんだ」
幸い、最近よくあの人の愚痴を聞いていたおかげで、私人連絡先を交換していた。
メッセージを送ると、すぐに返信があった。
この件は、きっと彼女が自ら処理したいはずだ。
「だから待ってて。みんなの力を合わせれば、キミ一人よりずっと多くの人を救えるだろ」
*
暗く湿った地下実験室で、アケピリアスのおしゃべりはまだ止まらなかった。
「――あの魔女集会のせいで、僕たちヨーロッパのアジトはほぼ破壊されたよ。酷いだろう?アーク・ウィッチとその弟子たちは、正義とか大義とかじゃなくて、ただ僕たちの研究成果を奪うだけ。もはや強盗だね、強盗。あの連中はただの生産系魔法持ちの魔法少女団体だって認識してたのが誤算だった。今はその危険レベルも上がるだろうね」
疲れを感じさせない軽い口調で、色とりどりの髪の少年は続ける。
二匹の蛇が絡み合った杖を軽く振りながら、ガラス越しの97番を見つめている。
「あと、『力』はわけわかんないまま、僕たちの実験室とアジトをいくつか壊された……どこから情報が漏れたんだろうね。まあ、あいつは脳筋バカだから、簡単な罠で誤魔化せた。被害は制御可能な範囲に抑えておいたよ」
97番は変わらず、無言で沈黙を守る。
その瞳に宿るのは、ただ冷たい拒絶だけ。
「それに、あの強力な魔法持ちの魔法少女を聖女として崇拝する宗教、その聖都に用意したアジトも見つかったみたい。おかしいな。『先見の聖女』は行動不能の情報を受け取ってたのに……それとも別の情報系魔法持ちの人物が聖女になれるのかな?あそこは浮遊都市だから、アジトを用意するのも面倒だったのに」
「……」
「そして……おやおや、ここも見つかったみたいだ。これはこれは奇遇だね。ここに来たのは67番だよ。」
アケピリアスは話しを止め、天井を振り仰いだ。
「……ッ!?お前、何を言ってるの!67番がここに来る!?来ないはずだ!」
「うん……おや、あの連絡員が余計なことをしたみたいだね。そのまま67番一人で来てくれたら、僕はキミたちに夢のような再会を用意してあげたのに。僕の手であの二人を消し去しするが……ん?これは、あの連絡員の方から同族の視線が……あの引きこもりの『鏡面』と……傍観主義の『智慧』?」
侵入者を自ら片付けようと動きかけたアケピリアスは、同族の気配を感じて足を止めた。
「これはしまったな。こいつもといつも僕と敵対する同族じゃないけど……僕は『鏡面』の縄張りに侵入した経験もある。あの引きこもりは人間に無関心だから、偶然この人間を見ただけだろう。その人間を処理する気はないはずだ。」
冷静に、降り注ぐ視線の源を解析する。
「けれどもう一つはそうじゃない。昔に『智慧』の本を奪って喧嘩を売ったから、逃げるために本棚と本をたくさん破壊されて、烈しく恨まれてるだろう。あいつから僕に付けた『解析』の進捗は……93%から73%に減らされたけど、もっと複雑に進化する前に、僕より遥かに上位の『智慧』の視界に入ると瞬殺されるかもな。怖い怖い。……おっと、更に懐かしい気配が増えた。これはもう隕落した『選定』の欠片を持った人間が転移で来る……決める時は来たようだ。ここは正式に放棄するよ。」
アケピリアスの言葉を聞く暇など、97番にはなかった。
収容室の中で、彼女は必死に焦っていた。
「……でも、どうやって伝える……火はダメだ。この収容室は魔法に対応してる。自分一人じゃ無理……どうしよう……」
「このアジトはもう終わりだ。どうやら楽しみのおしゃべりの時間も切れたようだね。元素系の魔法持ちのキミを放棄するのは惜しいけど残念だ。キミの説得は失敗したな。大人しく僕の提案に乗って、僕の力を素直に受け取れば、魔女になっても思考は変わるけど、ほとんどの自我は維持できるのに。無理やり魔女へ進化に導けば、自我は失われるぞ。人間は何時でも不合理な選択を選べる……だから僕に面白い光景を見せてくれ。」
二匹の蛇が絡み合った杖を軽く振る。
目の前にあった、97番がどんなに努力しても破壊できなかった魔法に強化されたのガラスが、あっさりと砕け散った。
大きな割れる音が、焦る97番を現実に引き戻した。
「なに!?お前、何をするつもり!?来ないで!『ファイア・ウォール』、『ファイア・ボール』、『獄炎――』」
97番が火炎魔法を放つが、アケピリアスはそれを何気なく振り払う。
そのまま彼女の首を掴み、軽々と持ち上げた。
「く、放せー!」
「僕は既に火炎耐性を進化させてるからね。このような抵抗はオススメしないよ。諦める方が賢明な選択だ。僕はやることは先に言った通り、キミを魔女へ進化させることだよ。キミはどんな欲望が魔力と共鳴して、どんな色の魔法が開花するだろう……僕は期待してるぞ。同族もいるし、念のため安全装置を付けておこう。『遅延発動・砕魂』。そして、この後は僕のことを忘れて……『忘却』。さあ、進化の時だ。『進化の導き手』。」
アケピリアスの魔法と、酸素不足による混濁した意識の中で、97番はあの貼り付いたような笑顔を、怒りに燃える瞳で見つめ……そして、意識は失われた。
「僕はまだ舞台に上がる時間じゃない。ここからキミの目で観劇するよ。それじゃあ、魂が粉砕される前に好きに暴れてくれ。さようなら。」
アケピリアスがそう言い終えると、杖の二匹の白蛇がウロボロスのような円環を描き、空間がねじれた。
暗闇の実験室に残されたのは、怪物のような知性のない恐ろしい咆哮と、劫火だけだった。
*
「うん、大体はメッセージでわかったの。自分を呼び出すのは正解だったわ。今はこれだけの人が集まれる、他の増援は後で来るだろうの。」
転移の光が収まると、残桜と他の助っ人たちが短時間で廃棄工場の広場に合流した。
予想通り、小隊全員が揃っていた。
見慣れた顔ぶれに、心強い。
「……ありがとう」
「みんな来てくれてありがとうございます」
「いいえいいえ、これはわたしの義務です。それに、もう長い間戦ってないから……この任務で戦う感覚を取り戻せそうです」
「もう、冷たいこと言わないでよ~!仲間の問題は彩音の問題みたいなものですからね~!それに彩音、新たな技を開発したの!後で機会があれば使うから、お楽しみに~」
「うちの力はまだ不足ですけど……ささやかな貢献をさせてください!」
雪菜、彩音、葵……そして、なぜかもう変身を済ませ、銀白の髪に聖女のような薄紗の聖衣をまとった奏ちゃん。やる気満々で十字の錫杖を握りしめている。
「……どうして奏ちゃんはもう変身してるんだ?」
「えっとその、常在戦場、です!こうすれば、不意打ちされてもすぐに対応できます、です!」
奏ちゃんは戦意に燃えたドヤ顔で、十字杖をくるりと回す。
普段のゆるふわイメージとは真逆の、バーサーカー気質全開だ。
戦闘センスは相変わらずだな……。
「奏ちゃんはどこの時代の侍なんだ……ところで、ドクターさん、どうしてキミはここに?」
残桜の後ろに連れてきた人物を見て、オレは思わず顔をしかめた。
白衣を翻した白髪の幼女――間違いなく、あのマッドサイエンティストだ。
「心外だな、暁くんよ!キミの困難だから僕は来たんだよ、教官だからな!共にこの危険組織のアジトを壊滅させよう!決してその中に埋蔵された研究資料に興味があるわけじゃないよ!あと、僕のことは教官と呼べ!」
暁「ドクター教官なら、資料の方が重要だろう、絶対」
「まあ、今回の任務も葵くんが正式に小隊の一員になるためのテストみたいなものだ!ついでに、暁くんの安定性も評価させてもらうよ!」
「まあ、それは必要なことだろうから……努力して魔力侵食を安全範囲に制御します」
突然名前を呼ばれた葵が、慌てて背筋を伸ばす。
「え、本当に!?一生懸命頑張ります!必ず正式に小隊の一員に加入します、ドクター教官!」
「おお、やる気がある子は一番だね。僕も現役時代の決戦装甲を含め、色んな兵装を連れてきたよ!頼ってくれ!」
ドクターの言葉に、オレは嫌な予感を抱きつつも……敵じゃない味方なら、すごく心強い。
二回の拍手が、オレたちの会話をピタリと止めた。
残桜だった。
「はいはい、そこまでの!それじゃあ、任務の事前説明するの。とりあえず、罠には常に注意しての。昔、自分が殲滅した楽奈ちゃんの囚われた実験場は、色んな罠を仕掛けていたの。もちろん、全部魔法少女に対して有効な、魔力に改造したの罠だの。今回の目標は三つ:1.敵対目標の沈黙、2.被害者がいたら保護する、3.資料の回収、これだけの。今回は自分と先輩が中心に戦う、お前たちは自分自身の安全が第一、人を助けるのは余裕がある時に限定だの。意見はあるの?」
オレは周りの仲間たちを見回した。
全員が、任務の目的をしっかり理解した顔で頷く。
「うむ、よろしいの!それじゃあ、まだ変身してないメンバーはさっさと変身しての。」
「わかりました。抜刀、変身!」
雪菜は武士刀の杖を抜き放つ。
雪華と共に長い黒髪が氷のように透き通る蒼色へ変わり、雪の紋様をあしらった動きやすい和服へと姿を変えた。
「ふふふ~色に染まれ、変身ー!」
彩音は水彩筆の槍を軽く振る。
大量の顔料が上から全身に降り注ぎ、一瞬で変身完了。
毛先が虹色に輝く純白の髪、エプロン姿のマイスターがそこにいた。
「てりゃー!」
葵は髪飾りの杖を頭に付け、ただ気合の叫び一つで変身。
朝のアニメのような可愛らしい魔法少女姿に変わった。
「……え、変身って、こんな言葉を言うの!?毎回心の中で考えるだけで変身できるのに、うちは知らなかった……詠唱を考える必要あるのかな?」
「それは必要ないですよ。そもそも、今の研究でわかってるのは、魔法っていうのは魔力という不思議なエネルギーを消費して奇跡を起こす現象なんです。変身も意志だけで十分、言葉はいらない。ただ、発動前に詠唱みたいに叫ぶのは、イメージを固くするため効果上昇の自己暗示と、日常生活で誤発動しないための自己制限だけ。好きにしていいよ。」
「そうですよ!あれは僕との戦闘訓練に必要ないから、葵くんにはまだ教えてなかっただけ!」
「そっか、知らなかった。うちも後で考えする……アニメみたいにかっこいいし、戦いの時に技を叫ぶとテンション上がるし、かっこいいし……変身は、む、もっと複雑な単語で……」
オレとドクターの説明に納得した葵は、顎に手を当てて真剣に考え込む......あと、かっこいいは二回も言った。
全員の変身が完了すると、残桜は再びみんなに向かって言った。
「ほら、話はここまで!出陣だの、任務開始の!」
そのまま目の前の鋼鉄の門を破壊し、内部へ突入するつもりの瞬間――その変故が発生した。
*
最初に異変を察知したのは、魔力感知が得意の楽奈、そして長年の戦闘で体が覚えている残桜とドクターだった。
三人が同時に叫んだ。
「……危険、後退ー!!」
「全員後退の!鎮火符、御守り、隔離符――三種類で『符陣構築』!」
「もう間に合わない!ここはバリア君に耐えてもらうよ!」
「何があった!?」
「うわっ!?」
「こ、後退!」
突然の叫びに全員が混乱するも、本能が体を動かした。
一斉に危険ゾーンから飛び退く。
残桜はカードケースから無数の符を投げ出し、浮遊する符陣を瞬時に展開。
折り畳み扇の杖を呼び出し、日と月の紋様が同時に輝く姿は、オレが今まで見たことのない本気モードだった。
ドクターも歪んだ空間からボール状の物体を持ち出し投げつけ、オレたちの前に半透明のハニカム状の蒼いバリアを張る。
入口周辺の地面が、高熱の熱波と共に一瞬で赤、オレンジ、白へと変色していく。
「……!『みんなを守れの城壁よ、来てください』!」
奏が即座に光の障壁を展開するが――衝突後の一秒で硝子のように粉砕され、わずかな瞬間だけで耐えられなかった。
そして、地面と入口が跡形もなく消え失せ、炎の柱が天を貫いた。
高熱がバリアと激突し、強烈な光が爆発する。
オレはこの灼熱の中で、ただ「暑苦しい」と感じる程度で済んだ。
周囲がオレたちを中心に円を描くように回転している――残桜の符陣の効果だ。
「余波だけでこの火力!バリア君、もう一体追加~えい!」
「これは一体……!?」
廃棄工場全体が、炎の柱と共に煉獄そのものを具現化したかのようだった。
その中で――
「その炎の柱の中に、安定した魔力波長を感じる……これを起こすのはただ一つの個体のこと!?こんな魔物が存在するなんて……!」
オレたちが混乱する中、楽奈だけが炎の柱をじっと見つめていた。
「……有り得ない、そんなの噓……こんなの……」
「楽奈ちゃん、心当たりがあるのか?」
楽奈はオレの言葉に答えず、ただ唇を震わせて零すように呟いた。
「……どうして、そこに……97番……久那」
その名前は、彼女が魔物対策局に保護された時の状況説明で聞いた、唯一生き延びた、共に逃げるの仲間だった少女の名前だ。
状況と楽奈の反応、断片的な情報を一瞬で組み合わせ、オレは真実に辿り着いた。
「……これは、魔女の顕現だ」
本来、魔力の親和性が高いため、魔人よりも遥かに強力な存在――魔法少女の成れ果てである魔女が、ここに現れた。
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追記:
最近は仕事が忙しくなる原因で更新は不安定となります。
一週間に一話に努力します。
もし誤字や物語の発展に意見があれば、気兼ねなさらず私に教えてください。




