第31話・建て直すの日々・ドクター②
第31話・建て直すの日々・ドクター②
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ドクターの研究室は、まさにカオスだった。
床には危険そうな装置が無造作に散らばり、壁には意味不明の配線が這い回り、天井からは怪しげな光を放つ球体がぶら下がっている。
「うわ……足の踏み場もない。ひどい部屋……整理したくなる衝動が……」
オレが呟くと、ドクターは軽やかに跳ねながら部屋を移動する。
「まあまあ、気にしない気にしない!気軽に座って!あそこに置いてあるのは危険物だから、触らないでね~」
「危険物って……どっちが危ないんだよ!?」
ドクターは親指と人差し指で顎を触り、短く考える仕草を見せる。
「全部?あの円盤は爆裂の通用魔法を封じ込めたやつで、衝撃を受けると大爆発するよ!あの棒みたいなのは切断の通用魔法が刻印されてて、接触したら足が切断される!見た目は打撃武器だけど、実は斬撃武器なんだ!他のものは……うん、無暗に作動させると死ぬかも~」
「なんで危険物ばっかりなんだよ!?」
「あそこに置いてあるのは審査に落ちたものたちだから、僕の研究室に放置されてるの。むむ、デザインはいいと思うのに、どうしてだろうね?」
「いやいや、危険すぎるだろ!」
「そうかな?強いのに残念だね……そうだ、キミに使ってみる?」
「断固拒否します」
「けえ~。まあ、そういうわけで、ここにあるものは触らない方がいいよ?早く来て、ここに座って!」
オレは地雷原のような部屋を慎重に進み、ようやくドクターの指定した椅子に腰を下ろした。
「ドクターさん……後で研究室、整理してください......」
オレの気迫に、ドクターは少し後ずさる。
「お、おう、きちんと対応するよ。でもでも、ここに残ってるのは癖が強い子たちだけだからね!ほとんどの武器は普通に使えるんだよ!えっと……」
ドクターは棚から一振りの刀を取り出す。
「ほら、見て見て!これが人気の魔石兵装・タイプ:刀-五式!ギミックは……こう!」
柄を回すと、刃が赤い光を放つ。
なんが、見たことがある……
そうだ、魔人討伐で一部の連絡員が使っていた武器だ。
「魔石製の武器の欠点は、魔力を持つものに脆いこと。だから普段は消耗品の弾丸や通常魔法の発動器に作るの。でもこれは違う。日本刀は薄くて、使いこなす技術が必要な武器だから、同じ特性の魔石兵装に刀を作ると、刀術に通じる!すごいでしょ!」
ドクターは刀を構え、オレに近づいてくる。
「すごいのは認めるけど……武器を見せてくれるのが、オレを呼んだ理由か?」
オレの言葉でドクターに素早い否定された。
「それは別件だよ!全部、暁くんが僕の能力を疑ってるから、それを証明するためにこうしてるだけ!」
「わかった、わかった。オレが悪かった。早く本題に入ろう」
オレの謝罪に、ドクターは満足げに刀をオフ。
赤い光が消えた刀を棚に戻す。
「わかったならいいよ。僕は寛大だから許す!君を呼んだのは、残桜ちゃんからのお願いなの。ほら、通信端末を貸して!」
ドクターに両手を差し出され、オレは腕輪型の端末を外して渡す。
彼女はそれを近くの機械に差し込み、楽しげに操作を始める。
「機械って魔力の相性が壊滅的だけど、僕の魔法で魔道具に改造すればいいの!こう見ても、この研究室の機材は全部~僕が魔道具に改造したもの。この研究室は僕の工房みたいな感じだよ~」
無数のフローティングウィンドウが宙に浮かび、ドクターの指が目まぐるしく動く。
「ふゅー、これで完了!バッチリ、さすが僕!魔法少女用の端末をデフォルトにして、君の端末も改造したよ。これで魔力侵食度が数字で見えるようになった!ついてきて~」
魔力侵食度、あれは魔力が肉体に与える影響を示す数値。
100%を超えると肉体異変が始まる。
魔法少女も例外ではない。
感情が大きく揺れた時、自然魔力が濃い場所に長時間いた時、制御できない魔力は肉体を侵食する。
連絡員として、小隊の安全の為に、常に注意すべきことだ。
「君は前例のない半魔人だから、残桜ちゃんが『念のため、暁の端末改造はドクター先輩に任せてくれませんか?』って。僕も君はどんな数値が出るに興味あるだから、引き受けたの!どんな数値が出るかな~。半魔人だから50%くらい?どれどれ~」
端末を再装着すると、追加された画面に数字を表示された。
横から端末に覗ったドクターがそれを見ると固まる。
「……はい?0%?これは魔力がないか、魔力に完全侵食されていない場合にしか出ない数値なのに!?」
なんが予想外の反応。
「でも、魔法少女ならこの数値が低いほどいいけど……ドクター、これまずいんじゃないか?」
「侵食数値は低いほどいいけど……僕の目が狂ってないなら、君は確かに魔力を持ってる......つまり半魔人で変身できるのに、普段は魔力の侵食を一切受け入れてない……」
ドクターは考え込み、急にキラキラした目でオレを見る、手を握ってフリフリする。
「いいね!僕の興味が爆発したぞ!ねえねえ、今の君は魔力を操れる?変身の条件はなんだ?自力で変身できる?今すぐに変身して?」
「近い近い!ちょっと待って……オレはどうやって変身するかもわからない。こんなに近づいても変身しないから、離れてくれ」
魔法少女並みの力で揺さぶられ、オレは吐きそうになる。
顔色が青くなったオレに気づき、ドクターはようやく手を離す。
「あれれ?ごめんごめん、興奮しすぎた!でも、変身条件がわからないなんて……耐えろよ、ぶんー!!」
気軽な声と共に、ドクターから黒い圧力が放たれる。
命の根源が凍りつくような錯覚。
思考が『死』だけに塗り潰される。
『オレの命はここで終わる』と思った瞬間――圧力が解除された。
一瞬の安心で膝から崩れ落ち、オレが倒れ前にドクターに支えられる。
「これは……一体、何が!?」
「大丈夫?僕は殺意を魔力に混ぜて、君に放っただけ。三秒だけだけど、刺激が強すぎたかも?ごめんね、やりすぎた」
両足に力が入らずに崩れたのオレはドクターに膝枕された体勢で横たわる。
ドクターは安心させるように、オレの頭を優しく撫でる。
「うん、でも予測不能な命の危機に遭遇しても、過剰魔力を受けても変身は来ないね。侵食数値も0%のまま。変身の条件は一体何だろう……」
「つ、次は……先に言って、くれ……死ぬかと思った」
今はまだ恐怖が残り、普段通りに話せない。
「先に言ったら心の準備ができちゃうじゃん~。『予想外の命の危機を体験する』状況は作れないから無理。まあ、ここは僕の工房だから、心臓が止まっても救えるし、安全性はある実験よ。でも、次はもうダメかもね」
ドクターは純粋な好奇心の笑顔で、オレは回復するまで膝枕で休憩した。
*
天城家のキッチンを片付けをしていた雪菜、その頭上のアホ毛が急にアンテナのようにピンと立つ。
「この感じは、お兄さんが……別の子に近づいてる気がする!」
ようやく起きた小夜は朝食を食べながら、その声にびっくりして箸を落とす。
「ひゃー!雪菜ねえ、急に何!?魔法の効果?」
「あの……魔法じゃないけど、直感です……」
「錯覚かもね~ほら、それより冷蔵庫のプリン、一緒に食べようよ~」
小夜は怠惰な声で言うけど、雪菜はまだ気にしている。
「でも、この感じは錯覚じゃないはず……」
「ほらほら~プリン食べようから」
二人はテーブルでプリンを食べ、天城家はいつも通り平和だった。




